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R 2- 9-23(水):唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消否認最高裁判決紹介
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○「唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消否認高裁判決紹介」の続きで、その上告審の昭和42年11月9日最高裁判決(判時505号34頁、判タ215号89頁)全文を紹介します。

○訴外B・A夫婦に対し売掛金債権を有する上告人が、訴外B・A夫婦が被上告人と本件各動産につき譲渡担保契約を締結した当時、被上告人及び訴外B・A夫婦は、上告人が訴外B・A夫婦に対し売掛金債権を有しており、訴外B・A夫婦が無資力で、本件各動産が唯一の財産であることを知っていたと主張して、詐害行為取消権に基づき譲渡担保契約の取消を求め、一審は詐害行為取消を認めましたが、控訴審は請求を棄却していました。

○最高裁判決は、訴外B・A夫婦による所有権移転行為は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為ではあるが、他に資力のない債務者が生計費及び子女の教育費に充てるため、家財、衣料等を売却し、あるいは新たな金借のためこれを担保に供する等生活を維持するための財産処分行為をもって取消の対象とするのは行過ぎであるとして、一般財産の現象が不当であると認められるべき事情のない限り取消の対象とならないとして請求を棄却した控訴審判決を支持し、本件の事情の下では詐害行為は成立していないとして上告を棄却しました。

********************************************

主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○の上告理由第一ないし第三について。

 原審が所論の点についてなした事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。そして、当事者間に争なき事実と右認定により原審の認定した事実によれば、被上告人は訴外B、同A夫妻に対し、昭和36年3月頃同人らの生計費として金10万円を貸与し、同年3月22日同夫妻はそれぞれその所有にかかる原判示の物件を被上告人に対して譲渡担保に供し、さらに、同37年2月被上告人は右B・A夫妻の長女の大学進学に必要な費用として金6万円を貸付け、同夫妻は同月13日被上告人に対し追加担保として原判示二回目の譲渡担保を供し、結局金16万円の借入れのため金10万円を出ない物件を譲渡担保に供したというのである。

 右のような事実関係に徴すれば、前記各譲渡担保による所有権移転行為は、当時B・A夫妻は他に資産を有していなかつたから、債権者の一般担保を減少せしめる行為であるけれども、前記のような原審の確定した事実の限度では、他に資力のない債務者が、生計費及び子女の教育費にあてるため、その所有の家財衣料等を売却処分し或は新たに借金のためこれを担保に供する等生活を営むためになした財産処分行為は、たとい共同担保が減少したとしても、その売買価格が不当に廉価であつたり、供与した担保物の価格が借入額を超過したり、または担保供与による借財が生活を営む以外の不必要な目的のためにする等特別の事情のない限り、詐害行為は成立しないと解するのが相当であり、右と同旨の見解に立つて本件詐害行為の成立を否定した原判決の判断は、正当として是認できる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切ではなく、原判決には所論違法はない。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

上告代理人○○○○の上告理由
第一、民法第424条の規定におけるいわゆる債権者取消権
は,申すまでもなく、同法第423条の規定するいわゆる債権者代位権と同じように、債務者が債権の共同担保が不足することを知りつつ財産減少行為をした場合に、債権者の最後のよりどころである債務者の一般財産の維持、回復を目的とするもので、債権者が自ら債務者の資力を維持して債権の満足を得ることを認めたものであり、『債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル債務者ノ法律行為ヲ取消シ、債務者ノ財産上ノ地位ヲ其法律行為ヲ為シタル以前ノ原状ニ復シ、以テ債権者ヲシテ其債権ノ正当ナル弁済ヲ受クルコトヲ得シメ其担保権ヲ確保スルヲ目的トスル』(大聯判明44、3、24、民録17・171頁参照)権利である。

このように、債権者取消権は、債務者がなした行為の効力を否認して第三者から担保財産を取戻してくるものであつて、債務者と第三者との間では本来あるべからざる状態を債権の共同担保の保全のためにつくり出すものであるから、債務者及び第三者に対して影響するところは極めて甚大である。従つて、これらの要件については、債権の共同担保保全の必要と債務者および第三者の利害関係とを比較考量して厳格に定めなければならないものとせられる。

第二、本件の事実関係
本件の事実関係の概要は、原判決の認定せられたところによるとおよそ次の通りである。

一、上告人の訴外債務者B、Aに対して有する債権
上告人が右訴外債務者両名に対し、広島地方裁判所福山支部昭和33年(ワ)第160号売買代金残額請求事件(同年11月24日言渡)の確定判決に基づき金62万5675円の売掛代金債権並びにに損害金債権を有しており、上告人は同確定判決に基づく債権について、昭和38年7月26日債務者両名に対し本訴物件について強制執行に着手するまで、両債務者から厘毛の弁済も受けておらなかつた。(成立に争のない甲第4、5号証参照。)

二、被上告人と訴外債務者両名との間における本訴物件に対する譲渡担保契約
(一) 本件一審判決添付の第一、第二目録記載物件については、被上告人が昭和36年3月25日訴外Aに金10万円を、弁済期を昭和39年5月9日、利息の定めをしないで貸付け、夫であるBは同借受債務について連帯保証人となり、貸付けてから約3ケ月を経過した昭和36年6月22日金銭債務弁済譲渡担保使用貸借公正証書によつてAからその所有の原判決添付第一目録記載、Bからその所有の原判決添付第二目録記載の各物件を右Aに対する10万円の貸金債権のための譲渡担保契約によつてその所有権の譲渡を受けたというのである。

しかし、成立に争のない甲第6号証(公正証書)の第一条によると、被上告人がAに金10万円を貸与したのは昭和36年5月10日であり、原判決が認定せられた昭和36年3月25日ではない。しかも、公正証書を作成したのが昭和36年6月22日であることは甲第6号証によつて明白で、被上告人は右公正証書を作成するまで借主Aから借用証を取つた形跡がない。昭和36年3月25日に金10万円を弁済期を3年以上も先の昭和39年5月9日とし、利息の定めをしないで目前の生活不安をうつたえたことによる生活費としての貸借であるとする場合、(この貸借の際には本訴物件の譲渡担保の約定はなかつたと認められる)借主は進んで借用証を差入れるであろうし、貸付も特別の事情のない限り借用証も取らないで貸与するということは常識上からあり得ない。

このように借用証の差入もしないで10万円の貸借が行われた間柄において、数ケ月を経過してから当時借主A、連帯保証人Bの残されていた全動産についてイキナリ譲渡担保契約公正証書を作成したと云うことは、その間にスッキリしない影があり、財産隠匿行為との疑念を抱かざるを得ない。

(二) 本件一審判決添付の第三目録記載物件については、被上告人が昭和37年2月13日訴外Aに子供の進学に必要な費用として金6万円を、弁済期及び利息の定めをしないで訴外Bが連帯保証人となつて貸付け、それから約5ケ月を経過した昭和37年7月13日追加契約書によつて前に貸付けた10万円とあとから貸付けた前記6万円とについて原判決添付の第三目録記載物件を譲渡担保契約がなされてその所有権の譲渡を受けたというのである。

しかし、この場合も前記(一)の場合と同様の疑念が生じるばかりでなく、甲第7号証の追加契約はその記載内容から、前になされた甲第六号証の公正証書第九条の目的物件を加、除する契約であり、同契約書中には前記貸付金6万円のことについては何等の記載がなされておらない。

三、詐害行為
原判決は、『A、Bの前記各譲渡担保契約による被上告人に対する所有権移転行為は、生計費、子女の教育費支出の必要に迫られてなしたものであるから、一般の債権者において右借入金により債権の弁済を受けることは至難であり、従つて、被上告人に対する右担保供与は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為であることは否定しえないが、……生活を維持するための財産処分行為をもつて共同担保の減少行為として一律に取消の対象とするのは行きすぎであり、……一般財産の減少が不当であると認められるべき事情のない限り取消の対象とならないと解するのが相当であり……生活維持のための緊急の必要にせまられてなしたものであつて、不当な一般財産の減少とは認め難く、従つて、本件各譲渡担保契約は債権者取消権の対象とならないものというべきである』と認定された。

しかし、原判決において認定されているように、被上告人からの本件10万円の借入金は、B・A一家の目前の生活不安による生活費であり、6万円は子女の進学に必要な費用であつたとしても、被上告人はB・A一家の窮状に同情して好意的に金員を貸与したもので、その貸与に際しては本件の担保供与を条件としたものではない。金員貸与後数ケ月を経過してから改めて本件譲渡担保契約がなされたものである。

金員貸与の動機、原因はそれとして、上告人と被上告人の宇治田夫婦に対する債権者としての地位は、その間に優劣はなかつたに拘らず、後に至つて被上告人に改めて担保を供与することは資力の減少であるから詐害行為となるものと云わねばならない。

第三、判例違反、法令違反
一部の債権者のために改めて抵当権その他の物的担保を供与することは、担保債権者に優先弁済権を得させ、他の債権者の共同担保を減少せしめることになるとして、これは詐害行為となり得るとするのが判例(昭和32、11、1、最高民判、民集11巻1832頁、その他)であり、通説である。(法学全集、債権総論169頁)。

然るに原判決は、『被上告人に対する本件譲渡担保は、債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為であることは否定しえないが……供与した担保物の価額が借入額を超過したり、或は担保供与による借財が生活を維持する以外の不必要な目的のためになされる等一般財産の減少が不当であると認められるべき事情のないかぎり取消の対象とならないと解するのが相当である』と判示されるのであるが、本件の事実関係は前記の通りであり、叙上の判例に違反し、民法第424条の解釈を誤つている違法があると思料される。
以上:4,443文字
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R 2- 9-22(火):唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消否認高裁判決紹介
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○「唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消認容地裁判決紹介」の続きで、その控訴審である昭和40年9月1日広島高裁判決(判時433号36頁、判タ181号123頁)を紹介します。

○訴外B・A夫婦に対し売掛金債権を有する被控訴人が、訴B・Aらが控訴人と本件各動産につき譲渡担保契約を締結した当時、控訴人及び訴外人らは、被控訴人が訴外人らに対し売掛金債権を有しており、訴外人らが無資力であって、本件各動産が唯一の財産であることを知っていたと主張して、詐害行為取消権に基づき譲渡担保契約の取消を求めました。

○原審は、請求を認容しましたが、控訴審判決は、その原判決を取消し、訴外人らによる所有権移転行為は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為ではあるが、他に資力のない債務者が生計費及び子女の教育費に充てるため、家財、衣料等を売却し、あるいは新たな金借のためこれを担保に供する等生活を維持するための財産処分行為をもって取消の対象とするのは行過ぎであるとして、一般財産の現象が不当であると認められるべき事情のない限り取消の対象とならないとして、被控訴人の請求を棄却しました。

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

主   文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事   実
控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴人において当審における証人Aの証言、控訴人本人尋問の結果を援用したほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理   由
 被控訴人がB、Aに対し、広島地方裁判所福山支部が昭和33年11月24日言渡した同庁昭和33年(ワ)第160号売掛代金残額請求事件の確定判決に基づく売掛代金62万5675円の債権を有していること、控訴人が、昭和36年6月22日付広島法務局所属公証人藤田尹作成の新第22、198号金銭債務弁済譲渡担保使用貸借契約公正証書により、Bからその所有の原判決添付第一目録記載(但し五の着物ウールは2、7の女帯は四)の及びBからその所有の原判決添付第二目録記載の各物件をAに対する金10万円の貸金債権のための譲渡担保契約により各これが所有権の譲渡をうけ、昭和37年7月13日付追加担保契約により、Bからその所有の原判決添付第三目録記載の物件を前記貸金債権のための譲渡担保(追加)として、これが所有権譲渡をうけたことはいずれも当事者間に争いがない。

 そして、成立に争いのない甲第1、第2、第3、第6、第7号証、当審における証人Aの証言、控訴人本人尋問の結果によると、前記控訴人のAに対する貸金10万円は昭和36年3月25日、弁済期を昭和39年5月9日とし、利息の定めなく貸付けられ、Bは右債務につき連帯保証人となり、前記昭和36年6月22日付公正証書記載の譲渡担保契約の内容は、借主において前記債務を履行した場合には目的物の所有権は各担保提供者に復帰し、債務不履行の場合は債権者(控訴人)において目的物を売却し売得金を債務に充当し、或は第三者の評価した価額により代物弁済となすこと、債権者は目的物を弁済期まで各担保提供者に無償で使用を許すとの定めであり、右譲渡担保の目的物は前記各物件の外、Aの提供した鏡台外衣類等10数点、Bの提供した東芝扇風機1台外洋服等4点を含む(甲第6号証参照)ものであつたこと、前記の昭和37年7月13日付追加担保契約は、控訴人のAに対する前記の金10万円の貸金の外、控訴人がAに対し同年2月13日期限及び利息の定めなく貸付けた金6万円の貸金債権を担保する目的でなされ、その目的物は前記原判決添付第三目録記載の物件の外、Aの提供したウール着物二女帯一(右3点は被控訴人において昭和36年6月22日付の当初の契約の目的物であると主張するところ、右主張は甲第6、第7号証に照らし明白な誤まりであると認める。)を含むものであり、右追加担保契約のその余の内容はさきの譲渡担保契約におけるそれと同様であり、右契約に際しBがさきに提供していた東芝扇風機1台は目的物から除外することとの合意ができたことがそれぞれ認められる。

 そこで、右のA、Bが控訴人に対してなした右各物件の譲渡担保による所有権譲渡行為が、債権者取消権の要件である債権者を害する行為に該当するか否かを考える。
 前掲各証拠、成立に争いのない甲第4、第5号証及び弁論の全趣旨によるとつぎの事実を認めることができる。
 Bは電機器具商を営んでいたところ昭和33年倒産し、同人の妻Aの遠縁にあたる控訴人において右Bの負債整理にあたり、前記の被控訴人の債権の外は、担保物件の競売、或は弁済の猶予を得る等により一応の整理ができたが、被控訴人の債権については、被控訴人において控訴人の申出でた整理条件に不服であつたため未整理のままであつた。

ところで、B・A夫婦は右倒産、負債整理により営業継続不能となり、収入及び資力を失い4人の子女をかかえ、妻Aの内職と、身の廻り品、衣類等を売つて生活していたが、昭和36年3月頃には、前認定の控訴人に対し譲渡担保とした衣類、家具を残すだけとなり、右Aにおいて控訴人に対し目前の生活の不安をうつたえたところ、控訴人はB・A方の生活費として、前示のとおり金10万円を貸与し、右貸与にあたりB・A夫婦は右貸金の担保として、前記同年6月22日付公正証書記載の担保目的物を譲渡担保として控訴人に譲渡することを約し、右約旨に基づいて右公正証書が作成されるにいたったが、昭和37年2月にいたりB・A夫婦は、長女がいわゆるアルバイトをしてでも大学に進学したいと切望したので、その処置を控訴人に相談したところ、控訴人は進学を奨め、同月13日、右進学に必要な費用として前示のとおり金6万円を貸付け、追加担保として2回目の譲渡担保契約がなされたものであり、そして、被控訴人は昭和38年7月26日前記判決に基づく強制執行として原判決添付第一目録記載の物件をAに対する債権のため、同第二、第三目録記載の物件をBに対する債権のため各有体動産の差押をなしたが、控訴人は前記貸金の弁済をうけていなかつたので、右強制執行を争つて第三者異議の訴を提起し、ついで被控訴人から控訴人に対する本訴提起にいたつたものである。

 右のとおり認めることができ、右認定を左右するにたる証拠はない。
右によれば、A、Bのなした前記各譲渡担保による控訴人に対する所有権移転行為は、当時B・A夫婦が他になんらの資力を有せず,かつ、控訴人からの金員借入は生計費、子女の教育費支出の必要にせまられてなしたものであるから一般債権者において右借入金により債権の弁済をうけることは至難であり、したがつて、控訴人に対する右担保供与は債権者の一般担保を減少し債権者間の平等弁済を妨げる行為であることは否定しえないが、民法第424条の債権者取消権は、破産における否認権が債務者の財産の処分行為を禁じ債権者間の平等弁済をその目的とするのと異り、債権者のため、債務者によりなされる一般財産の不当な減少を防止することを目的とする制度であることからすると、他に資力のない債務者が生計費及び子女の教育費に充てるため、その所有の家財、衣料等を売却処分し、或は新たに金借のためこれを担保に供する等生活を維持するための財産処分行為をもつて共同担保の減少行為として一律に取消の対象とするのは行きすぎであり、右の如き行為は、その売買価額が不当に廉価であり、或は供与した担保物の価額が借入額を超過したり、或は担保供与による借財が生活を維持する以外の不必要な目的のためになされる等一般財産の減少が不当であると認められるべき事情のないかぎり取消の対象とならないと解するのが相当であり、本件では債務者B・A夫婦において計金16万円の借入のため控訴人に供与した譲渡担保物件の総価額は、弁論の全趣旨に徴し金10万円を出でないことが認められ、かつ、右借入は前示の如く生活維持のための緊急の必要にせまられてなしたものであつて、不当な一般財産の減少とは認めがたく、したがつて、本件各譲渡担保契約は債権者取消権の対象とならないものというべきである。

 以上によれば被控訴人の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当であり棄却を免れない。
 よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第386条、第96条、第89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 裁判官 長谷川茂治)
以上:3,592文字
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R 2- 9-21(月):民法第907条3項適用し遺産分割を2年間禁止した家裁審判紹介
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○判例時報最新号の令和2年9月11・21日合併号を見ていたら、被相続人がした複数の遺言の効力及び解釈について相続人間に争いがあり、これに関して民事訴訟の提起が予定されている遺産分割事件につき、遺産全部の分割を2年間禁止するとの珍しい審判例が掲載されていました。令和元年11月8日名古屋家裁審判(判時2450・2451号○頁)です。

○関連条文は次の通りです。
民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

家事事件手続法第197条(遺産の分割の禁止の審判の取消し及び変更)
 家庭裁判所は、事情の変更があるときは、相続人の申立てにより、いつでも、遺産の分割の禁止の審判を取り消し、又は変更する審判をすることができる。この申立てに係る審判事件は、別表第二に掲げる事項についての審判事件とみなす。


*******************************************

主   文
1 被相続人の遺産の全部について,令和3年11月7日までその分割をすることを禁止する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
 本件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は,下記のとおりである。

第1 本件の経過
 本件記録によれば,下記の各事実が認められる。
1 被相続人(大正6年○○月○○日生の女性)は,昭和15年2月26日,Gと婚姻し,その後,両者の間には,同年○○月○○日に長男Hが誕生した。
2 Hは,昭和41年10月15日,Iと婚姻し,その後,両者の間には,昭和42年○○月○○日に長男として申立人Aが,昭和44年○○月○○日に二男として申立人Bが誕生した。
3 申立人Aは,平成7年12月25日,申立人Cと婚姻した。
4 Gは,平成10年○○月○○日に死亡した。
5 申立人Bは,平成13年7月5日,Jと婚姻した。

6 被相続人は,平成22年4月30日,被相続人の姪に当たる相手方と養子縁組した。この養子縁組に対して,申立人A及び申立人Bがその無効確認を求める訴訟を提起したが(名古屋家庭裁判所岡崎支部平成25年(家ホ)第67号,控訴審は名古屋高等裁判所平成28年(ネ)第335号。),平成28年9月14日,同訴訟の控訴審において請求棄却の判決が言い渡され,その後,同判決は確定した。

7 被相続人は,平成23年11月18日,全財産を相手方に相続させる旨の自筆証書遺言(以下「本件第1遺言」という。)をした。
8 被相続人は,平成23年12月10日,全財産をHに相続させるとともに,遺言執行者として申立人Aを指定する旨の自筆証書遺言(以下「本件第2遺言」という。)をした。

9 被相続人は,平成24年3月29日,申立人ら及びJとそれぞれ養子縁組した。このうち,申立人らと被相続人との養子縁組に対して,相手方がその無効確認を求める訴訟を提起したが(名古屋家庭裁判所平成28年(家ホ)第314号),平成30年11月29日,請求棄却の判決が言い渡され,その後,同判決は確定した。

10 Hは,平成25年○○月○○日に死亡した。
11 Jは,平成27年○○月○○日に死亡した。
12 被相続人は,平成28年○○月○○日に死亡した。
13 被相続人は,死亡した当時,別紙遺産目録記載の財産を保有していた。

14 申立人らは,平成29年12月15日,本件審判を申し立てた。これに対して,当裁判所は,平成30年3月28日,本件を名古屋家庭裁判所豊橋支部の調停に付するとともに(以下,この調停事件を「本件調停事件」という。),本件調停事件が終了するまで審判手続を中止する旨を決定した。

15 相手方は,平成30年4月7日,相手方の夫である当事者参加人に対し,自己の相続分の50分の1を無償で譲渡した。
16 当事者参加人は,平成30年4月10日,相手方から相続分の一部譲渡を受けたことにより,当事者となる資格を取得したとして,本件調停事件への当事者参加を申し出て,本件調停事件の担当裁判所からこれを認められた。
17 本件調停事件は,平成31年1月18日に調停不成立となり,本件審判手続が再開された。

18 現在,申立人らは,本件第1遺言は,これと抵触する本件第2遺言により撤回されており,かつ,本件第2遺言は,全財産を相続させるものとされたHが被相続人より前に死亡した場合には,Hの代襲者たる申立人A及び申立人Bに全財産を相続させる趣旨のものであるから,被相続人の遺産は,すべて申立人A及び申立人Bに相続されると主張している。

これに対して,相手方及び当事者参加人は,本件第2遺言は,全財産を相続させる対象とされたHが被相続人より前に死亡したことで失効しており,その結果,本件第1遺言は撤回されることなく効力を維持するから,被相続人の遺産は,すべて相手方及び相手方から相続分の一部譲渡を受けた当事者参加人に相続されると主張している。

19 申立人らは,本件審判手続において,本件第1遺言の無効確認等を求める訴訟を提起する旨の意向を表明しており,現在,その提訴を準備中である。

第2 当裁判所の判断
 前記のとおり,被相続人の遺産分割については,その前提となる本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関して当事者間に争いがあり,その効力等の如何によって,相続人の範囲や各自の相続分が大きく左右される状況にある。また,申立人らは,これらの争いを民事訴訟により解決すべく,その提訴を準備中である。

このような状況下においては,当裁判所が本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等について判断の上で遺産分割審判をしたとしても,その判断が提起予定の訴訟における判決等の内容と抵触するおそれがあり,そうなれば,既判力を有しない遺産分割審判の判断が根本から覆されてしまい,法的安定性を著しく害することとなるから,本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでは,遺産の全部についてその分割をすべきではない。

 そして,当事者間の争い及び申立人らが提訴予定の訴訟の内容,申立人らの提訴の準備状況その他諸般の事情に鑑みると,本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでには,向こう2年程度の期間を要することが見込まれるから,令和3年11月7日までの間,被相続人の遺産全部の分割を禁止することが相当である(なお,それより前に当該訴訟が解決に至った場合には,事情の変更があったものとして,分割禁止の審判を取り消し又は変更することが可能である(家事事件手続法197条)。)。

第3 結論
 したがって,被相続人の遺産全部の分割を令和3年11月7日まで禁止することとして,主文のとおり審判する。
 名古屋家庭裁判所家事第2部 (裁判官 山田哲也)
以上:2,993文字
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R 2- 9-20(日):映画”TENETテネット”を観て-正にチンプンカンプン
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○令和2年9月19日(土)は、「TOHOシネマズ仙台」「IMAX®デジタルシアター」で、封切り2日目上映中の話題の映画「TENETテネット」をレイトショーで家族で観てきました。クリストファー・ノーラン監督最新作で超難解映画との触れ込みどおり、ユーザーレビューにあった感想「『難解にも程があるだろう』と思うくらいに、難解。。。」で、正にチンプンカンプンの映画でした。

○午後8時開演のレイトショーを6時間前の午後2時頃ネット予約時には、前3列しか空きがなく、前3列の中央部分を家族分予約しました。話題の映画だけあって観客がよく入っています。「TOHOシネマズ仙台」「IMAX®デジタルシアター」は、ここ1年ほど難聴者用ヘッドホンが使えません。入り口で係員にまだ難聴者用ヘッドホンは利用できないのですかと確認すると、音響システム上使えないようなことを言います。しかし、1年以上以前は確かに使えていました。

○しかたなく聴力のより悪い右耳だけに補聴器をつけて鑑賞を始めましたが、「IMAX®デジタルシアター」の大音量に耐えられず、直ぐに外して、聴力損失土75~80dbの高度難聴の耳で生の音を聴きました。すると不思議なことにセリフも音として聞き取れ、バックの音楽も耳にシッカリ入ってきます。普通の生活の場では、聴力損失土75~80dbの高度難聴になると、補聴器を外した世界は沈黙の世界で、普通の会話は殆ど聞き取れないのに「IMAX®デジタルシアター」では聞き取れるのが不思議でした。補聴器なしでもそれなりに音を楽しめました。

○さて、映画は、正にチンプンカンプンで、内容が理解不能で、且つ、夕食後のアルコールの入った満腹状態のため、時に睡魔に襲われ、ハッと目が覚めて観ても、さらに何が何だか訳の判らない状態でした。その中で敵役の妻の容貌が強く印象に残りました。8頭身どころか、10頭身くらいではと思える程小さな顔に長い手足で、水着姿でその長い足がアップで映るのには、大変魅せられました(^^;)。あとで調べると身長、なんと191㎝です。短躯の私などは見上げる大きさです。

○名優デンゼル・ワシントン氏の息子が主人公でしたが、そう言われると確かにどこか親父に似ているかとも思えます。しかし、当然ですが、まだ親父のような凄みはまだまだ感じられません。役柄がそのような設定のためかも知れませんが、どこか物足りない感じがしました。この主人公のアクションに、時間を逆行する現象を視覚化して取り入れているとのことですが、時間逆行現象と普通の現象の区別がつきにくく、一体この画面は何だと思える展開が続き、正に訳が判らない展開でした。UHDが発売されたら、繰り返し鑑賞し、少しは理解できるよう努めます。
以上:1,133文字
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R 2- 9-19(土):唯一の財産である動産譲渡担保契約の詐害行為取消認容地裁判決紹介
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○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定最高裁判決紹介」に関連して続けます。

○訴外A及び訴外Bに対し、確定判決に基づく売掛金債権を有する原告が、訴外人らが被告と本件各動産につき譲渡担保契約を締結した当時、被告及び訴外人らは、原告が訴外人らに対し売掛金債権を有しており、訴外人らが無資力であって、本件各動産が唯一の財産であることを知っていたと主張して、詐害行為取消権に基づき、譲渡担保契約の取消を求めました。

○被告は契約当時原告を害することを知らなかった等と主張しましたが、第一審昭和40年2月12日広島地裁判決(最高裁判所民事判例集21巻9号2329頁)は、原告の請求を認容して、被告が行った譲渡担保契約を全て取り消しました。

○この判決は、理由文が省略されていますが、控訴されて広島高裁によって覆されており、一審の理由文等含めて別コンテンツで紹介します。

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主   文
訴外Aが被告との間において、別紙第一目録記載の物件についてなした昭和36年6月22日広島法務局所属公証人藤田尹作成新第22、198号金銭債務弁済譲渡担保使用貸借契約公正証書による所有権譲渡行為。
訴外Bが被告との間において、別紙第二目録記載の物件についてなした右公正証書による所有権譲渡行為。
訴外Bが被告との間において、別紙第三目録記載の物件についてなした昭和37年7月13日追加譲渡担保契約による所有権譲渡行為。
はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。

事   実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め,その請求の原因として次のとおり述べた。
「一、原告は訴外B、同Aに対し昭和33年11月24日広島地方裁判所福山支部において、言渡された同庁昭和33年(ワ)第160号売掛代金残額請求事件の確定判決に基き売掛金62万5675円の債権を有している。

二、被告は別紙第一、第二目録記載の物件について請求の趣旨第1、2項記載の公正証書により右第一目録記載の物件は訴外Aから、右第二目録記載の物件は訴外Bから、いずれも右Aに対する金10万円の貸金債権のための譲渡担保契約によりこれが所有権の譲渡を受け、別紙第三目録記載の物件は請求の趣旨第三項記載の追加譲渡担保契約により右Bからこれが所有権の譲渡を受けている。

三、ところで、ラジオ商を営んでいた右Bは、昭和33年多額の負債を残して倒産し、被告はその負債の処理に当つたもので、本件譲渡担保契約当時原告が右B及びその妻Aに対し第一項記載の売掛代金債権を有することは熟知し、また、右宇治田夫妻もAが昭和36年5月10日被告から借受けた金10万円の債務につき、その弁済のために前記記載の譲渡担保契約を締結した当時右B・A夫妻は無資力であつて、別紙第一ないし第三目録記載の動産がその唯一の財産であること及び原告が同人等に対する前記確定判決による債権を有していることを知つていたのであるから、B・A夫妻は右譲渡担保契約によつて債権者である原告を害することを知りながら同契約を締結したものである。

四、よつて原告は被告に対し、詐害行為取消権に基き前記譲渡担保契約の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。」

なお、被告の抗弁事実は否認すると述べた。
証拠(省略)

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「請求原因第1、2項の事実は認める。同第三項につき訴外B・A夫妻が本件譲渡担保契約締結の際原告を害することを知つていたとの点は否認し、その余の事実は認める。なお、追加譲渡担保契約は昭和36年5月10日Aに貸与した金10万円と後に貸与した金6万円に対する担保の設定である。」と述べ、抗弁として「被告は右B・A夫妻と本件譲渡担保契約締結当時原告を害する意思はなかつたものである。即ち、被告は右B・A夫妻が生活費に困窮していたため、同人等の要請により金10万円を貸与したもので、その際には担保設定の話はなかつたが、その後に至り同人等から担保を差入れたいとの申入があつたので、同年6月22日本件公正証書による譲渡担保契約を締結したものであり、追加譲渡担保契約は右貸金10万円とその後に貸与した金6万円に対する担保の設定であつて、いずれも債権者として当然の措置を採つたもので、原告を害する意思はなかつたものである。」と述べた。

証拠(省略)
(昭和40年2月12日 広島地方裁判所福山支部)

別紙 第一目録
1、タンス桐
12、整理タンス
13、着物
104、羽織
55、着物ウール
46、茶羽織ウール
17、女帯 五

第二目録
1、テレビ受像機シヤープ
12、水屋 1

第三目録
1、扇風機フジ
12、柱時計
13、電気冷蔵庫NEC
14、高机
15、椅子 4
以上:1,975文字
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R 2- 9-18(金):一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定最高裁判決紹介
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○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介2」の続きで、その上告審の昭和44年12月19日最高裁判決(判時585号38頁、判タ244号153頁)全文を紹介します。

○牛乳小売業者Aの債権者である上告人Xが、被上告人Yに対して支払遅滞を生じたAにおいて、被上告人からの取引の打切りや本件建物の上の根抵当権の実行等を免れ、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続することを目的として、Aが本件建物を被上告人Yに対して譲渡担保に供しました。

○上告人の債権者が、このAへの担保提供行為が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権を行使し、第一審、控訴審共に詐害行為には該当しないとして請求を棄却していました。最高裁判決においても、本件の事情を考慮すると、債務者の本件行為は、それによって債権者の一般担保を減少させる結果を生ずるにしても、詐害行為には当たらず、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であるとしました。

○最高裁判決も、牛乳小売業者Aが、継続的に牛乳の卸売を受けて来た仕入先Yに対し、取引上の債務を担保するため、所有店舗に根抵当権を設定し代物弁済の予約を結んでいた場合において、代金の支払を遅滞したため、取引を打ち切り担保権を実行する旨の通知を受けるに及んで、これを免れて従前どおりの営業の継続をはかる目的のもとに、右仕入先Yと示談のうえ、債務の支払猶予を受け、前記店舗を営業用動産や営業権等とともに現在および将来の債務の担保として譲渡担保に供したとき、この行為は、当時の諸般の事情に照らし、営業を継続するための仕入先に対する担保提供行為として合理的限度をこえず、かつ、他に適切な更生の道がなかつたものと認められるかぎり、詐害行為とならないとしました。

○詐害取消訴訟においては、詐害行為の成否を、きめこまかな事実認定に基づく関係者間の実質的利益衡量の結果により、合目的的に決する傾向がありました。目的・動機の正当性と手段・方法の相当性の二つのメルクマールが、詐害行為の成否の判断基準として採り上げられます(最判昭42・11・9集21巻9号2323頁、最判昭42・12・14裁判集89号371頁、否認権についての最判昭43・2・2集22巻2号85頁参照)。

○本判決も、判例法理のこのような展開の延長線上に位置づけられる判断事例を加えたものということができ、学説の上でも、判例法理の指向するところを基本的には支持し、その法的構成と判断基準を明確化しようとする有力な提言が見られるます(飯原・判例を中心とした詐害行為取消権の研究121頁以下、下森・法協85巻11号1568頁以下、およびそれらに引用されている諸文献参照)。

○本件の事案の概要は次のとおりです。
・牛乳の小売業を営むA会社は、被上告人(被告)Y会社に対し、代表者Bを連帯保証人とし、かつ、A所有の店舗およびB所有の居宅を担保(極度額150万円の根抵当および代物弁済予約)に供して、継続的取引契約を結び、牛乳の卸売を受けて来た。
・ところが、買掛金の延滞が244万円となるに至つて、Yから、A・Bに対し、直ちに代金を支払わないと、取引を解除し、根抵当権または代物弁済予約上の権利を実行する旨の通知が来た
・Yから取引を打ち切られ、店舗等に対する担保権を実行されたのでは、たちまち営業の破綻を来たすA・Bとしては、Yに取引の継続を懇請するしか窮状打開の方途はないところから、Yに示談を申し入れた
・即決和解により、債務の支払猶予と取引継続の承諾を得て、その代償として、前記店舗・居宅を、敷地の賃借権や営業用の機械・什器および営業権(得意先)とともに、現在および将来の債務の担保として譲渡担保に供することを承諾し、建物については所有権移転登記がなされた
・Aは再び営業に行き詰つて1年後にはYに対する延滞債務が約400万円になつたので、Yは、取引を打ち切り、譲渡担保物件を処分してAに対する債権と清算し、残金200万円余をA・Bに返した
・上告人(原告)Xは、Bの連帯保証のもとに、Aに80万円を貸していた者で、譲渡担保に供された前記物件を除いてはA・Bに資産がなかった
・そこで、Xは右和解による譲渡担保設定行為が詐害行為になるとして、その取消と自己の債権額の範囲内での価額償還とをYに求めて、本訴を提起した


○本判決でとくに注目されるのは、取引の打切りによる破滅を免れるための担保提供行為として「合理的な限度を超えない」と認められるという、弾力的な基準に立つた判断が、手段・方法の相当性を肯定するために示されている点です。ここでは、担保に供された物件の量的な面からだけの判断にとどまらず、譲渡担保という強力な担保形体が採られたこと自体の合理性が、諸般の事情との相関関係において判断されています。

○本件の行為が、一たん破綻に瀕した信用関係をつなぎとめて取引を継続するための増担保提供行為であること、譲渡担保物件の主体をなす家屋がすでに代物弁済予約の目的とされて仮登記も経由されており、債務者は所詮登記名義の移転を拒みえない事態にあつたこと、また、譲渡担保の内容が、債権者の処分清算義務の約定を伴う、それなりに合理的なものであつたこと等が、本件で合理性を肯定させた実質的根拠として重要な意味をもっています。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○○の上告理由第一点について。
 原審の事実認定は、挙示の証拠関係に照らし首肯することができる。そして、右事実関係に徴すれば、本件建物その他の資産を被上告会社に対して譲渡担保に供した行為は、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金244万円の支払遅滞を生じた訴外有限会社Aおよびその代表取締役Bが、被上告会社からの取引の打切りや、本件建物の上の根抵当権の実行ないし代物弁済予約の完結を免れて、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によつて生ずべき債務の担保手段として、やむなくしたところであり、当時の諸般の事情のもとにおいては,前記の目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかつたものであるとするに難くない。

債務者の右のような行為は、それによつて債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であり、これと同旨の見解に立つて本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定しない事実関係および叙上と異なる見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。

同第二点について。
 記録上明らかな本件の第一審以来の訴訟の経過に照らすと、上告人が原審の第16回口頭弁論期日においてはじめて申し立てた新請求の追加を民訴法139条により却下すべきものとした原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法は存しない。それゆえ、論旨も採用することができない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

上告代理人○○○○の上告理由
第一点 原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があるので破棄さるべきである。(民法第424条)


1 原判決は、被上告人がその債権244万円の担保として昭和36年7月25日、債務者有限会社上田乳業、同Bの財産一切(不動産、営業用動産、営業権)の所有権を取得したこと、当時債務者らには他に資産がなく、一方上告人の債務のほか他にも570万ないし590万円に上る債務を負担していたことを認定している。
そうして被上告人の当時における債権のうち、150万円については既に抵当権が設定されており、無担保債権は94万円であつたこと、1年後被上告人が債務者らの右財産を処分したところ、不動産640万円、営業権100万円であつたこと抵当権債務が合計109万2072円であつたことを認定している。そうすると被上告人が有していた抵当権債権150万円を差引いても、担保財産は約480万円程度の余力があつたものと推定されるのである。

2 ところで、本件譲渡担保は原判決も認定しているとおり債務者らの不動産、動産、営業権の一切の所有権を被上告人に移転したものであつて、昭和36年7月25日債務者らは対外的には無資産となつてしまい、事業の生殺与奪の権は被上告人の手中に握られたのである。勿論債務者はいかに債務超過、支払不能の状態に陥入つたときでも、自己の財産を担保にし、或は処分して経済的更生を計る自由を有するものである。しかしその場合債務者の財産は担保権が設定されていなくても一般債権者のために潜在的に担保となつているわけであるから、その担保設定或は処分はあくまで公正にして合理的な方法でなくてはならないのである。それは債務者の更生のために必要最少限に止めるべきであり、これにより債務者は更生ができ、ひいては一般債権者のためにもなるわけである。
譲渡担保特に本件の場合のように債務者の財産一切を特定の債権者に譲渡するような譲渡担保は、債務者は無資産となり最早それ以後において他から信用を得ることができなくなり当該債権者のみに頼るということになるのであるから、最終のそしてこの方法しかないという場合に限らるべきである。
大審院昭和5年3月3日の判例が「唯一ノ手段」と判示し、最高裁判所昭和37年3月6日の判例が譲渡担保は原則として詐害行為となるが特段の事情がある場合は許容されると判示しているのは右の理由によるものと思料されるのである。

3 原判決は、前記事実を認定した上で、特段の事情があるものとして上告人の主張を斥けている。しかしながら前記数字によつて明らかなとおり債務者らの財産は既存の担保付債権を差引いても充分の余力があつたのである。そうだとすれば被上告人において真に債務者らの経済的更生を計る意思があつたとすれば、不動産について抵当権の設定で事足りたわけである。まして営業用動産、営業権など一切を移転させる必要は全くなかつたのである。
前述のように債務者らは財産一切を被上告人に移転したので被上告人に依存するほかはなくなつたのであるが、これに対し被上告人の債務者らに与えた信用は僅かに旧債の分割弁済に過ぎない。新しい牛乳代金は一回でも支払を怠つた場合は旧債の期限の利益を失わしめ、牛乳の継続販売契約を解除しかつ債務者らは建物を明渡すという厳しいものである。
原判決の認定したように債務者は右譲渡担保設定当時において既に牛乳代金の支払が遅滞していたのであるから、客観的にみて、債務者が経済的に行詰まり結局財産全部を被上告人に処分されることは火をみるより明らかなのである。

4 被上告人と債務者らが右のような譲渡担保を設定したのは債務者らは、被上告人より継続的牛乳等販売契約を解除する旨の通告をうけたので、これを復活するためには、いかなる条件であつても被上告人と和解せざるを得なかつたこと及び経済的破綻を生じた場合、被上告人に頼り他の債権者を排除して、何分の利得を掴もうとしたこと、被上告人において抵当権の実行または代物弁済予約の完結(最近の判例に徴しこれは精算的なものであることが明瞭である)では優先債権150万のみの回収となり、94万が未回収となるので、これを避けるためには多少の時間と売掛金の増大を見込んでもこの際債務者らの財産一切を手中に収めることが得策であつたためである。そこには、債務者らの他の債権者に対する将来の弁済計画或は債務者らの更生手段に対する合理的配慮は全くなく、たゞ被上告人と債務者らの利得のみに基き契約されたものである。
以上の次第で原判決は譲渡担保の性質ひいては民法第424条の解釈、適用を誤つたものである。
以上:5,058文字
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R 2- 9-17(木):2020年09月16日発行第277号”弁護士の三部作”
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横浜パートナー法律事務所代表弁護士大山滋郎(おおやまじろう)先生が毎月2回発行しているニュースレター出来たてほやほやの令和2年9月16日発行第277号「弁護士の三部作」をお届けします。

○プロジェクターでの120インチ大画面を楽しんでいた時代にオペラのLDを何枚か購入しました。しかし、最後まで通して鑑賞したものは殆どなかったように記憶しています。眠くなる前に止めてしまいます。大山ニュースレターにはオペラの話しがよく出てきますが、小説といい、音楽といい、大山先生の幅広い趣味・教養にはいつも感心します。

○弁護士の人生の三部作は耳に痛いところです。私の場合、道を踏み外してしまう第三部にだけはならないよう精進を続けます(^^;)。

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横浜弁護士会所属 大山滋郎弁護士作

弁護士の三部作


三部作ってありますよね。漱石の「三四郎」「それから」「門」みたいな感じです。それぞれの本も面白いんですが、三部かけて人間関係が発展していくところが好きなんです。例えば、アンドレ・ジッドの「女の学校」三部作なんて良いです。主人公の女性が、夫に対して厳しい視線を向ける話です。この夫は、確かに見栄っ張りです。使用している整理箱について、「凄い工夫だ。よく思いついたね」と褒められると、「買ったものです」と正直に答えられない。「私が発見しました」なんて言う。奥さんが愛好している無名の画家の作品を、それまでは無視していたくせに、画家が有名になると、昔からの美術愛好家のようにふるまう。こういう夫を、奥さんの視点で、厳しく断罪するのが第一部です。

もっとも、弁護士として離婚訴訟等やっていると、「この程度の旦那さん、まだいい方なんじゃないの?」と思ってしまいます。そして第二部は、この夫の視点で書かれた小説です。妻が自分を軽蔑していることに気が付いており、本当の自分ではなく、理想の自分を探して失望しているのだなんて批判をするんです。離婚訴訟などでも、一方の言い分だけを聞くと、「相手は鬼畜か!」なんて思いますが、相手の方にもそれなりの言い分があるのが通常です。そして第三部では、二人の間にできた娘の視点で、話しが続きます。原告の主張、被告の反論の後に、第三者たる裁判官の判断が来るみたいで面白い。「女の学校」は、志賀直哉大先生の推薦図書だそうですが、いろいろと考えさせられます。

オペラの世界ですと、「フィガロ三部作」というのがあります。一作目が、「セビリアの理髪師」です。意に染まぬ結婚をさせられそうなヒロインを、若き好男子の伯爵が、従者フィガロの助けを借りて助け出すというお話です。このヒロインも、ただ助けられるだけのお姫様じゃなくて、気が強い人です。「私は従順で優しく愛情深い人間だけど、敵に対しては毒蛇になって懲らしめてやる」なんてオペラの中で歌います。無事に結婚したヒロインと伯爵の、その後が書かれたのが第二部の「フィガロの結婚」です。いうまでもなく、モーツアルトが曲を付けています。ここでの伯爵は、若い正義感だった第一部とは違い、かつての盟友フィガロの結婚相手に言い寄る、女好きの困った人になっています。それでいて、伯爵夫人になったヒロインに、小姓の男の子が思いを寄せるのに嫉妬したりします。最後には、伯爵が反省し、伯爵夫人が許して、オペラは大団円を迎えるんですが、現実の世界ではそううまくいかないですね。はっきり言いまして、女癖の悪い人は、まず直りませんね。奥さんの方も、「自分の敵は毒蛇となってやっつける」という人ですから、悲劇は目に見えているのです。

ということで、第三部の「罪ある母」に続くのです。女癖の悪い夫に愛想をつかした妻が、自分に思いを寄せる小姓と関係を持ち、その子供を産むという話です。こうなってきますと、弁護士案件です!現代なら、DNA鑑定、嫡出否認の訴え、離婚訴訟、慰謝料請求訴訟とフルコースが来そうです。第一部を見て、若き伯爵とヒロインの恋愛を応援していた人には、非常に残念な結果です。逆に、第三部しか見ていない人にとっては、第一部の二人を想像するのは難しいように思えます。弁護士が「主人公」と知り合うのは、基本的に「第三部」に入ってからです。「第三部では残念なこの人も、第一部では凄い人だったんだろうな」と思うのです。

考えてみますと、弁護士の人生でも三部作はあります。「人々の役に立ちたい!」と弁護士を目指す第一部、弁護士の特権を当たり前と思うようになる第二部、道を踏み外してしまう第三部。こんな「弁護士三部作」本当によくあるんです。第一部で持っていた、熱い思いを忘れないようにしたいものです。

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◇ 弁護士より一言
オペラに行くたびに寝てしまうんです。「高いお金出して、爆睡するなんてムダよね」という、妻の苦情を聞いた娘が言いました。「パパは、良質な眠りを買ってるんだからムダじゃないと思うよ。」
弁護してくれたのは嬉しいけど、し、失礼な。。。
以上:2,104文字
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R 2- 9-16(水):一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介2
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○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介1」の続きで、昭和42年12月20日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2528頁)の理由文です。内容については、上告審の最高裁判所判決紹介と一緒に別コンテンツで解説します。

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理   由
控訴人が訴外有限会社AおよびBに対し、控訴人主張のような債権を有することは、その成立に争いのない甲第3号証および原審証人Bの証言、原審における原告本人尋問の結果により認められる。
控訴人の第一次的請求の当否について判断する。

被控訴人は、控訴人主張の日その主張のように右訴外会社およびBとの間にいわゆる即決和解をなし、その主張の財産権を取得したことは当事者間に争いがない。そして原審における証人Bの証言によれば、当時右訴外会社およびBは、右財産以外には格別の資産を有せず、一方、控訴人に対する前記債務、後記の被控訴人に対する債務のほか、他にも債務を負担し、債務総額が570万円ないし590万円に上つていたことが認められる。

控訴人は、訴外会社およびBが、このように多額の債務を負担しているのに、その財産の全部を被控訴人に譲渡するのは、被控訴人以外の他の債権者に対する詐害行為になるという。
その成立に争いのない甲第1、2号証、乙第1、2、5、6、7号証、原審証人Cの証言によりその成立を認めうる乙第3号証、原審証人Bの証言によりその成立を認めうる乙第4号証、証人Bの証言(原審および当審1、2回、ただし後記信用しない部分を除く)、証人Cの証言(原審および当審)を総合すると、つぎの事実が認められる。

訴外会社(代表取締役B)は、昭和8年頃から被控訴人より牛乳の卸売りを受け牛乳小売業を営んできたが、代金の支払が円滑を欠くようになつたので、昭和30年6月10日には被控訴人との間に牛乳等の継続的売買契約を締結し、昭和33年5月16日被控訴人主張のように第一目録(一)、(二)の建物につき極度額150万円の根抵当権設定および停止条件附代物弁済予約契約をなし、その登記手続を経た。

しかるに、昭和36年5月25日締切の債務が6月14日現在で244万円に達したので、被控訴人は訴外会社に対し右代金の支払がないときは、前記根抵当権または代物弁済の予約完結権を選択行使し、かつ、右継続的牛乳等売買契約を解除する旨通告をなした。そこで、訴外会社およびBより被控訴人に対し示談の申入れをなし、その結果、前記の裁判上の和解がなされるに至つたものである。

この和解においては、
訴外会社は被控訴人に対し右未払債務244万円と昭和40年6月末日まで年5分の割合による遅延損害金48万8000円との合計292万8000円を、昭和36年7月より昭和37年6月まで毎月末日限り金3万円宛、昭和37年7月より同年12月まで毎月末日限り金4万円宛、昭和38年1月より同年6月まで毎月末日限り金5万円宛,昭和38年7月より昭和39年6月まで毎月末日限り金7万円宛、昭和39年7月より昭和40年5月まで毎月末日限り金10万円宛、昭和40年6月末日8万8000円を支払う。

債務者が右分割債務の支払を2回分以上怠つたときは当然に期限の利益を失う。訴外会社は、被控訴人より現在販売を受けている牛乳等の買受代金は毎月25日締切りその翌月10日限り支払う。訴外会社およびBは、右既存債務および将来生ずべき牛乳等買受代金債務の支払を担保するため、前認定のように別紙目録第一、第二記載の財産上の権利を被控訴人に移転し、前記のように既存債務の支払を怠つて期限の利益を失つた場合のほか、将来生ずべき毎月の買受牛乳代金の支払を一回でも怠つたときも被控訴人において通知催告を要しないで前記既存債務の期限の利益を失わしめ、かつ、牛乳等の継続販売契約を解除することができる。

この場合は、訴外会社およびBは、被控訴人に対し別紙第一目録の建物より退去して明渡し、第二目録記載の動産を引渡し、営業権を返還し、牛乳得意先名簿を引渡すこと。この場合、被控訴人は、右建物敷地に対する借地権を取得し、右建物(借地権を含む)、動産、営業権の一または全部を任意に売却処分し、売却代金中より売却に要した諸経費一切を差引いた残額を既存債務全部の支払に充当し、なお不足額を生じたときはこれを訴外会社、Bに請求し、残余を生じたときはこれらに支払う。以上を骨子とする約定がなされた。

しかし、その後1年位の間に再び旧債務の分割弁済金の支払が行われなくなり、また、新取引による牛乳等代金の未払が生じたので(昭和37年10月10日の精算時には、旧債務の未払金は元金217万円、遅延損害金9万2000円以上、新取引による牛乳等代金未払181万70円であつた)、被控訴人は、昭和37年7月、前記の約定に基き、被控訴人と訴外会社間の取引を打切り、被控訴人が譲渡担保として取得した前記財産権を処分して精算を開始する旨を訴外会社およびBに通告した。

そして、被控訴人は、前記(一)(二)の建物の敷地の所有権を所有者Dから260万円で取得して、同年8月27日に右建物および敷地を大商不動産株式会社に900万円で売却し、また、その頃牛乳小売販売の営業権を100万円で他に売却し、また、訴外会社の売掛金38万0715円を回収し、一方、右建物の負担していた抵当権附債務であるところの西南信用組合分48万1332円、住宅金融公庫分55万6385円、国民金融公庫分5万4355円、右建物に入居していた喫茶店鹿の園立退料50万円その他諸経費7万1615円を立替払をした上、訴外会社およびBに対し、同年9月8日5万円、9月18日15万円、9月22日10万円、10月2日30万円、10月10日144万4958円を交付して精算を終えた(訴外会社の旧債務遅延損害金は、9万2000円超過分を免除)。

以上の事実が認められる。Bの精算金受取額に関する証人Bの当審第1回証言は信用できない。

右認定事実によれば、本件和解前に被控訴人が訴外会社およびBに対し有していた担保権は150万円を限度とするものであつて、右金額を超える債権は無担保債権であつたが、本件和解により被控訴人は244万円に及ぶ既存債権全額について担保権を有することになり、そして新たに担保として取得した財産権は右債権全額の支払を担保するに足る価額であつたと認めざるをえない。

しかしながら、右和解によつて被控訴人の取得した財産権は、右既存債務を担保するだけでなく、新しく被控訴人が訴外会社に対し売却する牛乳等売掛代金債権をも担保するものであるが、昭和36年6月当時前記のように未払金が累増して信用が失われ、一旦は訴外会社との取引を打ち切つて既存の担保権の実行を決意するに至つた被控訴人が、再び訴外会社に対する牛乳供給を継続し、新しく信用を供与するには(販売条件は代金後払である)、担保の増加を要求するのも無理からぬところである。そして、前認定程度の担保の増加は、必ずしも必要の限度を超えた増担保ともいえない。一方、訴外会社としてもこのような窮状を打開して何とか更生の道を見出すには、被控訴人からの牛乳供給を継続して貰つて営業を続けるのが最良の方策であつたものというべきである。

けだし、当審証人B(第2回)の証言によれば、右和解当時訴外会社の被控訴人からの牛乳仕入額は一ケ月8、90万円であり純利益は仕入値段の1割5分位であつて、和解条項で定められた既存債務の分割弁済は十分履行し得る状態であつたことが認められるからである。しかも、当審証人Cの証言によれば、被控訴人としても、訴外会社およびBと前記の和解をしたのは、訴外会社が被控訴人の古い顧客であるところから、訴外会社をして更生せしめる目的以外に他意がなかつたことが認められる。

また、訴外会社としても、被控訴人の提案した条件で和解を成立せしめて永年にわたり継続してきた本業に専念し、冗費を節するのが安全かつ効果的な更生手段であつたこと前認定の事実に徴し明かである。原審における原告本人尋問の結果、その成立に争いない甲4号証、甲7号証によれば、控訴人はBに対し本件建物をアパートに改造して利殖の方法を講ずべき旨献策していたことが認められるが、それは必ずしも堅実な更生策ともいえない。

以上の次第であるから、前記和解による被控訴人の財産権取得については、訴外会社およびBの債権者に対する詐害行為に当らない特段の事情があるものというべく、これを詐害行為としてその取消しと取得財産の価額の償還を求める控訴人の第一次請求は失当であり、これを排斥した原判決は正当である。

つぎに、控訴人の第二次的請求について判断する。
控訴人の第二次的請求は、当審第16回口頭弁論期日(昭和41年11月4日)において始めて申出でられたものであつて、本件訴提起(昭和38年6月12日)以来3年有余を経過しており、しかも、当時第一次請求に対する証拠調がすでに終了し、第二次請求の審理のためにはなお相当の証拠調を要するから、訴訟手続を著しく遅滞せしめるものというべきである。
よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人の第二次的請求はこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条に従い、主文のとおり判決する。

(昭和42年12月20日 東京高等裁判所第三民事部)

(別紙)
第一目録
(一)東京都世田谷区世田谷三丁目2255番地
家屋番号同町548番
木造亜鉛葺平家建店舗一棟 建坪 26坪

(二)東京都世田谷区世田谷三丁目2253番地
家屋番号同町2253番二
コンクリートブロツク造亜鉛メツキ鋼板葺二階居宅一棟
建坪 9坪7合5勺
二階 9坪7合5勺

(三)東京都世田谷区世田谷三丁目2253番の1
宅地378坪5合9勺の内東南隅55坪6合3勺に対する借地権
期間 昭和33年2月10日より向う20年間
借賃 1ケ月金1500円
目的 普通建物所有
貸主 D

第二目録
(一)(1)冷凍機 一馬力モーター付(三井精機株式会社製) 1台
(2)冷蔵庫 タイル張80ケース入り 1個
(3)自転車 10台
(4)牛乳販売営業用什器 一切
(配達箱10個、配達袋20袋、雨具10枚、金銭登録器1台、カウンター1台、木製テーブル1台、木製椅子5脚)

(二)牛乳小売販売営業権(得意先1500軒)
以上:4,265文字
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R 2- 9-15(火):一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定高裁判決紹介1
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○「一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定地裁判決紹介」の続きで、その控訴審の昭和42年12月20日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2528頁)の事実摘示部分まで紹介します。

○事案は、牛乳小売業者Aの債権者である控訴人が、被控訴人に対して支払遅滞を生じたAにおいて、被控訴人からの取引の打切りや本件建物の上の根抵当権の実行等を免れ、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続することを目的として、Aが本件建物を被控訴人に対して譲渡担保に供した行為が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権を行使したものです。

○控訴審判決においても、被控訴人の財産権取得については、Aの債権者に対する詐害行為に当たらない特段の事情があるというべきであるとして控訴を棄却しました。

************************************************

主   文
本件控訴を棄却する。
控訴人の第二次的請求を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事   実
控訴代理人は、第一次的請求として、「原判決を取消す。被控訴人が訴外有限会社Aから昭和36年7月25日成立した和解に基き別紙第一目録(一)記載の建物の所有権及び別紙第二目録(一)記載の営業用動産並びに同目録(二)記載の営業権を譲り受けた行為、及び被控訴人が訴外Bから同和解に基き別紙第一目録(二)記載の建物並に同目録(三)記載の借地権を譲り受けた行為は、いづれもこれを取消す。被控訴人は、控訴人に対し金80万円およびこれに対する昭和38年9月22日より右支払済みまで年5分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を、第二次的請求として、「被控訴人は控訴人に対し金80万円を支払え。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第1、2項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、つぎのとおりである。
一、控訴人の主張(請求原因)
(一)第一次請求の原因

控訴人は、昭和36年6月1日訴外有限会社A(以下訴外会社という)同B外2名を連帯債務者として金80万円を弁済期同月30日、利息日歩4銭9厘と定めて貸し渡し、同人らに同額の債権を有している。
被控訴人は、昭和36年7月25日渋谷簡易裁判所において訴外会社および訴外Bと和解をなし、右訴外会社からその所有である別紙第一目録(一)記載の建物の所有権及び別紙第二目録(一)記録の営業用動産並びに同目録(二)記載の営業権を譲り受け、また、Bからその所有である別紙第一目録(二)記載の建物並に同目録(三)記載の借地権を譲り受け、右(一)(二)の建物につき、昭和36年8月23日所有権移転登記手続を経由した。

右和解当時、訴外会社およびBの経済状態は、つぎのとおりであつた。
訴外会社は、牛乳の小売販売を業とし、得意先約1500軒を擁し、1ケ月の売上約90万円、利益12、3万円位を挙げていた。そして、その資産は、別紙第一目録(一)記載の建物(その価格は、同(二)記載の建物およびそれぞれの敷地の借地権と併せて昭和37年8月27日金640万円で被控訴人により処分されたが、和解当時もこの程度の価格であつた)、第二目録(一)記載の営業用動産(価格40万円)、同(二)記載の営業権(価格250万円であるが、被控訴人により100万円で不当に安く処分された)、売掛金6、70万円である。

Bの資産は、第一目録(二)記載の建物、同(三)記載の借地権(以上の価格は、(一)記載の建物と共に640万円で処分された程度の価格であること前記のとおり)である。以上、訴外会社およびBの資産は合計1000万円位であつた。これに対し、負債は、抵当権附債務265万円、一般債務314万円位合計579万円位であつた。しかし、右資産は、営業存続を前提とする価格であり、営業を廃止して精算するとすれば処分の対象は主として不動産となるから債務がやや超過する。しかも、訴外会社は運転資金が極度に不足し倒産寸前の状態にあつた。

被控訴人は、当時訴外会社に対し244万円の債権を有していたが(うち担保付債権は150万円)、もし訴外会社が支払を停止し精算に入るとすれば自己の債権全部の、ことに無担保債権の回収ができなくなることを危惧し、債権回収の目的で前記の和解によつて訴外会社およびBの財産の全部を取得したものである。

その結果、前記の資産1000万円から担保附債務265万円を差引いた残り700万円程度の一般債権者の担保となるべき財産が失われた。訴外会社、Bおよび被控訴人は他の債権者を害することを知りながら右財産譲渡をなしたものであるから、右財産譲渡行為は詐害行為として取消されるべきである。

被控訴人は昭和37年8月27日右(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に売渡し、その他の財産も処分したから、控訴人は、自己の債権額80万円の範囲内で被控訴人に対しその価額の償還を求めることができる、よつて金80万円およびこれを被控訴人に請求した日の翌日である昭和38年9月22日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める。

(二)第二次請求の原因。
本件和解により訴外会社が被控訴人に譲渡した財産は、訴外会社の営業の全部に当るところ、訴外会社は有限会社であるから、右営業譲渡には社員総会の特別決議を要するのに、訴外会社においてその決議がなされなかつた。よつて、右財産譲渡は無効である。また、本件和解によるBの被控訴人に対する財産譲渡は、右訴外会社の財産譲渡と一体としてなされたものであるから、後者が無効である以上前者も無効である。被控訴人は、右取得財産を他に処分し、その処分代金1038万0715円のうち407万2070円を取得したが、これは右の理由により訴外会社およびBに返還すべきものであるところ、控訴人は、訴外会社およびBに対し前記のように80万円の債権を有し、訴外会社およびBは現在全く無資産であるので、控訴人は、これに代位し、被控訴人に対し右80万円の限度で右処分代金の返還を求める。

二 被控訴人の主張(答弁、抗弁)
(一)本案前の主張

第二次請求の追加には異議がある。

(二)第一次請求に対する答弁。
控訴人主張事実中、被控訴人が訴外会社およびBとの間の和解により控訴人主張の財産を取得したこと、訴外会社の売上げ額、Bの資産がその主張の建物および借地権のみであることは認めるが、その余の事実は争う。

(三)第一次請求に対する抗弁。
(1)本件譲受財産は、総債権者の一般担保財産でなかつたこと。

被控訴人は、昭和30年6月10日Bを連帯保証人として訴外会社と牛乳等継続販売契約を締結し、昭和33年5月16日訴外会社およびB所有の前記(一)および(二)の建物につき債権極度額を150万円とする順位二番の根抵当権および債務不履行のときは債権150万円をもつて右各建物を代物弁済として所有権を取得する旨の停止条件附代物弁済予約契約を締結し、それぞれ所要の登記手続を経た。

以来、被控訴人は訴外会社と牛乳等販売契約を継続したところ、訴外会社は昭和36年5月25日までに金244万円の売買代金の支払を遅滞するに至つたので、右訴外会社およびBの申出により昭和36年7月25日控訴人主張の和解をなし、被控訴人は訴外会社およびBより右未払債務および将来の牛乳等代金債務の支払を担保するために、控訴人主張のように本件各財産の譲渡を受けたのである。

ところで、前記(一)(二)の建物は、訴外住宅金融公庫のために債権額65万円、利息年5分5厘の抵当権および訴外東京西南信用組合のために債権極度額を50万円とする根抵当権を負担し、また、建物敷地55坪6合3勺は借地であるから、昭和33年における担保権設定当時右各建物の残存価額は約150万円と判断されていた。

昭和36年の和解による譲渡担保契約当時も、住宅金融公庫、東京西南信用組合に対する債務は若干減少したが、当時右建物には右訴外会社および訴外Bのほか第三者(喫茶店鹿の園)が入居しており、その間における建物の値上りを考慮しても、その残存価額は前記150万円の価額をそれ程上廻るものではなかつたから、被控訴人としては、反対給付なしに右昭和33年の契約に基き同建物を代物弁済として取得しうる立場にあつたものである。

従つて、もともと本件各建物は総債権者の一般担保財産ではなかつた(被控訴人は、昭和37年8月27日、右各建物をその敷地とともに大商不動産株式会社に金900万円で売却できたが、これは僥倖という他はない。つまり、被控訴人は本件建物の敷地を地主から260万円で購入し、土地建物を一括して売却することのできたこと、当時証券会社が好調の波にのり設備の拡張を競つていたので、当時としては高額に売却できたこと、所有者が著名な被控訴人であつたため、直接大商証券株式会社を通じ大商不動産に売却でき、不動産仲介業者の手数料が不要であつたこと等の好条件に恵まれたのである)。

(2)不当性を欠くこと。
本来、債権者詐害の行為は、単に計算上債務者の総債権者のための一般担保財産を減少する行為があつただけでは足りず、なお、その減少行為が不当性を有する場合にはじめて成立するものである。被控訴人は、昭和36年7月25日訴外会社に対する牛乳等代金債権244万円の支払を猶予して分割払とすることを承認するとともに、今後とも牛乳等の売り渡しを継続することとし、既存債権および将来生ずべき牛乳等代金債権支払のための譲渡担保として本件各財産の譲渡を受けたのである。当時訴外会社およびBの更生の道は、引き続き被控訴人より牛乳等の供給を受けて牛乳販売業を継続する以外にはなかつたのであるから、本件各財産の譲渡担保行為は不当性を欠き詐害行為とならない。

(3)善意
被控訴人は当時訴外会社およびBが控訴人らに多額の債務を負担していた事実を全く知らなかつた。せいぜいBの親戚知人より少額の借入があることを予想していたものにすぎない。従つて、牛乳等取引の継続によりその利益中から旧債務の弁済が十分可能であると考えていた。ことに控訴人の訴外会社およびBへの貸付は、昭和36年6月1日のことであつて、ほぼ本件譲渡担保契約の時期に同じであるから、被控訴人はその事実を認識しえなかつたのである。

(4)債務者の弁済資力の回復。
被控訴人は、本件財産を処分した売得金から諸経費を控除し、被控訴人が訴外会社に対し有する債権(損害金債権の大部分を免除)の弁済に充当した上、その残金として昭和37年9月8日5万円、同月18日15万円、同月23日10万円、同年10月2日30万円、同月11日144万4958円合計204万4958円を訴外Bに交付した。従つて、訴外上田は、遅くとも昭和37年10月11日にはその債権者に対する債務の弁済資力を回復したものであるから、かりに被控訴人が訴外会社および訴外Bとなした本件和解が詐害行為に当るとしても、控訴人はもはやこれを理由に取消権を行使しえなくなつたというべきである。

三、控訴人の主張(抗弁に対する答弁)。
(1)抗弁(1)について。

被控訴人は、本件建物には抵当権があり、敷地が借地であるから、本件建物には一般担保財産たる余地がないというが、被控訴人は本件建物を訴外大商不動産株式会社に金640万円(売買代金900万円から敷地取得経費260万円を控除した額)をもつて売却した事実によつても、一般担保財産たる価値が残存していたことは明らかである。

(2)抗弁(2)について。
債務者が所有不動産を特定の債権者に対し譲渡担保としてその所有権を移転し無資力となつたときは、特段の事情がないかぎり詐害行為となる(最高裁昭和36年(オ)第286号判決民集16巻三号436頁参照)。本件の譲渡担保契約は、単に旧債権の回収を確保するためになされたものであつて、債務者の更生の手段ではないから、前記の特段の事情がなく、詐害行為に当ると解すべきである。けだし、本件の譲渡担保契約の締結によつて債務者が得たものはわずかに旧債務の分割弁済の利益にすぎない。

これでは債務者の更生の手段として役に立たない。控訴人は、訴外会社が本件契約により被控訴人より牛乳の継続供給を受けることができたことを強調する。しかし、経済的弱者である債務者が経済的強者である被控訴人より唯一の生業である牛乳販売につき牛乳の供給を止めるとおどされてやむなく本件譲渡担保契約の締結に応じたものにすぎない。このようなことで詐害行為の成立が阻却されるならば、製造業者と代理店というおよそ経済力において優劣の差のある者の間ではすべて詐害行為が成立しないことになるであろう。牛乳供給の継続は、訴外会社と被控訴会社との間の従前からの関係の継続に止まり、新たなる更生の手段の提供に当らない。

(3)抗弁(3)について。
本件債務者が他から多額の債務を負担していたことは、被控訴人も十分認識していた。

(4)抗弁(4)について。
被控訴人は、Bに対し被控訴人主張のとおり本件建物を処分して得た代金より債権を精算した残額を引き渡したことは認めるが、右金員は、当時その日の暮らしにも困つていたBの生活費に充てられてしまい、到底控訴人に対し負担する債務その他の債務の弁済に充てる余裕はなかつた。すなわち、この程度では債務者の弁済資力の回復といえないから、被控訴人の右抗弁は理由がない。

五 証拠関係(省略)


以上:5,516文字
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R 2- 9-14(月):一般担保財産減少行為に不当性がないとして詐害行為否定地裁判決紹介
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○牛乳小売業者Aの債権者である原告が、被告に対して支払遅滞を生じたAにおいて、被告からの取引の打切りや本件建物の上の根抵当権の実行等を免れ、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続することを目的として、Aが本件建物を被告に対して譲渡担保に提供しました。

○そこで牛乳小売業者Aの債権者の原告が、Aが被告に譲渡担保に提供した行為が詐害行為に当たるとして、詐害行為取消権を行使しました。この事案で、本来、債権者詐害の行為は、単に計算的に債務者の総債権者のため一般担保財産を減少する行為があったのみでは足りず、その減少行為が不当性を有する場合に初めて成立するものであり、Aは、本件建物で牛乳販売業を営まないかぎり、被告に対する債務はもとより、仮に原告に債務を負担していたとしても、その債務の支払もまた全く不可能であったのであるから、本件譲渡担保のための建物の譲受行為は不当性を欠き、詐害行為とならないとした昭和39年7月27日東京地裁判決(最高裁判所民事判例集23巻12号2523頁)を紹介します。

○掲載された地裁判決には、理由文がありません。この事案は、最高裁まで争われており、高裁・最高裁判決での理由文を別コンテンツで紹介します。

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主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事   実
第一、当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「一、被告が訴外有限会社A食品から昭和36年7月25日付和解に基づき、別紙物件目録(一)記載の建物の所有権を譲り受けた行為および被告が訴外Bから同和解に基づき別紙物件目録(二)記載の建物の所有権を譲り受けた行為は、いずれも、これを取り消す。二、被告は、原告に対し、金80万円およびこれに対する昭和38年9月22日より右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は、主文第1、2項と同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張
一、原告訴訟代理人は次のとおり述べた。

(一)請求原因
1 原告は、昭和36年6月1日訴外有限会社A食品(以下訴外会社という。)同B外2名を連帯債務者として金80万円を弁済期同月30日、利息日歩4銭9厘と定めて貸し渡し、同人らに同額の債権を有している。

2 被告は、昭和36年7月25日訴外会社および訴外Bと和解をなし、右訴外会社の所有である別紙物件目録(一)の建物および右Bの所有である同目録(二)の建物の所有権を取得し,右(一)の建物につき、東京法務局世田谷出張所昭和36年8月23日受付第22477号所有権移転登記を、右(二)の建物につき同出張所同日受付第22478号所有権移転登記をそれぞれ経由した。

3 右和解当時、右訴外会社およびBは、原告その他の者に多額の債務(抵当権付債務を除き、訴外会社は230万円、Bは190万円)を負つており、倒産状態にあつて、それぞれ唯一の財産である右建物(当時の価格は(一)の建物は約280万円、(二)の建物は約270万円、ただし、(一)の建物については被告に対する150万円の根抵当権を含め215万円、(二)の建物については同じく200万円の抵当権が設定されていた。)を被告に譲渡したならば、原告その他の債権者に対する弁済能力をなくし、その債権を害するに至ることを熟知しており、被告もこの事実を知つていたのであるから、右(一)、(二)の建物の譲渡行為は取り消されるべきものであるところ、被告は昭和37年10月10日右(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に売渡してその代金900万円を取得したが、右金員は原告ら一般債権者に分配されるべきであるから、原告は、自己の債権の範囲で、右金員のうち、金80万円およびこれに対する右80万円を被告に請求した日の翌日である昭和38年9月22日から完済に至るまで年5分の遅延損害金の支払いを求める。

(二)被告の主張に対する反論
1 被告が、その主張の如き根抵当権および停止条件附所有権移転請求権を有していたことは認めるが、右権利は、被告が昭和36年7月25日に放棄し、あらためて和解に基づき右(一)、(二)の建物が譲渡されたもので、担保権の実行をしたのではなく、かつ、被告の有していた担保権は、目的物件の価値中金150万円を限度とするものであるから、その余は一般担保財産である。

2 被告は、本件譲渡行為の正当性を主張するが、被告および訴外会社は自己の利益追及のためのみに右行為をしたものであるから、不当であり、詐害行為が成立する。

二、被告訴訟代理人は次のとおり述べた。
(一)請求原因に対する答弁
1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実中、被告が原告主張のころ、別紙物件目録(一)、(二)の建物を訴外大商不動産株式会社に代金900万円(ただし、右900万円は、被告が、その後地主より代金260万円で買い取つた右建物敷地を含めての代金額であり、900万円より、被告の債権および売却経費を控除した残額204万円余は有限会社A食品に交付して精算した。)で売り渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)被告の主張
1 被告は、訴外会社と昭和30年6月10日牛乳等の継続的売買契約を締結し、昭和33年5月16日同契約に基づく同会社の一切の債務を担保させるため、同会社およびB所有の別紙物件目録(一)、(二)の各建物の上に債権極度額を150万円とする順位2番の根抵当権および同債務不履行のときは残存債権中金150万円をもつて、もし、残存債権額が150万円にみたないときは不足分を提供して、同不動産を代物弁済として所有権を取得する旨の停止条件付所有権移転請求権(代物弁済の予約完結権)の設定を受け、根抵当権の設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を了し、かつ、訴外Bより右債務の連帯保証を受けて牛乳等の売買を継続してきたが、右訴外会社は昭和36年5月25日までに金244万円の売買代金の支払を遅延するに至つた。

 そこで被告は右訴外会社およびBに対し、右未納代金を直ちに支払うべく、その支払のないときは右牛乳等売買契約を解除し、右根抵当権又は所有権移転請求権(代物弁済の予約完結権)を撰択行使する旨通知したところ、右訴外会社およびBより和解の申出があり、昭和36年7月25日渋谷簡易裁判所において同庁昭和36年(イ)第171号事件として和解が成立し、被告は右訴外会社およびBより、右未払債務および将来の牛乳等代金債務の支払を担保するため、右各建物の所有権の移転を受け、同年8月23日各建物につき所有権移転登記を経るに至つた。

 したがつて、別紙物件目録(一)、(二)の建物は、本来総債権者のための一般担保財産ではなかつたのであり、かつ、昭和36年7月25日当時すでに右停止条件は成就しており、被告は代物弁済としてその所有権を取得しうる立場にあつたのであるから昭和36年7月25日に至り譲渡担保として右建物を取得しても、なんら債権者を詐害するものではない。

2 本来、債権者詐害の行為は、単に計算的に債務者の総債権者のため一般担保財産を減少する行為があつたのみでは足りず、なお、その減少行為が不当性を有する場合にはじめて成立するものであるところ、被告は昭和36年7月25日訴外会社に対する牛乳等代金債権244万円の支払を猶予して分割払とすることを承認するとともに、今後とも牛乳等を売り渡すこととし、右債権および将来の牛乳等代金債権の譲渡担保として別紙物件目録(一)、(二)の建物の所有権を取得したものであつて、右訴外会社およびBは、右建物で牛乳販売業を営まないかぎり、被告に対する債務はもとより、仮に原告に債務を負担していたとしても、その債務の支払もまた全く不可能であつたのであるから、右譲渡担保のための建物の譲受行為は不当性を欠き詐害行為とならない。

3 被告は、昭和36年7月25日当時右訴外会社およびBが原告らに債務を負担していた事実は全く知らなかつた。

第三、証拠関係(省略)
(昭和39年7月27日 東京地方裁判所民事第二部)

別紙
物件目録

(一)東京都世田谷区世田谷3丁目2255番地
家屋番号 同町548番1、
木造亜鉛葺平家建店舗 一棟 建坪 26坪

(二)東京都世田谷区世田谷3丁目2253番地
家屋番号 同町2253番21、コンクリートブロツク造亜鉛メツキ鋼板葺二階建
居宅 1棟
建坪 9坪7合4勺
二階 9坪7合4勺
以上:3,526文字
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R 2- 9-13(日):映画”シェイプ・オブ・ウォーター”を観て-R15指定に納得
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○令和2年9月13日(土)は、午後4時30分から、原則2週間に一度のフラメンコギター合奏練習を2時間程度行い、その後、夕食を取り、午後8時頃から、練習後の楽しみとなっている4KUHDソフトによる85インチ大画面TVでの映画鑑賞でした。今回は、1ヶ月ほど前に購入していた映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を鑑賞しました。

○フラメンコギター合奏練習は、セカンドギターとボンゴ等リズム奏者との3名で、パコ・デ・ルシア氏の「シボネイ」を集中的に行い、初めて演奏をソニーのデジカメで録画して再現しました。2Kでの録画ですが、音も映像も結構綺麗に記録されており、ファースト・セカンドギターのズレ等がハッキリ判り、また、パコ・デ・ルシア氏の本物と比較すると、如何にレベルが低いかが歴然として、人前で弾くにはまだまだ練習が必要と痛感させられます。今後、練習の際は録画して記録していこうとなりました。デジタルカメラ録画ではなく、ハイビジョンカメラでの録画を直接PCに記録する方法を簡単に行えるシステムを検討します。

○映画「シェイプ・オブ・ウォーター」ですが、「アンデルセンの「人魚姫」から『シザーハンズ』や『美女と野獣』まで、いつの時代も愛されてきたファンタジー・ロマンスが、魅惑的な映像美と監督の比類なき世界観で甦る」との触れ込みどおり、映像が大変綺麗で心地良いものでした。UHDの効果なのか、明るい場面が特に綺麗だと感じました。

○「本作品には一部、18歳未満の方の鑑賞には不適切な映像が含まれております」とされ、R15に指定されている映画ですが、いきなり主人公女性の全裸入浴+アルファのシーンが登場して驚きました。主人公女性は、40歳過ぎで顔面はさほど見栄えは良くありません。しかし、身体の線は、若々しく大変綺麗で繰り返し鑑賞したいと思わせるものでした(^^;)。また、敵役の男性とその妻との唐突で、露骨なセックスシーンにも驚き、印象に残りました。R15指定は納得です。

○ちとグロテスクですが、遠い海から連れて来られた不思議な生きものと主人公女性の水中でのからみのシーンも正に「シェイプ・オブ・ウォーター」との表題どおり、大変、綺麗に撮影されています。最後の結末は、私が想像していたものとは違いましたが、主人公女性の身体のちょっとした変化に、あれっと思わせるものがありました。うーん、ひょっとして、そうだったのかと、頭をひねらせられる展開でもあり、それを確認するため再鑑賞したいと思っています。
以上:1,035文字
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R 2- 9-12(土):大学院の学費・留学費用等が特別受益と認められなかった高裁決定
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○被相続人と相手方Y2との間の子である原審申立人が、同じく被相続人と相手方Y2との間の子である抗告人、被相続人の妻である相手方Y2及び被相続人と前妻との間の子である相手方Y3に対し、被相続人の遺産の分割を求めて申し立てた調停が不成立で終了したため、審判手続に移行して審理されました。

○原審は、原審申立人の特別受益を407万3560円、抗告人の特別受益を178万9898円と認め、分割方法として、B株式会社の株式については、原審申立人が1万1200株、相手方Y2が3600株、抗告人が1200株を単独取得し、その他の遺産については、不動産(同A1)、自動車(同E1)及び借地権(同E4)を相手方Y2が、預貯金(同B1ないしB4)及び時計(同E7)を抗告人が、時計(同E5及びE6)を原審申立人がそれぞれ単独取得し、原審申立人は代償金として、相手方Y2に2067万0346円、抗告人に26万4914円、相手方Y3に2277万1950円をそれぞれ原審判確定の日から2か月以内に支払うよう命ずる旨の審判をしました。

○抗告人が即時抗告をした事案で、抗告人は、抗告人がBの経営を引き継ぐべきであり、原審申立人に同社の株式の相当数を単独取得させるのは不相当である旨主張するが、抗告人は、Bの株式800株を保有しているものの、同社の経営に携わったことはなく、被相続人が、抗告人が同社の運営を引き継ぐことを望んでいたことを認めるに足りる的確な資料はなく、また抗告人が原審申立人よりも同社の経営者として適格があると認めるに足りる資料もないなどとして、抗告人の主張をいずれも斥け、本件抗告を棄却した令和元年5月17日名古屋高裁決定(判時2445号35頁)を紹介します。

○大学院の学費・留学費用等が特別受益になるかどうかについては、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないとしているところが注目です。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 抗告人の本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。被相続人の遺産について相当な分割をする。」というものであり、その理由は、別紙「抗告状」の「抗告の理由」、「抗告理由書」《略》及び「第1主張書面」《略》(いずれも写し)に記載するとおりであり、これに対する原審申立人の主張は別紙「相手方X主張書面(1)」《略》(写し)に記載するとおりである。

第2 事案の概要
 本件は、被相続人と相手方Y2との間の子である原審申立人が、同じく被相続人と相手方Y2との間の子である抗告人、被相続人の妻である相手方Y2及び被相続人と前妻との間の子である相手方Y3に対し、被相続人の遺産の分割を求めて申し立てた調停が不成立で終了し、審判手続に移行して審理された事案である。

 原審は、原審申立人の特別受益を407万3560円、抗告人の特別受益を178万9898円と認め、分割方法として、B株式会社の株式(原判決別紙遺産目録記載C2)については、原審申立人が1万1200株、相手方Y2が3600株、抗告人が1200株を単独取得し、その他の遺産については、不動産(同A1)、自動車(同E1)及び借地権(同E4)を相手方Y2が、預貯金(同B1ないしB4)及び時計(同E7)を抗告人が、時計(同E5及びE6)を原審申立人がそれぞれ単独取得し、原審申立人は代償金として、相手方Y2に2067万0346円、抗告人に26万4914円、相手方Y3に2277万1950円をそれぞれ原審判確定の日から2か月以内に支払うよう命ずる旨の審判をしたところ、抗告人が即時抗告をした。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所の事実認定及び判断
は、次のとおり補正し、2のとおり抗告理由に対する判断を加えるほかは、原審判の「理由」に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原審判5頁15行目の「相手方Y1により」を「抗告人が」に改める。

(2)同5頁22行目冒頭から同6頁7行目末尾までを次のとおり改める。
 「確かに、相手方Y2が随時に記録していたことがうかがわれる家計簿の平成15年5月の原審申立人及び抗告人に係る支出を示と推測される「x y1」の欄には「アメリカ、107000$」との記載がある。当時、抗告人はアメリカで仕事をしており、訴訟問題を抱えていたこと、他方、原審申立人は夫と婚姻しておらず、原審申立人自身がアメリカに在住していたわけでもないことが認められる。しかし、他に10万7000ドルが抗告人に送金されたことを示す資料はなく、上記家計簿の記載と当時の事情のみによって、抗告人の特別受益を認めることはできない。」

(3)同6頁9行目から10行目の「(Z5・フェアディZ。Z6・カローラ、後にブルーバードと訂正)」の次に「を贈与した」と加える。

(4)同15頁16行目の「相手方Y1は」から21行目末尾までを次のとおり改める。
 「C2の株式の取得に関して代償金としての支払可能額は、抗告人が約3000万円であるのに対し、原審申立人は5088万円であることが認められる。」

(5)同18頁13行目の冒頭から末尾までを削除する。

2 抗告理由に対する判断
(1)原審申立人の特別受益について

 抗告人は、原審申立人の2年間の大学院生活や、その後の10年間に及ぶ海外留学生活に対する被相続人の費用負担は、同じく被相続人の子である抗告人に対する学費等の費用負担と著しく均衡を失するものであり、当時の社会通念上も異例なものであるから、上記大学院の学費、留学費用は特別受益として考慮されるべきである旨主張する。

 しかし、学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当である。そして、被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて高度の教育を受けることが特別なことではなかったこと、原審申立人が学者、通訳者又は翻訳者として成長するために相当な時間と費用を費やすことを被相続人が許容していたこと、原審申立人が、自発的に被相続人に相当額を返還していると認められること、被相続人が、原審申立人に対して、援助した費用の清算や返済を求めるなどした形跡はないことは、原審判の「理由」中の第3の3(1)で認定・説示するとおりである。

 また、被相続人は、生前、経済的に余裕があり、抗告人や抗告人の妻に対しても、高額な時計を譲り渡したり、宝飾品や金銭を贈与したりしていたこと、抗告人も一橋大学に進学し、在学期間中に短期留学していること、被相続人が支出した大学院の学費や留学費用の額、被相続人の遺産の規模等に照らせば、原審申立人の大学院の学費、留学費用は、原審申立人の特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、被相続人の明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったものと認めるのが相当である。

 抗告人は、昭和63年から平成2年当時、原審申立人の収入は少なく、原審申立人には、被相続人に返済ができるような経済余裕はなかった旨主張する。しかし、原審申立人の預金履歴によれば、当時、原審申立人には相応の収入があったことが認められ、被相続人に対する返済が不可能な状況であったとは認められない。また、抗告人は、被相続人には持戻免除の意思がなかったからこそ、原審申立人への援助記録が几帳面に残されている旨主張する。

 しかし、相手方Y2作成の家計簿には、原審申立人への送金だけではなく、消耗品の購入代金や光熱費等の支払も詳細に記載されており(なお、家計簿に支出を記録していたのは相手方Y2であって被相続人ではない。)、援助記録が几帳面に残されていたことと被相続人の持戻免除の意思が関連するとは認められない。
 抗告人は、その他縷々主張するが、いずれも上記結論を左右するものではなく、採用することができない。

(2)遺産の分割方法について
 抗告人は、抗告人がBの経営を引き継ぐべきであり、原審申立人に同社の株式の相当数を単独取得させるのは不相当である旨主張する。
 しかし、抗告人は、Bの株式800株を保有しているものの、同社の経営に携わったことはなく、被相続人が、抗告人が同社の運営を引き継ぐことを望んでいたことを認めるに足りる的確な資料はない。抗告人が原審申立人よりも同社の経営者として適格があると認めるに足りる資料もない。

 他方、原審申立人もBの株式を800株保有しているところ、被相続人の生前から同社の役員に就任しており、その後、同社の代表取締役となって、賃借人との契約締結、解約及び契約条件の変更等の業務を一定程度行ってきたといえることは原審判の「理由」中の第5の2(1)(補正後)で認定・説示するとおりである。なお、抗告人は、原審申立人の取締役選任登記が不正なものであると主張するようであるが、同主張を認めるに足りる資料はない。
 原審申立人は、私立大学の教授であり、Bの経営に専念することは困難であることが認められるが、抗告人も一部上場会社に勤務する会社員であって、Bの経営は副業とならざるを得ず、抗告人が原審申立人よりも会社経営を行うに適した状況にあるということはできない。

 上記事情を総合考慮すると、原審申立人にBの経営権を掌握できる形でC2の株式を取得させることが相当であり,会社の経営を安定させ、かつ、会社の支配権を有しないことになる抗告人や相手方Y2にはできるだけ現金又は預貯金を取得させるべきであることを考慮して、原審申立人には1万2000株を、相手方Y2には3600株を、抗告人には1200株をそれぞれ単独取得させることが相当である。

 抗告人は、抗告人をBの過半数の株主となるような分割方法を採用できないとしても、法定相続分に従って、各相続人にC2の株式を分割・取得させるべきである旨主張する。

 しかし、相手方Y2及び相手方Y3は、金銭の取得を希望しており、C2株式の取得を希望していない。また、C2株式の上記分割方法は、抗告人・原審申立人間にBの過半数の株式の獲得をめぐる新たな紛争を誘発し、同社の経営に悪影響を与えるものであって相当ではない。原審申立人がC2株式1万2000株を取得した場合に支払うべき代償金について、原審申立人の支払原資に特段問題があるとは認められない。 
 したがって、抗告人の主張はいずれも採用することができない。

第4 結論
 よって、抗告人の抗告には理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 倉田慎也 裁判官 大場めぐみ 久保孝二)

別紙 抗告状
原審判の表示

1 被相続人の遺産を次のとおり分割する
(1)申立人は、別紙遺産目録(添付省略)記載E5及びE6を単独取得する。
(2)相手方Y2は、同目録記載A1、E1及びE4を単独取得する。
(3)相手方Y1は、同目録B1からB4及びE7を単独取得する。
(4)同目録記載C2(株式1万6000株)は、申立人が1万1200株を、相手方Y2が3600株を、相手方Y1が1200株をそれぞれ単独取得する。
2 申立人は、相手方Y2に対し、前項(1)、(4)の遺産取得の代償として、2067万0346円を本審判確定の日から2か月以内に支払え。
3 申立人は、相手方Y1に対し、前項(1)、(4)の遺産取得の代償として、26万4914円を本審判確定の日から2か月以内に支払え。
4 申立人は、相手方Y3に対し、前項(1)、(4)の遺産取得の代償として、2277万1950円を本審判確定の日から2か月以内に支払え。
5 手続費用は各自の負担とする。

抗告の趣旨
原審判を取消し、さらに相当な決定を求める。

抗告の理由
本件の相続の開始、相続人及び法定相続分並びに遺産の範囲及び評価については、原審判の「理由」欄の第1及び第2(原審判2頁13行目から4頁1行目まで)に記載のとおりである。
抗告人が不服である箇所は、細かいことをいえばきりがないが、以下の2点については到底容認できないので、この2点に絞って貴裁判所の御判断をいただくべく、即時抗告した次第である。
不服の詳細な理由は、別途、抗告理由書にて明らかにする。

1 相手方(一審申立人)Xの大学院(上智大学)進学及びその後の10年間に及ぶ海外留学費用(フランス、アメリカ及びイギリス)について、特別受益に当たらないと判断した部分(原審判9頁21行目から10頁13行目)

2 遺産のうち、被相続人の保有する株式1万6000株(B)のうち、発行済み株式数の過半数を超える1万1200株を相手方(一審申立人)Xに単独取得させ、抗告人を含む他の相続人に代償金支払を命じた部分(原審判15頁2行目から16頁10行目)
以上

付属書類
審判書の写し 1通
抗告状の写し 3通
委任状 1通
立証方法 現在、追加の書証を準備中につき、できるだけ早期に提出する。
別紙 抗告理由書《略》
別紙 第1主張書面《略》
別紙 相手方X主張書面(1)《略》
以上:5,447文字
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