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位置指定道路通行自動車通行を民法上保護すべき利益無しと否定地裁判決紹介

○「位置指定道路通行の日常生活上不可欠の利益を否定した最高裁判決紹介」の続きで、その第一審平成7年6月12日東京地裁判決(判時1564号27頁)の位置指定道路に関する判断部分を紹介します。

○建築基準法42条2項指定道路の被告ら所有に係る私道に接して土地を所有している原告らが、被告らが位置指定道路に本件ポールを設置したことにより自動車の通行が不可能になったのは、原告らに対する通行地役権の侵害又は不法行為に当たり、且つ、指定道路内に本件ポールを設置した行為は、建築基準法44条及び45条に違反しているとして、被告らに対し、本件ポールの撤去を求めました。

○これに対し、東京地裁判決は、原告らの先代Aと被告らとの間で、原告らの土地を要役地とし、本件私道を承役地とする旨の黙示の通行地役権が設定されていたことは認めるが、原告らの通行地役権は、主に人の徒歩による通行及び自転車等の二輪車の通行を内容とするもので、自動車の通行をその内容に含まないものであるとしました。

○建築基準法違反の主張については、この判決当時は、建築基準法42条2項の規定による指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて「日常生活上不可欠の利益を有する者」は、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するとの平成9年12月18日最高裁判決は出されていませんでしたが、原告らに自動車による通行の確保を目的として被告らの設置した本件ポールの撤去を求め得るだけの「民法上保護すべき具体的利益」が生じているとは認められないとして原告請求を全て棄却しました。

○この原告の被告に対する指定道路上に設置した本件ポール撤去要求を否認した結論は、上告審平成12年1月27日最高裁判決と同じですが、その控訴審では、原告(控訴人)の請求が認められており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは、原告らに対し、別紙第一物件目録記載の金属製ポール10本を撤去せよ。

第二 事案の概要
 本件は、被告らがその所有する私道上に、上部が金属製の鎖で連結された金属製ポール10本(以下「本件ポール」という。)を設置したところ、右私道に接して土地を所有する原告らが、本件ポールの設置により自動車の通行が不可能になったのは、原告らに対する通行地役権の侵害又は不法行為に当たるとして、本件ポールの撤去を求めた事案である。

一 前提事実(争いがない。)
1 原告らは、別紙第二物件目録記載の土地(以下「原告らの土地」という。また、同目録記載一の土地を「29番の6の土地」といい、同目録記載二の土地を「29番の13の土地」という。)を共有している。被告らは、別紙第三物件目録記載の土地(以下「被告らの土地」という。)を共有している。右各土地の位置関係は、おおよそ別紙図面一記載のとおりである

2 被告らの土地には、北側と南側でそれぞれ公道に接する私道が開設されており、その位置は、おおよそ別紙図面一の斜線部分である(以下右私道を「本件私道」という。)。
 なお、わずかではあるが、本件私道中に、原告らの所有土地部分及び原告らの土地の南隣のCC家の所有する土地部分も含まれている。

3 本件私道は、建築基準法42条2項に規定する指定により同条1項の道路とみなされている。

4 被告らは、平成3年8月ころ、本件私道の別紙図面二の(1)から(10)の各位置に、本件ポールを設置した。本件ポールの上部は、金属製の鎖で連結されている。その結果、本件ポールが設置された状態では、本件私道上を自動車が通行することはできない。

二 主要な争点
(原告らの主張)
1 原告らは、本件私道について、自動車による通行を含む通行地役権を有する。

     (中略)

2 被告らによる本件ポールの設置は、原告らに対する不法行為に該当する。
(一)本件私道は、建築基準法42条2項に規定する指定を受けており、その指定道路内に本件ポールを設置した行為は、同法44条及び45条に違反している。

(二)被告らによる自動車の通行を妨害する本件ポールの設置は、次の事情の下では、信義則に違反し、かつ、権利の濫用に当たる。
(1)被告らは、公道に接していない原告らの土地をAに売却したのであるから、本件私道を、Aや原告らが自由に通行できることが当然の前提となっていたのであり、かつ、右私道において自動車の通行が認められないなどの制約はなかった。


     (中略)

(被告らの主張)
1 本件私道に原告らが主張するような通行地役権は認められない。
 仮に、通行地役権が設定されているとしても、もともと、本件私道は、その幅員の狭さや道路端の側溝、電柱、万年塀の存在のため、自動車が通行できない道路であった。したがって、通行地役権の内容は、自動車の通行ができない性質のものである。
 また、本件ポールは、従前の私道の道路端に設置したものにすぎない。

2 建築基準法44条が制限するのは、道路内における建築物又は敷地を造成するための擁壁であるところ、本件ポールは、本件私道に固定されておらず、必要があればいつでも引き抜けるものであって、建築物又は擁壁ではないから、被告らの行為は建築基準法に違反しない。また、その形状等に照らし、本件ポールの設置は、私道の廃止(同法45条)にも該当しない。

 さらに、建築基準法42条2項に規定する指定によって、当然に当該道路を私人が自動車による通行を含めて通行し得る権利を取得するものではない。確かに、本件私道を自動車が通行したことはあるが、それは、被告らが、特定人に対し、一定期間だけ例外的に許可したものである。

3 原告らの先代は、かつて被告らの先代から本件私道の一部を買い取るよう要求されたのにこれを拒否したこと、原告らは、原告らの土地について、被告らから指摘されるまで道路中心線から2メートルの後退を行わず、建築基準法42条2項の道路敷地の確保をしていないにもかかわらず、被告らに対してのみその道路中心線からの後退を要求して自己の利益のみを追求していること、近隣では駐車場は不足しておらず、近隣住民は、原告らの土地が駐車場として利用されることに反対していることなどに照らせば、原告らの本件請求は、権利濫用、信義則違反として許されない。

第三 当裁判所の判断
一 前記前提事実並びに(証拠省略)によれば、以下の事実が認められる。


     (中略)

二 原告らは、通行地役権に基づき、自動車による通行を妨害する本件ポールの撤去を求めるので、まず、本件において、原告らに通行地役権が認められるかどうか検討する。
1 本件では、明示の通行地役権の設定の合意は認められない。そこで黙示の通行地役権設定の合意の存在が認められるかどうかが問題となる。

     (中略)

三 原告らは、また、本件私道が建築基準法42条2項に規定する指定を受けていることを挙げ、その指定された道路内に、本件ポールを設置したことが同法44条、45条に違反し、原告らの土地所有権ないしは自動車により本件私道を通行する利益を侵害しているとして、本件ポールの撤去を請求する。

 しかしながら、一で認定した本件ポールの形状、構造、設置方法に鑑みると、本件ポールが建築基準法44条により建築又は築造が禁止されている建築物又は擁壁に当たるとは認められないし、また、本件ポールの設置行為が同法45条の私道の変更又は廃止に当たるとも解されない。

ただし、本件ポールが本件私道上に存し、自動車による通行の障害物となっていることは、前認定のとおりである。したがって、問題は、まず、本件ポールの設置行為が、原告らの主張する原告らの土地所有権の侵害に当たるかどうかであり、次に、原告らに自動車により本件私道を通行する利益が生じていて、これが民法上保護に値する利益といい得るものかどうかである。

 以下順に検討する。
1 本件ポールは、被告らの所有する本件私道上に設置されているものであるから、その設置行為自体は、原告らの土地所有権を直接的に侵害するものではない。原告らの主張は、本件私道を自動車が通行できないことの結果として、自らの所有土地を駐車場として利用し得なくなったというにすぎないところ、自らの土地を賃貸駐車場として利用する権利があるということだけから、他人の土地である本件私道を自動車の通行できる道路として利用させることを要求することはできないというべきであるから、原告らの右主張は理由がない。

2 行政庁の建築基準法42条2項に規定する指定によって、当然に私人が右指定を受けた道路を自動車による通行を含めて自由に通行する権利を取得するものではなく、私人が現実に当該道路を通行していても、それは、右指定による反射的利益にすぎないものであるが、反射的利益といっても、現実に通行が行われており、かつ、その通行が当該私人にとって日常生活上必須の要請であり、また、これにより他人の権利、利益の保護の要請との均衡を失しない場合など、民法上保護に値する具体的な利益となっていると認め得る場合には、その利益を侵害する行為の排除を求め得るものと解される。

 そこで、本件において、原告らの主張する自動車による通行の利益が右の程度に達しているかどうかであるが、一で認定したとおり、昭和59年5月に、前記マンション敷地と本件私道との境の塀が撤去され、本件私道の中心線から約2メートル後退した位置にフェンスが設置された時点で、被告らの土地の前の部分については、指定道路が開設されており、従前の本件私道と合わせて、人又は二輪車による自由な通行が行われているといい得るが、本件ポール設置以前に、当該開設部分も含め本件私道を自動車が通行したのは、前認定の平成2年の例外的な1年間のみであり、しかも、EA工務店による工事関係の限定された自動車のみであって、原告らが自動車により通行したものでもない。

また、本件私道の北側部分は、未だ指定道路としての幅員が現実に確保されておらず、自動車の通行ができない状況である。さらに、原告らは、Aの死後、前認定の工事関係の自動車の臨時駐車場として利用した特定期間を除き、原告らの土地を現在に至るまでの相当期間にわたって利用しておらず、本件ポールの撤去を求めるのも、原告らの土地を居住用としてではなく、賃貸駐車場として利用する目的であり、本件私道の自動車による通行が、原告らの日常生活上必須の要請であるとはいえないものである。

 したがって、本件においては、原告らに自動車による通行の確保を目的として被告らの設置した本件ポールの撤去を求め得るだけの民法上保護すべき具体的利益が生じているとは認められないから、この点において、原告らの主張は採用できない。

四 なお、原告らは、被告らの本件ポールの設置は信義則違反であり、権利の濫用であると主張するが、以上に検討してきたところによれば、本件ポールの設置が信義則に違反するとは認められず、また、本件私道は従前の利用方法に従った通行が可能なのであるから、被告らが自己の所有する本件私道上に、自動車の通行を困難にする本件ポールを設置したことは、東京都中野区環境建築部建築課長の指摘するとおり、建築基準法の趣旨からみて好ましいものとはいえないが、権利の濫用にあたるとまではいえず、原告らの右主張は理由がない。

五 以上のとおり、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
別紙 第一~第三物件目録(省略)
   図面1・2(省略)
以上:4,820文字

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