令和 7年 8月 7日(木):初稿 |
○「裁判所鑑定結果による賃料増額請求を認めた地裁判決紹介2」の続きで、裁判所鑑定結果による賃料増額請求を認めた地裁判決例として令和6年6月27日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。 ○本件土地の賃貸人である原告が、賃借人である被告に対し、借地借家法11条1項に基づき、賃料増額の意思表示をした日以降、本件土地の賃料が月額38万7000円から月額83万1000円に増額されたことの確認を求めたました。 ○当事者双方の申出に基づき裁判所が鑑定を命じた不動産鑑定士による鑑定は、賃料額につき、差額配分法、利回り法及びスライド法により試算賃料を算出した上、各手法の特徴や本件の特殊性を考慮した各試算賃料に係る説得力を吟味し、これらを均等に関連付けて、月額59万2000円と評価し、同鑑定は信用することができるとして、原告の請求を一部認容し、一部棄却しました。 ○直近合意時期平成22年7月1日から賃料増額意思表示をした令和3年5月11日までの僅か10年10か月の間に月額賃料が38万7000円が59万2000円と53%も上昇しています。東京が如何に不動産バブルになっているかが判る判例です。 ********************************************* 主 文 1 原告が被告に賃貸中の別紙物件目録記載の土地の賃料が、令和3年5月11日以降月額59万2000円であることを確認する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを20分し、その11を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 原告が被告に賃貸中の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の賃料が、令和3年5月11日以降月額83万1000円であることを確認する。 第2 事案の概要 本件は、本件土地の賃貸人である原告が、賃借人である被告に対し、借地借家法11条1項に基づき、賃料増額の意思表示をした日(令和3年5月11日)以降、本件土地の賃料が月額38万7000円から月額83万1000円に増額されたことの確認を求めた事案である。 1 前提事実 以下の事実は、当事者間に争いがない。 (1)本件土地を所有していたCは、被告との間で、賃貸人をC、賃借人を被告、賃貸期間を昭和42年6月11日から平成9年6月10日まで、賃料を月額9000円とし、本件土地を賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、昭和42年6月11日、被告に対し、本件土地を引渡した。 Cは、平成9年4月1日死亡し、D及びEが、本件土地を相続により取得するとともに、本件賃貸借契約の賃貸人の地位を取得した。 D及びEと被告は、平成22年7月1日(直近合意時点)、本件賃貸借契約の賃料を38万7000円とする旨合意した。 D及びEは、平成28年12月20日、原告に本件土地を売却し、原告が本件賃貸借契約の賃貸人の地位を取得した。 (争いがない) (2)原告は、令和3年5月11日(増額請求時点)、被告に対し、同日以降の本件賃貸借契約の賃料を月額83万1000円に増額する旨の意思表示をした。 2 争点 増額請求時点における現行賃料の不相当性及び相当賃料額 3 争点に関する当事者の主張 (1)原告の主張 原告が依頼した不動産鑑定の結果(甲6)によれば、本件土地の適正継続賃料額は、月額83万1000円である。 本件土地の賃料は、直近合意時点(平成22年7月1日)に月額38万7000円とする合意がされてから、増額請求時点(令和3年5月11日)まで約10年10か月にわたり改定されていない。本件土地の適正継続賃料額と現行賃料との間に相当の乖離が存在すことは、現行賃料が不相当に低廉となったことを示すものである。 (2)被告の主張 争う。仮に賃料増額が認められるとしても、被告が依頼した不動産鑑定の結果(乙1)によれば、その額は月額51万3400円を上回らない。 第3 当裁判所の判断 当裁判所は、当事者双方の申出に基づき、不動産鑑定士F(以下「鑑定人」という。)に対し、鑑定事項を、直近合意時点を平成22年7月1日とした場合の令和3年5月11日時点における本件土地の適正な継続賃料額とする鑑定を命じ,鑑定人は、その結果(以下「本件鑑定」という。)を不動産鑑定評価書をもって当裁判所に報告した。 本件鑑定は、要旨、上記鑑定事項の賃料額につき、差額配分法、利回り法及びスライド法により試算賃料を算出した上、各手法の特徴や本件の特殊性を考慮した各試算賃料に係る説得力を吟味し、これらを均等に関連付けて、月額59万2000円と評価した。 本件鑑定は、専門家たる鑑定人が中立かつ公正な立場から、その学識経験に基づき鑑定評価を行ったもので、採用した基礎資料や鑑定評価の過程に不合理な点は見当たらず、本件鑑定は信用することができる。 そして、上記鑑定評価額である月額59万2000円を相当に下回る本件土地の現行賃料額は、直近合意時点から増額請求時点までの間の経済事情の変動等により不相当になったものと認められ、増額請求時点における本件土地の相当賃料額は、月額59万2000円と認められる。 したがって、本件賃貸借契約の賃料は、令和3年5月11日の原告の賃料増額請求により、同日以降月額59万2000円に増額されたものと認められる。 第4 結論 よって、原告の請求は主文1項の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第44部 裁判官 高橋貞幹 別紙 物件目録 所在 渋谷区α 地番 ××番× 地目 宅地 地積 789.19平方メートル 但し、上記土地のうち、別紙図面赤線内部分 (契約書上の地積:90.00坪(297.52平方メートル)) 別紙図面 以上:2,393文字
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