平成13年 2月 1日(木):初稿 平成16年 9月11日(土):更新 |
以下の記事は、平成13年2月に仙台弁護士会会報に掲載した記事を加筆・訂正したものです。 一 はじめに 我妻広報委員長から「これからの弁護士」と言うシリーズ記事を掲載するので第一号を執筆して欲しいと要請された。 人権擁護の使徒としてのこれからの弁護士像なんてことは、私の任にない。もっぱらサービス業務としての弁護士業務について、これからのあるべき姿について記述を求め られていると理解した。 とんでもない独断と偏見であるとの誹りを受けることを覚悟で少々考え来たことを述べたい。 二 三大特権喪失の時代認識 私は昭和55年4月から弁護士業務につき、間もなく21年を経過する。この21年間、弁護士業務はサービス業としてみる限りは実に恵まれていると思い続けてきた。顧客を叱りつけ、顧客を選択し、気にくわない顧客の事件は受けないと言う贅沢が許されながら継続できるのは、今や弁護士位ではないかと思う。 この贅沢が許されてきたのは、やはり ①法律事務独占、 ②少人数での寡占、 ③統一料金と広告禁止の競争排除体制 と言う三大特権が付与されていたからと考えてきた。 ところが近時の規制緩和とグローバル標準化の大合唱により、この三大特権がやり玉に挙げられた。 その結果、法律事務独占は、司法書士等隣接業種に徐々に解放される方向となり、寡占も司法試験合格者大幅増加方針が決められ、広告は既に解禁され、統一料金も見直しが迫られる状況となった。 三大特権の運命は、風前の灯火の状況である。10年先には三大特権で厚く保護された時代は、古き良き時代として懐古の時代となることは確実となった。 本音を言えば、せめて私の現役時代は、この古き良き時代が続いて欲しいとの希望もないわけではない。しかし今はこれも運命と諦め、特権喪失の時代到来を覚悟している。この厳しい時代を如何に食べていくかを思案しており、以下に私の生き延びるための思案を紹介する。 三 顧客満足充足体制 昔から商売繁盛のコツは、「巧い、速い、安い」に尽きると言われてきた。私はこの標語の究極の意味は、「顧客満足」にあると考えている。 しかし、多くの弁護士の顰蹙を買うことを覚悟で言うと、これまでの弁護士一般は、世の指導者という意識の方が顧客満足の精神よりずっと強いと感じてきた。 かような意識でも業務を継続できたのは、正に先の三大特権の恩恵による。勿論、私は三大特権に裏付けされた弁護士の人権擁護、社会正義の実現の使徒の役割を否定するものではない。 しかし、前述の通り時代の波には勝てず、特権喪失の時代が来ることが確実となった 。今後、弁護士も顧客満足の精神をこれまで以上に取り入れないとなかなか商売として成り立たない時代になると覚悟している。 四 迅速事務処理体制 「巧い、速い、安い」の内の「巧い」は弁護技術の向上に尽きるもので、これは日々の実務訓練の賜であり、私はこの技術を披露する任にない。 「速い」については、パソコン利用による実現を目指している。先ず依頼者との打ち合わせ記録は、鉛筆によるメモからパソコン入力に変えた。パソコンディスプレイを自分用と依頼者用の2つ準備し、依頼者の話を聞き、同時確認して 貰いながら催告書、契約書、各種連絡書、準備書面等必要な文書を即時作成を心がけ、依頼者が居る間に作成し、プリント交付を原則としている。 7,8年前までは、打ち合わせではメモを取り、依頼者が帰った後にじっくり起案するスタイルであった。この方法では、聞き忘れたことなど後で依頼者に確認する必要が生じるなど不効率で時間がかかった。これに対し依頼者の居る間に書面を作ることの習慣化により事情聴取もより集中化し、文書作成の時間は半分以下に短縮されたと自分では思っている。 次に出来る限り多くの文書のデータベース化を試みている。文書作成は、過去の似たような文書を検索複写し、必要部分を加筆訂正して作成することが効率的である。そのためには過去に作成した文書の検索複写が容易に出来る体制即ちデータベース化が欠かせない。 そこで数年来打ち込んでいる桐と言うソフトを使用し、「一文書一ファイル から一文書一行へ」の標語でデータベース化に勤しんでいる。但し、これは多分に趣味的なところもあり文書作成迅速化にどれだけ役立っているかは疑問なしとはしない。 五 事務局体制強化 次に「安い」であるが、弁護士の場合仕入れが無く、仕入れコスト低下による「安い 」の実現は不可能である。法的サービスの「安い」を実現する手段は、結局、時間単価を下げるしかないのではとの結論に達した。 時間単価を下げる方法は、弁護士より時間給の安い事務員に可能な限り、弁護士労働を代替して貰うことに尽きる。稼ぎが少なく勤務弁護士を雇う経済力のない私には事務局に勤務弁護士並みの仕事をして貰うしかない。勿論非弁の誹りを受けない範囲であるが。 これまで弁護士事務所事務員業務は、文書清書作業が中心と考えられてきた。しかし私の事務所では事務員の仕事に文書清書作業は全くなくなった。 当事務所は、3名の常勤事務員に1名の非常勤事務員の体制であるが、事務員の担当区分は、一事件一事務員である。最初の催告書発送の示談交渉から、訴訟手続、執行手続、最後の回収精算業務に至るまで一人の事務員が継続して担当する。 打ち合わせには出来る限り同席させ、事件内容を理解して貰う。文書には原則として担当事務員名を記し、依頼者との連絡も出来る限り担当事務員を通じて行う。これによって事務員に事件担当者としての責任と自覚を持って貰う。 売買賃貸借、リースクレジット等定型訴状、契約書等の定型文書は、類似過去データを元に事務員が起案し、又領収証等を元に証拠説明書も事務員が作成し、私が最終チェックして完成させる。 日常の各種連絡文書は、口頭で趣旨を伝え、事務員自身に文章を作成させる。事務員には「自分の頭で考えろ」が口癖にしている。 その結果、事務員の起案能力は相当高まり、破産宣告申立書の「経緯と事情」等は私より丁寧で緻密な文章を書くようになった。 但し、残念ながら、これによって私の事務所の料金が特に安くなっているとは言えない。報酬規則により他より安いと言う表示は禁止されており、又現時点では安売り競争にはなっておらず、特に安さを標榜する必要性がないからである。大きな利点は、他の事務所では弁護士が行う訴状起案等まで事務員にやって貰うことにより私の仕事が随分と楽になっていることである。 六 最後に こうしてみると私の「顧客満足」の精神は口先ばかりで真の実効を伴っていないようである。 尚、「顧客満足」とは、顧客の言いなりになることとは全く異なる。弁護士は、これまで通り顧客から一歩離れたところで紛争解決の落としどころを見極め、且つその落としどころに如何に顧客の「納得」を得ながら到達するかが重要と認識している。しかし 、これには高度な技術が必要であるとの認識が近時益々強くなってきた。 私は、上記迅速事務処理体制、事務局体制強化の他に ①業務処理経過連絡報告体制強化、 ②情報提供サービス強化、 ③指導・説得から情報提供への意識変革と顧客の自己判断の勧め 等「顧客満足」の工夫してきたつもりであるが、まだまだ全く不十分である。 右①乃至③は何れも「顧客満足」の視点から極めて重要と考えている。しかし予定の紙数を軽くオーバーしてしまったことに気づいたのでこの辺でペンを置く。 先行き不安・前途多難の感が強いが、今後も自分なりの工夫だけは続けたいと思っている。(平成13年2月記) 以上:3,112文字
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