○原告妻が、離婚調停中の夫Cと、平成18年頃から15,16年以上の期間、肉体関係を伴う交際を継続しているとして慰謝料500万円、調査費用68万2000円弁護士費用等合計618万2000円を請求する訴えを提起し、被告は、Cとの不貞行為を否認しました。
○これに対し、平成18年頃から被告とCは親密な関係になり、令和3年頃まで不貞行為があったとして、被告に対し調査費用も含めた慰謝料150万円と弁護士費用15万円の合計165万円の損害賠償支払を命じた令和6年3月27日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。
○Cは令和2年には原告妻と別居し、令和3年に至り、離婚調停を申し立てており、原告と夫Cとの婚姻関係は完全に破綻状態にあり、判決は、被告が、訴訟に至り不貞行為を否認し、原告の精神的苦痛を増加させ、被告が不貞行為を認めない態度から、証拠収集のために探偵に依頼しており、その費用全額が損害額とまでは認め難いとしながら、Cが令和3年10月に離婚調停申立をして、原告とCのおよそ30年にわたる婚姻関係が破綻の危機に瀕している等本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告とCとの不貞行為による慰謝料額は150万円が相当としました。
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主 文
1 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和4年12月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを15分し、その4を被告の負担として、その余は原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、618万2000円及びこれに対する令和4年12月11日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告が、被告が原告の夫と不貞行為を重ねたことにより、精神的損害等の損害を被ったとして、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害額合計618万2000円及びこれに対する不法行為以後の日である令和4年12月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲記がない事実は争いがない。)
(1)原告とC(以下「C」という。)は、平成4年に婚姻した夫婦であり、平成7年に長女を、平成10年に二女をもうけた(甲1)。
(2)被告とCは、令和2年5月27日、「a」というネットカフェ(以下「本件ネットカフェ」という。)にチェックインし、共に××××号室(以下「本件部屋」という。)に入室して滞在した(甲3)。
(3)Cは、令和2年12月28日、原告と共に住んでいた自宅を出て、以降、原告との別居を続けている。
(4)原告は、令和3年7月11日、被告の自宅を訪問し(以下「本件訪問」という。)、被告との間で、被告とCとの関係等について会話をした。
(5)Cは、令和3年10月20日付けで、横浜家庭裁判所に対し、原告を相手方として、夫婦関係等調整調停(離婚)を申し立てた(以下「本件調停」という。甲2)。
3 争点及び当事者の主張
(1)本件の争点は、〔1〕被告とCが不貞行為を行ったか(争点1)及び〔2〕損害及び額(争点2)である。
(2)争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙のとおりである。なお、別紙で用いた略語は本文においても用いる。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、被告とCが不貞行為を行ったと認められ、これによる損害額は165万円と認めるべきであるから、原告の請求は同金額の限度で理由があり、一部認容すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 認定事実
前記前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)被告とCは、遅くとも平成18年頃には、それぞれの職場の仲間同士のグループ合計8名程度で、年に1、2回程度、飲み会をしたり、買い物をしたりする仲となった。その後、被告とCは、二人だけで食事などをするようになった。(甲12、乙2、3、証人C、被告本人)
(2)
ア 被告は、令和2年5月27日午前9時4分頃、自宅の最寄り駅であるb駅から電車に乗ってc駅へ移動し、午前9時42分頃、同駅で被告と合流した。そして、被告とCは、二人でコンビニのイートインスペースで談笑した後、午前10時22分頃、被告が元々予約していた美容室に一緒に入店した。
なお、被告とCは、同日、同じショルダーバッグを肩に掛けており、同種類の靴及びジーパンを身に着けていた。また、Cは、被告が同日の午前中に美容室の予約が入っていることを聞かされたにもかかわらず、同日に二人で会う約束をし、美容室に一緒に行くことにした。
(以上につき、甲3、8、11、証人C、被告本人)
イ 被告とCは、同日午後0時25分頃に上記美容室から出て、c駅付近を歩いて回ったのであるが、その際、両名は手をつないで歩くこともあった。その後、被告とCは、電車でd駅に移動し、午後1時47分頃に中華料理店に入って昼食をとった。(甲3)
ウ 被告とCは、同日午後2時22分頃、上記料理店から出て、α付近を歩いて回ったのであるが、その際、両名は手をつないで歩くこともあった。その後、被告とCは、複数のお店に入ったあと、電車でe駅に移動し、同日午後3時45分頃、本件ネットカフェのフロントでチェックインをし、同日午後3時49分頃、全室防音の完全個室である共用(女性優先)フロアにある本件部屋に二人で入室した。(甲3)
エ 被告とCは、同日午後6時29分頃、本件ネットカフェを出て、ドラッグストアー2店と居酒屋に入店し、午後9時30分頃、電車でe駅からf駅まで移動し、同駅で別れた(甲3)。
(3)被告は、令和3年7月11日の原告による本件訪問の際、原告から「ダブル不倫になりますよね?」と問われたのに対して「うん。」と、原告のことをどんなふうに考えていたのかを問われたのに対して「私はいつも悪いなと思ってましたよ。」と、「一番最後に会ったのはいつとかですか?」と問われたのに対して「そうですね。先月?」、「そうですかね。うん。」などと、それぞれ回答した(甲8、11)。
(4)Cは、平成18年7月8日に被告名義のクレジットカードで購入したメンズシャツ1点及びレディスカットソー1点並びに平成19年7月14日に同クレジットカードで購入したメンズシャツ1点のレシートを所持していた(甲12)。
2 争点1(被告とCが不貞行為を行ったか)について
(1)検討
被告とCがグループ同士で知り合ったのが平成18年頃であること(前記1(1))、Cが同年に被告名義のクレジットカードで購入したレシートを所持していること及び購入した物の中には女性用の衣服が含まれていること(以上につき、前記1(4))からすると、被告とCは、グループ同士で知り合った後、程なくして二人で買い物に行き、Cが被告に対して衣服をプレゼントする関係となっていたことがうかがわれるところである。
また、Cは、被告に美容室という予定があることを知りながら、会う日を別日にすることも、美容室終了予定時間後に待ち合わせをすることもせず、被告と共に美容室に行く決断をし(前記1(2)ア)、e駅からだと自身の最寄り駅であるb駅とは反対方向のf駅までわざわざ被告を送っている(前記1(2)ア、エ)ところ、Cのこれらの行動は、二人が単なる相談相手や飲み友達であることを超えて、長く一緒にいたいと思う関係であることを示すものといえる。
さらに、二人は、おそろいのショルダーバッグ、靴及びジーパンを身に着けるといういわゆるペアルックで街を出歩き(前記1(2)ア)、時には手をつないでいた(前記1(2)イ、ウ)のであり、これらの事実からも二人が親密な関係にあったことが優に推認できる。
そして、被告は、本件訪問の際に原告から被告とCとの関係がダブル不倫である旨を問われたのに対して、認める旨の返答をしている(前記1(3))。
以上の事実を踏まえると、被告とCとは、平成18年頃から親密な関係にあったものと認めることができる。そして、これによれば、被告とCが防音の完全個室である本件個室に入室した事実(前記1(2)ウ)から、被告とCが不貞行為を行ったと認めることができる。
(2)被告の主張等について
ア 被告は、Cから、コロナ禍で手に入りにくいマスク等を東京に買いに行くので付き合ってほしいと誘われて出かけることになり、実際にマスク等を購入したが、Cの物件探しの関係でパソコンを使用する必要が生じ、本件個室に入室したにすぎず、不貞行為は行っていない旨の主張及び供述をし、Cもこれに沿う供述をする。
しかし、マスク等を一緒に買いに行くだけであれば、被告の美容室にCが一緒に行く必要性がないことは前記(1)に説示したとおりであり、また、Cの用事のために本件個室に入室したのであれば、被告が一緒に本件個室に入る必要性もないことから、被告の上記主張及び供述並びにCの上記供述は到底信用することができない。
イ 被告は、Cと手を取り合っていると思われる状態となったのは、被告が受けた事故により足の神経を痛め、一時的に補助が必要となることがあるためである旨の主張及び供述をし、Cもこれに沿う供述をする。
しかし、調査報告書(甲3)において、終日、Cと被告の行動を調査していた探偵において、被告が痛がる様子が特に確認されていない上、同探偵は、被告とCとが手をつなぐ様子について「親密な様子で」(甲3〔27頁〕)と表現しているのであって、このことからも、被告が足を痛がったことを契機としてCが補助するために手を引いたとは考え難い。さらに、被告とCとが手をつないでいる様子を写した写真(甲
3〔27、44頁〕)からも、単に二人が横並びで手をつないで歩いていることが認められるのみで、Cが足の痛みやしびれを訴える被告の補助をしていることはうかがわれない。
よって、被告の上記主張及び供述並びにCの上記供述を採用することはできない。
ウ 被告は、本件訪問の際の被告の言動は、原告の突然の訪問や様子に恐怖を覚え、適当なあいづちをうったものである旨の主張をし、同主張に沿う供述をする。
しかし、被告は、本件訪問の際、原告から、Cと15、6年付き合っていたかを問われたのに対して「私はそんなに付き合ってない」と、娘達へのプレゼントであるタオルをCと一緒に選んでいないかを問われたのに対して「はあ?何の話か全然分からないけど。」と、肉体関係がずっと続いていたということを認めるかと問われたのに対して「それはないと思いますけどね。」と、それぞれ明確に否定しているのであり(以上につき、甲8、11)、迎合的な回答に終始していたとは認められないことから、被告の上記主張及び供述を採用することはできない。
3 争点2(損害及び額)について
(1)慰謝料(調査費用を含む) 150万円
不貞行為の始期自体は必ずしも明確ではないものの、被告とCとが平成18年頃に知り合った後、程なくして二人で買い物に出かけるなど親密な関係にあったことは前記2(1)で認定説示したとおりである。また、前記認定事実によれば、被告とCとは、少なくとも令和3年6月までは会っていたことが認められる(前記1(3))のであって、全期間にわたって不貞関係にあったといえるかはともかく、少なくとも親密な関係であった期間が相当程度長期にわたるものといえる。
また、被告は、本件訴訟前の本件訪問の際には、被告とCとが不倫の関係であったことを問われたのに対して認める旨の回答をしていた(前記1(3))にもかかわらず、本件訴訟では不貞行為自体を争っており、このことも原告の精神的苦痛を増加させるものといえる。
さらに、上記のとおり、被告が不貞行為を認めない態度をとっていることからすると、原告としては証拠収集に迫られることとなるところ、素人である原告による証拠収集には限界があることから、探偵に依頼することも無理からぬところである。他方で、不貞行為の立証に当たって、必ずしも探偵による調査が必須というわけでないことから、その費用全額が損害額とまでは認め難い。よって、探偵による調査が必要となった事情を含めて慰謝料額を算定することが相当である。
以上のほか、Cが令和3年10月に本件調停を申し立てるなど、原告とCのおよそ30年にわたる婚姻関係が破綻の危機に瀕することとなったこと(前記前提事実(1)、(5))、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告とCとの不貞行為による慰謝料額は150万円と認めるのが相当である。
(2)弁護士費用 15万円
上記(1)のとおりの本件事案の性質及び内容、その他諸般の事情を考慮すると、被告とCとの不貞行為と相当因果関係のある弁護士費用は、上記(1)の慰謝料額の1割に相当する15万円と認めるのが相当である。
(3)損害額合計 165万円
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、主文掲記の範囲で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
裁判官 安部利幸
以上:5,471文字
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