○原告妻が、被告女性が原告の夫と極めて親密に交際したことにより、婚姻共同生活の平和によってもたらされる人格的利益を侵害されたとして、被告に対し不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円を請求しました。不貞行為までの主張ではなく、原告の夫と車両内で長時間過ごしたこと、大量のLINE遣り取り等について、原告の夫と極めて親密に交際したことにより、婚姻共同生活の平和によってもたらされる人格的利益を侵害されたとの主張です。
○これに対し、各行為の頻度や態様、内容に加え、通話のうち仕事上のやり取りが含まれ得ることを差し引いても、その頻度や通話時間の長さを踏まえると、被告と原告の夫との交際は友人関係を優に超え、恋愛関係にあることがうかがわれる極めて親密なものであったといえ、性交渉がなかったとしても原告の婚姻共同生活の平和は棄損されたと認められるとして50万円の慰謝料支払を命じた令和5年7月21日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。
○この判決では、原告は被告と原告の夫との間に性交渉があった旨を主張せず、その有無は争点ではないとする珍しい事案ですが、判決は、原告夫との親密な関係について、婚姻共同生活の平和の維持は、婚姻した者の権利又法律上保護される利益を侵害したとして慰謝料支払を命じました。婚姻共同生活の平和の維持は、原告夫が最も重い責任を負うところ、夫への責任追及がどうなっているのか気になるところです。
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主 文
1 被告は、原告に対し、55万円及びこれに対する令和4年3月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し、その3を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
本判決では、以下の略語を用いる場合がある。
・本件各行為:被告が、原告の夫と、〔1〕別紙記載の日時・場所において、車両内等で共に過ごしたこと、及び、〔2〕LINEでやり取りを行ったこと
・本件通話:被告が原告の夫と令和2年5月から7月までの間に行った携帯電話での通話
第1 請求
被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する令和4年3月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
【請求の法的根拠】
・主請求:不法行為に基づく損害賠償請求
・附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達の日の翌日、利率は民法所定)
第2 争点
1 本件では、以下の争いがない事実のもと、下記2の争点が争われている。
(1)被告は、別紙記載の日時・場所において、原告の夫と車両内等で共に過ごした。
(2)被告は、令和2年7月1日から同月22日までの間に、原告の夫とLINEでやり取りを行った。
(3)原告の夫は、令和2年7月6日頃に交通事故を起こす前夜に、被告宅を訪問した。
2 争点
本件では以下の争点が争われている。なお,原告は被告と原告の夫との間に性交渉があった旨を主張せず、その有無は争点ではない。
(1)権利又は法律上保護される利益の侵害の有無【立証責任:原告】
(2)損害発生の有無及び損害額【立証責任:原告】
3 当事者の主張
(1)争点(1):権利又は法律上保護される利益の侵害の有無
【原告の主張】
原告は、被告が原告の夫と極めて親密に交際したことにより、婚姻共同生活の平和によってもたらされる人格的利益を侵害された。
【被告の主張】
被告と原告の夫との交際により、原告の権利又は法律上保護される利益は侵害されていない。
(2)争点(2):損害の発生及び額
【原告の主張】
・慰謝料:200万円
・弁護士費用相当額:20万円
【被告の主張】
争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
後掲の証拠のほか、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)原告は、平成13年1月23日に夫と婚姻し、同年○月に夫との間で長男をもうけるなど、平穏な夫婦生活を送っていた。(甲1。原告本人)
(2)被告は、平成28年頃に、仕事上の関係で原告の夫と知り合った。
被告は、
〔1〕令和2年4月5日から同年7月5日までの間に、別紙記載のとおり、夜間から深夜の時間帯を中心に毎回数時間にわたり、原告の夫が使用する車両内等で原告の夫と合計13回に共に過ごしたほか、
〔2〕同年7月1日から同月22日までの毎日、1日に数十回を超える頻度でLINEでのやり取りを重ねた(本件各行為)。このLINEでのやり取りには、「大好き」「愛してる」「早く会いたい」「恋しい」といったメッセージを送りあうやり取りが含まれている。(甲8、9)
このほか、被告は、原告の夫との間で、同年5月の15日間(合計28時間16分7秒)、同年6月の24日間(合計39時間29分2秒)、同年7月の9日間(合計9時間3分55秒)、携帯電話で通話した(本件通話)。(甲10、11)
(3)原告の夫は、令和2年7月6日に交通事故を起こし、使用する車両を大破させた。(原告本人)
(4)原告は、令和2年7月22日に夫から携帯電話を預けられた際に、夫が原告以外の女性と交際していることに気が付いた。
原告は、夫を追及するとともに交際の状況について調査し、本件各行為や本件通話といった被告と原告の夫との交際の状況を知ることとなった。(甲13、原告本人)
2 争点(1):権利又は法律上保護される利益の侵害の有無
婚姻共同生活の平和の維持は、婚姻した者の権利又法律上保護される利益と解される。
そして、原告の夫が令和2年7月6日に交通事故を起こす前夜に被告宅を訪問したことのほか、認定事実(2)のとおり、本件各行為の頻度や態様、内容に加え、本件通話のうち仕事上のやり取りが含まれ得ることを差し引いても、その頻度や通話時間の長さを踏まえると、被告と原告の夫との交際は、友人関係を優に超え、恋愛関係にあることがうかがわれる極めて親密なものであったといえる。
このような両者の交際の状況に照らせば、両者の間で性交渉がなかったとしても、これにより原告の婚姻共同生活の平和は棄損されたと認められる。
3 争点(2):損害発生の有無及び損害額
上記認定の両者の交際の状況を踏まえると、その存在を知った原告が受けた精神的苦痛は相応に重い。そのほか本件に現れた一切の事情を考慮すると、慰謝料は50万円、弁護士費用相当額は5万円と認めるのが相当である。
4 結論
よって、原告の請求は主文記載の限度で理由があるからその限度で認容し、その余の請求は棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部 裁判官 伊藤孝至
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