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11年間継続不貞行為慰謝料請求を消滅時効と夫の弁済で棄却した地裁判決紹介

○原告妻が、配偶者医師Cとの不貞相手である被告看護師に対し、平成23年から令和4年まで続き令和3年にはCの子を出産した不貞行為について、不法行為による損害賠償請求として慰謝料1100万円の支払を求めました。

○これに対し被告は、Cとの交際当初から原告・Cの婚姻関係は破綻しており、遅くても令和元年10月には破綻し、且つ、令和元年10月以前の不貞行為損害賠償債務は時効消滅している、その後の不貞行為については令和4年2月にCが原告に500万円を支払って損害賠償義務は消滅したと主張しました。

○この事案で、原告の被告に対する損害賠償請求権のうち、不貞行為に係るものは、被告による消滅時効の援用によって消滅しており、500万円の弁済までの不貞行為に係るものは、同弁済によって消滅しており、そして、被告が同弁済以降にCと不貞行為に及んだことを認めるに足りる証拠はないとして、原告の請求を棄却した令和6年9月9日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和5年1月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、原告が、配偶者との不貞相手である被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料1100万円及びこれに対する不法行為後である令和5年1月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実
 証拠(枝番のあるものについては特記なき限り全ての枝番を含む。以下同じ。)等を掲記していない事実は、当事者間に争いがない事実、当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
(1)当事者等
 原告は看護師であり、平成12年1月1日、医師であるC(以下「C」という。)と婚姻した。原告とCとの間には、平成12年○月○日及び平成17年○○月○日に、それぞれ子が生まれている。(甲1)
 被告は看護師である。

(2)被告とCとの不貞行為
 被告は、平成23年7月頃から、Cと不貞行為に及ぶようになり、令和3年○月○○日、Cの子を出産した。

(3)本件訴訟の提起日
 原告は、令和4年12月13日、本件訴訟を提起した。

3 争点及びこれに対する当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(婚姻関係破綻の抗弁の成否及び故意過失の有無)について

 被告主張の婚姻関係破綻については、これを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠がない。
 これに対し、被告は、Cが原告との婚姻関係は破綻していると述べた旨供述する。しかしながら、証拠(原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成24年頃に被告に対しCとの関係を問いただす電話をかけた事実や、その際に1度会いたい旨伝えるなどした事実が認められる。そうすると、被告の前記供述どおりの事実が認められるとしても、婚姻関係破綻は認められず、被告に過失がないということもできない。したがって、争点1に係る被告の主張は採用することができない。

2 争点2から4まで(損害額並びに消滅時効及び弁済の抗弁の成否)について
(1)認定事実

前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

     (中略)

イ Cは、被告に対し、令和4年2月27日の原告に対する500万円の送金(前記ア(ア))が記帳された、C名義の口座通帳の写しを交付した(乙1、被告本人)。

ウ Cが令和4年2月27日に500万円を振り込んだ原告名義の口座の残高は、当該500万円が着金する直前の時点で、27万3631円であった。同口座には、前記500万円の着金後、同年3月1日及び同月22日にもCから100万円ずつの着金があったところ、原告は、同月4日から同月28日までにかけて、1回につき50万円を14回にわたり同口座から引き出した。同日の引出し後における同口座の残高は、その余の振込等による増減を含め、25万3631円であった。(甲5の2)

(2)検討
ア 被告は、令和元年12月10日以前の不貞行為に係る損害賠償請求権につき、消滅時効を援用している(第2の3(3))。
 そこで検討すると、証拠(原告本人)によれば、原告は、令和元年12月10日以前から、被告とCとの不貞行為を知っていたものと認められる。そして、被告とCとの不貞行為により原告が被る精神的苦痛は、不貞行為が終了するまで不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、原告は、被告とCとの不貞行為を知った時点で、被告に対し慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではなかったというべきである。そうすると、同日以前の損害に係る損害賠償請求権については、同日から3年を経過した令和4年12月10日時点で消滅時効期間が満了している。

 したがって、令和元年12月10日以前の損害に係る損害賠償請求権は、被告による消滅時効の援用によって消滅している。

イ もっとも、被告は、令和元年12月11日以降も、Cとの不貞行為に及んでいたものと認められる。
 しかしながら、原告とCとの婚姻期間や、両者の間に2人の子がいること、被告が令和3年○月○○日にCの子を出産したことなど、本件における一切の事情を踏まえても、令和元年12月11日以降における被告とCとの不貞行為による原告の損害は、500万円を超えるものではない。なお、原告は、被告がCを脅迫して不倫関係を継続したとか、Cに避妊しないよう強要したなどと主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

 そして、Cは、令和4年2月27日、原告に対し、500万円を送金した(認定事実ア(ア))ところ、被告及びCの不法行為責任は連帯責任であるから、前記500万円が被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものであれば、原告の被告に対する損害賠償請求権は消滅するものというべきである。

ウ そして、次の諸点に鑑みれば、令和4年2月27日に送金された前記500万円は、被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものと認められる。
(ア)すなわち、Cは、原告に対し、令和4年3月から令和5年2月にかけて、ほぼ毎月にわたり、合計960万4510円を送金している(認定事実ア)。また、原告は、これを生活費に充てた旨及び住宅ローンには充てていない旨供述している(原告本人)ところ、当該供述どおりの事実が認められる。さらに、Cは、前記送金とは別途学費を支払っていた旨証言する(証人C)ところ、当該証言どおりの事実が認められる。そして、前記960万4510円は、住宅ローン等を除く家族4人の1年間の生活費として十分なものであるところ、これと別途送金された前記500万円につき、生活費の使途で送金されたものとは認め難い。

 また、前記500万円は、1回当たりの送金額も他の送金と比較して高額であり、この点からも他の送金とは性質が異なるものであるとうかがわれる。
 以上によれば、前記500万円の送金は、その時期における特別な出来事を理由とするものと推認することができる。そして、令和3年○月○○日、被告がCとの子を出産するという出来事があった(前提事実(2))ところ、その出来事が原告に発覚したのは、同日の約半年後(令和4年2月19日頃)であり、かつ、令和4年2月27日以前であったと認められる(証人C)。そうすると、同日の前記500万円の送金は、前記出来事の発覚直後に行われたものと認められるところ、他に前記500万円の送金理由となるような特別な出来事は見当たらない。以上より、前記500万円は、被告との不貞行為に係る慰謝料の趣旨で送金されたものと推認することができ,この推認を覆す事実をうかがわせる証拠は見当たらない。

(イ)また、Cは、被告に対し、前記500万円の送金が記帳された通帳の写しを交付した(認定事実イ)。そして、被告は、前記写しの交付を受けた理由として、Cから慰謝料として原告に前記500万円を支払った旨聞いたため、その証拠を見せてほしいと依頼した際に交付された旨供述する(被告本人)ところ、Cが何の理由もなく被告に前記写しを交付するとは考え難いことや、被告供述の点以外にCが被告に前記写しを交付する理由が見当たらないことなどに鑑みれば、被告の前記供述は合理的なものとして信用することができる。したがって、Cは、被告に対し、前記500万円は慰謝料として支払ったものである旨説明したと認められる。 

(ウ)以上の諸点等に鑑みれば、前記500万円は、被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものと認められる。
 これに対し、原告は、前記500万円が交付される以前にも、Cから200万円から300万円程度の現金交付を受けたことがある旨供述する。しかしながら、そのことを裏付ける証拠はなく、原告の供述は採用することができない。この点を措いて、原告が過去にCから200万円から300万円程度の現金交付を受けたことがあるとしても、200万円から300万円と500万円との間には相当額の開きがあることや、前記(ア)から(ウ)までに述べた諸点に鑑みれば、前記認定判断は左右されない。

 また、原告は、前記500万円は生活費として送金されたものである旨主張する。しかしながら、既述の諸点に照らし採用することができない上、以下に述べるとおり原告の主張書面の記載が変遷していることからも、採用することができない。すなわち、前記500万円に係る原告の主張書面の記載をみると、原告は、当初は前記500万円の受領自体を否定する旨の主張書面を提出していた(準備書面(2)2頁参照)にもかかわらず、その後に前記500万円の受領に係る客観証拠(乙1)が提出されるや、前記500万円の受領自体は認める旨の主張書面を提出した(準備書面(3)2頁参照)。その後、原告は、前記500万円を受領する以前から数百万円単位の送金を受けていた旨の主張書面を提出した(準備書面(4)2頁以下参照)ものの、この点についても客観証拠(甲4、5)との不整合が明らかになるや、送金ではなく手渡しを受けた旨の主張書面を提出した(準備書面(5)1頁、準備書面(6)1頁以下参照)。

このように、前記500万円に係る原告の主張書面の記載は変遷を繰り返しているところ、そのことにつき合理的理由は見当たらない。これに対し、原告は、前記変遷の理由につき、前記500万円の送金を把握していなかったなどと主張するが、原告が送金後約1か月で前記500万円の全額を引出していること(認定事実ウ)に鑑みれば、原告の主張は不自然不合理であり、採用することができない。また、原告は、令和4年以前にもブランド品の購入費用として年間500万円程度を手渡しで受領していた旨供述し、これに沿う主張をするが、そのことを裏付ける証拠はない上、既述の変遷に鑑みても、採用することができない。

 さらに、Cは、前記500万円の送金が記帳された通帳の写しを被告へ交付した理由として、被告が新居へ転居する際に、収入証明として交付を求められた旨証言する。しかしながら、証拠(乙1)及び争いのない事実によれば、被告が新居へ転居したのは令和3年5月であるのに対し、前記写しには令和4年3月までの取引履歴が記載されていると認められる。そうすると、前記写しが交付されたのは、被告による転居から少なくとも10か月程度後であるところ、そのような時期に転居のための収入証明を求められるなどということは考え難く、Cの前記証言は採用することができない。

 加えて、Cは、前記500万円は生活費として送金したものである旨証言する。しかしながら、Cは、既述のとおり被告に対しては前記500万円を慰謝料として支払った旨述べる一方、原告に対しては前記500万円を生活費として支払った旨述べる(甲9)など、原告と被告の双方に対し場当たり的な発言を繰り返し、もって自身の保身を図っていたものと認められる。また、証拠(被告本人、証人C)によれば、Cは、尋問時点では被告との不貞関係を断ち切り、原告との関係修復を望んでいたものと認められる。以上によれば、Cが原告の期待に沿う内容であると知りながら行った証言は容易に信用することができないところ、証拠(甲9)によれば、Cは、尋問時点において、原告から前記500万円を生活費として送金した旨述べるよう期待されている旨認識していたと認められるから、Cの前記証言は採用することができない。
 以上のほか、原告がるる主張する点は、既述の諸点に照らし、いずれも採用することができない。

(3)まとめ
 以上より、原告の被告に対する損害賠償請求権のうち、令和元年12月10日以前の不貞行為に係るものは、被告による消滅時効の援用によって消滅しており、同月11日から前記500万円の弁済(令和4年2月27日)までの不貞行為に係るものは、同弁済によって消滅している。そして、被告が同弁済以降にCと不貞行為に及んだことを認めるに足りる証拠はない。

第4 結論
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部 裁判官 関泰士
以上:5,507文字

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