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組合員のマンション法3条管理組合管理文書閲覧請求限度判断地裁判決紹介

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令和 7年 8月 5日(火):初稿
○マンションの自分の部屋からの漏水事故について、その原因を調査するためマンション管理組合にマンション設計図を閲覧させるよう要求しているが認められずに困っているとの相談を受けています。これに関係する裁判例を探していたら、判例時報最新号の令和7年8月1日号に、建物の区分所有等に関する法律3条所定の団体が管理する文書について、その構成員は、同法及び規約の定めの限度で閲覧をさせるよう求めることができるにとどまるとされた令和6年10月24日名古屋地裁判決(判時2624号○頁)が掲載されていましたので、全文紹介します。

○管理組合管理文書について組合員が閲覧請求できるのは期約の定めの限度に従うとの結論で、規約の定めは以下の通りです。
(イ) 組合は、次の各号に掲げる帳簿を備え、必要事項を記載し保管を行い、組合員の請求があったときは、これを閲覧させなければならない。
1号 会計帳簿
2号 管理共有物台帳
3号 備品台帳


○2号管理共有物台帳、3号備品台帳とは具体的に如何なる文書なのか不明で、判決主文1項記載別紙文書目録1記載の各文書も別紙が省略されており如何なる文書か不明です。残念ながら相談事例の参考にはなりませんでした。

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主   文
1 被告は、原告に対し、別紙文書目録1記載の各文書について、閲覧をさせよ。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、別紙文書目録2記載の各文書について、閲覧及び写真撮影をさせよ。

第2 事案の概要
 本件は、建物の区分所有等に関する法律3条所定の団体である被告の組合員である原告が、被告に対し、被告の規約又は民法645条の類推適用により、被告が管理する文書の閲覧及び写真撮影をさせるよう求めるものと解される事案である。

1 前提事実(弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
 被告は、肩書地に所在する分譲住宅に係る共有物を管理すること等を目的とする建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条所定の団体である。
 原告は、上記分譲住宅の区分所有者であり、被告の組合員である。

(2) 被告の規約の定め
ア 被告の規約には、被告における文書の閲覧について、次のとおりの定めがある。
(ア) 理事長又は理事会において指名された理事は、議事録(区分所有法34条にいう集会である被告の総会の議事録を指す。)を保管し、利害関係人の請求があったときは、これを閲覧させなければならない。

(イ) 組合は、次の各号に掲げる帳簿を備え、必要事項を記載し保管を行い、組合員の請求があったときは、これを閲覧させなければならない。
1号 会計帳簿
2号 管理共有物台帳
3号 備品台帳

イ 被告の規約には、上記アのほか、被告において保管される文書の閲覧についての定めは置かれていない。また、被告の規約には、被告において保管される文書の謄写又は写真撮影についての定めは全く置かれていない。

2 争点
(1) 閲覧及び写真撮影をさせるよう求める権利の有無及び範囲
[原告の主張]
 原告が、被告とa銀行との間の取引報告書を検討した結果、不透明な取引が多数あることが分かった。これらを調査するために、別紙文書目録2記載の各文書をよく調査する必要がある。そこで、原告は、被告に対し、上記各文書について、閲覧及び写真撮影をさせるよう求めることができる(大阪高裁平成28年(ネ)第1420号、同第1934号同年12月9日判決・判例タイムズ1439号103頁(以下「平成28年大阪高判」という。)参照)。

[被告の主張]
ア 平成28年大阪高判は、団体そのものとその構成員との間に準委任類似の関係を認め、民法645条の報告義務の規定を類推適用しているが、団体そのものが個々の団体構成員に対して受任者的地位に立つという考え方を採ることはできず、上記類推適用をすることはできない。また、団体の役員は、団体に対して受任者的立場に立つということはできるかもしれないが、その場合でも、個々の役員は、個々の構成員に対して個別に受任者の立場に立つものではなく、団体との関係で報告義務を負うにすぎない。したがって、同条を類推適用して、原告に対し、被告の規約に定めのない文書の閲覧謄写請求権を認めることはできない。

イ 被告の規約には、謄写請求権に関する定めは置かれていない。したがって、原告の請求のうち、被告において保管される文書の写真撮影をさせるよう求める部分は、理由がない。

ウ 別紙文書目録2記載の各文書のうち、理事会議事録及び会計帳簿の裏付けとなる資料(領収書、請求書、見積書、工事の発注書、受注書、作業報告書、完了報告書、契約書など)については、被告の規約に閲覧請求権に関する定めが置かれていない。したがって、原告の請求のうち、これらの文書の閲覧をさせるよう求める部分は、理由がない。

(2) 権利濫用
[被告の主張]
 原告は、被告の預金口座が凍結された事件の加害者であり、被告は、原告の行為により多大な損害を受けている。原告に別紙文書目録2記載の各文書を開示すると、被告は更なる損害を受けるおそれがある。したがって、原告の請求は、権利濫用に当たり、許されない。

[原告の主張]
 被告は権利濫用の主張をするが、その根拠となる事実はないし、そもそも被告の主張する理由は、原告の請求を認めるか否かの判断には関係しない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(閲覧及び写真撮影をさせるよう求める権利の有無及び範囲)について

(1) 区分所有法30条1項は、同法3条所定の団体における建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について、同法に定めるもののほか、規約で定めることができる旨を定める。

 そして、区分所有法は、同法3条所定の団体において保管される文書のうち、規約及び集会の議事録については、利害関係人の請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、閲覧を拒んではならない旨を定めるが(同法33条2項、42条5項)、これらの文書の謄写又は写真撮影に関する定めは置かれておらず、また、その他の文書の閲覧及び謄写又は写真撮影に関する定めは全く置かれていない。

 このように、区分所有法が、同法3条所定の団体において保管される文書の一部についてのみ閲覧に関する定めを置きつつ、同団体において保管される文書について謄写又は写真撮影に関する定めを全く置いていないこと(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律が、社団法人において保管される文書について広範に閲覧及び謄写等に関する定めを置いている(同法32条2項、129条3項、121条1項等)のとは異なる定め方をしていること)等に照らすと、区分所有法3条所定の団体における規約及び集会の議事録以外の文書の閲覧や、当該団体において保管される文書の謄写又は写真撮影については、当該団体の規約の定め等(いわゆる団体自治)に委ねられているものと解される。

(2) 前提事実(2)のとおり、被告の規約には、総会の議事録、会計帳簿、管理共有物台帳及び備品台帳の閲覧についての定めが置かれているのみで、被告において保管されるその他の文書の閲覧についての定めは置かれておらず、被告において保管される文書の謄写又は写真撮影についての定めは全く置かれていない。その他に、被告の組合員が被告において保管される文書の謄写又は写真撮影を行う権利を根拠付ける総会の決議がされたなどの事情も認められない。そうすると、被告においては、区分所有法及び規約の定めの限度で、文書の閲覧が認められるにとどまるというべきであり、その他の文書の閲覧や、被告において保管される文書の謄写又は写真撮影については、少なくとも権利としてこれらを認めることはできないというべきである。

 なお、原告が言及する平成28年大阪高判は、民法645条の報告義務の規定を類推適用することにより、被告のような団体の構成員が、当該団体に対し、当該団体において保管される文書の閲覧及び写真撮影をさせることを求める権利を広範に認めた。しかしながら、区分所有法3条所定の団体と当該団体の構成員との間に準委任類似の関係を認め、民法645条を類推適用することにより、団体の構成員に対する報告義務を導くことができるとしても、具体的に、どの範囲の文書について閲覧させ、また、謄写又は写真撮影をさせることによって、上記報告義務が果たされるかは、一義的に決せられるものではない。結局のところ、この点は、当該団体に適用される法令の定めを前提としつつも、上記報告義務の内容をどのように具現化するかに関する個々の団体の判断(団体自治)によって決せられるべきものと解するのが相当である。そうすると、原告と被告との関係について民法645条の類推適用を肯定するとしても、被告において保管される文書の閲覧及び写真撮影をさせるよう求める権利の範囲が区分所有法及び規約の定めの限度にとどまる旨の上記の判断を左右するものではない。

(3) 前提事実(1)のとおり、原告は被告の組合員であり、組合の運営に関して利害関係を有することは明らかである。そうすると、原告は、被告に対し、区分所有法42条5項が準用する同法33条2項及び被告の規約(前提事実(2)ア(ア))に基づき、被告の総会の議事録(別紙文書目録2記載1の文書が該当する。)を閲覧させるよう求める権利を有し、また、被告の規約(前提事実(2)ア(イ))に基づき、前提事実(2)ア(イ)各号に掲げる帳簿(同目録記載3の文書のうち、元帳、仕訳帳及び毎月の収支計算書(月次報告書)並びに同目録記載4の文書が該当するものと解される。)を閲覧させるよう求める権利を有する。
 他方、原告は、別紙文書目録2記載のその他の文書を閲覧させるよう求める権利を有さず、また、同目録記載のいずれの文書の写真撮影をさせるよう求める権利も有しない。


2 争点(2)(権利濫用)について
 被告が主張する「被告の預金口座が凍結された事件」の加害者が原告であるか否かはおくとしても、上記1(3)のとおり原告が被告に対して閲覧させるよう求める権利を有する文書は、いずれも、被告の運営に関する極めて基本的な文書であり、原告がこれらを閲覧したとしても、それによって被告が不当な損害を受けることはおよそ想定し難い。したがって、原告が被告に対して上記文書を閲覧させるよう求める請求が権利濫用に当たるということはできない。

3 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却する。
 よって、主文のとおり判決する。
 名古屋地方裁判所民事第10部 (裁判官 大竹敬人)
 
 〈以下省略〉
以上:4,481文字

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