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ご訪問有り難うございます。当HPは、私の備忘録を兼ねたブログ形式で「桐と自己満足」をキーワードに各種データを上記14の大分類>中分類>テーマ>の三層構造に分類整理して私の人生データベースを構築していくものです。
なお、出典を明示頂ければ、全データの転載もご自由で、転載の連絡も無用です。しかし、データ内容は独断と偏見に満ちており、正確性は担保致しません。データは、決して鵜呑みにすることなく、あくまで参考として利用されるよう、予め、お断り申し上げます。
また、恐縮ですが、データに関するご照会は、全て投稿フォームでお願い致します。電話・FAXによるご照会には、原則として、ご回答致しかねますのでご了承お願い申し上げます。
     

R 7-12-16(火):週刊ポスト令和7年12月26日号”棺桶まで自分で歩く”紹介
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○週刊ポスト令和7年12月26日号に2000人の最期を看取った体験から見えた答え在宅ケアの名医萬田緑平医師「棺桶まで自分で歩く力をつけよう」都の記事が掲載され、大変、分かりやすく参考になりました。令和7年11月刊同医師著「棺桶まで歩こう」(幻冬舎新書)の要約版で、早速、Amazonに注文しました。以下、その備忘録です。

・根性と気力
歩くスピードと歩幅で余命が測れる
スタスタと歩ける人なら10年以上、椅子から腕を使わず立ち上がれるなら1年以上、ちょこちょこ歩きなら余命数年
自宅で最後まで家族や友人と一緒に笑い好きな物を食べ、「ありがとう」と言って逝くケースは日本人の1割に満たない
日本の医療現場は超延命治療で本人の意思とは無関係にただ「生かされている」患者が多数

自分で歩くことの重要性-歩くために必要なのは筋肉だけでなく、「根性」と「気力」換言すれば「脳の若さ」
がんでも他の病気でも亡くなる直前まで自分で歩けていた人こそ「ピンピンコロリ」と呼ぶに相応しい

・背筋を伸ばす
歩くために重要なことは体幹の筋肉と持久力
座る・立つ・歩くためには「背筋を伸ばす」必要、この時に使うのが体幹の筋肉と持久力
体幹の筋肉と持久力を鍛えるには、何かにもたれかからすに、背筋を伸ばして座っている時間をできるだけ長くする
背筋を30分伸ばして座っていられる人は30分歩くことができる

歩行時に背筋をビシッと伸ばし、できるだけゆっくり、大股で歩くこと、ちょこちょこ歩きは歩けなくなる一歩手前
大股でゆっくり歩けるなら、おしりの筋肉を使って歩くことを意識する
※スタスタ歩くと大股でゆっくり歩くのは矛盾-この辺りは著作で確認
歩ける筋肉をつけるにはタンパク質が重要、プロティンを積極的にのむのもよい

・入院でピンピンコロリが遠のく
死ぬまで幸せに生ききるためには歩くことと同じくらい「病院で最期を迎えない」ことが重要
入院すると「ピンピンコロリ」は遠のく、高齢者は入院でせん妄症状が出て認知症になりやすい
自宅に帰ってせん妄症状がスッカリ治まるケースが多数

「薬の飲み過ぎ」に注意-降圧剤・高脂血症・糖尿病薬により生きながらえてもその先は認知症
歩くことで高血圧・高脂血症・糖尿病を予防・改善につなげる-歩けることは脳が若いので認知症になりにくい

自分の足で歩き、自らの意思で最期を決めるのが「生ききること」
他人に棺桶に入れられるのではなく、自分で歩いて棺桶に入るのが理想の最期


○これまで、胸を張って背筋を伸ばし、スタスタ早歩きすることを意識し、さらに薬は可能な限り飲まない、ワクチンも一切摂らないをモットーとしてコロナワクチンもインフルエンザワクチンも摂ったことがありません。この記事で、その意をさらに強くしました。ゆっくり大股で歩くのとスタスタ歩きのどちらが良いのか、この著作が届いたらシッカリ確認します。大股でスタスタ歩くのが良いかも知れません。
以上:1,195文字
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R 7-12-15(月):映画”栄光のバックホーム”を観て-横田慎太郎氏の生涯に感動
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○令和7年12月14日は早朝午前8時10分からTOHOシネマズ仙台5番シアターで映画「栄光のバックホーム」を観てきました。日本語字幕付で上映されていたからです。聴覚障害者の私は、難聴者用ヘッドホンをつけても邦画の日本語が半分しか認識出来ず、邦画は日本語字幕付でないと鑑賞できません。そこでTOHOシネマズ仙台HPの上映スケジュールで日本語字幕付邦画を探すのですが、なかなか見当たりません。今般、TOHOシネマズHPトップに日本字幕ニュースがあるのに気付きました。「TOHOシネマズでは、耳の不自由な方に映画を楽しんでいただけるよう、期間限定で「日本語字幕付き上映」を行っております。」と説明されており、日本語字幕付映画とその上映館・上映スケジュールが掲載されています。映画「栄光のバックホーム」は、令和7年12月14日現在3番目に掲載されていました。

○現在上映中の映画「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」も日本語字幕付で鑑賞したいのですが、残念ながら、上映館は東北ではTOHOシネマズ秋田だけで、仙台では上映されていません。TOHOシネマズ秋田は日本語字幕付映画の殆どに上映館と掲載されているのに、TOHOシネマズ仙台は半分も上映館になっていないのが残念なところです。映画「新解釈・幕末伝」は、来年1月3~6日の4日間だけTOHOシネマズ仙台でも日本語字幕付で上映されるので鑑賞しようと思っています。

○さて映画「栄光のバックホーム」ですが、映画コムでは「阪神タイガースにドラフト2位で入団し、将来を期待されながらも、21歳で脳腫瘍を発症して引退を余儀なくされた元プロ野球選手・横田慎太郎の軌跡を、松谷鷹也と鈴木京香の主演で映画化。」と説明されていますが、涙・涙の連続映画でした。横田慎太郎選手は実在の人物で実話の映画化ですが、私は全く知りませんでした。折角、恵まれた体躯と極めて高い身体能力を持って生まれついたのに21歳で脳腫瘍を発症し、一時は緩解しても、まもなく再発し、さらに再々発を繰り返し、脊髄にまで転移し、その闘病生活の物語でもあります。

○8ヶ月の未熟児として生まれた私は、生まれながらにして「蒲柳の質」即ち虚弱体質でしょっちゅう病気ばかりしており、特に幼児時代から高校時代まで煩った両耳の中耳炎によって聴覚障害者となり、現在6級の身体障害者に認定されている私は、涙ぐましい健康努力を継続していることもあり、幸い腫瘍などの大きな病気は発症せず、70代半ばの現在まで生き延びています。この横田慎太郎氏は3歳から野球を始め、高校野球部では大活躍し、ドラフト会議で2位指名を受けた阪神に入団し、さあ、これからだという21歳の若さで脳腫瘍を発症し、その後の人生が一転します。

○腫瘍(しゅよう)とは、体内の細胞が異常に増殖してできた「細胞の塊」の総称でその中で悪性のモノがガンと呼ばれるとのことです。横田氏の症状は腫瘍と説明されていましたが、神は、何故、元気な若者に対し腫瘍を繰り返し発症させて生命を奪ってしまうのか。大きな不条理を感じる映画でした。しかし世の中には腫瘍に限らず生まれつき或いは幼少時から身体に障害を抱えて懸命に生きている方々も大勢居ます。横田氏は腫瘍でプロ野球選手引退後もこのような方々を元気づける講演等を継続する努力をし懸命に生きたことが評価されています。

○映画としてはちと首をかしげる面もありましたが、実在の横田慎太郎氏の真摯に生きた生涯には大いに感動させられました。

『栄光のバックホーム』予告編-スペシャルロングバージョン【11月28日公開】


以上:1,475文字
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R 7-12-14(日):グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介2
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○「グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介1」の続きで、令和7年7月23日東京高裁判決(LEX/DB)の理由部分後半を紹介します。

○高裁判決でも投稿記事目録内容は省略されていますが、原審判決と控訴審判決の内容から
本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」、「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」、「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」
本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をした
となっています。

○高裁判決は
本件記事1については、
控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させる
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はない
として、

本件記事2については、
虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるもので、
公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められるが、摘示事実は、事実に反している可能性が高く、その重要な部分が真実であることをうかがわせる事情ははない
本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない

との理由で、いずれも削除を認めました。

○原審判決は、投稿記事で摘示された事実の不存在について、投稿された医師に立証責任がある如く読めるもので、投稿された側には極めて厳しすぎる判決であり、高裁判決の判断が妥当と思われます。

*********************************************

主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、歯科医院の院長である控訴人が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに、同歯科医院についての口コミとして投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたとして、Googleマップを運営する被控訴人に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求めた事案である。
 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

1 判断の枠組みについて

     (中略)

2 本件記事1について
(1)
ア 本件記事1は、「レントゲンも撮らずに、銀歯の下を見てみるしかないと言われ・・・銀歯を取られそうになりました。・・・」との記載の後に「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました」との記載があり、以上の記載を併せて一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準としてみると、控訴人が、レントゲンを撮らず、事前に説明を行うことなく銀歯(被せ物。以下同じ。)を取り歯を削ろうとしたことを主張するものと解され、事実を摘示したものと認められる。

 そして、本件記事1の投稿者の診察当時の客観的な症状等は明らかでないものの、本件記事1において、上記記載に続けて「その後違う歯医者で診ていただき、レントゲン撮影後、銀歯は取る必要ないとの判断でした。」との記載があり、これを前記記載と併せて読むと、上記摘示事実は、一般の閲覧者に対し、控訴人は、レントゲン検査を行えば、銀歯を取る必要があるかどうかについて適切な判断を行えたにもかかわらず、レントゲン検査を行わずに銀歯を取ろうとするなど不適切な診療を行う歯科医師であるとの印象を与えるものであり、控訴人の社会的な評価を低下させると認められる。

イ 被控訴人は、歯科医師の説明や検査が十分かどうかは投稿者による主観的な評価に過ぎず、また、社会的評価の低下を認めるためには、一般の閲覧者が一定程度信用する具体的な事実の記載があることが必要であるところ、本件記事1には具体的な事実は記載されていないから、社会的評価を低下させない旨主張する。

しかし、本件記事1には「十分な説明、検査なしに」、「もう行きません」などの投稿者の意見や感想等を記載したと読める部分もあるものの、上記アに挙げた記載も含め、患者と控訴人との口頭のやり取りを含む控訴人の言動等を記載したと読める部分があり、閲覧者は、前記の摘示された事実については、投稿者が体験した診療の経過を記載したものとして読むと認められるのであり、上記アに説示するとおり、本件記事1は控訴人の社会的評価を低下させるものと認められるから、被控訴人の前記主張は採用できない。

 また、被控訴人は、本件サイトには本件歯科医院について好意的な評価も多数あることを指摘するが、同時に好意的な評価が多数掲載されているかどうかは、閲覧する時点によって変わり得ることであるし、本件サイトは、ネットユーザー一般が、利用する施設の選択等のための情報を手軽に収集するために閲覧するものであり、前記1(2)イ(イ)説示のとおり、閲覧者は、必ずしも対象者に関する口コミを一つ一つ熟読して、他の口コミと読み比べたり、投稿者の特性や背景等を想定したりしながら、子細に検討するわけでもなく、短時間で全体として目を通すのが一般的と考えられることも考慮しても、本件記事1は、他の多数の口コミの中にあってもなお、控訴人の社会的評価を低下させると認められるから、被控訴人の上記指摘は失当である。

(2)次に、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事1の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、治療前に問診、視診、検査(口内写真及びエックス線写真撮影)という手順を踏むことが記載されており、この記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の記載に係る事実が認められる。また、控訴人において、特定の患者について、上記の通常の診療に係る手順をあえて変更して、何ら検査をせずに銀歯を取ろうとするような事態は、通常想定し難い。そうすると、本件記事1について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

イ 被控訴人は、甲27は一般的な治療の流れを述べたにすぎず、それから外れた治療が行われる可能性を排斥するものではない、歯の状態や歯科医師の知識・経験等を踏まえ即座に治療しようとすることが不自然とはいい難く、また、本件歯科医院に対する口コミには治療に当たって説明がなかった旨のものが複数あるから、本件記事1が真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、控訴人において、通常の診療手順と異なる診療を行うことが考え難いことは上記アに説示するとおりである。また、本件歯科医院に対する他の口コミの中には、説明も断りもなく歯を削り出したとか説明が分かりにくいなど本件記事1と同旨のものがあるが(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において,他の口コミが有する証拠の価値は低いというべきであるし、低い証拠価値であることを前提としても、本件においては、他方で、患者の話を丁寧に聞いてしっかり説明してくれる、病状や治療方針を分かりやすく説明してくれるなどの、対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事1の削除請求は、理由がある。
 

3 本件記事2について
(1)原判決「3 本件記事2について」の(1)は、6頁15行目の「(1)」を「(1)ア」に改め、同頁20行目末尾に改行の上、次のとおり加えるほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。

「イ 被控訴人は、本件記事2には具体的事実は記載されていないから、一般の閲覧者が直ちにその内容を信用するとはいえないし、治療の経緯等によっては必ずしも不適切でなかった場合も想定され、社会的評価が低下するとはいえない旨主張する。

しかし、本件記事2が事実を摘示するものであることは、上記アに説示するとおりであって、具体的事実が記載されていないとはいえない。また、仮に治療の経緯等によっては虫歯を残したまま被せ物をする事態があるとしても、本件記事2の閲覧者はそのような読み方はせず、虫歯を残したまま被せ物をしてはいけない状況であるにもかかわらず、被せ物をしたものとして読むと考えられ、控訴人の社会的評価は低下すると認められるのであるから、被控訴人の上記主張は採用できない。」

(2)原判決「3 本件記事2について」の(2)及び(3)を、次のとおり改める。
「(2)違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないと認められるかについて、以下検討する。
ア 本件記事2の投稿は歯科医師による治療行為に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。
 真実性については、控訴人の陳述書(甲27)は、控訴人は、通常、施術後に虫歯の削り残しがないか入念にチェックしていること、治療後に本件歯科医院に対し、削り残しがあるのに被せ物をされたという趣旨のクレームが寄せられたことはないことがそれぞれ記載されており、これらの記載が虚偽のものであることをうかがわせる事情は認められないから、同陳述書により前記の各記載に係る事実が認められ、そうすると、本件記事2は事実に反している可能性が高く、本件記事2について、その摘示事実の重要な部分が真実であることをうかがわせる事情はないと認められる。

 なお、真実性をうかがわせる事情がないと判断された場合であっても、サイト運営者においてはこの点についての反証が可能であり、実際にサイト運営者において投稿者に連絡をして反証を行うかどうかは、サイト運営者の判断に委ねられているというべきである。また、投稿者の本件歯科医院における治療時期や治療内容は明らかでなく、本件歯科医院における治療後に歯が痛み出して別の歯科医で治療を受けるまでの経緯等も明らかでないが、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者に虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、前記の各事情が明らかでないことにより、真実性についての前記の判断が左右されるものではない。

イ 被控訴人は、本件記事2に記載された事実の反真実性を立証する客観的な証拠は何ら提出されていない、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことは多いとされており(乙32)、本件歯科医院においても虫歯が残ったまま被せ物をした可能性を否定できない、本件歯科医院に対する口コミには歯科医師等の技術が乏しい旨の口コミが複数あるから、本件記事2の記載は真実であることがうかがわれるなどと主張する。

しかし、本件記事2は、本件訴え提起(令和5年12月21日)の4年前に仮名で投稿されたものであり(甲3)、本件歯科医院における治療時期や治療内容が明らかでないから、被控訴人において投稿者に意見照会をするなどして、これらについての手がかりが得られない限り、控訴人において、本件記事2の投稿者に係る医療記録等の客観証拠を提出することはおよそ不可能であり、そのような状態で投稿者に客観的証拠の提出を求めることは相当ではない。

また、被控訴人が主張するように、虫歯菌が残ったまま詰め物等をしてしまうことが多いとしても、前記(1)ア説示のとおり、本件記事2は、本件歯科医院の歯科医師は、投稿者において虫歯菌ではなく虫歯が大きく残っている状態で、その歯に被せ物をしたという事実を摘示したものと認められるのであるから、被控訴人の主張はその前提を欠き失当である。さらに、本件歯科医院又は対象者について医療の技術がないという趣旨の口コミが複数投稿されていることが認められることについては(乙36)、口コミが摘示する事実の真実性を検討する場面において、他の口コミが有する証拠価値は低いというべきであるし、低い証拠価値を前提にしたとしても、本件においては、他方で、対象者による治療が的確で信頼できた、対象者にとても丁寧に処置してもらえたなどの対象者に肯定的な口コミも複数存在することが認められるのであり(乙36)、以上を総合して考慮すると、被控訴人の上記主張は採用できない。

(3)したがって、本件記事2の削除請求は、理由がある。

4 以上の認定、判断は、その余の被控訴人の主張によって左右されるものではない。

第4 結論
 以上のとおり、前記第3の判断と異なり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は失当であって、控訴人の控訴は理由があるから、原判決を取消して控訴人の請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官 古谷恭一郎 裁判官 間史恵 裁判官 島村典男

別紙 投稿記事目録(省略)
以上:5,671文字
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R 7-12-13(土):グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を認容した高裁判決紹介1
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○「グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を棄却した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和7年7月23日東京高裁判決(LEX/DB)の理由部分前半を紹介します。長い判決なので2回に分けて紹介します。

○歯科医院の院長である控訴人(原告)が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに、同歯科医院についての口コミとして投稿された各記事により名誉権を侵害されたとして、Googleマップを運営する被控訴人(被告)に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求め、原審が控訴人の請求をいずれも棄却しました。

○そこで控訴人歯科医院院長がが控訴した事案で、高裁判決は、判断の枠組みについた概要以下の通り判示しています。
・口コミサイト記事の投稿により対象者の社会的評価が低下すると認められるときは、違法性阻却事由(公共利害関連性、公益目的、真実性)が認められない限り、対象者は、対象者の人格権としての名誉権侵害を根拠に、サイト運営者に対して、同記事の削除を請求できる
・対象者が、クチコミサイト上の口コミにおける表現が名誉毀損に該当するとして、サイト運営者に口コミの削除を求める場合、違法性阻却事由(公共利害関連性、公益目的、真実性)の存在をうかがわせる事情がないことを、対象者において主張立証する必要がある

○その上で本件記事1・2について削除請求が認められるかどうかを判断しており、別コンテンツで紹介します。

*********************************************

主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

 主文同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、歯科医院の院長である控訴人が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに、同歯科医院についての口コミとして投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたとして、Googleマップを運営する被控訴人に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求めた事案である。
 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

2 前提事実及び当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

1 判断の枠組みについて
 原判決5頁15行目から21行目までを次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから、これを引用する。
「(2)
ア 本件における判断の枠組み
 特定の人や組織等を評価、批評等の対象とする口コミを記載した記事(以下、同記事を単に「口コミ」ということがある。また、その対象とされる人や組織等を以下「対象者」という。)が口コミサイトに投稿された場合において、同投稿における表現が対象者に関する特定の事項についての具体的な事実を摘示するものであると解され、同記事の投稿により対象者の社会的評価が低下すると認められるときは、違法性阻却事由が認められない限り(違法性阻却事由の主張立証責任については後のイで検討する。)、対象者は、対象者の人格権としての名誉権侵害を根拠に、サイト運営者に対して、同記事の削除を請求できるものと解することが相当である。このように解する理由は以下のイに説示するとおりである。

イ 口コミサイトの特性と機能及び対象者の採り得る対抗手段の実効性等並びにそれらを踏まえた判断枠組みの検討
(ア)口コミサイトは、そのアカウントを有するものであれば誰でも自身で直接投稿を行うことができ、投稿されれば直ちに公表される性質を有しており、かつ、同サイトの口コミの多くは匿名や仮名で投稿されていることから、より自由な表現が可能となる面を有しており、その利用者は通常の自身の行動範囲では得られないような情報や意見に接する機会を持つことができ、また、消費財等の購入やサービスの利用等の際のリスクの軽減にも資する機能を持っている(乙1,7,8)。一方、新聞等の出版物においては、記事の公表前にその作成者以外の者の目を通る機会があり、かつ、当該記事についての責任の所在が明確であることに対し、口コミサイトにはそのような性質はなく、容易に対象者の名誉や信用を毀損することが可能であるという面も有している。

(イ)口コミサイトの主な利用者(閲覧者)は、サイトに掲載された施設等を利用することを検討している者であると考えられるところ、その閲覧者は、関心を有する施設等について多数の口コミが掲載されている場合、個々の口コミを単体で吟味して参考にするというよりは、多数の口コミを全体的に検討し、閲覧者なりにその施設等の一般的な傾向を把握した上で、利用する・しないを判断する際の参考にすることが多いものと考えられる。

(ウ)対象者が、口コミにおける表現が名誉毀損に該当すると判断して投稿者に対して法的責任を問おうとする場合、投稿が匿名等で行われているときには発信者情報の開示請求を行うことで投稿者の特定をする必要があるが、同請求により必ず投稿者を特定できるわけではなく、投稿後長期間が経過しているような場合には、上記開示請求をしても投稿者の特定に至らず、投稿者の責任を問うのが困難となるし、一般的には長時間を要することになる。

一方、対象者は、当該口コミに対する返信等により反論をすることや、サイト運営者に対して当該口コミの削除を請求することができるものの、削除請求をするためには、当該口コミサイトに係るアカウントを取得し、その上で所定の手続を経る必要があるし、(乙1、3ないし6)、また、同手続をとったからといって、客観的には違法に名誉権を侵害したと認められる表現に係る投稿が当然に削除されるわけではない。

他方、サイト運営者は、自身で口コミの記載内容の真実性に関する資料を保有してはいないが、口コミが虚偽であるとか名誉毀損的表現であるなどの指摘を受けた場合、投稿者と連絡がとれないなどの事情がない限り、投稿者に上記指摘を伝えて意見を聴取したりすることが可能である(乙1ないし3)

なお、この点に関し、被控訴人は、発信者(投稿者)に対する事前の意見聴取は、表現の萎縮効果をもたらし得ることや、発信者情報の開示請求に対する検討を行う前にアカウントを削除されるおそれがあることから、裁判所による発信者情報の開示決定前は行っていないと主張するが、被控訴人は、口コミの信頼性等を維持するため、虚偽内容等の不適切な口コミであると判断すれば自ら削除するとしていることなど(乙1ないし3)を考慮すると、投稿者に意見聴取をするなどして事実確認等を行う方が、むしろその表現について防御の機会を与えることにもなり、必ずしも投稿者の表現の自由を妨げるものとはいえないのであるから、上記の被控訴人の主張をもって、事前に意見聴取を行わないことを前提にすることは相当でないというべきである。

(エ)以上の諸事情を前提に本件における判断の枠組みを検討する。
 本件サイトにおける口コミについて、対象者の名誉権侵害が認められ、そのことにつき違法性阻却事由(公共利害関連性、公益目的、真実性)が認められないのであれば、それ以外の要件を特に付加することなく、対象者は表現主体である投稿者に対して当該口コミの削除を請求できると解するのが相当である。

 次に、サイト運営者については、一方で、サイト運営者が運営・管理する本件サイト上での口コミにより他者に対する法益侵害状況が生じているのであれば、前記(ウ)の対象者による対抗手段の限界をも踏まえると、直接の削除請求を認めるべき必要性は高いというべきである。他方で、前記(ア)のとおり、本件サイトは投稿者の自由な表現の場として重要性を有し、また、本件サイトが利用者にもたらす便益は大きく、上記表現の自由や利用者の便益は相応に尊重されるべきであり、かつ、前記(ウ)のとおり、サイト運営者は真実性に関する資料を保有していないのが一般であるから、その点も考慮する必要がある。

 以上の検討からすると、対象者が、本件サイト上の口コミにおける表現が名誉毀損に該当するとして、サイト運営者に口コミの削除を求める場合、前記の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことを、対象者において主張立証する必要があると解するのが相当である。

 なお、前記(イ)の口コミサイトの閲覧者の口コミの読み方に関しては社会的評価の低下の有無の判断において、その点を考慮すれば足りると解される。

ウ 被控訴人の主張の検討
 被控訴人は、口コミが名誉を毀損すると認めるには社会的評価の低下の程度が受忍限度を超えるものであることを要し、加えて、名誉毀損を理由とするサイト運営者に対する記事の削除請求を認めるには、重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることや記事を公表されない法的利益がこれを公表することによる利益に優越することを要する旨主張する。

 しかしながら、本件サイト上の口コミの削除に関する判断の枠組みは前記イ説示のとおりである。被控訴人がその主張の根拠として挙げる口コミサイトの特性や口コミ対象者が医療機関であることなどの事情は、社会的評価の低下の有無やその程度、公共の利害に関する事実に該当するかどうかや公益目的の有無に係る判断の中で考慮すれば足りると解されるから、上記の被控訴人の主張は採用できない。」
以上:3,916文字
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R 7-12-12(金):グーグルマップクチコミ記事の名誉毀損削除請求を棄却した地裁判決紹介
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○「グーグルマップクチコミ記事を名誉毀損で削除を認めた地裁判決」の続きで、逆にグーグルマップクチコミ記事を名誉毀損での削除請求を棄却した令和6年11月29日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○投稿記事目録内容は省略され、詳細は確認できませんが、歯科医師の原告主張では、本件記事1は、原告が、十分な説明や検査をしないまま、本件記事1の投稿者の銀歯を取り、歯を削ろうとした、本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をしたとの内容で、歯科医師の治療法としては相当酷い内容です。

○判決は、当該表現が事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別するに当たっても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がないとの一般論を述べました。

○その上で、本件記事1は、投稿者の主観的な不満を述べたものと読まれるというべきであり、それ自体が原告の社会的評価を低下させるものであるということはできないとし、本件記事2は、歯科医師が不適切な治療行為をしたとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させるというべきとしながら、摘示する事実の重要な部分について、真実であることをうかがわせる事情がないとは言えず、公共の利害に関する事実に係るものでないこと及び専ら公益を図る目的でないことをうかがわせる証拠はなく、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情がないとはいえないとして、請求を棄却しています。

○投稿内容の詳細は不明ですが、原告主張だけでも歯科医師としては到底耐えられない記事であり、判決も杓子定規な感がします。原告は控訴して控訴審で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。

第2 事案の概要
 本件は、歯科医院の院長である原告が、オンライン地図サービスであるGoogleマップに投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事により名誉権を侵害されたと主張して、Googleマップを運営する被告に対し、名誉権に基づき、上記各記事の削除を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、山梨県甲府市所在の歯科医院「aデンタルクリニック」(以下「本件歯科医院」という。)で院長を務める歯科医師である(甲1、27)。

(2)被告は、オンライン地図サービスであるGoogleマップを運営する米国法人である。Googleマップでは、Googleのアカウントを有するユーザーは、店舗、施設等について、口コミを投稿することができる(乙1)。

(3)氏名不詳の者により、Googleマップ上に、本件歯科医院の口コミとして、別紙投稿記事目録記載の各記事(以下、順に「本件記事1」、「本件記事2」といい、併せて「本件各記事」という。)が投稿された(甲3)。

2 当事者の主張
(1)原告の主張
ア 本件各記事は、以下のとおり、原告の社会的評価を低下させる。
(ア)本件記事1は、原告が、十分な説明や検査をしないまま、本件記事1の投稿者の銀歯を取り、歯を削ろうとしたとの虚偽の事実を摘示して、原告が患者に十分な説明や検査をしないまま、銀歯を取ろうとしたり、歯を削ろうとしたりする危険な歯科医師であるとの印象を閲覧者に抱かせ、原告の社会的評価を低下させる。

(イ)本件記事2は、原告が本件記事2の投稿者に施術する際、まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をしたとの虚偽の事実を摘示して、原告はまだ虫歯が残っている歯に被せ物をする劣悪な歯科医師であるとの印象を閲覧者に抱かせ、原告の社会的評価を低下させる。

イ そして、本件各記事が摘示する事実は真実ではなく、違法性は阻却されないから、被告は本件各記事を削除する義務を負う。

(2)被告の主張
ア 本件各記事が原告の名誉を毀損するというためには、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、原告の社会的評価の低下が受忍限度を超えることが必要である。
(ア)歯科治療における歯科医師の説明や検査が十分であるかどうかは投稿者による主観的な評価にすぎないから、本件記事1を閲覧した一般読者は、単に原告の治療の進め方に関する個人的な不満が記載されているに過ぎないと認識する。また、本件記事1に記載された投稿者と歯科医師とのやり取りの内容も、歯科医師の説明や検査が不十分であったかどうかを判断するに足るものではなく、一般読者に原告が危険な歯科医師であるとの印象を与えるとはいえない。以上の点を踏まえれば、本件記事1によって受忍限度を超えて原告の社会的評価が低下するとはいえない。

(イ)本件記事2には、原告による本件記事2の投稿者への治療の時期やその内容、被せ物の下に虫歯が残った経緯や原因、本件歯科医院を受診してから他の歯科医院を受診するまでの期間等の具体的な事実は記載されていないから、一般読者が本件記事2の内容を直ちに信用するとはいえない。また、本件記事2の投稿者に対する治療の経緯等によっては、原告の治療が必ずしも不適切ではなかった場合も想定されるから、一般読者に対し、原告が劣悪な歯科医師であるとの印象を直ちに与えるとはいえない。以上の点を踏まえれば、本件記事2によって受忍限度を超えて原告の社会的評価が低下するとはいえない。

イ 本件各記事は、以下のとおり、公共性及び公益目的が認められ、摘示事実は重要な部分において真実に反することが明らかであるとはいえないから、違法性阻却事由をうかがわせる事情の不存在について立証されているとはいえない。また、人格権たる名誉権に基づき削除が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められることも必要であるが、そのようなおそれも認められない。

(ア)公共性及び公益目的が認められること
 本件各記事は、Googleマップのサービスの利用者による情報交換を目的とする公共的価値を有するウェブサイトに投稿されたものであり、本件歯科医院の潜在的な利用者である地域住民等や就職を検討する者にとって、本件歯科医院についての情報は、肯定的なものも否定的なものも重要である。したがって、本件各記事については、公共の利害に関する事実に係るものであること及び公益を図る目的に出たものであることを事実上推認することができる。

(イ)その重要な部分において真実に反することが明らかとはいえないこと
 原告本人の陳述書(甲27)をもって、本件各記事の反真実性が証明されたとはいえない。そして、上記陳述書以外に、本件各記事の反真実性を立証する客観的な証拠は何ら提出されていない一方で、Googleマップ上には、本件各記事の記載が真実であることをうかがわせる他の口コミが存在する。したがって、本件各記事の重要な部分が真実に反することが明らかであるとはいえない。

第3 当裁判所の判断
1 判断の枠組みについて

(1)ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。

そして、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。当該表現が事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別するに当たっても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。

 また、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がないと解される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。

(2)本件のように、口コミを記載した記事を掲載するウェブサイト上の表現が名誉毀損に当たるとして、その管理運営者に記事の削除を求める場合には、当該ウェブサイトが、その利用者に対し、必要な情報を入手する手段を提供していること、通常、管理運営者において、表現内容の真実性に関する資料を保有していないことなどに照らすと、上記(1)の違法性阻却事由について、削除を求める原告において、その存在をうかがわせる事情がないことを立証する必要があると解するのが相当である。

2 本件記事1について
(1)本件記事1のうち「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚きました。」という部分は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、銀歯を取り歯を削る前に行われた本件歯科医院の歯科医師による説明や検査が十分でなかったと述べるものであると認められる。本件記事1は口コミとして投稿されたものであり、「十分」であるか否かは主観的な評価であることに照らすと、上記部分は、証拠等による証明になじまない批判というべきであって、意見ないし論評を表明したものというべきである。

 そして、本件記事1には、本件記事1の投稿者と本件歯科医院の歯科医師との間のやり取りが一部記載されているものの、歯科医師にどの程度の説明を期待するかは患者によって当然に異なるものであるし、本件記事1の投稿者が受診した際の客観的な症状等が不明であり、どのような検査がされるべきであったのかも必ずしも明確ではない。
 そうすると、上記部分は、投稿者の主観的な不満を述べたものと読まれるというべきであり、それ自体が原告の社会的評価を低下させるものであるということはできない。

(2)したがって、本件記事1の削除請求は理由がない。

3 本件記事2について
(1)本件記事2のうち、「まだ虫歯がごっそり残っているのに被せ物をされた。」という部分は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件歯科医院の歯科医師が、虫歯が大きく残っている状態で被せ物をしたとの事実を摘示するものというべきであり、本件歯科医院の歯科医師が不適切な治療行為をしたとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させるというべきである。

(2)続いて、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないといえるかについて検討する。
 原告は、施術後、虫歯の削り残しがないか入念にチェックしており、削り残しがあるのに被せ物をするような事態は通常起こり得ない、患者から、本件歯科医院に対し、治療後にそのようなクレームが寄せられたことはない旨陳述する(甲27)。しかし、この陳述には客観的な裏付けがない。また、本件記事2の投稿者は、本件歯科医院以外の歯科医院を受診した結果、虫歯の削り残しがあることが判明したと述べているところ(甲3)、このような場合には、患者が本件歯科医院にその旨を伝えない限り、本件歯科医院の歯科医師が虫歯の削り残しを把握する機会はないと考えられる。そうすると、原告の上記陳述をもって、本件記事2に記載された事実を直接否定するものということはできず、本件記事2の摘示する事実の重要な部分について、真実であることをうかがわせる事情がないということはできない。

 そして、本件記事2が公共の利害に関する事実に係るものでないこと及び専ら公益を図る目的でないことをうかがわせる証拠はない。
 したがって、本件記事2について、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情がないとはいえない。


(3)以上によれば、本件記事2の削除請求は理由がない。

第4 結論
 よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第50部 裁判官 新井一太郎

(別紙)投稿記事目録

以上:5,366文字
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R 7-12-11(木):グーグルマップクチコミ削除判例を紹介しての反省
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恐れ入りますが、本ページは、会員限定です。

以上:21文字
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R 7-12-10(水):暴力団排除条項により暴力団員の死亡共済金請求を棄却した高裁判決紹介
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○「暴力団排除条項により暴力団員の死亡共済金請求を棄却した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和6年10月4日広島高裁判決(判タ1528号59頁、判時2632号94頁)関連部分を紹介します。

○控訴人(原告)の妻である訴外Wが生活協同組合である被控訴人(被告)との間で生命共済契約を締結していたところ、Wが死亡したとして、控訴人が、被控訴人に対し、死亡共済金等の支払を求め、広島地裁大道支部判決が、被控訴人による本件共済契約の解除は有効であるとして、控訴人の請求を棄却し、控訴人が控訴しました。

○これに対し、控訴審広島高裁判決も、死亡共済金の受取人である控訴人が反社会的勢力に属するという事実は、正に被控訴人のWあるいは控訴人に対する信頼を損ない、生命共済契約の存続を困難とさせる重大な事由ということができるから、生命共済事業約款における本件暴排条項が保険法57条3号に反する特約に当たるものと認めることはできないし、被控訴人による前記の行為が、信義則に違反し、又は権利濫用に当たると評価すべき事情は認めるに足りないところ、被控訴人による本件解除は有効であって、本件共済契約に基づく死亡共済金の支払請求を拒絶することが許容されるというべきであり、控訴人が、被控訴人に対して、死亡共済金の支払請求をすることは認められないとして、本件控訴を棄却しました。

○暴力団員の妻であるWは、平成17年5月に本件共済契約を締結し、毎月の掛金2000円をおそらく亡くなる令和4年6月まで17年間支払い続けていました。この点控訴人は「被控訴人はこれまで掛金を受け取り続けてきたのであり,共済金が支払われないとすれば,掛金の取り得となっている。反社会的勢力該当性は単なる共済金支払拒否の口実にされているにすぎない。」と主張しています。

○被控訴人全国生活協同組合連合会は平成26年10月の本件暴排条項を規定について「遅くとも平成26年10月の情報誌で,本件暴排条項の導入を契約者に知らせていること,暴力団を排除する社会的背景があったことからすれば,死亡共済金受取人が暴力団員である本件共済契約における契約者の期待はそもそも法的保護に値しない」と主張してしますが、情報誌に記載したとしてもWがその意味を知るはずも無く、掛金支払を継続しています。然るに暴力団というだけで死亡共済金を受領出来ないのは、上告審でも結論は不変と思われますが、理不尽な気もします。

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主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,400万円及びこれに対する令和5年9月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 事案の要旨等

 本件は,控訴人の妻である訴外W(以下「W」という。)が被控訴人との間で生命共済契約(以下,更新の前後を問わず「本件共済契約」という。)を締結していたところ,Wが死亡したとして,控訴人が,被控訴人に対し,死亡共済金400万円及びこれに対する令和5年9月7日(原審訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審が被控訴人による本件共済契約の解除は有効であるとして,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人はこれを不服として本件控訴を提起した。

2 前提事実

     (中略)

3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,〔1〕本件暴排条項が本件共済契約に適用されるか(争点1),及び〔2〕被控訴人が,本件暴排条項に基づき,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶することが信義則違反又は権利濫用となるか否か(争点2)であるところ,これらの点に係る当事者の主張は次のとおりである。

(1)争点1(本件暴排条項が本件共済契約に適用されるか)

     (中略)

(控訴人の主張)
 次のとおり,本件暴排条項は本件共済契約に適用されるべきではない。
ア 本件暴排条項を規定したのは平成26年10月からであるところ,本件共済契約は平成17年5月1日より保障が開始され,本件暴排条項が設けられる以前から継続しているものであるから,同条項のような不利益条項を遡及的に適用することは許されない。

イ 原審が保険法57条3号該当性を問題としたことは弁論主義に反するものであるところ,この点を措くとしても,暴力団員であるからといって必然的に保険金請求と結びつくものではなく,暴力団員であるという属性のみをもって保険法57条3号に該当すると認めることはできない。本件暴排条項は保険法65条2号により無効となる。

ウ 民法548条の4第1項2号の約款変更法理に鑑みても,本件暴排条項の導入は許されない。本件排除条項によって,保険事故に対し保険金を支払うという基本的契約関係が阻害され,本件共済契約の目的に反する。また,既に契約しており何ら問題の生じていない契約まで契約内容を変更すべき必要性はない。本件においては,共済金を受領できないという重大な不利益を告知して契約を継続するか否か意思確認されることもなく,契約を離脱すべきか判断する機会もなかった。さらに,同業他社と同水準の負担を求めるにすぎないという点から変更の合理性は認められない。

(2)争点2(被控訴人が,本件暴排条項に基づき,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶することが信義則違反又は権利濫用となるか否か)
(控訴人の主張)
 仮に,遡及適用の禁止に当たらないとしても,次の各点からすれば,被控訴人が,本件暴排条項に基づき,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶することは,信義則違反又は権利濫用として無効というべきである。
ア 生命共済契約は単年度ですぐに終了するものではなく,相当長期間継続されることが通常であり,高度な法的安定性が求められるところ,一方的な条件変更により解除が許されるとすれば契約者への打撃が大きい。

イ 本件解除によって,控訴人は共済金の受給が一切できないという非常に大きな不利益を受ける。

ウ 本件において,共済契約者や控訴人が被控訴人に対して損害を与えたり,不正請求をしたりしたことはなく,単純に反社会的勢力に該当するという属性のみを理由に支払を拒絶しているにすぎず,正当な利益はない。

エ 被控訴人はこれまで掛金を受け取り続けてきたのであり,共済金が支払われないとすれば,掛金の取り得となっている。反社会的勢力該当性は単なる共済金支払拒否の口実にされているにすぎない。


(被控訴人の主張)
 控訴人の前記主張は争う。
 遅くとも平成26年10月の情報誌で,本件暴排条項の導入を契約者に知らせていること,暴力団を排除する社会的背景があったことからすれば,死亡共済金受取人が暴力団員である本件共済契約における契約者の期待はそもそも法的保護に値せず,信義則に違反しない。

 また,前記のとおり,本件暴排条項の導入を契約者に知らせており,本件暴排条項の対象を回避するか否かの判断をする機会があったこと等からすれば,権利濫用にも当たらない。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人がした本件解除は有効であり,控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。

2 争点1(本件暴排条項が本件共済契約に適用されるか)について
(1)前記第2の2(1)イのとおり,本件共済契約の共済期間は基本的に1年であり,毎年4月1日に更新されるものであるから,本件解除は,令和4年4月1日に更新された本件共済契約を対象とするものということになる。そうすると,被控訴人が解除した本件共済契約には,平成26年約款で付加された本件暴排条項が適用されることになる。

(2)これに対し,控訴人は,前記のとおり,本件暴排条項のような不利益条項を遡及的に適用することは許されない旨を主張する。
 しかしながら,契約期間の定めのない預金契約等とは異なり,本件共済契約は前記のとおり1年ごとに更新されるものであり,平成26年約款で付加された本件暴排条項の適用を前提に更新されたものであるから,遡及的適用は問題とならず,主張自体失当である。

 また,控訴人が当審において,本件暴排条項は保険法57条3号に反するから,同法65条2号により無効となる旨主張するが,同法57条3号は,生命保険契約の解除事由として,「保険者の保険契約者,被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない,当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由」を生命保険契約の解除事由として定めているところ,死亡共済金の受取人が反社会的勢力に属するという事実は,正に被控訴人のWあるいは控訴人に対する信頼を損ない,生命共済契約の存続を困難とさせる重大な事由ということができる。そうすると,本件暴排条項が保険法57条3号に反する特約に当たるものと認めることはできない。
 その他,控訴人は,るる主張するが,いずれにしても本件暴排条項の適用に係る前記の結論を左右しない。

3 争点2(被控訴人が,本件暴排条項に基づき,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶することが信義則違反又は権利濫用となるか否か)について
 控訴人は,前記のとおり,被控訴人が,本件暴排条項に基づき,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶することが信義則違反又は権利濫用となる旨を主張する。
 しかしながら,本件暴排条項は前記2のとおり本件共済契約に適用されるべきところ,被控訴人は,本件暴排条項に基づいて,本件共済契約を解除し,共済金の支払を拒絶したものであって,本件記録を子細に検討しても,被控訴人による前記の行為が,信義則に違反し,又は権利濫用に当たると評価すべき事情は認めるに足りない。

4 結論
 以上によれば,被控訴人による本件解除は有効であり,控訴人の本件共済契約に基づく死亡共済金の支払請求を拒絶することが許容されるというべきであるから,控訴人が,被控訴人に対して,死亡共済金の支払請求をすることはできない。
 よって,原判決は結論においては相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高宮健二 裁判官 財津陽子 裁判官 奥俊彦)

以上:4,260文字
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R 7-12- 9(火):グーグルマップクチコミ記事を名誉毀損で削除を認めた地裁判決
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○病院や法律事務所についてグーグルマップに結構クチコミ記事が記載されており、当小松・畠山法律事務所にも苦情記事が残っています。畠山弁護士ではなく私に対する苦情です。何件かある記事に対し、フォロー記事が書かれていますが、私では無く、畠山弁護士によるフォロー記事で有り難いところです(^^;)。

○病院のグーグルマップクチコミ記事も私が通院したところを何件か見てみましたが、私にとっては大変良い病院でも、厳しいクチコミが結構あります。クチコミは厳しい評価をした人が書くことが多いようですが、原告医師が、グーグルマップに投稿された投稿記事によって名誉権を侵害されていると主張して、グーグルマップを設置・運営し、そのシステムを管理する被告GoogleLLC(代表者)グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社に対し、名誉権に基づいて、投稿記事の削除を求めました。投稿記事目録の内容は残念ながら省略されています。

○これに対し、本件記事は、原告に関する記事であり、本件記事は、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであって、原告の社会的評価を低下させるものであるといえ、本件記事は、原告の名誉を毀損するものであると認められ、本件記事は、口頭弁論終結時においても、本件ウェブサイトにおいて公開されていることが認められ、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえないこと、公開から長年経過していることも考慮すると、削除の必要性が認められるというべきであるとして、原告の請求を認容した令和6年6月26日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

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判   決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 ○○○○
被告 Google LLC
同代表者(日本における代表者) グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社
上記代表者代表取締役 B
被告訴訟代理人弁護士 ○○○○
同 ○○○○
同 ○○○○

主   文
1 被告は、別紙投稿記事目録記載〔1〕の記事内容の「朝1番は」から「心療内科。」までの投稿記事を削除せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文第1項と同旨

第2 事案の概要
 本件は、原告が、グーグルマップに投稿された投稿記事によって名誉権を侵害されていると主張して、グーグルマップを設置・運営し、そのシステムを管理する被告に対し、名誉権に基づいて、上記投稿記事の削除を求めている事案である。

1 前提事実(末尾に認定の根拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)
ア 原告は、令和元年10月以前から、愛知県豊田市において心療内科・精神科の診療を行う「a」という名称のクリニック(以下「本件クリニック」という。)の院長を務めている医師である(甲1)。

イ 被告は、インターネットで閲覧可能な地図検索サービス「グーグルマップ」(以下「本件ウェブサイト」という。)を設置・運営し、そのシステムを管理している外国法人である。本件ウェブサイトには、被告からアカウントを与えられた者が、地図上に表示されている店舗等について、口コミを投稿する機能が付されている。(弁論の全趣旨)

(2)「b」を名乗るユーザーは、令和○年○○月○日、本件ウェブサイトにおいて、別紙投稿記事目録記載〔1〕の記事内容の「朝1番は」から「心療内科。」までの投稿記事(以下「本件記事」という。)を投稿した(甲3、4、8、弁論の全趣旨)。

2 争点
(1)本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか(争点1)。
(2)本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか(争点2)。 
(3)削除の必要性の有無(争点3)

3 争点に関する当事者の主張
(1)本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか(争点1)。
(原告)
ア 本件記事には本件クリニックの名称及び所在地が表示されており,本件クリニックに在籍する医師は原告のみであるから、本件記事の閲覧者は、本件記事が原告に係る口コミであることを容易に認識することができる。

イ 本件記事は、閲覧者に対し、原告が医師としての資質に欠ける非常識な人物であるという印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。

(被告)
ア 本件記事の上部に本件クリニックの名称及び所在地が表示されていることは認め、その余は不知。

イ 本件記事は、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という記載部分の根拠となる医師の具体的な言動等を摘示していないから、投稿者が上記記載部分のとおりに感じる場面があったという印象を一般の読者に与えるものにすぎない。原告が、国家から特別に資格を与えられ、医療行為を行うことを許可されて、本件クリニックを運営しており、本件クリニックの運営、本件クリニックの医師の治療技術及び治療内容等について国民から批判を受けるべき立場にあることも考慮すると、本件記事は、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない。

(2)本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか(争点2)。
(原告)
ア 本件記事のうち「本日も(中略)とても御立腹でございました。」という記載部分は、事実を摘示するものであるところ、投稿者が本件クリニックを受診して本件記事を投稿したとされる令和○年○○月○日は、本件クリニックが営業していなかったから、摘示された事実はその重要部分において虚偽である。

イ なお、被告は、後記(被告)アのとおり、本件記事における「本日も」という記載は、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地が十分にあると主張するが、そのような読み方は、「本日」という言葉の通常の用法にそぐわず、一般の読者の普通の注意と読み方ではない。

(被告)
ア 本件記事における「本日も」という記載は、本件記事を投稿した日という意味ではなく、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地は十分にある。

イ そして、本件記事の投稿者とは異なる者からも、原告の機嫌が悪いときに患者の心理に対する配慮を欠くと受け止められても仕方のないような対応がされる場合があるとする口コミが複数投稿されているから、本件記事のうち「本日も(中略)とても御立腹でございました。」という記載部分が虚偽であるとはいえない。

(3)削除の必要性の有無(争点3)
(原告)
 本件記事は、現在も、本件ウェブサイトにおいて公開されているから、削除の必要性が認められる。
 なお、本件記事は、既に公開され、投稿から4年4か月以上が経過しているから、その削除請求に当たり、原告が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要であるとはいえない。

(被告)
 本件記事が被告準備書面(1)作成時である令和6年1月19日ころの時点においてインターネット上に公開されていることは認める。
 名誉権に基づく削除請求が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要であるというべきであるところ、原告は、その点について、何ら主張立証をしていない。 

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか。)について

(1)証拠(甲3、甲7・1頁)によれば、本件記事の上部に本件クリニックの名称及び所在地が表示されていること、本件クリニックに在籍する医師は院長である原告一人であることが認められるから、本件記事は、原告に関する記事であるというべきである。そして、原告と面識があり、又は本件クリニックに在籍する医師の数を知る者は、その知識を手がかりに本件記事が原告に関する記事であることを推知することが可能であるところ、本件ウェブサイトが一般に普及していることや本件記事が医療機関に関する記事であることを考慮すると、本件記事の読者の中に、原告と面識があり、又は本件クリニックに在籍する医師の数を知る者が存在した可能性を否定することはできない。そして、これらの者を通じて、多数人に本件記事が原告に関する記事であることが認識可能であったといえる。

 したがって、本件記事は、原告について言及したものであるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであるといえる。

(2)また、本件記事は、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであって、原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。したがって、本件記事は、原告の名誉を毀損するものであると認められる。

(3)
ア これに対し、被告は、本件記事が、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という記載部分の根拠となる医師の具体的な言動等を摘示していない旨の主張をするが、前記(2)のとおり、投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという具体的な言動を摘示していると認められるから、被告の上記主張は採用することができない。

イ また、被告は、原告が、国家から特別に資格を与えられ、医療行為を行うことを許可されて、本件クリニックを運営しているなどとして、本件記事が、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない旨の主張もするが、本件記事は、前記(2)のとおり、原告が投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとるという(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであり、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえない。そして、後記のとおり、本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であることも考慮すると、本件記事が、受忍限度を超えて、原告の社会的評価を低下させない旨の被告の上記主張も採用することができない。

2 争点2(本件記事における意見の前提事実が重要部分において虚偽であるか。)について
(1)本件記事のうち、「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科。」という部分は、意見の表明であるところ、その意見は、原告が「本日」(令和○年○○月○日。前提事実(2)参照)に投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとったという事実を基礎とするものである。

 しかるところ、証拠(甲7・1頁)によれば、本件クリニックは、毎週日曜日及び月曜日が休診日であったこと、したがって、令和○年○○月○日月曜日も営業していなかったことが認められるから、上記の意見の前提事実は、その重要な部分において虚偽であると認められる。


(2)
ア なお、被告は、本件記事における「本日も」という記載は、本件記事を投稿した日という意味ではなく、単に「今回投稿の対象となる経験をした日も」という意味にすぎないと解する余地は十分にある旨の主張をするが、その主張に係る用法は、一般の読者の普通の読み方ではなく、極めて特異な用法であるから、被告の上記主張を採用することはできない。

イ また、被告は、本件記事の投稿者とは異なる者からも、原告の機嫌が悪いときに患者の心理に対する配慮を欠くと受け止められても仕方のないような対応がされる場合があるとする口コミが複数投稿されている旨の主張もするが、それ自体、本件クリニックが令和○年○○月○日月曜日に営業していたこと、原告が同日に投稿者とは別の患者2人が遅刻したことを理由に投稿者に対して感情に任せた対応をとったことをいうものではない。

3 争点3(削除の必要性の有無)について
 弁論の全趣旨によれば、本件記事は、口頭弁論終結時においても、本件ウェブサイトにおいて公開されていることが認められる。そして、本件記事が、原告において(心療内科・精神科の)医師としての資質に欠ける非常識な行動に出たかのような印象を一般人に与えるものであり、本件記事による原告の社会的評価の低下の程度が極めて軽微であるとはいえないこと(前記1(3)イ)、公開から4年7か月余りが経過していることも考慮すると、削除の必要性が認められるというべきである。

 これに対し、被告は、名誉権に基づく削除請求が認められるためには、被害者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあることが必要である旨の主張をするが、本件のような場合に、そのように解することはできない。

4 結論
 以上によれば、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部 裁判官 宮川広臣

(別紙)投稿記事目録
以上:5,325文字
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R 7-12- 8(月):11年間継続不貞行為慰謝料請求を消滅時効と夫の弁済で棄却した地裁判決紹介
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○原告妻が、配偶者医師Cとの不貞相手である被告看護師に対し、平成23年から令和4年まで続き令和3年にはCの子を出産した不貞行為について、不法行為による損害賠償請求として慰謝料1100万円の支払を求めました。

○これに対し被告は、Cとの交際当初から原告・Cの婚姻関係は破綻しており、遅くても令和元年10月には破綻し、且つ、令和元年10月以前の不貞行為損害賠償債務は時効消滅している、その後の不貞行為については令和4年2月にCが原告に500万円を支払って損害賠償義務は消滅したと主張しました。

○この事案で、原告の被告に対する損害賠償請求権のうち、不貞行為に係るものは、被告による消滅時効の援用によって消滅しており、500万円の弁済までの不貞行為に係るものは、同弁済によって消滅しており、そして、被告が同弁済以降にCと不貞行為に及んだことを認めるに足りる証拠はないとして、原告の請求を棄却した令和6年9月9日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和5年1月8日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、原告が、配偶者との不貞相手である被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料1100万円及びこれに対する不法行為後である令和5年1月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実
 証拠(枝番のあるものについては特記なき限り全ての枝番を含む。以下同じ。)等を掲記していない事実は、当事者間に争いがない事実、当裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
(1)当事者等
 原告は看護師であり、平成12年1月1日、医師であるC(以下「C」という。)と婚姻した。原告とCとの間には、平成12年○月○日及び平成17年○○月○日に、それぞれ子が生まれている。(甲1)
 被告は看護師である。

(2)被告とCとの不貞行為
 被告は、平成23年7月頃から、Cと不貞行為に及ぶようになり、令和3年○月○○日、Cの子を出産した。

(3)本件訴訟の提起日
 原告は、令和4年12月13日、本件訴訟を提起した。

3 争点及びこれに対する当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点1(婚姻関係破綻の抗弁の成否及び故意過失の有無)について

 被告主張の婚姻関係破綻については、これを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠がない。
 これに対し、被告は、Cが原告との婚姻関係は破綻していると述べた旨供述する。しかしながら、証拠(原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成24年頃に被告に対しCとの関係を問いただす電話をかけた事実や、その際に1度会いたい旨伝えるなどした事実が認められる。そうすると、被告の前記供述どおりの事実が認められるとしても、婚姻関係破綻は認められず、被告に過失がないということもできない。したがって、争点1に係る被告の主張は採用することができない。

2 争点2から4まで(損害額並びに消滅時効及び弁済の抗弁の成否)について
(1)認定事実

前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

     (中略)

イ Cは、被告に対し、令和4年2月27日の原告に対する500万円の送金(前記ア(ア))が記帳された、C名義の口座通帳の写しを交付した(乙1、被告本人)。

ウ Cが令和4年2月27日に500万円を振り込んだ原告名義の口座の残高は、当該500万円が着金する直前の時点で、27万3631円であった。同口座には、前記500万円の着金後、同年3月1日及び同月22日にもCから100万円ずつの着金があったところ、原告は、同月4日から同月28日までにかけて、1回につき50万円を14回にわたり同口座から引き出した。同日の引出し後における同口座の残高は、その余の振込等による増減を含め、25万3631円であった。(甲5の2)

(2)検討
ア 被告は、令和元年12月10日以前の不貞行為に係る損害賠償請求権につき、消滅時効を援用している(第2の3(3))。
 そこで検討すると、証拠(原告本人)によれば、原告は、令和元年12月10日以前から、被告とCとの不貞行為を知っていたものと認められる。そして、被告とCとの不貞行為により原告が被る精神的苦痛は、不貞行為が終了するまで不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、原告は、被告とCとの不貞行為を知った時点で、被告に対し慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではなかったというべきである。そうすると、同日以前の損害に係る損害賠償請求権については、同日から3年を経過した令和4年12月10日時点で消滅時効期間が満了している。

 したがって、令和元年12月10日以前の損害に係る損害賠償請求権は、被告による消滅時効の援用によって消滅している。

イ もっとも、被告は、令和元年12月11日以降も、Cとの不貞行為に及んでいたものと認められる。
 しかしながら、原告とCとの婚姻期間や、両者の間に2人の子がいること、被告が令和3年○月○○日にCの子を出産したことなど、本件における一切の事情を踏まえても、令和元年12月11日以降における被告とCとの不貞行為による原告の損害は、500万円を超えるものではない。なお、原告は、被告がCを脅迫して不倫関係を継続したとか、Cに避妊しないよう強要したなどと主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

 そして、Cは、令和4年2月27日、原告に対し、500万円を送金した(認定事実ア(ア))ところ、被告及びCの不法行為責任は連帯責任であるから、前記500万円が被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものであれば、原告の被告に対する損害賠償請求権は消滅するものというべきである。

ウ そして、次の諸点に鑑みれば、令和4年2月27日に送金された前記500万円は、被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものと認められる。
(ア)すなわち、Cは、原告に対し、令和4年3月から令和5年2月にかけて、ほぼ毎月にわたり、合計960万4510円を送金している(認定事実ア)。また、原告は、これを生活費に充てた旨及び住宅ローンには充てていない旨供述している(原告本人)ところ、当該供述どおりの事実が認められる。さらに、Cは、前記送金とは別途学費を支払っていた旨証言する(証人C)ところ、当該証言どおりの事実が認められる。そして、前記960万4510円は、住宅ローン等を除く家族4人の1年間の生活費として十分なものであるところ、これと別途送金された前記500万円につき、生活費の使途で送金されたものとは認め難い。

 また、前記500万円は、1回当たりの送金額も他の送金と比較して高額であり、この点からも他の送金とは性質が異なるものであるとうかがわれる。
 以上によれば、前記500万円の送金は、その時期における特別な出来事を理由とするものと推認することができる。そして、令和3年○月○○日、被告がCとの子を出産するという出来事があった(前提事実(2))ところ、その出来事が原告に発覚したのは、同日の約半年後(令和4年2月19日頃)であり、かつ、令和4年2月27日以前であったと認められる(証人C)。そうすると、同日の前記500万円の送金は、前記出来事の発覚直後に行われたものと認められるところ、他に前記500万円の送金理由となるような特別な出来事は見当たらない。以上より、前記500万円は、被告との不貞行為に係る慰謝料の趣旨で送金されたものと推認することができ,この推認を覆す事実をうかがわせる証拠は見当たらない。

(イ)また、Cは、被告に対し、前記500万円の送金が記帳された通帳の写しを交付した(認定事実イ)。そして、被告は、前記写しの交付を受けた理由として、Cから慰謝料として原告に前記500万円を支払った旨聞いたため、その証拠を見せてほしいと依頼した際に交付された旨供述する(被告本人)ところ、Cが何の理由もなく被告に前記写しを交付するとは考え難いことや、被告供述の点以外にCが被告に前記写しを交付する理由が見当たらないことなどに鑑みれば、被告の前記供述は合理的なものとして信用することができる。したがって、Cは、被告に対し、前記500万円は慰謝料として支払ったものである旨説明したと認められる。 

(ウ)以上の諸点等に鑑みれば、前記500万円は、被告とCとの不貞行為に係る慰謝料として支払われたものと認められる。
 これに対し、原告は、前記500万円が交付される以前にも、Cから200万円から300万円程度の現金交付を受けたことがある旨供述する。しかしながら、そのことを裏付ける証拠はなく、原告の供述は採用することができない。この点を措いて、原告が過去にCから200万円から300万円程度の現金交付を受けたことがあるとしても、200万円から300万円と500万円との間には相当額の開きがあることや、前記(ア)から(ウ)までに述べた諸点に鑑みれば、前記認定判断は左右されない。

 また、原告は、前記500万円は生活費として送金されたものである旨主張する。しかしながら、既述の諸点に照らし採用することができない上、以下に述べるとおり原告の主張書面の記載が変遷していることからも、採用することができない。すなわち、前記500万円に係る原告の主張書面の記載をみると、原告は、当初は前記500万円の受領自体を否定する旨の主張書面を提出していた(準備書面(2)2頁参照)にもかかわらず、その後に前記500万円の受領に係る客観証拠(乙1)が提出されるや、前記500万円の受領自体は認める旨の主張書面を提出した(準備書面(3)2頁参照)。その後、原告は、前記500万円を受領する以前から数百万円単位の送金を受けていた旨の主張書面を提出した(準備書面(4)2頁以下参照)ものの、この点についても客観証拠(甲4、5)との不整合が明らかになるや、送金ではなく手渡しを受けた旨の主張書面を提出した(準備書面(5)1頁、準備書面(6)1頁以下参照)。

このように、前記500万円に係る原告の主張書面の記載は変遷を繰り返しているところ、そのことにつき合理的理由は見当たらない。これに対し、原告は、前記変遷の理由につき、前記500万円の送金を把握していなかったなどと主張するが、原告が送金後約1か月で前記500万円の全額を引出していること(認定事実ウ)に鑑みれば、原告の主張は不自然不合理であり、採用することができない。また、原告は、令和4年以前にもブランド品の購入費用として年間500万円程度を手渡しで受領していた旨供述し、これに沿う主張をするが、そのことを裏付ける証拠はない上、既述の変遷に鑑みても、採用することができない。

 さらに、Cは、前記500万円の送金が記帳された通帳の写しを被告へ交付した理由として、被告が新居へ転居する際に、収入証明として交付を求められた旨証言する。しかしながら、証拠(乙1)及び争いのない事実によれば、被告が新居へ転居したのは令和3年5月であるのに対し、前記写しには令和4年3月までの取引履歴が記載されていると認められる。そうすると、前記写しが交付されたのは、被告による転居から少なくとも10か月程度後であるところ、そのような時期に転居のための収入証明を求められるなどということは考え難く、Cの前記証言は採用することができない。

 加えて、Cは、前記500万円は生活費として送金したものである旨証言する。しかしながら、Cは、既述のとおり被告に対しては前記500万円を慰謝料として支払った旨述べる一方、原告に対しては前記500万円を生活費として支払った旨述べる(甲9)など、原告と被告の双方に対し場当たり的な発言を繰り返し、もって自身の保身を図っていたものと認められる。また、証拠(被告本人、証人C)によれば、Cは、尋問時点では被告との不貞関係を断ち切り、原告との関係修復を望んでいたものと認められる。以上によれば、Cが原告の期待に沿う内容であると知りながら行った証言は容易に信用することができないところ、証拠(甲9)によれば、Cは、尋問時点において、原告から前記500万円を生活費として送金した旨述べるよう期待されている旨認識していたと認められるから、Cの前記証言は採用することができない。
 以上のほか、原告がるる主張する点は、既述の諸点に照らし、いずれも採用することができない。

(3)まとめ
 以上より、原告の被告に対する損害賠償請求権のうち、令和元年12月10日以前の不貞行為に係るものは、被告による消滅時効の援用によって消滅しており、同月11日から前記500万円の弁済(令和4年2月27日)までの不貞行為に係るものは、同弁済によって消滅している。そして、被告が同弁済以降にCと不貞行為に及んだことを認めるに足りる証拠はない。

第4 結論
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部 裁判官 関泰士
以上:5,507文字
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R 7-12- 7(日):映画”蜘蛛巣城”を観て-三船氏演技に感嘆するも何故か感動なし
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○令和7年12月6日(土)は、ツルカメフラメンコアンサンブルの練習日でしたが、練習終了後、夕食を取りながら、恒例の映画鑑賞で、最近購入したばかりの4KUHDソフトで1957(昭和32)年製作映画黒澤明監督作品映画「蜘蛛巣城」を鑑賞しました。これはLD・DVD・BDいずれも購入しておらずこれまで鑑賞したことがないと思っていましたが、ラストの矢が飛び交うシーンはかすかに記憶があり、昔、TV放映されたのを観ていたのかもしれません。

○映画コムでは、「シェイクスピアの「マクベス」を日本の戦国時代に置き換え描いた、戦国武将の一大悲劇」と解説されています。が、「マクベス」を聞いたことがありますが、読んだことは無くネットでは、シェイクスピアの戯曲『マクベス』は、実在のスコットランド王マクベス(在位1040年 - 1057年)の生涯に基づいた悲劇で、「マクベスは、3人の魔女から自分が王になると予言されます。妻のレディ・マクベスにそそのかされた彼は、現国王ダンカンを暗殺し、王位を奪います。しかし、その座を守るために更なる悪事を重ね、妄想と罪悪感に苛まれ、最終的に破滅へと向かいます。」と解説されています。

○映画「蜘蛛巣城」は、上記解説のとおりのストーリーで、「マクベス」に当たる主人公鷲津武時役を三船敏郎氏が見事に演じています。3年後昭和35年製作映画「悪い奴ほどよく眠る」での淡々とした演技とは違って、目を剥いてのギラギラとした迫真の演技で狂気の世界を見事に演じ、ラストの夥しい矢に射られて滅するシーンの迫力は圧巻でした。三船敏郎氏は不器用との評価も聞いたことがありますが、その演技は、単なる技術を超えて、役柄の人間的な側面や感情を生々しく表現する力に満ちており、それが時代や国境を超えて高く評価され続けているとの評価を納得します。不器用とは、おそらく演技では無く自らの実際の生き方と思われます。

○この映画で三船敏郎氏の演技力の凄さは実感しましたが、感動したかと言われると首をかしげざるを得ません。残念ながら、後々の映画「乱」映画「影武者」に通じる、何か面白くない、という感想で終わりました。私の感性の低さのせいと思われますが、映画「七人の侍」・「用心棒」・「椿三十郎」・「赤ひげ」等に通じる痛快さから生じる感動がありませんでした。

『蜘蛛巣城』(1957)予告編 [HD]


以上:981文字
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R 7-12- 6(土):暴力団排除条項により暴力団員の死亡共済金請求を棄却した地裁判決紹介
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○原告の配偶者(昭和49年○月○日生、平成16年6月23日原告と婚姻)と被告とは、原告の配偶者を共済契約者・被共済者、被告を共済者とする、平成17年5月1日効力開始の定期生命共済・総合保障2型の共済契約を締結しました。原告の配偶者が18歳~60歳の間に病気で死亡した場合、死亡共済金400万円が原告に支払われるもので、掛金は月額2000円で、契約は1年毎に更新して継続してきました。原告の妻は、令和4年6月3日、病気で死亡し、原告(死亡時点において指定暴力団の暴力団員)は、被告に対し死亡共済金400万円の支払を求めました。

○被告は、平成26年10月、本件契約に関する約款を変更し、共済者は、共済金受取人が、暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含む。)に該当すると認められる場合、共済契約を解除することができる旨、解除した場合において、該当事由が生じた時から解除した時までに発生した支払事由については、共済金を支払わない旨を規定しました(本件暴力団排除条項)。

○そこで被告は原告に対し、令和4年7月25日付けで、原告に対し、本件暴力団排除条項に基づき、共済金受取人である原告が暴力団員であることを理由に、本件契約を解除する旨の意思表示をして共済保険金支払を拒否し、原告は支払を求めて提訴しました。

○これに対し、保険法の遡及適用の点からしても、定型約款の変更による契約の変更の点からしても、平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用されるとし、また、本件解除は、信義則違反とはいえないとして、原告の請求を棄却した令和6年3月26日広島地裁尾道支部判決(判時2632号○頁、参考収録)関連部分を紹介します。

○暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)第2条では、暴力団とはその団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいうとされ、暴力的不法行為等とは別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為をいうと定義され、別表には60個の犯罪が記載されています。

○指定暴力団は、暴対法3条で公安委員会が指定暴力団と指定した団体ですが、指定に至らない暴力団はどのように認定されるのかは、現時点では私の調査不足でハッキリしません。

○この判決では、暴力団員でいることは、保険金の不正請求を行わないことへの信頼を著しく損なう事情であり、金融機関はいかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には資金提供を行わないことを求められているとして、暴力団員は、死亡保険金(共済金)は受け取れないことになります。自業自得とは言え、気の毒だとの感もします。この判決は高裁でも維持されており別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告は、原告に対し、400万円、及び、これに対する令和5年9月7日から支払済みまで年3%の割合による金銭、を支払え。
【請求の法的根拠】
主請求:原告の配偶者と被告との間の共済契約
附帯請求:遅延損害金(起算日は催告である訴状送達の翌日、利率は民法所定)

第2 事案の概要
1 前提事実

(1)原告の配偶者(昭和49年○月○日生、平成16年6月23日原告と婚姻)と被告とは、次の通り、平成17年5月1日効力開始、原告の配偶者を共済契約者・被共済者、被告を共済者とする、定期生命共済・総合保障2型の共済契約を締結した(以下「本件契約」という〔甲1~3〕。)。
ア 共済期間        1年(但し、初年度は、初めて迎える3月31日まで。その後は、制度の変更がない限り、満65歳になって初めて迎える3月31日まで、共済契約者の申出がない場合や共済掛金の滞納による失効がない場合、毎年更新される。)
イ 共済掛金        2000円/月

     (中略)

              死亡・重度障害:交通事故
                       18歳~60歳 1000万円
                       60歳~65歳 700万円
                      不慮の事故(交通事故を除く)
                       18歳~60歳 800万円
                       60歳~65歳 530万円
                      病気
                       18歳~60歳 400万円
                       60歳~65歳 230万円

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 主たる争点(1)(平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用されるか)について
(1)まず、保険法57条3号(保険者は、保険者の保険金受取人に対する信頼を損ない、生命保険契約の存続を困難とする重大な事由がある場合には、当該生命保険契約を解除することができる。)は、保険法施行日(平成22年4月1日)前に締結された生命共済契約についても適用されるから(保険法附則4条1項)、本件暴力団排除条項が同法同条号に該当するか検討する。

 確かに、死亡共済金受取人が暴力団員であること自体は、保険法57条1号(保険者は、保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたことがある場合には、生命保険契約を解約することができる。)及び2号(保険者は、保険金受取人が、生命保険に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたことがある場合には、当該生命保険契約を解除することができる。)と異なり、不正請求と直接結び付くものではない。

しかし、暴力団は、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等(詐欺も含む。)を行うことを助長するおそれがある団体であり(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条2号、1号、別表2号)、暴力団員は、暴力団のために資金獲得活動を行っている。したがって、暴力団員でいることは、保険金の不正請求を行わないことへの信頼を著しく損なう事情である。

 加えて、被告は、消費生活協同組合法に基づき、厚生労働省の監督を受け、厚生労働省から、反社会的勢力を金融取引から排除していくこと(平成23年改正の共済事業向けの総合的な監督指針〈2〉-3-9-1本文)、いかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には資金提供を行わないこと(同〈2〉-3-9-2(1)〔2〕)を求められている。したがって、被告は、暴力団員との間で信頼関係を構築することが容認されていない。
 よって、本件暴力団排除条項は、保険法57条3号に該当すると認められるから、同法同条号は、本件契約に適用される。

(2)次に、民法548条の4第1項2号(定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき)の場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができるから、本件暴力団排除条項が、同法同条項号に該当するか検討する(ただし、本件暴力団排除条項は、同法同条項号の施行前の約款変更であるから、本件暴力団排除条項が同法同条項号に該当するか否かは、本件契約に適用されるか否かと直接結び付くわけではない。)。

ア 本件暴力団排除条項は、前記(1)の通り、保険法の規定に該当するから、本件契約の目的に反しないといえる。
イ 本件暴力団排除条項は、政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が平成19年6月19日に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を申し合わせて、契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込むことが望ましいとしたこと(同指針に関する解説(5))、地方自治体が暴力団排除条例を制定し(広島県は平成22年12月27日)、事業者に契約を締結するときは暴力団排除条例を定めるよう求めたこと(広島県暴力団排除条例は13条3項)を背景に、被告が、厚生労働省から、契約書等に暴力団排除条項を導入することを求められて(平成23年改正の共済事業向けの総合的な監督指針〈2〉-3-9-2(1)〔1〕)、規定したものである。したがって、変更の必要性がある。

 本件暴力団排除条項は、死亡共済金受取人が暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含む。)に該当すると認められる場合であり、不利益を被る相手方が限定され、不利益回避の方法がある。また、解除に伴う違約金が高額であるような規定を認める証拠はなく、不服のある相手方には契約離脱の機会がある。したがって、変更後の内容の相当性がある

 ところで、金融庁は、保険会社に対し、平成20年改正の保険会社向けの総合的な監督指針をもって、契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入を求め(同〈2〉-4-9-2(3))、保険会社各社は、保険契約において、本件暴力団排除条項と同様の暴力団排除条項を、契約書又は取引約款に規定している(顕著な事実)。したがって、本件暴力団排除条項は、同業他業者が同様の場面で顧客に課している負担の水準と同程度の負担を相手方に求めるものに過ぎない。

 よって、被告の約款に約款変更の要件や手続を定める条項の存在を認める証拠がないことを考慮しても、本件暴力団排除条項は合理的なものといえる。

ウ 以上の通り、本件暴力団排除条項は、民法548条の4第1項2号に該当すると認められるから、本件暴力団排除条項について、共済契約者である原告の配偶者の合意があったものとみなし、本件契約の内容を変更することができる。

(3)以上の通り、保険法の遡及適用の点からしても、定型約款の変更による契約の変更の点からしても、平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用される。

2 主たる争点(2)(本件解除は、信義則違反又は権利濫用か)について
(1)前記1(1)で判示したことに加えて、本件は、共済金受取人が暴力団員であること(共済契約者又は被共済者が暴力団員であり、共済金受取人が暴力団員ではない場合とは異なる。また、暴力団員ではない共済金受取人の地位を暴力団員が相続した場合とも異なる。)からすれば、本件解除は、信義則違反とはいえない。

(2)本件契約は、死亡だけではなく交通事故を含む不慮の事故による入通院や病気による入院も共済事故とし、その共済金受取人は、暴力団員ではない原告の配偶者であった。また、共済掛金はその対価でもある。したがって、共済契約者が共済金の給付を一切受けられないわけではないし、被告が共済金を給付する余地なく共済掛金を収受したわけではない。また、本件暴力団排除条項が平成26年10月に規定されてから令和4年6月3日に本件共済事故が発生するまで、原告が、本件暴力団排除条項の対象(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者)を回避する時間は十分あった。したがって、本件解除は、権利濫用とはいえない。

3 結論
 以上の通り適法な本件解除により、被告は本件共済事故に関し共済給付を行う責任を負わないから(本件暴力団排除条項、保険法59条2項3号)、原告の請求は、認容されるべきではない。よって、主文のとおり判決する。
広島地方裁判所尾道支部 裁判官 永野公規

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R 7-12- 5(金):貴金属・宝石類の生前贈与と特別受益の該当性について
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○遺産分割における民法第903条規定特別受益について相談を受けています。特別受益については「民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」に基本的説明を記述しています。この説明時の特別受益規定に相続法改正によって「4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」が加えられており、この趣旨は、配偶者の居住財産の遺贈・贈与は、持ち戻し免除の意思表示があったと推定して配偶者の居住確保によりその地位を強化していることです。

○特別受益の相談では、持ち戻し免除の意思表示があったかどうかの相談が多く、これについては「持戻免除の意思表示概観」に基礎的説明を記述し、具体的な裁判例は「持戻免除の意思表示が認められた具体例紹介1」以下に説明を加えています。現在、貴金属・宝石類の生前贈与が特別受益に該当しないかどうかの相談を受けています。

○裁判例を探すと、不動産についての判断例は多くありますが、ズバリ貴金属・宝石類の生前贈与が特別受益に該当するかどうかを判断した裁判例は現時点では見つかっていません。しかし、貴金属・宝石類は相続税での遺産として評価されており、その価値は千差万別ですが、不動産同様重要な財産であり、理屈上は特別受益に該当することがあると考えられます。

○貴金属・宝石類の生前贈与が特別受益に該当する理由は以下の通りです。
生計の資本としての贈与: 高価な貴金属は金銭に見積もれる資産であり、その価格や性質から、通常の生活費の援助ではなく、生計の資本(生活や事業の基礎となる財産)として贈与されたと判断される可能性があります。
相続人間の公平性: 特別受益の制度は、相続人全員の公平を図るためのものです。特定の相続人だけが多額の財産を受け取っていると、他の相続人との間で不公平が生じるため、相続財産にその贈与分(特別受益分)を算入(持ち戻し)して計算される可能性が高くなります。
財産の価値: 宝石や貴金属は資産価値が高く、相続税の課税対象にもなるため、単なる装飾品や通常のプレゼントとは区別されます。

○貴金属・宝石類の生前贈与が特別受益に該当するかどうかの判断のポイントは以下の通りです。
先ず価格で、貴金属の価格がどれくらい高額かが重要な判断材料となり、社会通念上、通常の扶養義務の範囲内と考えられる程度であれば、特別受益には該当しませんが、贈与税が課税される110万円の価値を超えれば該当する可能性は出てくるでしょう。遺産総額とのバランスも考慮されます。
次に目的ですが、何の目的で贈与されたかも考慮され、例えば、単なる誕生日プレゼントや記念品としての性質が強い場合は、価値が高くても特別受益とされない可能性もあります。
最後に他の相続人とのバランスが考慮されるべきで、他の相続人が受けた生前贈与や援助との比較も必要です。
要するに被相続人の意思と相続の公平性のバランスを考慮した総合判断で、前記持ち戻し免除の意思の有無の判断を含めて、相当難しい判断になります。
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