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改正前民法価額弁償未請求者の遺留分減殺現物返還請求認容最高裁判決紹介

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令和 7年 8月 8日(金):初稿
○改正前相続法の事案ですが、遺留分権利者から遺留分減殺に基づく土地の持分の現物返還請求を受けた受遺者に対して当該持分の価額の支払を命じた原審の判断に違法があるとされた令和7年7月10日最高裁判決(裁判所ウェブサイト)を紹介します。

○事案は以下の通りです。
・亡Aは、平成19年9月、上告人に亡Aの遺産を相続させること等を内容とする公正証書遺言をし、平成28年12月、死亡
・亡Aの法定相続人は、いずれも子である上告人と被上告人ら外1名
・上告人は、上記遺言に基づき、原判決別紙物件目録記載1及び2の各土地について、相続を原因とする持分移転登記手続
・平成29年3月、被上告人らは上告人に対して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示、上記各土地の持分のほか、預貯金等の一部を取得
・令和5年6月、被上告人らに対し、本件各持分について、民法1041条1項の規定により価額の弁償をする旨の意思表示
・令和5年8月、原審名古屋高裁は、上告人に対し、本件各持分について上告人がその価額を支払わなかったことを条件とする持分移転登記手続を命ずる


○最高裁判決は、受遺者が民法1041条1項の規定により遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をした場合でも、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をするまでは、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権のみを有するとして、原審の本件各持分について上告人がその価額を支払わなかったことを条件とする持分移転登記手続を命じた部分を破棄しました。

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主   文
1 原判決主文第2項(2)、(5)、第3項(2)及び(5)を次のとおり変更する。
(1)上告人は、被上告人X1に対し、37万3525円及びこれに対する平成29年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人X1のその余の請求を棄却する。
(3)上告人は、被上告人X2に対し、171万1003円及びこれに対する平成29年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被上告人X2のその余の請求を棄却する。
2 上告人と被上告人X1との間の訴訟の総費用は、これを100分し、その99を被上告人X1の負担とし、その余を上告人の負担とし、上告人と被上告人X2との間の訴訟の総費用は、これを100分し、その94を被上告人X2の負担とし、その余を上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由について
1 本件は、被上告人らが、亡Aの遺言により亡Aの遺産を相続した上告人に対し、民法(平成30年法律第72号による改正前のもの。以下同じ。)1031条の規定による遺留分減殺請求権の行使に基づき、亡Aの遺産のうち、不動産について持分移転登記手続等を求めるとともに、預貯金等について金員の支払を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)亡Aは、平成19年9月、上告人に亡Aの遺産を相続させること等を内容とする公正証書遺言をし、平成28年12月、死亡した。上告人は、上記遺言により、亡Aの遺産を相続した。
(2)亡Aの法定相続人は、いずれも子である上告人及び被上告人ら外1名である。
(3)上告人は、上記遺言に基づき、原判決別紙物件目録記載1及び2の各土地について、相続を原因とする持分移転登記手続をした。

(4)被上告人らは、平成29年3月、上告人に対して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、上記各土地の持分(以下「本件各持分」という。)のほか、預貯金等の一部を取得した。このうち預貯金等の取得額は、被上告人X1につき37万3525円、被上告人X2につき171万1003円である。

(5)上告人は、令和5年6月の原審口頭弁論期日において、被上告人らに対し、本件各持分について、民法1041条1項の規定により価額の弁償をする旨の意思表示をした。

3 原審は、上記事実関係等の下において、上告人に対し、本件各持分について上告人がその価額を支払わなかったことを条件とする持分移転登記手続を命ずるとともに、上記価額の支払及び被上告人らが遺留分減殺によって取得した預貯金等の額の支払を命じた。

4 しかしながら、原審の判断のうち、本件各持分の価額の支払を命じた部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受けた受遺者が民法1041条1項の規定により遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をした場合において、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたときは、遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権を遡って失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するが(最高裁平成18年(受)第1572号同20年1月24日第一小法廷判決・民集62巻1号63頁),遺留分権利者が上記意思表示をするまでは、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権のみを有するものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると、本件各持分について、上告人が価額を弁償する旨の意思表示をしたのに対して、被上告人らが価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたことはうかがわれないから、被上告人らは、価額弁償請求権を確定的に取得したとは認められず、共有持分権及び共有持分権に基づく現物返還請求権のみを有するものである。 
 したがって、本件各持分の価額の支払を命じた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

5 以上によれば、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち本件各持分の価額の支払を命じた部分は破棄を免れない。したがって、原判決主文第2項(2)、(5)、第3項(2)及び(5)を本判決主文第1項のとおり変更することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮川美津子 裁判官 安浪亮介 裁判官 岡正晶 裁判官 堺徹 裁判官 中村愼)
以上:2,590文字

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