○原告元夫が、被告元妻の有責行為により被告との離婚を余儀なくされたとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金約2175万円の支払を求めました。損害内訳概要は、結婚に際し購入した指輪等合計約202万円、結婚により失った退職金約1186万円、治療費・通院慰謝料約95万円、離婚慰謝料500万円、弁護士費用約200万円です。
○原告と被告は婚活サイトで知り合い、平成26年10月から交際を始め、平成28年8月に婚姻しました。被告は平成30年8月、被告が自宅に戻らないことが増え始めて不審を抱き、被告の戸籍を取り寄せ、被告の前夫との二度の婚姻歴と2人の子供が居ることが判明し、被告前夫マンションに行き、2人の子供の面倒を見ていることを打ち明けられて離婚に至ったとして離婚慰謝料500万円を請求しました。
○これに対し、被告が自宅に戻らない頻度が増えたことに不審を抱いた原告が調査をしたことをきっかけとして、被告が離婚歴や子がいることを隠して前夫のマンションに通い続けていたことが、原告に発覚したにもかかわらず、被告が、原告の十分な理解を得ぬまま、それまでと同様、前夫のマンションに通い、原告よりも前夫との関係を優先していると疑われても仕方のない状況を継続したため、原被告の婚姻関係が破綻するに至ったとして慰謝料60万円と弁護士費用6万円の支払を命じた令和6年8月15日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。
○原告元夫とすれば元妻は前夫との二度の婚姻歴・2人の子供の存在を隠して結婚し、その上、結婚後も隠れて前夫との子供の面倒を見ていたことにショックを受けて抑うつ状態となりメンタルクリニック通院を余儀なくされ、正に踏んだり蹴ったりの酷い目にあったとして失った退職金まで含めて2175万円も請求しました。しかし認められたのは慰謝料僅か60万円だけで、おまけに元妻からの貸金反訴が26万円認められ、踏んだり蹴ったりがさらに酷くなったと、抑うつ状態が悪化したのではと心配になる事案です。
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主 文
1 被告は、原告に対し、66万円及びこれに対する平成30年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は、被告に対し、26万5489円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを100分し、その97を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
被告は、原告に対し、2175万7149円及びこれに対する平成30年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は、被告に対し、26万5489円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件本訴は、原告が、被告の有責行為により被告との離婚を余儀なくされたとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金2175万7149円及びこれに対する不法行為日(離婚成立日)である平成30年9月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
本件反訴は、被告が、原告のために支出した株式の購入代金の返済を受けていないとして、原告に対し、消費貸借契約に基づき、株式購入代金103万0884円の一部26万5489円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
後掲証拠(特に断りのない限り、枝番を含む。以下同じ。)によれば、次の事実が認められる。
(1)当事者(甲1)
原告(昭和45年生)と被告(昭和50年生)は、平成28年8月9日に婚姻し、平成30年9月29日に離婚した元夫婦である。原告と被告の間に、子はいない。
(2)当事者が婚姻する前の婚姻歴
ア 原告は、平成12年3月4日、前妻と婚姻して一子(平成13年生)をもうけたが、平成27年11月5日、子の親権者を前妻と定めて前妻と調停離婚した(甲1)。
イ 被告は、平成14年1月6日、前夫と婚姻して二子(平成17年生、平成19年生)をもうけ、平成24年8月1日、子の親権者を前夫と定めて前夫と離婚したものの、平成26年10月3日、前夫と再婚し、同年11月21日、子の親権者を前夫と定めて前夫と再離婚した(甲2の1ないし5)。
2 争点
(中略)
第4 当裁判所の判断
1 本訴について
(1)前提事実、証拠(後掲証拠のほか、甲21、乙27、乙32、証人K、原告、被告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠は採用することができない。
ア 婚姻に至る経緯
原告と被告は、平成26年10月3日(被告の前夫との再婚日)、婚活サイトで知り合いメッセージのやり取りを始め、遅くとも同月19日までに、交際を開始した。
原告は、上記サイトの自己紹介欄に、離婚歴ありと事実と異なる記載をしていたが、同日、被告に対し、婚姻中である旨を明かした。他方、被告は、上記サイトの自己紹介欄に未婚で子なしと事実と異なる記載をしていたが、原告に対し、自身の婚姻歴や子の有無を明かすことはなかった。
原告と被告は、交際を続け、平成28年8月9日、婚姻した。
イ 婚姻中の生活状況
(ア)被告は、原告の子をもうけるために、平成28年12月及び平成29年3月から同年8月頃までの間に不妊治療を受けた(乙23)。
(イ)原告は、被告が、平成29年11月、勤務先から米国駐在の内示を受けたことから、同年12月31日、それまで勤務していた会社を退職し、被告の米国駐在に同行する準備を進めた(甲11、甲12、乙24)。
(ウ)原告と被告は、平成30年8月、同月に旅行することを企図し、メッセージのやり取りをした(甲16の2)。
ウ 離婚に至る経緯
(ア)被告は、原告の婚姻後も、前夫のマンションに通って子の面倒をみており、面倒をみた後に自宅に戻らずに宿泊することもあったが、原告には嘘を吐いて隠していた。
(イ)原告は、平成30年8月頃、自宅に戻らない日が増え始めた被告を不審に思ったことから、自宅に置いてあった被告の財布を確認したところ、子が書いた手紙と中学校の入館証を見つけた。そこで、原告は、被告の戸籍を取り寄せたところ、被告に前夫との二度の婚姻歴があること、前夫との間に二子をもうけていることを知った。
(ウ)原告は、平成30年8月31日、被告の前夫のマンションに行き、被告が現れるのを待っていたところ、被告が上記マンションに入るところを確認したので、被告に連絡を取った。被告は、同日、原告に対し、自身に婚姻歴があり前夫と間に二子をもうけていることを認めた上で、前夫との子の面倒をみるために前夫のマンションに毎日通っていたこと、前夫とは接触していないことなどを話した。
原告は、被告との婚姻関係を修復しようと試みたが、被告は、その後も、前夫のマンションに通い続け、自宅を留守にすることを続けた。
(エ)原告は、平成30年9月28日、翌日が前夫との子の運動会なので実家に泊まる旨のメッセージを送ってきた被告に腹を立て、被告に対し、「あなたとは離婚する」、「子供の面倒をみるのは、我慢するけど、そのために家に帰ってこないことは我慢できない」とのメッセージを送った(乙33)。
被告は、同月29日、原告に電話をして原告の離婚意思を確認した上で、離婚届を提出した。上記離婚届は、原告が、以前に被告と口論した際に署名したものであった。
(2)争点1(被告の不法行為の成否)について
ア 上記(1)で認定した事実によれば、平成30年8月、被告が自宅に戻らない頻度が増えたことに不審を抱いた原告が調査をしたことをきっかけとして、被告が離婚歴や子がいることを隠して前夫のマンションに通い続けていたことが、原告に発覚したにもかかわらず、被告が、原告の十分な理解を得ぬまま、それまでと同様、前夫のマンションに通い、原告よりも前夫との関係を優先していると疑われても仕方のない状況を継続したため、原被告の婚姻関係が破綻するに至ったものと認められるから、原被告の婚姻関係が破綻した主たる原因は、被告にあるといえる(なお、上記(1)で認定した事実によれば、被告は、原告の同意を得て離婚届を提出したものと認められる。)。
イ これに対し、被告は、被告の婚姻歴及び前夫との子の存在が発覚する前から、原被告の婚姻関係は、原告が被告に対して与えた過度の経済的負荷(自動車、マンション及び株式の購入並びに多額の生活費の負担)や、暴力、暴言及び脅しにより、破綻の危機にあったから、破綻の主たる原因は、被告の行為ではないと主張する。
しかし、後記2(1)イで認定するとおり、被告が主張する自動車やマンション、株式の購入は、いずれも婚姻前のものであり、被告はそれでもあえて原告と婚姻したのであるから、これらの購入が、原被告の婚姻関係を破綻させる原因になったとはいえない。また、証拠(甲21、乙2ないし乙4、乙32、原告、被告)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告は、婚姻直後から、些細なことが原因で喧嘩をすることがあり、その中で、原告が、離婚に言及したり、離婚届に署名するなど、原被告の婚姻関係には、被告の離婚歴や子が発覚する前から必ずしも円満であるとは言い難い面があったことは否定できないものの、上記(1)イで認定した婚姻中の生活状況の内容に照らすと、原告が、被告に対し、婚姻関係の修復を困難にするほど、多額の生活費を負担させたり、過度の暴力や暴言、脅しをしたりしていた事実までは認められない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、被告は、原告に対し、離婚を余儀なくさせたことについて、不法行為責任を負う。
(3)争点2(消滅時効の成否)について
被告は、原告の主張する損害賠償請求権のうち虚偽の事実の告知に係る部分については、消滅時効が完成したと主張する。
しかし、離婚に伴う損害賠償請求権は、離婚が成立したときに初めて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和43年(オ)第142号同46年7月23日第二小法廷判決・民集25巻5号805頁参照)、原被告の離婚が成立したのは、平成30年9月29日であるから、本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効期間は同日から進行することになる。そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3年9月24日、本訴請求に係る損害賠償請求について東京簡易裁判所に調停(同裁判所同年(ノ)第471号)を申し立てたこと、同調停は、同年12月8日、不成立により終了したことが認められ、また、原告が、同月18日、本訴の提起をしたことは、当裁判所に顕著である。そうすると、原告は、被告との離婚が成立した日から3年が経過する前に調停の申立てをし、同調停の不成立から6か月が経過する前に本訴の提起をしたということになるから、本訴請求に係る損害賠償請求権の消滅時効は完成していない(民法147条)。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
(4)争点3(原告に生じた損害及びその額)について
ア 結婚に際し購入した物品等の費用について
証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告と婚姻するに当たり、マリッジリング等を購入したことが認められる。
しかし、原告が、被告に離婚歴や子がいることが発覚した後に被告との関係修復に努めたこと(上記(1)ウ(ウ))に照らすと、被告が離婚歴や子がいることを隠して原告と婚姻したこと自体が、原被告の婚姻関係を破綻させる原因になったとは認められないから、結婚に際し購入したマリッジリング等の費用が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
イ 退職金について
原告は、被告の虚偽の告知がなければ被告と婚姻することはなく、被告の米国駐在に同行するために退職することもなかったとして、定年退職した場合に想定される退職金と実際に受領した退職金との差額が損害であると主張する。
しかし、証拠(乙24、乙32、被告)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から退職を思いとどまるよう忠告を受けたにもかかわらず、キャリアアップのために、勤務先の会社を退職して被告の米国滞在に同行することを決断したものと認められ、この事実に照らすと、原告の主張する退職金の差額相当額が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
ウ 治療費及び通院慰謝料について
証拠(甲6ないし甲10)によれば、原告は、平成30年8月から同年12月にかけて、心療内科や耳鼻咽喉科等に通院し、治療や薬の処方を受けたことが認められる。
しかし、これらの通院治療の対象となった原告の症状の主たる発生原因が、原被告の婚姻関係の破綻にあったと認めるに足りる的確な証拠はなく、上記通院治療に伴う費用や精神的苦痛が、原被告の婚姻関係の破綻と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
エ 精神的慰謝料について
原告は、被告の上記(2)アで認定した有責行為により離婚せざるをえなくなり、精神的苦痛を被ったものと認められる。
他方、被告が、前夫のマンションに通い続けていたのは、前夫との子の面倒をみるためであって、被告と前夫との間に内縁関係があったとは認められない。また、上記1(2)イで説示したとおり、原被告の婚姻関係には、被告の離婚歴や子がいることが発覚する前から円満であるとは必ずしも言い難い面があったことは否定できず、原被告の婚姻期間も約2年1か月と短く、子もいない。
これらの事情に加え、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の離婚に伴う精神的苦痛に対する慰謝料としては60万円が相当である。
オ 弁護士費用について
本件事案の内容、審理の経過、認容する請求の内容その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、被告による不法行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は6万円とするのが相当である。
カ 小括
以上によれば、被告は、不法行為に基づき、原告に対し、66万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為日(離婚成立日)である平成30年9月29日以降の改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
以上:6,071文字
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