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R 7- 6- 1(日):岡弘祠フラメンコギター教室門下生第47回発表会参加のため川崎滞在中1
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以上:21文字
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R 7- 5-31(土):性関係はなくても不法行為責任として慰謝料30万円を認めた地裁判決紹介
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○被告が原告の夫Cの存命中に不貞関係をもったとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき損害賠償金等330万円の支払を求めました。

○被告は無償で異性であるCを生活空間の区別がつかない2LDKの所有マンションに同居させ、洗濯や食事等の家事の一部を担って同居生活を営んでおり、事実上夫婦と同様の関係をもったといえ、被告がCに代わって原告に対する送金や要介護認定の申請手続をし、Cの入通院への付添いをしている関係は、性交渉の有無にかかわらず、原告のCとの夫婦生活上の平穏を侵害するものであり、不法行為に該当するものと認められるなどとして、被告に慰謝料30万円の支払を命じた令和6年2月8日東京地裁判決(LEX/DB)。関連部分を紹介します。

○不法行為責任を認めても、認容額は請求額の1割相当額で、おそらく弁護士費用程度の金額しか認めなかったところに裁判官の苦渋の判断がしのばれます。

*********************************************

主   文
1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和2年6月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成21年6月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の要旨

 原告は、被告が原告の夫の存命中に不貞関係をもったと主張し、被告に対し、民法709条に基づき損害賠償金の支払及びこれに対する不法行為開始後の日である平成21年6月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。

2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認定できる。
(1)原告(昭和23年生)は、昭和45年12月29日、C(昭和12年生。以下「C」という。)と婚姻した。
(2)原告とCとの間には、長男(昭和47年生)、長女(昭和53年生)及び二女(昭和55年生)がいる。
(3)Cは、令和2年6月5日、死亡した。
(4)被告は、本件当時、原告とCが婚姻関係にあることを知っていた。

第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1(不貞関係)について

     (中略)

第4 争点に対する判断
1 認定事実

 弁論の全趣旨及び後掲の証拠(枝番号があるものは全ての枝番号を含む。)によれば、以下の事実が認められる。
(1)Cは、証券会社に勤務していたが、平成9年に60歳で定年退職して将棋講師としての稼働を始め、同年6月頃からは、原告方を出て、少なくとも平日は原告と別居し、その住居や勤務先を原告には伝えなかった(甲6、原告本人1頁、16頁~17頁)。また、Cは、足を悪くしたことなどを理由に定年よりしばらく前から原告と性交渉をもたなくなった(原告本人19頁)。

(2)Cは、上記別居後は、土曜日などに、将棋教室や大会のため原告方近隣を訪れた後、原告方に1泊することがあったほか、孫らの行事に参加していた(甲6、13、原告本人3頁~4頁、13頁、16頁、被告本人26頁)。

(3)被告は、昭和60年頃、当時の被告の勤務先近くのラウンジでCと知り合い、その後、月一、二回程度の頻度で被告が費用を負担してCと昼食をとることがあったほか、Cが被告の自宅アパートを日中に訪れたことが4回程度あった(乙3、被告本人1頁~6頁、18頁)。

(4)被告は、平成20年9月、自宅アパートの近傍に2LDKのマンション(各居室の扉に施錠ができないもの。)を購入して転居し、母と同居して生活していたが、母が死亡した後の平成二十一、二年頃、Cに対し、無償で、母の使用していた部屋の利用や、被告方での有償の将棋教室の開講を許した。その後、Cは、徐々に生活道具を運び入れ、トイレや風呂、リビングを利用して同マンションで被告と同居して生活するようになり、被告は、Cの衣類を被告のものと一緒に洗濯したり、Cに食事を提供したりすることがあった。(甲9、10、乙3、被告本人6頁~11頁、16頁、25頁)

(5)原告は、被告に対し、平成25年、離婚調停を申し立て、その申立書には、別居をした日が平成9年6月であること、申立ての動機は、性格が合わない、異性関係、精神的に虐待する、家族をすててかえりみない、家族と折合いが悪い、同居に応じない、生活費を渡さないことであり、そのうち生活費を渡さない点が最も重要であることが記載されていた。同申立ては、Cの不出頭により不調に終わり、原告は、以後、Cに対して離婚調停や離婚訴訟を提起していない。また、この頃原告とCとが会話をする機会があったが、Cは離婚に応じる旨述べることはなかった。(乙1、2、原告本人2頁~3頁、17頁)

(6)Cは、平成9年の別居後も、上記離婚調停申立ての前頃までは、原告に対して生活費を振込送金していた(原告本人14頁)。被告は、Cが死亡する1年半程度前には、三、四回、Cから依頼されて原告に対して生活費の送金をしたことがあるほか、平成30年頃には、Cの要介護認定の申請手続を代行し、Cの入通院に付き添うなどしていた(乙3、被告本人12頁~13頁、21頁)。

(7)Cは、疾病が重篤になった後の令和2年4月23日頃、被告方を離れて原告方に戻り、その後、入通院治療を経て同年6月5日に死亡した。被告は、その間もCと連絡を取り合うなどし、Cの死後はその命日等に墓参した。(甲6、乙3、4、原告本人5頁、9頁)

2 争点1(不貞関係)について
(1)被告は、平成二十一、二年頃から、無償で、異性であるCを生活空間の区別がつかない2LDKの所有マンションに同居させ、洗濯や食事等の家事の一部を担って同居生活を営んでおり(認定事実(4))、事実上夫婦と同様の関係をもったといえる。また、被告が、Cに代わって原告に対する送金や要介護認定の申請手続をし、Cの入通院への付添いをしていること(認定事実(5))も、そのような関係を現すものといえる。

 被告がCとそのような関係をもつ行為は、性交渉の有無にかかわらず、原告のCとの夫婦生活上の平穏を侵害するものであり、不法行為に該当するものと認められる。なお、被告とCとの同居は令和2年4月23日頃終了しているが、被告は、その後もCと連絡をとるなどしており(認定事実(6))、Cの死亡まで交際関係は維持されていたと認められる。

(2)以上に加えて、原告は、〔1〕上記同居より前から性交渉を伴う交際関係があったこと、〔2〕上記同居後も性交渉があったことを主張する。
 しかし、上記〔1〕について認定事実(3)のとおりの交遊関係を認めることができるものの、この程度の交遊関係をもって、不法行為に当たる不貞関係ということはできないし、それ以上の被告とCとの関係を具体的に示す証拠はない(原告が根拠と主張する昭和60年頃からの交際を自認する発言(甲4)は認定事実(3)の交遊関係を述べるものとみても不自然ではないし、上記(1)の事実から、直ちに同居前の被告とCの交際関係を推認することはできない。)。

 また、上記〔2〕について、被告は、Cとの性交渉はなかったと供述するところ、これは当時のCの年齢(七十二、三歳)を考慮すると直ちに排斥することができない。
 以上に照らして上記〔1〕及び〔2〕の原告の主張は採用できない。

3 争点2(婚姻関係の破綻)について
(1)認定事実のとおり、Cは、定年(平成9年)のしばらく前から原告との性交渉をもたなくなり、同年6月頃からは、少なくとも平日は原告と別居し、その就労先や居所を原告に知らせていなかったというのであり(認定事実(1))、原告とCとの婚姻関係が相当形骸化していたとみるべき事情が存在する。

 しかし、他方において、原告とCは、離婚せずに婚姻関係を維持しており、平成二十一、二年までに、両名の離婚意思をうかがわせる事情は見当たらないこと、Cは、原告との別居後も土曜日等に原告方に宿泊し、孫らの行事に参加し、原告に生活費を送金していて(認定事実(2),(6))、家族としての関係性は、外形上一定程度維持されていたといえることを考慮すると、原告とCの婚姻関係が、被告の不法行為開始時点において破綻していたと認めることはできない。

(2)被告は、平成26年の離婚調停申立て前後頃の事実(認定事実(5))をもって婚姻関係の破綻を主張するが、これは、被告の不法行為開始後の事情であって、不法行為責任を免れさせ得るものとは認められない。かえって、被告が離婚調停申立て後も離婚に応じる様子も示さず、原告も、調停不調後に離婚に向けた具体的行動をとっていないこと(認定事実(5))、Cが令和2年4月23日頃被告方を離れて原告方に戻り、原告がこれを受入れていること(認定事実(7))などの事情は、原告及びCに平成二十一、二年当時も離婚意思がなかったことをうかがわせる事情とみることができる。 

(3)したがって、婚姻関係の破綻の抗弁は採用できない。

4 争点3(損害額)について
 本件における婚姻期間及び不貞関係をもった期間は長いこと、他方において、不貞関係の態様は前述のとおりであって、性交渉を伴ったとは認められないこと、その開始時期が、別居後12年程度経過し、原告とCの婚姻関係が相当形骸化した後であること、同時点において原告とCに夫婦として養育すべき未成熟子はいなかったこと(甲1)が認められ、これに加えて、原告の主張する被告による墓参等の不法行為後の事情や、被告の主張するその当時の原告の対応状況(乙4、原告本人9頁)、その他本件に現れた一切の事情を併せ考慮すると、相当な慰謝料額は30万円と認めるのが相当である。

 また、本件事案の内容、審理経過及び認容額等に鑑みれば、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3万円と認められる。
 なお、原告は、不貞関係の維持により日々生じる損害の全体について遅延損害金の支払を求めているものであるから、付帯請求の起算日は、その全てが遅滞に陥った日である令和2年6月5日(不貞関係をもった最後の日であるCの死亡日)から認めるのが相当である。

第5 結論
 よって、原告の請求には主文1項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部 裁判官 村木洋二
以上:4,351文字
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R 7- 5-30(金):事故状況等から高次脳機能障害を否認した地裁判決紹介
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○現在、後遺障害認定申請をすれば高次脳機能障害での後遺障害が認定されると思われる方から相談を受けています。高次脳機能障害での後遺障害で最も重い第3級後遺障害が残り、さらに後遺障害5級相当外傷性斜角筋症候群等の後遺障害により労働能力を全て失ったとして、近親者慰謝料等も含めて約1億8639万円の損害賠償を求めた事案があります。

○この請求について、本件事故に遭った時点での原告aの体勢や、本件事故の衝撃による原告aの体感及び検査の結果によれば、原告aは、本件事故の結果として、びまん性軸索損傷を負うまでには至っていなかったか、そうだとしても軽微なものにとどまっており、原告らが主張する原告aの諸症状は、既往を含め何らかの精神疾患に起因している可能性が十分に疑われ、原告aに見られた各種の認知障害について、これを本件事故に起因する外傷性脳損傷による高次脳機能障害であるとして、さらに治療又はリハビリテーションが必要な状態であったと認めるのは困難で、本件事故による後遺障害が残存しているとも認められないとして、原告らの請求をいずれも棄却した極めて厳しい令和7年3月18日広島地裁判決(lex/db)理由部分を紹介します。

**********************************************

主   文
1 原告らの請求をいずれも棄却する
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告aに対し、1億8639万7594円及びこれに対する平成29年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告bに対し、220万円及びこれに対する平成29年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 本件は、被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)に同乗していた原告aが、被告車両の自損事故(以下「本件事故」という。)により頭部外傷等の傷害を負い、高次脳機能障害等の後遺障害が生じたとして、原告aが、被告に対し、民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)709条、710条に基づき、損害額合計1億8639万7594円及びこれに対する不法行為日である平成29年12月10日(本件事故日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告aの母親である原告bが、被告に対し、民法709条、710条に基づき、近親者慰謝料等合計220万円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等
 原告aは平成6年○月○○日生まれの女性であり、本件事故当時、医療法人社団d病院(以下「勤務先」という。)において、准看護師として勤務する傍ら、正看護師となるために看護専門学校に通っていたが、本件事故後の平成30年9月6日に看護専門学校を退学し、同年10月20日に勤務先を退職した(甲17、19の1)。
 原告bは、原告aの母である。
 被告は、本件事故当時、原告aと交際関係にあった者である。

(2)本件事故の発生(甲1~3、乙16~18)
発生日時 平成29年12月10日午後3時19分頃
発生場所 横浜市α区β無番地 横浜北線下りγ出口
事故態様 原告aは、被告の運転する被告車両の助手席に同乗していたところ、被告車両が、前記発生場所を、本線方面から一般道方面に向かって進行中、制限速度時速40kmのところを時速50kmで走行し、また、前方左右を注視せず左片手のみのハンドルで操作し、減速しなかったために被告車両はカーブを曲がりきれず右前方に斜走し、道路右側壁に衝突した(被告が、原告aに対し、不法行為による損害賠償責任を負うことにつき、当事者間に争いはない。)。

     (中略)

第4 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1)本件事故前の原告aの状況等
ア 原告aは、平成27年3月5日、看護専門学校の医療高等課程を卒業し、勤務先において准看護師として勤務していた。原告aは勤務の傍ら、同年4月9日、看護専門学校の医療専門課程に入学し、正看護師の資格を取るための勉強をしていた。(前提事実(1)、甲19の1・2)

イ 原告aは、勤務先での人間関係等の悩みから、平成28年11月から平成29年9月までにかけて、複数の神経内科やメンタルクリニックを相次いで受診した履歴があり、「うつ状態」とか「適応障害、うつ病」と診断されたことがあった(乙13〔8,9頁〕、14〔5頁〕)。

(2)本件事故時及び本件事故後の原告aの状況等
ア 原告aは、本件事故当時、被告車両の左側助手席に座り、シートベルトを装着した上、座席のリクライニングを半分程度倒した状態で眠っていたが、本件事故の衝撃で目を覚ますと同時に、身体が前に揺さぶられるようになってシートベルトに圧迫される状態に陥った(乙16〔1頁〕、18〔1頁〕)。

イ 原告aの意識レベルは、本件事故発生から30分余り経過した頃に現着した救急隊が接触した時点では、ジャパン・コーマ・スケール(以下「JCS」という。)「2桁」すなわち、JCS〈2〉(刺激をすれば覚醒する)程度であったが、救急車内への収容時にはJCS〈1〉-3(刺激しないでも覚醒している状態で、自分の名前、生年月日がいえない。)に持ち直した。
 そして、原告aは、本件事故発生から約1時間経過した頃にe病院に到着した時点では、その意識レベルにつき、グラスゴー・コーマ・スケール(以下「GCS」という。)E3V4M5(開眼:言葉による、言語性反応:錯乱状態、運動反応:払いのける)の合計12点と判断された。

 さらに、原告aの意識レベルは、(ア)すぐにGCSE4V5M6(開眼:自発的、言語性反応:見当識あり、運動反応:命令に従う)の合計15点(正常)に、(イ)翌11日にはJCS〈1〉-0(意識清明)に、いずれも改善した。(以上につき、甲55、乙5〔15、22、58頁〕)

ウ 一方、e病院で行われたCT検査によれば、頭部、頚椎及び体部のいずれにおいても外傷性変化を認めず、器質的な外傷性変化は明らかでない旨診断された(乙5〔79頁〕)。

エ 原告aは、e病院の医師から、「高エネルギー外傷、全身打撲」と診断され、平成29年12月15日にf病院に転入院した(甲9)。

オ 原告aについては、f病院に入院中、リハビリが行われた。
 その結果、独歩は可能になったが、ふらつき、めまい、深部覚低下、長・短期記憶障害を含む高次脳機能の低下がみられた。
 もっとも、f病院で行われた頭部MRI画像検査では、微小出血を含め、異常所見は認められなかった。
 結局、原告aは、「頭部外傷、頸部挫傷、左肩鎖関節脱臼、胸椎椎体骨折、左腸骨部挫傷、胸骨骨折、肋軟骨損傷疑い、びまん性軸索損傷」と診断され、平成30年1月10日にf病院を退院した。
(以上につき、甲10、乙7〔10頁〕)

カ 原告aは、f病院を退院した後、いったん帰広の上、自宅で病床空きを待って平成30年1月16日、gに入院した。
 gでも、入院後間もなく、頭部CT、頭部MRIの各画像検査が行われたが、いずれにおいても異常所見は認められなかった。
(以上につき、乙7〔700、701頁〕、弁論の全趣旨)

キ gでは、入院時に頭部外傷との診断を受け、入院中に、全身調整運動、筋力増強運動、歩行訓練、コミュニケーション訓練等が実施された。その結果、原告aに、手指の巧緻性の改善、会話場面の混乱の減少、記銘力の改善がみられたことなどから、看護専門学校の復学を目指して、平成30年5月29日にhに転入院となった。(甲11、乙7〔19、20頁〕)

ク hでは、原告aにつき、改めてCTやMRIの画像検査は実施されなかった。j医師は、原告aにつき、当初、びまん性軸索損傷があったとしても程度としては軽度であり、また、原告aの症状が外傷性脳損傷後の高次脳機能障害とは症状が異なり、高次脳機能障害があったとしても軽微であると予測され、今は精神症状でマスクされている可能性があるとの見立てをし、原告aをhから退院させた時点(平成30年8月2日)でも、高次脳機能障害と診断することは難しく、精神科での治療を続けていくことを原告らに勧めていた。

 それでも、j医師は、令和元年10月10日を症状固定日として、「びまん性軸索損傷、高次脳機能障害」と診断した上、言葉が出てこない、健忘、易疲労性、易怒性、頭痛の症状が残存している旨の後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)を作成した。
 もっとも、j医師は、本件後遺障害診断書を作成した時点では、前記(1)イの受診歴を原告らから知らされていなかった。
(以上につき、甲12、14、乙8〔419、860、979頁〕、証人j医師に対する書面尋問の結果、弁論の全趣旨)

2 争点1(g、h及びiでの入通院の相当因果関係)について
(1)原告らは、前記第3の1原告らの主張欄のとおり主張する。同主張は、原告aが本件事故によって外傷性脳損傷(びまん性軸索損傷)を負い、その結果として高次脳機能障害がもたらされた旨を前提としている。そして、f病院入院中はもとより、g又はhでの入通院中にも、増悪や寛解の経過はともかく、記憶障害を始めとする高次脳機能の低下が指摘されていたことは、認定事実(2)オ、キ、クのとおりである。

(2)
ア しかし、本件事故に遭った時点での原告aの体勢や、本件事故の衝撃による原告aの体感(認定事実(2)ア)による限り、原告aの頭部が本件事故の際に被告車両のいずれかに強く打ち付けたかといえば、疑問なしとしない。実際に、救急搬送先であるe病院における全身のCT画像検査でも、外傷性変化が認められていない(認定事実(2)ウ)。そうすると、そもそも本件事故によって原告aの頭部に原告らが主張するほどの強い外力が加わったとまではいい難い。

イ その上、e病院及びf病院のみならず、高次脳機能障害に関するリハビリを主たる目的として転入院した先であるgにおいても、頭部CT及び頭部MRIの画像検査の結果、異常所見は見当たらなかったというのである(認定事実(2)カ、キ)。

 そうであれば、前記アの指摘も含めて考慮すると、原告aは、本件事故の結果として,びまん性軸索損傷を負うまでには至っていなかったか、そうだとしても軽微なものにとどまっていたものというほかはない。j医師による症状固定診断が後者の趣旨であることは明白であり(認定事実(2)ク)、びまん性軸索損傷である旨のf病院の医師による診断(認定事実(2)オ)も、せいぜい後者の趣旨の限度でその合理性を見出すことができる。

ウ さらに、原告aは、被告車両内で眠っていたところ、本件事故の衝撃で目を覚まし、シートベルトで圧迫されている状態を感得したというのであって(認定事実(2)ア)、原告aの意識レベルは、本件事故発生から約30分後の時点でJCS〈2〉に悪化したものの、その後間もなくJCS〈1〉-3に、本件事故発生から約1時間後にe病院に到着した時点ではGCS合計12点に、順次持ち直した上、さらに、e病院到着後すぐにGCS上は正常になり、本件事故の翌日にはJCS上も意識清明と判断されるに至ったというのである(認定事実(2)イ)。 

 これらの経過によれば、本件事故直後からこのかた、原告aに見られた意識障害については、その重症度の点においても、経過時間の長さの点においても、当該高次脳機能障害が頭部外傷を原因として発症したことを窺わせるほど重篤なものであったとまではいえない。

エ 加えて、原告aは、本件事故以前の時点で神経内科やメンタルクリニックを受診し、「うつ状態」、「うつ病、適応障害」と診断された既往があって(認定事実(1)イ)、j医師も、原告aに見られる諸々の認知障害は、精神症状でマスクされている可能性があるとの見立てをし、h退院時点(平成30年8月2日)では、高次脳機能障害との診断を躊躇し、精神科治療を続けていくことを原告らに勧めていたというのである(認定事実(2)ク)。
 そうであれば、原告らが主張する原告aの諸症状は、本件事故に起因する頭部外傷によってもたらされたとは限らず、既往を含め何らかの精神疾患に起因している可能性が十分に疑われるというべきである。

オ 前記アからエの検討によれば、原告aがf病院を退院した時点で見られた各種の認知障害について、これを本件事故に起因する外傷性脳損傷による高次脳機能障害であるとして、さらに治療又はリハビリテーションが必要な状態であったと認めるのは困難である。この点に関する原告らの主張は、その前提において失当であり、理由がない。

3 争点2(原告aに後遺障害が認められるか)について
(1)原告らは、前記第3の2原告らの主張欄のとおり主張する、そして、本件後遺障害診断書(甲14)及びk医師が作成した意見書(甲13。以下「k意見書」という。)には同主張に沿う記載がある。また、証人j医師に対する書面尋問の結果中にも、同主張に沿う部分がある。

(2)高次脳機能障害をいう点について
 前記2(2)アからエで検討したところによれば、令和元年10月10日(症状固定の診断があった日)の時点で原告aに残存すると診断された諸々の認知障害については、既往を含む何らかの精神疾患に起因する認知障害である可能性が十分に疑われるものというべく、これを本件事故に起因する外傷性脳損傷による高次脳機能障害であると認めることは困難である。

 j医師が、h退院時点では高次脳機能障害との診断を躊躇したものの、後刻、本件後遺障害診断書記載のとおり診断するに至った決め手となったのは、要するに、〔1〕本件事故による受傷時に意識障害が観察されたこと、〔2〕令和元年10月10日時点では、前記の退院時点に比べて原告aの精神状態が安定し、後遺障害としての高次脳機能障害の鑑別が可能になったこと、以上の2点にあるものといってよい(証人j医師に対する書面尋問の結果)。しかし、脳損傷を窺わせる画像所見が見当たらない場合であっても、受傷時に生じた意識障害の重症度やその経過時間の長さを吟味することなく、いわば意識障害がありさえすれば外傷性脳損傷による高次脳機能障害の診断が可能であるかのようにいう点(前記〔1〕)は、外傷性脳損傷による高次脳機能障害を鑑別する基準として一般化されているとまではいい難い。また、同〔2〕の点は、j医師において、少なくとも症状固定診断(令和元年10月10日)時点までに、原告aの本件事故前の神経内科やメンタルクリニックへの受診歴すら把握していなかったのに(認定事実(2)ク)、その精神状態が安定し、もって精神疾患による認知障害と外傷性脳損傷による高次脳機能障害との鑑別が可能であったといえる理由が定かではない。そうすると、本件後遺障害診断書及び証人j医師に対する書面尋問の結果中前記説示に反する部分は、前記2(2)アからエに照らして直ちに合理的な内容であるとはいえないというに帰する。
 また、k意見書は、その採用する鑑別手法につきj医師に対する書面尋問の結果に照らすと、前記認定を左右するものとはいえない。

(3)高次脳機能障害以外の後遺障害をいう点について
 e病院の担当医師は認定事実(2)エのとおり、f病院の担当医師はびまん性軸索損傷のほかに認定事実(2)オのとおり、種々の傷害を負った旨診断したけれども、そうかといって、原告aが、f病院退院後、症状固定日とされた令和元年10月10日までの間に、g及びhにおいて、前記の各種傷害に対する外科的治療又はこれらの傷害に起因する諸障害に対するリハビリテーション(以下、本項において「外科的治療等」という。)を受けたことを認めるに足りる証拠はない。

 そうであれば、前記の各種傷害に対する外科的治療等は、少なくとも、f病院を退院した時点で終了したものといってよい。

 それなのに、f病院の担当医師において前記の各種傷害に起因する何らかの後遺障害が残存している旨の診断をした事実を認めるに足りる証拠も見当たらないから、同医師は、f病院における外科的治療等を終了するに当たり、原告aに前記のような後遺障害の残存を認めなかったものといわれても致し方ない。k意見書は、前記の各種傷害に対する外科的治療等を終了させたf病院の担当医師とは別の医師が、後日になって作成したものにすぎず、信用性に欠けるというべきである。

 なお、k意見書には、原告aが抑うつ状態にあるとの記載もあるが、前記2(2)エで説示したとおり、原告aは、本件事故前の時点でうつ状態、適応障害と診断された既往があるというのであるから、原告aの抑うつ状態が本件事故に起因することにつき合理的疑いが残るというべきである。

(4)以上に照らせば、原告aに、本件事故による後遺障害の残存は認められない。この点に関する原告らの主張は理由がない。

4 争点3(原告aの損害)について
 別紙損害項目一覧表中「当裁判所の判断(金額は円)」欄記載のとおり。

5 争点4(原告bの損害)について
 前記3で説示したとおり、原告aに、本件事故による後遺障害の残存は認められないから、原告bについて、いわゆる近親者慰謝料は認められない。

6 結論
 以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 吉岡茂之 裁判官 高見進太郎 裁判官 茂木明

(別紙)損害項目一覧表
以上:7,278文字
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R 7- 5-29(木):障害者福祉施設内てんかんけいれん死亡事故に施設責任を認めた地裁判決紹介
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○老人保健施設内での転倒事故について施設の責任を問えるかどうかの質問を受け裁判例を探していると最近の判例として障害者福祉施設での事故について損害賠償請求が認められた令和6年1月31日横浜地裁判決(LEX/DB)が見つかりましたので、関連部分を紹介します。

○被告法人の運営する障害者総合福祉施設に入所していたCが同施設職員の過失により死亡したとして、Cの母である原告が、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償金等として約4256万円の支払を求めました。

○これに対し横浜地裁判決は、被告施設職員は、てんかんを持つCにけいれん発作が持続していることを認識した場合は、10分以内に救急要請すべき注意義務を負っていたというべきであり、それを指示しなかった上司の判断は不適切というほかなく、被告施設職員らは、同注意義務に違反した過失があったと認められるし、被告施設職員が前記注意義務を果たしていれば、Cが死亡した時点で生存していたであろう高度の蓋然性があったといえるから、被告施設職員の過失とCの死亡との間には因果関係が認められるとして、約3587万円の支払を命じました。

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主   文
1 被告は、原告に対し、3587万2491円及びこれに対する平成30年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、4255万9718円及びこれに対する平成30年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告の運営する障害者総合福祉施設に入所していたC(以下「C」という。)が同施設職員の過失により死亡したとして、Cの母である原告が、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償4255万9718円及びこれに対する不法行為日である平成30年12月15日(又は訴状送達日の翌日である令和4年6月2日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)当事者等
ア C(平成2年○月○日生)は、平成30年12月16日に死亡した。原告は、Cの母であり、その唯一の相続人である(甲C1の1・2)。
イ 被告は、障害者総合福祉施設貴峯荘湘南の丘(以下「被告施設」という。)を運営する社会福祉法人である(甲C2の1)。
ウ 被告施設は、常時介護を要する重度障害者に対し、利用者個々の特性に応じた介護、訓練、医療等の必要な支援を行う施設であり、平成30年当時、その管理運営規程上、施設長及びサービス管理責任者各1名、非常勤医師2名、専従看護職4名、その他スタッフ40名余りが配置されていた(甲C2の3)。

(2)事実経過

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

上記前提事実に加えて、証拠(括弧内に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1)平成30年12月15日の事実経過
ア Cは、被告施設食堂において夕食時に本件発作を起こし、自ら手を挙げてけいれんを訴えた(甲A6)。被告施設職員は、午後6時48分にCが全身けいれん発作を起こし、声掛けに応じないことを確認し、午後6時55分にCをその居室のベッドに移した(甲A5、6)。

イ 被告施設職員は、午後6時58分にCの眼球が左右に転じ、鼻呼吸が荒く、泡を吐いていることを確認し、午後7時に居室の温度を上げてCの体を温めた(甲A5)。同職員は、午後7時02分にCのけいれんがなお継続していることを確認し、他の職員に報告するとともに上司の指示を仰いだが、午後7時28分に被告施設サービスの全体を鑑みて様子を見るようにという指示を受けたため、Cの居室ドアを開放したまま適時訪室する形をとることにした(甲A5)。

ウ 被告施設職員は、午後8時にCのけいれんがなお治まらず、多量の唾液を出し、意識混濁が続いているのを確認し、改善の目処が立たないとして再び上司に連絡した。午後8時15分に救急要請の指示が下り、同職員は、午後8時26分に救急要請した(甲A5、10)。

エ 救急隊が午後8時33分に被告施設に到着したが、Cは、意識障害(痛み刺激に全く反応しない状態であるJCS300)があり、けいれんが顔面及び四肢に持続し、チアノーゼを呈して呼吸は浅く早い状態(SpO2値56%)であった(甲A10、11の1、B8の1)。救急隊により、用手的気道確保処置及び10Lの酸素投与が行われたが、Cは、午後8時39分に眼球が上転し心肺停止となり、救急隊による胸骨圧迫及び換気による心肺蘇生処置が開始された(甲A10)。

オ Cは午後8時40分に平塚市民病院へ搬送され、午後8時42分に同病院に到着し、午後8時43分に救急隊から同病院医師へ引き継がれた(甲A10)。同病院医師の治療により、午後8時54分に自己心拍が再開したが、その後3回ほどPEA(無脈性電気活動)となり、意識状態が改善することはなく、翌16日午前6時29分に死亡した(甲A11の1、A12)。

(2)Cの死亡の機序に関する所見

     (中略)

2 争点1(被告施設職員の過失(注意義務違反)の有無)について
(1)前提事実(1)ウの事実から、被告施設には、平成30年当時、重度障害者に対する医療等の必要な支援を行うため、医師、看護職、その他スタッフ等相当数の職員が配置されていたと認められる。そして、証拠(甲C2の3)及び弁論の全趣旨によれば、被告施設の管理運営規程上、職員は、利用者の病状の急変その他緊急事態が生じたときは、速やかに嘱託医に連絡する等の措置を講じ、嘱託医への連絡等が困難な場合は医療機関への緊急搬送等必要な措置を講ずるものとされていたこと、また、被告施設にはけいれん発作の持続に対して有効な治療ができるような医療体制が構築されていなかったことが認められる。

(2)また、前提事実(2)ウからカのとおり、〔1〕Cの入所に際し、第1回発作及びそれ以降の抗てんかん薬の服用の事実が被告施設に伝えられたこと、〔2〕被告施設医師からCに同薬が処方されるとともに、利用者台帳等を通じて被告施設内でCのてんかん及び抗てんかん薬の服用に関する情報が共有されたこと、〔3〕第2回発作を受けて、Cに対する抗てんかん薬の処方が強化され、救急搬送の経緯及び同様の症状が現れた場合は今回のように救急要請し救急隊到着までは気道確保及び状態観察に努めることという平塚市民病院医師の説明が、被告施設職員(主任)から被告施設に対して報告され、Cの看護記録にもそのような対応方針が記載されたことが認められる。

(3)医師の上記説明は、認定事実(3)ウのとおり、てんかんのけいれん発作が5分以上持続する場合はてんかん重積となる可能性が高く、直ちに気道確保、酸素投与、ジアゼパム投与による治療を開始することが求められるという医学的知見を前提に、上記(1)のような体制を持つ障害者福祉施設において、必ずしも上述のような医学的知見を持たずとも、同(2)のCに関する情報を共有している職員であれば、具体的にとることが可能であり、またとるべき対応を述べたものと考えられる。そして、前提事実(2)オのとおり、第2回発作時の救急要請が発作発生から約9分で実施されていることからすれば、それと相違ない時間内での速やかな救急要請を求めたものと理解できる。

(4)上記(1)から(3)の事実を考慮すれば、被告施設職員は、てんかんを持つCにけいれん発作が持続していることを認識した場合は、10分以内に救急要請すべき注意義務を負っていたというべきである。
 そして、認定事実(1)ア及びイのとおり、被告施設職員は、午後6時48分にCが全身けいれん発作を起こし、声掛けに応じないことを確認し、それから10分経過した午後6時58分にCの眼球が左右に転じ、鼻呼吸が荒く、泡を吐いていることを確認したのであるから、その時点で救急要請すべき注意義務を負っていたといえる。


しかし、同ウのとおり、被告施設職員は、午後8時26分になって初めて救急要請したから、上記注意義務に違反したと認められる。なお、Cを担当した被告施設職員は、午後7時02分に他の職員に報告し、上司の指示を仰いだところ、その上司から様子を見るようにという指示を受けたという事実が認められるが、上述のCの様子からは事態の緊急性は明らかであって上司の指示は不適切というほかないから、同事実の存在によって注意義務違反に関する上記認定は左右されない。

(5)以上によれば、被告施設職員は、遅くとも午後6時58分に救急要請すべき注意義務を負っていたのに、同注意義務に違反した過失があったと認められる。

3 争点2(因果関係の有無)について
(1)上記2(5)の被告施設職員の過失とCの死亡との間に因果関係が認められるかについて、以下、関連する事実を踏まえた上で、検討する。
ア 本件発作前のCの状態について
 前提事実(2)ウからキのとおり、Cは、平成26年11月21日に第1回目発作を起こした後、カルバマゼピン単剤による薬物療法を受けていたが、平成28年6月28日の第2回発作を経て、被告施設医師によりカルバマゼピン及びイーケプラの二剤併用療法を受けていたところ、平成30年12月15日に本件発作を起こしたことが認められる。

 認定事実(3)イのとおりの医学的知見に照らせば、Cは、薬剤療法を受けていたにもかかわらず発作を繰り返しており、抗てんかん薬によって発作を抑制し切れていたとはいえないが、第1回発作から第2回発作まで約1年半の間及び第2回発作から本件発作まで約2年半の間は発作がなく安定した状態にあったのであるから、抗てんかん薬が一定程度効果を発揮し、発作の発生をある程度抑制していたと考えられる。

 なお、このようなCの状態は、日本神経学会の定義によれば難治てんかん当たらない一方、国際抗てんかん連盟の定義によれば当たり得るということになるが、因果関係の判断の前提としては、どの定義を取るかは重要ではなく、Cが上述のような状態であったと認定することで足りる。

イ 第2回発作時の経過について
 前提事実(2)オのとおり、第2回発作時も本件発作時と同じくてんかん重積であったが、発作発生から約9分後に救急要請され、救急隊の指示の下被告施設職員による気道確保処置がとられた上、発作発生から約15分後に救急隊が到着し、約29分後に平塚市民病院に搬送された結果、搬送後一時発作が再発したものの、同病院での治療が功を奏してCは回復し、翌日に退院したことが認められる。

ウ 本件発作時のCの死亡の機序について
 認定事実(3)ウのとおりの医学的知見に加え、同(2)のとおりの平塚市民病院医師の所見及び死体検案書の記載からすれば、Cは、本件発作時、てんかん重積により低酸素血症を起こして心肺停止に至り、死亡したものと認められる。

エ てんかん重積の死亡率について
 てんかん重積の死亡率について、被告は20~40%であると主張し、その根拠とする文献(乙B1)を提出する。しかし、同文献は、高齢者のてんかんについて論じたものであるから、てんかん重積患者全体の死亡率が20~40%であることを述べたものであるかは判然としない。認定事実(3)エのとおり、てんかん重積のうち抗けいれん薬による治療で効果の認められないものの死亡率については、様々な報告があるようであるが、高いものでも22%(高齢者で38%,成人で14%、小児で2.5%)とされており、若年になるほど死亡率が下がっていることがうかがえるから、てんかん重積患者全体の死亡率は被告が主張するほど高くないものと推察される。また、仮にてんかん重積患者全体の死亡率が被告の主張のとおり20~40%であるとしても、60~80%は救命されているということになるし、高齢者以外に限れば、その数値は更に上がる可能性もある。

(2)上記(1)の各事実を踏まえ、以下、因果関係の有無について検討する。 
ア 認定事実(1)ウからオのとおり、本件発作時は、救急要請から7分後に救急隊が到着し、救急隊による用手的気道確保処置及び10Lの酸素投与が行われ、心肺停止に対して心肺蘇生措置が施された上、同要請から14分後に平塚市民病院へ搬送され、17分後に救急隊から同病院医師へ引き継がれたことが認められる。そうすると、被告施設職員が本件発作発生から10分が経過した午後6時58分に救急要請していたとすれば、時間帯の違い等を考慮に入れても、本件発作発生から20分以内に救急隊による救急処置が行われた上、30分以内に平塚市民病院において同(3)ウのとおりのジアゼパム投与を始めとする治療を受けることができていたと考えられる。

イ 上記(1)ウのとおり、Cは、本件発作時てんかん重積により低酸素血症を起こして心肺停止に至って死亡したところ、同ア及びイのとおりの本件発作前のCの状態及び第2回発作時の経過に加え、同エのとおりのてんかん重積の死亡率に関する一般的傾向や、Cが本件発作当時28歳という若年であったこと、認定事実(3)ウのとおりてんかん重積に対しては発作発生から24時間経過時までその時間経過及び種々の薬剤の効き具合に応じて段階的な治療が行われていることなどを考慮すると、本件発作が3回目であったことを踏まえても、上記アのとおり、本件発作発生から20分以内に救急隊による救急処置を受けた上、30分以内に平塚市民病院においてジアゼパム投与を始めとするてんかん重積に対する適切な治療を受けていれば、Cが死亡した時点(平成30年12月16日午前6時29分)でなお生存していたであろう可能性は高かったものと考えられる。

ウ 被告は、けいれん発作が30分以上持続した場合には後遺障害の危険性があることから、本件で因果関係を認めるためには、発生時から30分以内に本件発作が治まっていた高度の蓋然性があることを立証する必要があると主張するが、同主張は、死亡と後遺障害の可能性とを区別せずに因果関係について論じるものであるから、採用できない。
 また、被告は、救急隊が気道確保等の救命処置をしたとしても、けいれん発作を抑えることができるわけではないと主張するが、上記(1)ウのとおり、Cは、低酸素血症により心肺停止に至って死亡したのであるから、救急隊による気道確保、酸素投与等の救命処置は、けいれん発作そのものを抑えることができなくとも、その死を回避するのに一定程度役立ったと考えるのが合理的である。

 さらに、被告は、抗てんかん薬を投与してもけいれんが持続する場合もあるとも主張する。認定事実(3)ウの事実に照らせば、段階的治療が功を奏さない場合があることは認められるものの、上記(1)エの死亡率はそのような場合をも含めたものといえるから、そのことによって上記イの認定が左右されるものではない。

エ 以上の検討によれば、被告施設職員が遅くとも午後6時58分に救急要請すべき注意義務を果たしていれば、Cが死亡した時点で生存していたであろう高度の蓋然性があったといえるから、被告施設職員の過失とCの死亡との間に因果関係があると認められる。

4 争点3(損害)について

     (中略)

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、3587万2491円及びこれに対する不法行為日である平成30年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容すべきであり、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さない。
横浜地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官 藤岡淳 裁判官 田郷岡正哲 裁判官 番條雅代
以上:6,661文字
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R 7- 5-28(水):銀行預金払戻での警察連絡についての慰謝料請求を棄却した地裁判決紹介
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○78歳の原告が、銀行である被告に対し、午前11時40分頃、普通預金200万円の払戻しを求めたところ、普通預金規定に定めがないのに、被告の従業員が引出金の使途を尋ね、原告が回答しても直ちに払戻しをしなかったことは違法であると主張して、慰謝料2万円の支払を請求しました。

○被告銀行行員は、振り込め詐欺を心配して、原告の承諾を得て警察に連絡し、原告は、臨場した警察官に事情を聴かれるなどした後、午前11時40分の払戻請求から1時間後の同日午後0時40分頃、被告から200万円の払戻しを受けました。原告は、払戻しを受けるまでに約1時間かかり、午前中に払戻しを受けることができず、また不審者として疑われ、精神的苦痛を受けたことについて不法行為が成立するとして、慰謝料2万円を請求しました。

○これについて、被告行員が本件行為をした目的は警察及び金融庁からの要請に基づく振り込め詐欺等の被害を防止することにあり社会通念上不当であるとはいえないとして、原告の請求を棄却した令和6年3月29日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。世の中にはこだわりの強い人がいるものです。

○警察庁及び都道府県警察は、振り込め詐欺等の被害を防止する観点から、全国の銀行に対し、高額の現金を持ち帰る預金者に対する使途の確認等の声かけのほか、最寄りの警察署への連絡を要請し、金融庁も、銀行等の金融機関に対し、上記同様の取組を要請しているとのことです。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、2万円を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、原告が、銀行である被告に対し、普通預金の払戻しを求めたところ、普通預金規定に定めがないのに、被告の従業員(以下「被告行員」という。)が引出金の使途を尋ね、原告が回答しても直ちに払戻しをしなかったことは違法であると主張して、不法行為(使用者責任を含む。)に基づき、慰謝料2万円の支払を求める事案である。

2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1)原告(当時78歳)は、令和5年6月5日午前11時40分頃、被告のa支店において、預金通帳及び届出印による押印のある払戻請求書を提出し、キャッシュカードの暗証番号を端末に入力して本人確認を受け、原告名義の普通預金口座から200万円の払戻しを請求した。

(2)被告行員が払戻金の使途を尋ねたところ、原告は、家の修理に使う旨回答した。
 被告行員は、修理代金であれば振込みが通常であるなどと述べ(この発言の内容及び理由ないし目的については当事者間に争いがある。)、直ちに払戻しを行わなかった。
(以下、(2)における被告行員の行為を併せて「本件行為」という。)

(3)被告行員は、原告の了承を得て警察に連絡し、原告は、臨場した警察官に事情を聴かれるなどした後、同日午後0時40分頃、被告から200万円の払戻しを受けた。(乙12)

(4)警察庁及び都道府県警察は、振り込め詐欺等の被害を防止する観点から、全国の銀行に対し、高額の現金を持ち帰る預金者に対する使途の確認等の声かけのほか、最寄りの警察署への連絡を要請している。
 金融庁も、銀行等の金融機関に対し、上記同様の取組を要請している。(乙1、8)

(5)被告は、上記(4)を踏まえ、高額の現金の払戻しをする高齢の預金者に対しては、使途の確認等を行い、回答の内容によっては現金での払戻しに代えて振込み等の代替手段を勧めることとしており、ホームページ上の「当行店頭での大口現金払い戻しのお申出に際してのお願い」と題するページにその旨を掲載している。(乙2~4)

(6)被告の普通預金規定には、預金の払戻しに際して払戻金の使途を尋ねることがある旨の定めはない。

3 争点
(1)本件行為の違法性
(2)損害の有無及び額

第3 当事者の主張
1 争点(1)(本件行為の違法性)

(1)原告の主張
 被告の普通預金規定は、銀行が預金者に対して負う「払戻しの方法」についての情報提供義務(銀行法12条の2、銀行法施行規則13条の3第4号ホ)に対応して定められたものであり、払戻金の使途は難病の高額治療費など要配慮個人情報に該当する場合もあるから、預金の払戻しに際して払戻金の使途を尋ね、その回答を義務付けるのであれば、普通預金規定の払戻しの項目に「預金の払戻しについて正当な権限を有することを確認するため使途を尋ねることがあります。」などの定めが必要である。そうでなければ、預金者は払戻しの際に必要な準備を行うことができなくなるし,銀行法及び銀行法施行規則が上記規定を設けた意味がなくなる。

 普通預金規定の払戻しの項目に上記のような定めがないのに、被告が払戻金の使途を尋ね、原告が回答しても直ちに払戻しを行わなかった本件行為は違法である。このことは、警察や金融庁から犯罪防止のために払戻金の使途を尋ねるよう要請されていても、他の金融機関でも同様のことが行われていても、変わるものではない。 
 したがって、本件行為は違法であり、不法行為が成立する。

(2)被告の主張
 被告行員は、原告がいわゆるオレオレ詐欺等の特殊詐欺にあって騙され、払戻金を詐欺犯人又はその共犯者に渡すおそれがあると懸念し、詐欺被害防止のために使途を尋ねたものである。このような行為は、警察及び金融庁の要請に基づくものであり、我が国の金融機関において広く行われているものであって、社会的相当性があるから、本件行為は違法ではない。
 また、仮に本件行為が預金契約上の債務不履行を構成するとしても、直ちに不法行為が成立するわけではない。

 なお、原告の指摘する銀行法及び銀行法施行規則の規定は、預金の受入れ時(預金契約締結時)における情報提供についての規定であり、本件とは場面を異にするものである。万が一、本件行為が銀行法及び銀行法施行規則の規定に違反するものであったとしても、業法違反にとどまるから、不法行為が成立する理由とはならない。

2 争点(2)(損害の有無及び額)
(1)原告の主張
 原告は、窓口で不要な時間を取られるのを避けるため、被告の支店を訪問する前に、被告に電話をして払戻しに必要な書類等を確認したが、使途を告げる必要がある旨の説明はなかった。被告行員の本件行為により、原告は、払戻しを受けるまでに約1時間かかり、午前中に払戻しを受けることができず、また不審者として疑われ、精神的苦痛を受けた。この慰謝料は2万円を下らない。

(2)被告の主張
 争う。

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件行為の違法性)について

 原告は、第3の1(1)のとおり主張しており、本件行為によって、原告の預金者としての権利若しくは法律上保護される利益又は原告の人格権ないし人格的利益が侵害されたと主張するものと解される。

 しかしながら、前提事実(2)~(5)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、警察及び金融庁からの要請を受け、振り込め詐欺等の被害を防止する観点から、高額の現金の払戻しをする高齢の預金者に対しては、使途の確認等を行い、回答の内容によっては現金での払戻しに代えて振込み等の代替手段を勧めることとしており、被告行員は、これを踏まえ、上記観点から、原告に払戻金の使途を尋ね、原告の回答を踏まえても詐欺等の被害のおそれが払拭できなかったことから、代替手段として振込みを勧め、また上記おそれの有無等について警察による確認を得てから払戻しを行うため警察に連絡をしたものであって、実際、原告は、警察による確認の後、払戻しの請求をしてから約1時間で払戻しを受けたと認められる。

そうすると、被告行員が本件行為をした目的が社会通念上不当であるとはいえない。また、本件行為に起因して、原告に払戻金の使途の説明や臨場した警察官への対応など一定の負担が生じたことは否定することができないとしても、これにより原告に多大な負担が生じたとまでいうことはできない。

 加えて、預金者から普通預金の払戻しの請求を受けた銀行は、その日のうちに払戻しをすれば払戻しに係る債務について履行遅滞の責任を負わないと解されるところ(民法412条3項に関する大判大正10年5月27日民録27輯963頁、最高裁平成26年(受)第1312号、第1313号同28年2月26日第二小法廷判決・民集70巻2号195頁参照)、被告は原告から払戻しの請求を受けた日のうちに払戻しをしているから(前提事実(1)及び(3))、本件行為が預金契約との関係において適法であるか否かにかかわらず、被告に上記債務の履行遅滞があるということもできない。

 そして、本件行為の目的、態様、本件行為により原告に生じた負担の程度等を総合考慮すると、本件行為により原告の被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいい難く、普通預金規定の払戻しの項目に払戻金の使途を尋ねることがある旨の定めがないことを踏まえても、本件行為を不法行為法上違法なものであるということはできない。

2 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第16部 裁判官 行川雄一郎


以上:3,848文字
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R 7- 5-27(火):NHK朝ドラ”あんぱん”伯父寛氏死去直前の言葉にホロリと涙す
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○毎日NHK朝ドラの前作「おむすび」は、観たり観なかったりでしたが、令和7年3月末から放映中の「あんぱん」は、毎日、熱心に観ており、その感想を既に、母子「別離のシーン」と「再開のシーン」2回このHPに書いていました。今回は、実母から事実上捨てられたやなせたかし氏をモデルとした嵩の父親代わりとして育ててくれた伯父寛氏の死の間際に発した言葉にホロリと涙が出てきました。

○嵩が入学した美術専門学校の卒業制作に取り組んでいるときに、父親代わりの医師寛が突然倒れて、嵩の弟千尋から、「チチキトクシキュウカエレ」との電報が入ります。友人や担任教師から直ぐ帰るよう説得されますが、嵩は卒業制作の手を止めず、その完成まで帰りませんでした。嵩としては、立派な卒業制作を完成させなければ、折角、美術の道に進むことを認めて励ましてくれていた父親代わり寛に対し顔向けができないとの思いで、制作に打ち込んでいました。

○徹夜で卒業制作に打ち込みようやく完成させると、直ぐに汽車に飛び乗り、御免与町に帰りますが、既に寛は亡くなっていました。弟千尋から、何故早く帰らなかったのかと責められ、嵩は、縁側にたたずみ一人、寛さんは早く帰らなかった自分を怒っているだろうな、ごめんなさい、ごめんなさいと亡くなった寛にわび続けます。ここに寛の妻が現れ、寛の死の間際の嵩に対する言葉を、寛本人の場面となって伝えます。「嵩は、卒業制作に打ち込んでいるときにワシが邪魔してどうする」から始まり、卒業制作を中途半端にして帰ってきたら殴ってやると、布団から手を出して殴る仕草をします。

○寛は、これまでも、非の打ち所がない人格者としての言葉を残してきましたが、死の間際まで、父親代わりとして育ててきた嵩への思いが伝わり、これほど人間の情に溢れた人格者がいるだろうかと感激してホロリと涙が出てきました。妻の嵩への、寛さんと嵩さんの思いは全く同じで、寛さんは決して、早く帰らなかった嵩さんを怒ってなどいないとの言葉が心に染みました。

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「お父さんごめんなさい」やなせたかしが流した10年分の涙…「あんぱん」で竹野内豊が演じた"育ての父"の偉大さ
WOMANPRESIDENT2025.5.27


ドラマ「あんぱん」(NHK)で描かれた主人公・嵩(北村匠海)の伯父・寛(竹野内豊)の死。嵩のモデルであるやなせたかしの自伝などを読んだライターの村瀬まりもさんは「家長が子どもの進路を決めることが多かった戦前の日本で、寛は子どもの自主性を尊重した、まさに理想の父親だった」という――。

(中略)

甥っ子たちを家に縛りつけず、自由に生きさせた
自身は家父長制の中できちんと責任を果たしつつも、甥の2人は家に縛りつけず、好きなことをさせる。毒親とは正反対のリベラルで、優しすぎる人だったのかもしれない。やなせも「田舎の開業医として激務に耐え」「五十歳の若さで天国に行ってしまったのです」と書いている(『人生なんて夢だけど』)。

自分を犠牲にしても他人のために尽くそうとした姿には、おなかがすいている人に自分の顔を食べさせるアンパンマンのイメージを重ねることもできる。

「あんぱん」では、寛が将来に悩む嵩に向かって「なんのためにこの世に生まれて、何をしながら生きるか」という、アニメ主題歌「アンパンマンのマーチ」の哲学的な歌詞(やなせたかし作詞)に通じる言葉をかけた。今後も、寛は嵩の心に大きな影響を与えた人物として、その存在は物語の中で生き続けていくだろう。

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。
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R 7- 5-26(月):”イエス・キリストの生涯”エピソード1~4を観て
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○令和7年5月25日(日)は、午後、Amazonのprimevideoで、TV番組として放映された「イエス・キリストの生涯」エピソード1~4を鑑賞しました。「映画”ベン・ハー”を観て-骨太の人間ドラマに感激」記載のとおり、映画「ベン・ハー」でイエス・キリストが登場して、カレー船送りの奴隷となったベン・ハーが、砂漠の町で今で言う熱中症にかかり死にかかったときに、顔を写さない大男が登場して、瀕死のベン・ハーに大きな茶碗で水を施してくれ命を救い、また、顔を写さないこの大男の説教場面等が登場し、その後、投獄され100㎏と言われる十字架を背負わされて死刑場の坂道を上るときにベン・ハーが手助けをして、最後に磔になって死去すると嵐と奇跡が起こる等の場面があり、感動の一端となって、この大男すなわちイエス・キリストの生涯に興味が湧いたからです。

○イエス・キリストの生涯と言えば、名優メル・ギブソン監督の映画「パッション」があり、DVDは持っていますが、BDや4KUHDソフトは持っておらず、現在は販売もされて居ないようで、AmazonPrimeで検索し「イエス・キリストの生涯」を見つけて鑑賞した次第です。エピソード1から8まであり、各エピソードはそれぞれ42,3分で、今回はエピソード4まで鑑賞しました。なお、「イエス・キリストの誕生から、死、そして復活まで。壮大で感動的なドラマと、世界で最も権威ある聖書学者や歴史学者らの、福音書や文化的背景を織り交ぜた解説と共に、救世主イエス・キリストの生涯を徹底解剖する!」と解説されており、権威ある聖書学者や歴史学者らの解説は、ちと煩わしい面もありますが、イエス・キリスト初心者には有り難い解説です。

○キリスト教徒ではない私は、特にイエス・キリストに興味は無く、大昔、世界史で習いましたが、習った内容は忘却の彼方で、イエス・キリストの生涯についても殆ど知識はありませんでした。聖母マリアが神の子としてキリストを受胎し馬小屋で出産した程度の知識はありましたが、建設職人の夫ヨゼフが、婚約者のマリアから「神の子を身ごもった」と告げられ、事実を受け入れられず悩みながらも、苦難の末に、生まれた子・イエスを息子として生涯愛し守り抜くことを誓う等の詳細は全く知りませんでした。

○エピソード2~4で、イエス・キリストが洗礼者ヨハネから洗礼を施され、その後宣教師として、有名な「汝の敵を愛せよ」、「右の頬を叩かれたら、左の頬を出しなさい」等の説教をして歩き、盲目人の視力を回復させ、皮膚病者(癩病?)の肌を綺麗に回復させ、死者を生き返えらせるなどの奇跡を起こしていきます。当時はローマ帝国全盛期で、ローマ総督から命じられた大司祭からの危機が迫るところで、エピソード4が終わります。放映の間、頻繁に権威ある聖書学者や歴史学者らの解説が登場し、キリスト初心者に分かりやすく背景事情等を説明してくれるので大変勉強になります。

○エピソード5は、聖書最大の謎の一つとされているユダの裏切りから始まります。エピソード8終了まで、3時間近くかかりますが、時間はたっぷりありますので、じっくり鑑賞したいと思っています。
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R 7- 5-25(日):映画”宇宙戦争”を観て-あっけない結末に肩すかし
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○令和7年5月24日(土)は、夕方、久しぶりにツルカメフラメンコアンサンブルの練習日でした。大画面で楽天-日本ハム戦、さらに大相撲も観戦しながら1時間弱の練習でした。午後6時頃から夕食を取りながら恒例の映画鑑賞となり、最近購入した4KUHDソフトで2005(平成7)年製作スピルバーグ監督作品映画「宇宙戦争」を鑑賞しました。前日、ミッション:インポッシブル第8作をTOHOシネマズで鑑賞し、スーパーマンとしてのトム・クルーズ氏を堪能しましたが、本作ではスーパーマンではないトム・クルーズ氏が観られるということもあり、鑑賞しました。

○映画コムでは「湾岸地帯で働く平凡な労働者レイが、別れた妻との間にもうけた子供たちと面会するその日、突如現れた“何者か”が容赦なく町を破壊していく。レイは子供たちとともに生きるために町を逃げ出すが……。H・G・ウェルズの傑作小説を再映画化。」と解説されています。H・G(バーナード・ジョージ)・ウェルズは、SFの巨人と呼ばれるイギリスの作家で、先日、NHKBSで「タイムマシン」解説を鑑賞したばかりでした。

映画「宇宙戦争」はスピルバーグ監督作品としては、評価が低く、全く初めての鑑賞でしたが、低評価の理由には納得する内容でした。SFもののスピルバーグ監督作品としては、LD・4KUHDソフトで鑑賞した映画「未知との遭遇」があり、2,3年前に4KUHDソフトで何回目かの鑑賞をしていますが、これも余り感動がなく、このHPに感想も書いていませんでした。同監督作品は、インディ・ジョーンズシリーズ等感動する映画が多いのですが、中には感覚が合わないものもあります。最も感動したのは映画「シンドラーのリスト」ですが。

映画「宇宙戦争」でのトム・クルーズ氏は、妻に逃げられ2人の子供達とはたまに面会するも余りうまくいっていない平凡な労働者役でした。しかし、子どもを思う父親役をシッカリ演じていました。子役のダコタ・ファニング氏は最近イコラーザーファイナルで観たばかりでしたが、天才子役ぶりが良く判りました。父親トム氏が、ダコタ・ファニング氏演ずる10歳の子を連れて強力無比の地球侵略者火星人襲来からただただ逃げ回るだけの設定でしたが、この間のハラハラ・ドキドキは結構楽しめました。しかし、最後が余りにあっけなく肩すかしを食った感じがしました。H・Gウェルズ氏の原作どおりの設定のようです。

地球外生命体が侵略してきたら、こうなります…/映画『宇宙戦争』予告編


War of the Worlds (4/8) Movie CLIP - Probing the Basement (2005) HD


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R 7- 5-24(土):”ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング”を観て-壮絶!
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○令和7年5月23日(金)は午後、現在封切り上映中で話題の映画「ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング」をTOHOシネマズ仙台6番アイマックスシアターで鑑賞してきました。ミッション:インポッシブルシリーズの映画館での鑑賞は、「映画”ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE”を観て」記載のとおり、令和6年7月以来、およそ1年10ヵ月ぶりです。映画コムでは「前作「ミッション:インポッシブル デッドレコニング」とあわせて2部作として製作され、「デッドレコニング」から続く物語が展開。前作のラストで世界の命運を握る鍵を手にしたイーサン・ハントと、その鍵によって導かれていくイーサンの運命が描かれる。」と解説されており、同シリーズの第8作になります。

○前作で同シリーズ第7作目映画「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」の感想として「今回も、ストーリー展開は、訳の判らないところも結構ありましたが、それはどうでも良く、兎に角、トム・クルーズ氏がスタントマン無しに全て自分でこなすという激しすぎるアクションシーンの連続をただただ堪能するだけでした。」と記載していましたが、今回の第8作も全く同様です。

○1962年生まれのトム・クルーズ氏は、本作製作中は、62~63歳ですが、この歳であれだけのアクションシーンをこなす身体能力にはただただ脱帽です。今作での凄まじいアクションシーンは、沈没潜水艦の捜索・脱走シーンと最後の小型プロペラ飛行機上での死闘・ダイビングシーンが白眉です。あんな壮絶シーンをスタントマン無しに63歳のトム・クルーズ氏自身がこなしているとのことが信じられません。一歩間違ったら正に死に直結すると思われますが、一体どうやってあんなシーンを安全に撮影できるか、不思議極まります。兎に角、これらの正に手に汗握る壮絶シーンを楽しめるだけでこの映画は十分です。ストーリーは、前作同様訳が判らない点が多々ありますが、どうでもよいです。

○本作では、最近、AmazonPrimeで鑑賞した同シリーズ第1作目からの思い出の映像が多々出てきます。第1作目からシッカリ復習しながら鑑賞したくなってきました。

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』日本語吹替版ファイナル予告|2025年5月17日(土)より先行上映/5月23日(金)公開


映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』特別映像<高度3,000mから大空へダイブ>|2025年5月17日(土)より先行上映/5月23日(金)公開


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R 7- 5-23(金):離婚に際し被告妻飼い犬による損害賠償を認めた地裁判決紹介
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○原告が、元妻である被告に対して、被告の暴言及び暴行が原因で離婚に至り精神的苦痛を被った、被告の飼い犬により原告の住居が破損及び汚損されるに至り修繕費等の損害を被ったとして、慰謝料等合計約770万円のの損害賠償を請求しました。

○この770万円のうち約200万円は、被告妻が飼っていた犬について、被告が十分なしつけや管理を怠り、これにより本件犬のふん尿やかみつきにより本件建物の2階部分の壁紙、サッシ、床材等を破損及び汚損させるに至ったとして住居の破損及び汚損について修繕費用として支出した損害との請求でした。被告妻は、本件犬は夫婦共有財産であり、原告にもしつけ等の責任があるし、損害賠償を求めることはできないと主張しました。

○これに対し、経年劣化や通常損耗によるものがあることを考慮するとその約50パーセントに相当する100万円について被告による不法行為と相当因果関係のある損害と認めた令和6年2月5日東京地裁判判決(LEX/DB)の犬による損害部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する令和4年10月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、769万0100円及びこれに対する令和4年10月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は、原告が、元妻である被告に対し、
〔1〕被告の暴言及び暴行が原因で離婚に至り精神的苦痛を被った、
〔2〕被告の飼い犬により原告の住居が破損及び汚損されるに至り修繕費等の損害を被ったとして、
不法行為に基づく損害賠償請求として、離婚慰謝料等の損害金合計769万0100円及びこれに対する不法行為の後の日である令和4年10月29日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実

     (中略)

3 主な争点及び当事者の主張
(1)婚姻関係の破綻及び離婚の原因(争点1)

     (中略)

(4)犬の飼い主としての不法行為責任の有無(争点4)
(原告の主張)
 被告は、本件犬の飼い主としてしつけを十分に実施して本件犬が他者の財産を毀損しないようにすべき注意義務を負っていたのに、十分なしつけや管理を怠り、これにより本件犬のふん尿やかみつきにより本件建物の2階部分の壁紙、サッシ、床材等を破損及び汚損させるに至った。被告は、不法行為責任を負う。

(被告の主張)
 否認し、争う。本件犬は夫婦共有財産である上、原告も本件建物に居住しており、しつけや管理に責任があったから、原告には、損害賠償を請求する法的根拠がない。また、原告は、室内飼育を承認した以上は本件犬による汚損を受忍するべきであるし、汚損も室内飼育による通常の範囲内であって、損害賠償請求権が成立するほどの損害ではない。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(婚姻関係の破綻及び離婚の原因)について


     (中略)

3 争点4(犬の飼い主としての不法行為責任の有無)について
(1)証拠(甲12、13の1~13の3、15~17、29、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成29年7月に家庭内別居の状態となった後、本件犬(犬3匹)を購入したこと、本件犬は、被告が生活していた本件建物の2階部分で飼われており、被告が世話をしていたこと、本件犬は、本件建物の2階部分の床や布団の上などに排泄をすることがあったこと、本件建物の2階部分は、本件犬のふん尿等により、床・木枠・壁紙が経年劣化以上にいたみ、床板がささくれる、フローリング内部の素材が出る、木枠の角が剥がれて内部の素材が出る、壁紙に変色が生じるなどしたこと、ふん尿による汚れは床の下地にまで及んでいたこと、以上の各事実が認められる。

(2)そして、被告は、本件犬の飼い主であるから、本件犬のしつけや管理を適切に行い、ふん尿等で他人の財産を損傷しないように注意すべき義務を負っていたと認められる。しかしながら、上記(1)のとおり、ふん尿等による損傷が広範囲にわたっている上、本件建物の2階部分の床の下地が汚れるほどまでに本件犬のふん尿による損傷が生じたことに照らせば、被告は、本件犬について十分なしつけや管理をしていなかったと認められ、上記注意義務に違反したということができる。

 よって、被告は、本件建物に生じた損傷について、不法行為責任を負う。


(3)これに対し、被告は、本件犬は夫婦共有財産であり、原告にもしつけ等の責任があるし、損害賠償を求めることはできない旨を主張する。しかし、上記(1)のとおり、被告は、被告が生活する2階部分において本件犬の世話をしていたところ、原告と被告が家庭内別居の状態になっており、1階と2階に分かれて生活していたことに照らせば、原告・被告間の関係においては専ら被告が本件犬のしつけや管理をすべき責任を負っていたというべきである。そうすると、原告が夫婦共有財産として本件犬の所有権を有していたからといって、被告が不法行為責任を負わないことにはならない。

 また、被告は、原告が室内飼育を承認した以上は犬による汚損を受忍するべきであるし、汚損も室内飼育による通常の範囲内である旨を主張する。しかし、上記(1)のとおり、本件犬のふん尿等による損傷は本件建物の2階部分の広範囲にわたっているばかりでなく、その程度も床の下地に及ぶほどの大きなものであったことに照らせば、損傷の程度が犬の室内飼育における通常の範囲内のものであったとは到底認められない。そうすると、仮に原告が本件犬の室内飼育を承認していたとしても、原告が上記の程度の損傷についてまで受忍すべきであるとはいえないから、被告の上記主張を採用することはできない。
 その他被告が指摘する諸事情を考慮しても、上記(2)の結論は左右されない。

     (中略)

4 争点5(損害の有無及びその額)について
(1)離婚慰謝料
 前記1の検討のとおり、婚姻関係が破綻し離婚に至った原因は、性格の不一致や考え方の違いなどを基礎としつつも、主として被告の暴言や暴行にあること、その他本件に現れた諸事情を考慮すると、離婚慰謝料の額としては、100万円を認めるのが相当である。

(2)本件建物の損傷
 証拠(甲17、18)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件犬のふん尿等により生じた本件建物の2階部分の汚損について修繕工事を行い、199万1000円を支出したことが認められる。そして、経年劣化や通常損耗によるものがあることを考慮すると、その約50パーセントに相当する100万円について被告による不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。よって、損害額として同額を認める。

(3)弁護士費用
 上記(1)及び(2)の損害額、その他本件に表れた諸事情を考慮し、弁護士費用相当額の損害として20万円を認める。

5 まとめ
 以上によれば、争点3(本件念書は無効か。)について検討するまでもなく、被告は、原告に対し、各不法行為に基づき、合計220万円及びこれに対する不法行為日以降の遅延損害金の支払義務を負う。
 なお、被告は、原告による離婚慰謝料の請求は被告が財産分与を申し立てたことへの報復であって、信義則に違反し、権利の濫用である旨を主張するが、前記2(1)及び(2)で認定した諸事情に照らせば、信義則違反や権利濫用であると認めることはできない。

6 結論
 したがって、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるからその限りで認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部 裁判官 行廣浩太郎

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R 7- 5-22(木):失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した高裁決定紹介
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○「失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和6年11月19日東京高裁決定(判タ1530号105頁)全文を紹介します。

○原審審判では、婚姻関係の破綻について有責である配偶者が他方配偶者に対して同程度の生活を保障することを内容とする婚姻費用分担請求をすることは権利の濫用であるが、有責配偶者が生活に困窮している場合には、他方配偶者は有責配偶者に対する最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないとした上で、有責配偶者が生活に困窮していたとは認められないとして、その婚姻費用分担の申立てを却下しました。

○これに対し、抗告審は、抗告人が飲酒を止めず,相手方,相手方の親族,交流していた同僚ないし友人につき悪質な誹謗中傷をすることを執拗に繰り返したことにより,破綻に至ったもので、婚姻関係破綻の主な責任は,抗告人にあり、抗告人は,平成22年6月頃以降,相手方に生活費を交付せず,相手方が,抗告人との同居中の夫婦共同生活に必要な費用の大部分を負担し,別居後も自己と子らの生活費のほか,抗告人が居住する相手方名義の本件マンションの住宅ローンを負担し,抗告人は住居関係費を負担していないことから、相手方が後離婚請求訴訟を提起した後の婚姻費用分担請求は,権利の濫用として却下されるべきとしました。この事案の理由づけとしては、こちらの方が説得力があります。

**********************************************

主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
 別紙抗告状及び抗告理由書記載のとおり。

第2 当裁判所の判断(略語は,特に断りのない限り原審判の例による。以下同じ。)
1 当裁判所も,抗告人の相手方に対する婚姻費用分担の申立ては却下されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおり原審判を補正する(当審における抗告人の主張に対する判断を含む。)ほかは,原審判の「理由」中の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原審判1頁23行目の「一件記録」の次に「及び手続の全趣旨」を加える。
(2)原審判2頁25行目の「あった」の次に「(甲18)」を加え,同行目の「頃」」を「29日」に改め,26行目の「甲7」の次に「,12」を加える。

(3)原審判3頁1行目の「自己都合」の次に「(定年)」を加え,5行目から6行目にかけての「から令和5年7月26日まで傷病手当を」を「以降,傷病手当を請求し,療養期間を令和2年10月29日からとする傷病手当を令和4年5月12日以降」に,7行目の「約195万円(推計)である」を「令和5年6月30日までの療養期間の分が約173万円であった」に,12行目の「で当直等をしている」を「に勤務している(乙81)」にそれぞれ改め,25行目末尾の次に「(乙77~79,104~106)」を加え,26行目の「12月」を削り,4頁3行目の「続けている」の次に「(乙4)」を加える。

(4)原審判4頁13行目の「同人と同程度の生活を保障することを内容とする」を「自身の生活費に当たる分につき」に改め,15行目冒頭から18行目末尾まで,19行目の「まず,」をいずれも削る。

(5)原審判4頁21行目冒頭から6頁8行目末尾までを次のとおりに改める。
 「前記1の認定事実,一件記録及び手続の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 相手方は,平成19年*月に抗告人と婚姻後,同年*月に長男,平成22年*月に二男を出産し,それぞれ育児休業を取得した後,長男及び二男(以下,併せて「子ら」ともいう。)をいずれも勤務先病院附属の保育所に預けて産婦人科医の職務に復帰したが,出産後,相手方の叔母らに手伝いをしてもらうため,同人らを自宅に宿泊させたことがあり,また,相手方の父が仕事のために東京に来た時や,相手方の弟が遊びに来たときに自宅に同人らを宿泊させていた(乙3)。

 抗告人は,平成20年頃から,相手方が親族を自宅に宿泊させること,長時間勤務をすること,職場の看護師らと飲み会に参加することについて快く思わず,相手方を責めていたが,平成22年6月頃からは,相手方に生活費を渡さなくなり,同年*月の二男出生後,平成24年5月31日まで育児休業を取得したが,平成23年頃から飲酒量が増え,相手方を責める頻度が高くなったことから,相手方は,平成23年7月,子らを連れて自宅を出て抗告人と別居した。抗告人は,平成24年3月頃,相手方に対し,抗告人がアルコール依存症である旨を告げ,アルコール依存症の治療に取り組む旨約しながら,戻ってきてほしいと電話したことから,相手方は,同月頃,子らを連れて自宅に戻って抗告人と同居し,抗告人は,アルコール依存症専門外来に通院を始めた。(甲18,乙3,8,手続の全趣旨)

 その後,相手方は,相手方の父,弟,叔母らを自宅に宿泊させることを止め,勤務時間を短縮し,飲み会への参加を控えるようになり,抗告人は,約1年間アルコール依存症専門外来に通院した。しかし,相手方が子らを公立中学に進学させる意向であったのに対し,抗告人は私立中学に進学させる意向であったことから,抗告人は,平成27年12月頃以降,相手方の親族が「貧困一族」,「貧困血族」であり,相手方の経済的援助に依存しており,相手方がその親族に経済的援助をすることを優先して,子らの教育を顧みないなどとして,「貧困親戚とは縁を切れ。」,「我が家の生活がうまく行かない原因は,あなたの父親の姉妹と弟の貧困なんだよ。」と相手方に相手方の親族と交際しないことを求め,平成28年8月頃からは相手方が見ているところで飲酒するようになり,さらに,相手方は馬鹿だから教育も受験勉強に対応できない,相手方と相手方の弟は異常な自閉症姉弟で,相手方の弟はコミュ障で,相手方の父は詐欺商売を行っているなど,あるいは外国人に対する侮蔑的表現を弄しながらそれに相手方を擬えて(乙6),相手方や相手方の親族を侮辱し,相手方が勤務先の看護師と飲酒したことにつき「きったねぇ貧困女」が集まって飲酒しているなどと侮辱的な言葉を用いて非難するメッセージを繰り返し送るようになった(乙6~9,21~24)。

 相手方は,このような抗告人のメッセージに対し,「アルコール依存症ほど,家族に迷惑をかける最低の人間はいないが,お前はアルコール依存症とは関係なく最低だ。」(乙9)などと伝えたり,相手方がアル中でコミュニケーション障害である旨を伝えた(乙26,27)こともあったが,基本的に丁寧語を保ち,離婚と自宅から出ていくことを求めるメッセージを送っていた。抗告人は,相手方に対し,長男が中学生になったら離婚したいなどと伝えるメッセージを送ったこともあった(乙25)が,相手方が繰り返し抗告人に離婚についての意向を表明するよう求めても,これに回答せずに相手方と相手方の親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱するメッセージを送り続けた(乙6~14,25~27)。

 抗告人と相手方は,平成29年3月8日,子らの叱り方を巡って口論になり,相手方が110番通報しようとしたところ,抗告人は,相手方の背部を平手で何度も叩き,相手方の110番通報を受けて警察官が臨場する事態となり,相手方は,これを契機に子らを連れて本件マンションを出ていったが,二男の卒園式が迫ったこと,抗告人が飲酒したら離婚する旨の誓約書を書くと申し入れたことを契機に,同年24日に本件マンションに子らを連れて戻った(乙3,5,41)。

 その後も,抗告人は,相手方に対し,相手方は馬鹿だから子らの教育,受験勉強は無理である旨や,相手方とその弟は異常な自閉症姉弟で,相手方の父は詐欺商売をしている(乙17)などと,相手方やその親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱したり,相手方の離婚要求を「離婚好きですよね」などと揶揄するメッセージや,「一族は底辺だから子供らは父無しの底辺に育つのだろう。」(乙29),「非行街道まっしぐら」(乙29)などと子らに係る侮蔑的な内容を含むメッセージ,あるいは明確な差別用語を用いた言辞を相手方及びその親族に投げつけたりするメッセージ(乙17)を送り続け(乙15~18,28~33),相手方は,平成30年3月22日,子らを連れて本件マンションを出ていき,以後,別居を継続している(乙3の1・2)。

 抗告人は,前記別居後も,相手方に対し,抗告人と子らとは関係ないから,相手方が父子交流を望んでいるかもしれないが,子らが亡くなっても連絡不要である旨の伝えた後,子らとの交流を求める(乙34,35)など,矛盾する申入れをしたり,慰謝料として本件マンションを渡すよう申入れ,相手方やその親族,交流していた同僚ないし友人を侮辱するメッセージやメールを送った(乙19,20,34~40)。

イ 抗告人は,相手方が抗告人に暴力をふるっており,平成29年1月18日には,相手方の暴力により肋骨を折る重傷を負った,平成28年10月末から平成29年2月末まで約4か月間休職していた際に,相手方から詐病と言われた,病気に関して,使いものにならないとか,抗告人が家事をやらなかったら結婚している意味がないとか暴言を浴びせられた,自宅から締め出されたなどと供述する(乙3の2)が,抗告人の退職手当裁定通知書(甲18)上,抗告人が休職したのは,平成30年1月23日から同年2月28日まで,令和3年1月27日から令和6年1月15日までのみであり,抗告人の主張内容を客観的に裏付けるに足りる資料はない。

ウ 前記アの認定に反する抗告人の主張部分,供述部分(乙3の2)は,抗告人の他の供述部分に係る供述内容(乙3の2),資料(乙6~40)に照らし,採用しない。

(3)前記(2)ア認定の事実経過によれば,抗告人と相手方の婚姻関係は,遅くとも平成23年には相手方が子らを連れて別居するなど,悪化したが,平成24年には抗告人がアルコール依存症の治療を受けることを表明して相手方に関係の修復を求め,相手方も抗告人が不満を有していた長時間勤務と飲み会の参加を控え,親族の本件マンションへの宿泊を行わないようにしたことにより,一旦修復に向かったものの,平成27年頃以降,子らの中学進学に対する意向の相違を契機に悪化し,抗告人が飲酒を止めず,相手方,相手方の親族,交流していた同僚ないし友人につき悪質な誹謗中傷をすることを執拗に繰り返したことにより,破綻に至ったと評価すべきであり,婚姻関係破綻の主な責任は,抗告人にある。

 その過程で,相手方が抗告人に対してアルコール中毒である旨やコミュニケーション障害である旨を伝えるなどしたこともあったが,その前の抗告人の言動を受けてのものであって,相手方の言動は,夫婦間の諍いにおける言動としてやむを得ない面があるものと評価できるのに対し、抗告人の言動は,相手方のみならず相手方の親族,同僚ないし友人,子らも含めて執拗に,悪質な誹謗中傷をしながら侮辱するものであって,子らの進学先について相手方と抗告人の意向が対立していたことを前提としても,婚姻関係継続中の相手方に対する言動として,受忍を求め得る限度を超えたものであると評価せざるを得ないし,仮に相手方がその親族を自宅に宿泊させたり,長時間労働をして看護師らと多数回の飲み会を行ったりするなどしていたとしても,かかる抗告人の言動についての評価が変わるものでもない。

 こうした婚姻関係破綻の原因及びその重大さに加えて,抗告人は,平成22年6月頃以降,相手方に生活費を交付せず,相手方が,抗告人との同居中の夫婦共同生活に必要な費用の大部分を負担し,別居後も自己と子らの生活費のほか,抗告人が居住する相手方名義の本件マンションの住宅ローンを負担し,抗告人は住居関係費を負担していないことも考え合わせれば,相手方が前記の経緯の後離婚請求訴訟を提起した後に婚姻費用の分担を求めた抗告人の本件請求は,権利の濫用として却下されるべきである。
 
(4)抗告人は,原審の審理につき,審問の機会を与えられなかった旨主張するが,原審においては,当事者間の離婚訴訟における両者の本人尋問調書(乙3の1・2)が資料として提出されており,婚姻関係破綻の有無,有責性に係る事実につき,反対尋問を経た供述内容の資料があるのに,重ねて当事者本人審問を行う必要性を認めるに足りる事情は見当たらないから,原審の審理が手続的に相当性を欠くものであるとは認められず,抗告人の前記主張は,前記認定判断を左右するものではない。」

2 抗告人のその余の主張についても,その前提を欠くものであるなど,上記1(補正後の引用に係る原審判第2の1及び2)の認定判断を左右するものとは認められない。

3 よって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 佐々木宗啓 裁判官 古谷健二郎 裁判官 森岡礼子)

別紙 抗告状〈省略〉
抗告理由書〈省略〉

以上:5,369文字
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R 7- 5-21(水):失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した家裁審判紹介
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○夫である申立人は、令和2年10月頃からうつ病でD市公務員職を病気休暇し、令和3年1月から休職し、令和6年1月に退職して令和4年以降殆ど収入がなくなっており、産婦人科医師で令和4年約1904万円、令和5年約2034万円の収入がある妻に婚姻費用の分担を求め、相手方の妻は、申立人が有責配偶者であるとして,申立人による婚姻費用分担請求は信義則に反し,権利の濫用に当たるから,認められないと主張しました。

○これに対し、離婚が成立するまでは,あくまで法律上夫婦としての地位を有するのであるから,夫婦の一方が生活に困窮している場合には,その他方は,これを放置すべきではなく,少なくとも最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないとしながら、申立人の収入は,令和3年以降,令和元年ないし2年当時と比較して大幅に減少してが,令和4年1月から令和5年7月まで非課税の傷病手当を受給し、令和5年8月以降,定期的な収入は得ていないが,令和6年2月には約1938万円の退職手当を受給し,本件マンションに居住し,その住宅ローンは相手方が返済し続けていたことから、申立人のうつ病が遷延していることを考慮しても,一人暮らしの申立人が生活に困窮していたとは認められないとして、申立を却下した令和6年9月24日水戸家裁土浦支部審判(判タ1530号109頁)関連部分を紹介します。

○申立人は東京高裁に抗告していますが、別な理由で抗告を棄却されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は,各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 本件は,夫である申立人が,別居中の妻である相手方に対し,婚姻費用の分担を求めた事案である。
 なお,申立人と相手方は,本件審判手続に移行する前の婚姻費用分担調停(以下「本件婚姻費用分担調停」という。)係属中の令和6年5月10日に裁判離婚した。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和38年*月*日生)と相手方(昭和45年*月*日生)は,平成19年*月*日に婚姻した。
 申立人と相手方との間には,長男A(平成19年*月*日生。以下「長男」という。)及び二男B(平成22年*月*日生。以下「二男」という。)がいる。

(2)相手方は,平成30年3月22日,長男及び二男を連れて,自宅(申立人肩書地所在のマンション(以下「本件マンション」という。))から出て行き,以後,申立人と別居している。

     (中略)

(5)申立人は,昭和62年4月から平成17年3月までC町に,同月からD市に勤務する公務員であったが,うつ病により,令和2年10月頃から休養・加療を要する状態となり(甲7),病気休暇を取得し,令和3年1月27日から休職し,復職しないまま,令和6年1月15日に自己都合退職した(甲18)。申立人は,その後,就職しておらず,年金も受給していない。

 申立人の給与収入は,令和元年が約717万円(甲14),令和2年が約695万円(甲15)、令和3年が約462万円(甲2),令和4年が約28万円(甲16)である。申立人は,令和4年1月27日から令和5年7月26日まで傷病手当を受給しており,令和4年分の受給額は約322万円,令和5年分の受給額は約195万円(推計)である(甲17参照)。また,申立人は,令和6年2月29日,退職手当として約1938万円を受給している(甲18)。
 申立人は,相手方との別居後,本件マンションで一人暮らしをしている。 

(6)相手方は,産婦人科の医師であり,E病院に勤務するほか,産婦人科のクリニックで当直等をしている。
 相手方の給与収入は,令和4年が約1904万円(甲11,乙61),令和5年が約2034万円である(乙81,107)。
 相手方は,申立人との別居後,相手方肩書地所在の賃貸住宅で,長男及び二男と3人で暮らしている。

     (中略)

2 検討
(1)夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。
 この点に関し,相手方は,申立人が有責配偶者であるとして,申立人による婚姻費用分担請求は信義則に反し,権利の濫用に当たるから,認められない旨を主張する。

 別居ないし婚姻関係の破綻について専ら又は主として責任がある者は,夫婦の協力義務を果たしていないといえ,このような者が,夫婦の他方に対し,同人と同程度の生活を保障することを内容とする夫婦の扶助義務の履行ないし婚姻費用分担を請求することは,権利の濫用として許されるべきではない。しかし,離婚が成立するまでは,あくまで法律上夫婦としての地位を有するのであるから,夫婦の一方が生活に困窮している場合には,その他方は,これを放置すべきではなく,少なくとも最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないと解するのが相当である。

(2)そこで,まず,別居ないし婚姻関係の破綻についての申立人の有責性について検討する。
ア 一件記録によれば,申立人は,相手方の働き方や,相手方の親族との交際の仕方等に不満を持ち,平成20年頃から,飲酒の上で,相手方や相手方の親族に対する暴言を吐くようになったこと,平成23年7月頃,その頻度が高くなったことから,相手方は,長男及び二男を連れて家を出ていったこと,申立人が,平成24年3月,アルコール依存症であると告白し,治療を受け,断酒に努める旨約したことから,相手方は,同年4月,申立人との同居を再開したこと,申立人は,遅くとも平成27年12月頃から,相手方に対し,相手方や相手方の親族を誹謗する悪辣な内容のメッセージを繰り返し送信し,これを受けて,相手方が,申立人に対し,離婚を望む旨のメッセージを繰り返し返信していたこと,申立人は,平成29年3月8日,長男及び二男への叱り方を巡って,相手方と口論をした際,相手方の背部を平手で何度も叩く暴力を振るい,相手方の110番通報により,警察官が臨場する事態となったこと,相手方は,これを契機に長男及び二男を連れて本件マンションを出ていき,相手方の親族の家に身を寄せていたが,二男の卒園式が迫り,申立人が,飲酒をしたら離婚する旨の誓約書を書くと申入れたことなどから,同月24日に申立人との同居を再開したこと,相手方は,申立人が相手方の面前で飲酒し,酔って相手方に暴言を吐く状態が続いていることに耐えきれなくなり,平成30年3月22日,長男及び二男を連れて本件マンションを出ていき,その後,別居状態が解消されないまま,裁判離婚に至っていることが認められる。

イ また,一件記録によれば,相手方は,平成24年4月に申立人との同居を再開した後,当直勤務の同数を減らし,勤務先の飲み会への参加を控え,相手方の親族を申立人と相手方の住居に宿泊させないなど,申立人の相手方に対する不満を解消するための配慮をしてきたことが認められる。

 上記ア認定の事実経過に,上記イ認定の事情も併せて考慮すれば,申立人が,飲酒をやめず,相手方に暴力を振るい,相手方に対し,相手方や相手方の親族に対する暴言を繰り返したことにより,平成30年3月22日の別居及びその後の婚姻関係の破綻に至ったといえるから,その責任は,主として申立人にあると認めるのが相当である。

(3)次に,申立人が生活に困窮していたかを検討する。
 一件記録によれば,申立人が,平成22年6月以降,相手方に生活費を渡さなくなり,その分を貯蓄していること,申立人の収入は,令和3年以降,令和元年ないし2年当時と比較して大幅に減少しているものの,休職中は職業費が不要である上,令和4年1月から令和5年7月まで受給していた傷病手当は非課税であること,申立人は,令和5年8月以降,定期的な収入は得ていないが,令和6年2月には約1938万円の退職手当を受給していること,申立人は,本件マンションに居住し,その住宅ローンは相手方が返済し続けていたことが認められ,このような申立人の収入及び資産状況からすれば,申立人のうつ病が遷延していること(甲7)を考慮しても,一人暮らしの申立人が生活に困窮していたとは認められない。

(4)以上によれば,相手方が申立人に対して婚姻費用分担義務を負うとは認められず,申立人による婚姻費用分担請求は理由がない。


3 よって,主文のとおり審判する。
以上:3,502文字
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