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賃貸借契約解除後鍵交換に違法性を認めるも損害賠償棄却判例紹介

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平成30年 6月29日(金):初稿
○「賃料不払解消手段鍵交換に慰謝料等支払が命じられた例」の続きで、賃貸人が、賃借人の賃料不払を理由に建物賃貸借契約を解除した後に、賃借人に無断で建物の鍵を交換したことについて、違法な自力救済として不法行為が成立するとしたが、賃借人に損害が生じたとはいえないとして、賃借人の賃貸人に対する損害賠償請求が棄却された平成16年6月2日東京地裁判決(判時1899号128頁)の判決理由該当部分を紹介します。



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二 争点(1)(本件鍵交換の違法性の有無)について。
(1) 前記一(1)認定の本件賃貸借契約の約定及び同(4)認定の本件解除通知の経過に照らせば、本件賃貸借契約は、本件解除通知及び平成11年6月4日の経過によって、原告の債務不履行(賃料等不払)を理由とする解除により終了したものと認められ、原告は、本件鍵交換当時、本件賃貸借契約に基づく使用収益権限を失い、被告に対し、賃貸借契約終了に伴う目的物返還債務を負うに至ったものと認められる。

しかしながら、原告が、本件建物に対する占有権を有していたことは論を俟たないところ、前記認定のとおり、本件鍵交換は、被告において、原告の実質的経営者である太郎が身柄拘束中であり、本件建物明渡の要否について判断することが困難な状況にあることを了知した上でなされたものであり、本件解除通知において予告はされていたものの、本件解除通知到達から僅か6日後に事前に具体的な日時の指定をなすことなく、本件建物内の動産類の持ち出しの機会を与えることなく、たまたま居合わせた原告の関係会社の従業員を立ち合わせて行われたものであり、前後の経過に照らせば、原告代表者がこれを事前事後において、承諾ないし容認したものとは認められないことからすると、本件鍵交換は、未払賃料債務等の履行を促すために行われた、原告の占有権を侵害する自力救済に当たるものと認めるのが相当である。

そして、自力救済は、原則として法の禁止するところであり、ただ、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において、その必要の限度を越えない範囲内でのみ例外的に許されるにすぎない(最判昭和40年12月7日民集19巻九号2101頁)

この点、被告は、原告の賃料滞納を理由に原告との間の本件建物に関する賃貸借契約を解除する旨の通知をしたが、原告から連絡もなく、家賃の支払もなされなかったため、鍵を交換した旨述べる。しかし、前記のとおり、本件賃貸借契約が解除され、その後の原告による本件建物の占有が権限に基づかないものであることを前提にしても、単に本件建物の鍵を交換して原告による利用を妨害することは、現状を維持して原告の権利を保護することにはならないし、本件においては、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情は何ら認められない。したがって、本件鍵交換は違法な自力救済に当たり、不法行為が成立するものと認められる。

(2)
① この点、被告は、平成11年4月22日、合意解約及び保証金と賃料の相殺の合意が成立した旨主張し、これに沿う《証拠省略》もあるが、前記一(1)認定の本件賃貸借契約の約定に照らせば、かかる合意をすることによって、被告が一方的に不利益を被ることは明らかであって、かかる被告にとって不合理な申出を被告が承諾したというのは、不自然といわざるを得ず、原告主張に沿う証拠は、これに反する《証拠省略》に照らし、信用できず採用しない。

② 被告は、本件解除通知で本件鍵交換は予告されていたことなどから、本件鍵交換は、原告の事前あるいは事後の容認ないし同意のもとになされたものである旨主張する。しかしながら、単に本件解除通知により予告したことをもって、事前に原告がこれに同意したと認めることはできないし、前記のとおり、原告の実質的な経営者である太郎が身柄拘束中であり、その同意を得るのが困難だったこと、被告が、太郎が代表を務めるC川社の従業員立会いのもとで鍵を交換したことが認められるが、原告の代表者本人についてはそのような事情はなかったし、C川社は本件賃貸借契約の相手方ではない上、当該従業員はあくまでも原告の経営に責任を持たない従業員に過ぎず、本件鍵交換について同意権を有しないから本件鍵交換に対して原告の同意があったとは認められない。

また、被告は原告から事後的に鍵の交換について何らの異議の申入れがないと主張するが、前記認定の、原被告間の内容証明郵便(甲5の1ないし同9の2)のやりとりからすれば、原告が被告による本件鍵交換に異議を申し入れていることが明らかであり、被告代表者も甲5の1が原告による異議の申入れに当たることを認めている。以上から、前記のとおり、被告による鍵の交換行為に対して原告が同意していることは認められず、被告の行為は自力救済行為に当たると認めるのが相当である。

三 争点(2)(本件鍵交換による損害の発生の有無及び額)について
(1) 前記一認定のとおり、原告は、本件建物を主として事務所及び商品展示のために、従として、在庫の保管等のために利用しており、本件鍵交換によって、原告は、被告による解錠がない限り、本件建物内に立ち入ることが困難となり、本件建物において、上記業務を遂行することが困難となったことが認められるが、他方、前記のとおり、平成11年3月ころから、原告の資金繰りは悪化し、本件賃貸借契約に基づく賃料等の支払が遅れ、本件鍵交換当時は、本件賃貸借契約に基づく賃料等債務を2か月分以上怠っていたこと、原告の実質的経営者である原告が詐欺容疑で身柄を拘束され、原告の業務を遂行することが困難な状況にあり、原告は、被告からの本件賃貸借契約上の債務の履行請求に対しても、信義誠実に従った対応をなしていないこと、原告が詐欺容疑で逮捕されたことが新聞報道されたことにより、原告は、企業として、本件賃貸借契約の相手方である被告のみならず、他の取引先との関係においても、社会的経済的信用を失墜したものと推認されることからすると、本件鍵交換当時において、原告が、逸失利益等の請求の前提となる正常な業務を遂行していたものと認めるのは困難である。

したがって、原告の占有権を侵害する不法行為に該当する本件鍵交換によって、逸失利益等相当の損害が発生したとする原告の主張は、採用しない。また、原告は、被告の占有侵奪行為により、リースしているOA機器や電話等を使用することができず、その間のリース代の負担も損害に当たる旨主張するが、その発生及び支払の事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件鍵交換によって原告主張に係る財産的損害が発生したものとは認められない。

(2) この点、原告は、年末商品として2000年キャンドルを計画し、中国で作るべき準備をし、キャンドルの中に入れる2000年おみくじ等の付属品などを中国に送る準備をしており、おみくじを10万本特注で買って、本件建物内に置いていたが、被告の占有侵奪行為によりこれを中国に送れず、おみくじが期限付の商品であるため、結局キャンドルの製造・販売を断念せざるを得なかった旨主張する。

 しかしながら、原告が損害として主張するギフトショーブース代、キャンドル型枠代、中国への発注代金の手付金、受注済み分の得べかりし利益については、原告が実際にこれらの費用を出捐した、ないし、主張に係る契約を締結していたことを認めるに足りる確たる客観的な証拠はない。また、原告が、おみくじ代として、250万円の出費をしたことが認められるが、おみくじ自体は現存しており、これが損害に当たるという因果関係を認めるためには、被告の不法行為がなければ、おみくじを利用してキャンドルを作成し、それを販売することができたことを要するところ、これを認めるに足りる確たる客観的な証拠はない。

 原告は、商品の在庫が無駄になったことによる損害を証するものとして、原告が在庫の一覧表として甲16を提出するが、本件鍵交換の約2か月前に作成されたものであり、仮に、原告が逸失利益等発生の前提として主張する正常な業務を遂行していたのであれば、2か月前の在庫を損害の裏付けとして提出すること自体不自然であり、他に、本件鍵交換によって、在庫商品に関して損害が発生したものと認めるに足りる証拠はない。原告は、本件鍵交換により、商品の販促のために使用するパンフレットの作成費用632万5253円が無駄になり、同額の損害が発生したことを証する証拠として、甲12号証を提出し、これによって、原告が株式会社ラック印刷及び東京アーバンコンサルティング株式会社に対し、計632万5253円を支払ったことが認められるものの、これらの支払がパンフレットの作成費用として支払われたと認めるに足りる証拠はなく、他にこれが本件鍵交換によって生じた損害に当たることを認めるに足りる証拠はない。


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