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グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を棄却した地裁判決紹介

○「グーグルマップクチコミ記事を名誉毀損で削除を認めた地裁判決」の続きで、逆にグーグルマップクチコミ記事を名誉毀損での削除請求を棄却した令和6年11月29日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○投稿記事目録内容は省略され、詳細は確認できませんが、歯科医師の原告主張では、本件記事1は、原告が、十分な説明や検査をしないまま、本件記事1の投稿者の銀歯を取り、歯を削ろうとした、本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をしたとの内容で、歯科医師の治療法としては相当酷い内容です。

○判決は、当該表現が事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別するに当たっても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がないとの一般論を述べました。

○その上で、本件記事1は、投稿者の主観的な不満を述べたものと読まれるというべきであり、それ自体が原告の社会的評価を低下させるものであるということはできないとし、本件記事2は、歯科医師が不適切な治療行為をしたとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させるというべきとしながら、摘示する事実の重要な部分について、真実であることをうかがわせる事情がないとは言えず、公共の利害に関する事実に係るものでないこと及び専ら公益を図る目的でないことをうかがわせる証拠はなく、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情がないとはいえないとして、請求を棄却しています。

○投稿内容の詳細は不明ですが、原告主張だけでも歯科医師としては到底耐えられない記事であり、判決も杓子定規な感がします。原告は控訴して控訴審で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。

第2 事案の概要
 本件は、歯科医院の院長である原告が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたと主張して、Googleマップを運営する被告に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、山梨県甲府市所在の歯科医院「aデンタルクリニック」(以下「本件歯科医院」という。)で院長を務める歯科医師である(甲1、27)。

(2)被告は、オンライン地図サービスであるGoogleマップを運営する米国法人である。Googleマップでは、Googleのアカウントを有するユーザーは、店舗、施設等について、口コミを投稿することができる(乙1)。

(3)氏名不詳の者により、Googleマップ上に、本件歯科医院の口コミとして、別紙投稿記事目録記載の各記事(以下、順に「本件記事1」、「本件記事2」といい、併せて「本件各記事」という。)が投稿された(甲3)。

2 当事者の主張
(1)原告の主張
ア 本件各記事は、以下のとおり、原告の社会的評価を低下させる。
(ア)本件記事1は、原告が、十分な説明や検査をしないまま、本件記事1の投稿者の銀歯を取り、歯を削ろうとしたとの虚偽の事実を摘示して、原告が患者に十分な説明や検査をしないまま、銀歯を取ろうとしたり、歯を削ろうとしたりする危険な歯科医師であるとの印象を閲覧者に抱かせ、原告の社会的評価を低下させる。

(イ)本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をしたとの虚偽の事実を摘示して、原告はまだ虫歯が残っている歯に被せ物をする劣悪な歯科医師であるとの印象を閲覧者に抱かせ、原告の社会的評価を低下させる。

イ そして、本件各記事が摘示する事実は真実ではなく、違法性は阻却されないから、被告は本件各記事を削除する義務を負う。

(2)被告の主張
ア 本件各記事が原告の名誉を毀損するというためには、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、原告の社会的評価の低下が受忍限度を超えることが必要である。
(ア)歯科治療における歯科医師の説明や検査が十分であるかどうかは投稿者による主観的な評価にすぎないから、本件記事1を閲覧した一般読者は、単に原告の治療の進め方に関する個人的な不満が記載されているに過ぎないと認識する。また、本件記事1に記載された投稿者と歯科医師とのやり取りの内容も、歯科医師の説明や検査が不十分であったかどうかを判断するに足るものではなく、一般読者に原告が危険な歯科医師であるとの印象を与えるとはいえない。以上の点を踏まえれば、本件記事1によって受忍限度を超えて原告の社会的評価が低下するとはいえない。

(イ)本件記事2には、原告による本件記事2の投稿者への治療の時期やその内容、被せ物の下に虫歯が残った経緯や原因、本件歯科医院を受診してから他の歯科医院を受診するまでの期間等の具体的な事実は記載されていないから、一般読者が本件記事2の内容を直ちに信用するとはいえない。また、本件記事2の投稿者に対する治療の経緯等によっては、原告の治療が必ずしも不適切ではなかった場合も想定されるから、一般読者に対し、原告が劣悪な歯科医師であるとの印象を直ちに与えるとはいえない。以上の点を踏まえれば、本件記事2によって受忍限度を超えて原告の社会的評価が低下するとはいえない。

イ 本件各記事は、以下のとおり、公共性及び公益目的が認められ、摘示事実は重要な部分において真実に反することが明らかであるとはいえないから、違法性阻却事由をうかがわせる事情の不存在について立証されているとはいえない。また、人格権たる名誉権に基づき削除が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められることも必要であるが、そのようなおそれも認められない。

(ア)公共性及び公益目的が認められること
 本件各記事は、Googleマップのサービスの利用者による情報交換を目的とする公共的価値を有するウェブサイトに投稿されたものであり、本件歯科医院の潜在的な利用者である地域住民等や就職を検討する者にとって、本件歯科医院についての情報は、肯定的なものも否定的なものも重要である。したがって、本件各記事については、公共の利害に関する事実に係るものであること及び公益を図る目的に出たものであることを事実上推認することができる。

(イ)その重要な部分において真実に反することが明らかとはいえないこと
 原告本人の陳述書(甲27)をもって、本件各記事の反真実性が証明されたとはいえない。そして、上記陳述書以外に、本件各記事の反真実性を立証する客観的な証拠は何ら提出されていない一方で、Googleマップ上には、本件各記事の記載が真実であることをうかがわせる他の口コミが存在する。したがって、本件各記事の重要な部分が真実に反することが明らかであるとはいえない。

第3 当裁判所の判断
1 判断の枠組みについて

(1)ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。

そして、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。当該表現が事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別するに当たっても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。

 また、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がないと解される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。

(2)本件のように、口コミを記載した記事を掲載するウェブサイト上の表現が名誉毀損に当たるとして、その管理運営者に記事の削除を求める場合には、当該ウェブサイトが、その利用者に対し、必要な情報を入手する手段を提供していること、通常、管理運営者において、表現内容の真実性に関する資料を保有していないことなどに照らすと、上記(1)の違法性阻却事由について、削除を求める原告において、その存在をうかがわせる事情がないことを立証する必要があると解するのが相当である。

2 本件記事1について
(1)本件記事1のうち「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました。」という部分は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、銀歯を取り歯を削る前に行われた本件歯科医院の歯科医師による説明や検査が十分でなかったと述べるものであると認められる。本件記事1は口コミとして投稿されたものであり、「十分」であるか否かは主観的な評価であることに照らすと、上記部分は、証拠等による証明になじまない批判というべきであって、意見ないし論評を表明したものというべきである。

 そして、本件記事1には、本件記事1の投稿者と本件歯科医院の歯科医師との間のやり取りが一部記載されているものの、歯科医師にどの程度の説明を期待するかは患者によって当然に異なるものであるし、本件記事1の投稿者が受診した際の客観的な症状等が不明であり、どのような検査がされるべきであったのかも必ずしも明確ではない。
 そうすると、上記部分は、投稿者の主観的な不満を述べたものと読まれるというべきであり、それ自体が原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。

(2)したがって、本件記事1の削除請求は理由がない。

3 本件記事2について
(1)本件記事2のうち、「まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をされた。」という部分は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件歯科医院の歯科医師が、虫歯が大きく残っている状態で被せ物をしたとの事実を摘示するものというべきであり、本件歯科医院の歯科医師が不適切な治療行為をしたとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させるというべきである。

(2)続いて、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないといえるかについて検討する。
 原告は、施術後、虫歯の削り残しがないか入念にチェックしており、削り残しがあるのに被せ物をするような事態は通常起こり得ない、患者から、本件歯科医院に対し、治療後にそのようなクレームが寄せられたことはない旨陳述する(甲27)。しかし、この陳述には客観的な裏付けがない。また、本件記事2の投稿者は、本件歯科医院以外の歯科医院を受診した結果、虫歯の削り残しがあることが判明したと述べているところ(甲3)、このような場合には、患者が本件歯科医院にその旨を伝えない限り、本件歯科医院の歯科医師が虫歯の削り残しを把握する機会はないと考えられる。そうすると、原告の上記陳述をもって、本件記事2に記載された事実を直接否定するものということはできず、本件記事2の摘示する事実の重要な部分について、真実であることをうかがわせる事情がないということはできない。

 そして、本件記事2が公共の利害に関する事実に係るものでないこと及び専ら公益を図る目的でないことをうかがわせる証拠はない。
 したがって、本件記事2について、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情がないとはいえない。


(3)以上によれば、本件記事2の削除請求は理由がない。

第4 結論
 よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第50部 裁判官 新井一太郎

(別紙)投稿記事目録

以上:5,366文字

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