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差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金は充当できないとした高裁決定紹介

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平成30年 6月28日(木):初稿
○「差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金は充当できないとした地裁決定紹介」の続きでその第二審(抗告審)の平成28年8月10日東京高裁決定(金融・商事判例1529号15頁) 全文を紹介します。

○抗告人(申立人)が、本件債務名義に基づき、請求債権全額を取り立てたところ、上記取立金を取立日までに発生した損害金に充当し直して、再度債権の差押命令の申立てをしたところ、第一審平成28年5月17日東京地裁決定で、申立てが却下されていました。この決定に対して抗告しましたが、第二審も、債権差押命令に基づいて取立てをする場合には、その取立金の充当は、債権差押命令に記載された損害金の範囲に限定されるというべきであり、抗告人は、第一差押命令において自ら示した損害金の額と異なる額について第一取立金を充当して、債務名義上の債権の残額を請求することは許されないとして抗告を棄却しました。

○この東京高裁決定は、「差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金も充当できるとした最高裁判決紹介」により最終的には覆されます。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨

 原決定を取消し、東京地方裁判所平成28年(ル)第2774号債権差押命令申立事件に係る執行申立てを認容する決定を求める。

第2 事案の概要
 抗告人は、東京簡易裁判所平成27年(ハ)第21392号報酬等請求事件の執行力のある判決正本(以下「本件債務名義」という。)に基づき、元金、申立日までの損害金及び執行費用の合計額を請求債権として債権差押命令を申し立て、同命令の発令を受けて、請求債権全額を取り立てた。本件は、抗告人が、上記取立金を取立日までに発生した損害金に充当し直して、再度債権の差押命令の申立てをした事案である。原審は、申立てを却下する原決定をし、抗告人が執行抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件申立てを却下するのが相当と判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原決定の理由2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。
 原決定3頁7行目から19行目までを次のとおり改める。
 「強制執行の申立てにおける請求債権の表示(民事執行規則21条4号、133条1項)は、当該強制執行において請求する範囲を限定する趣旨と解されている。
 抗告人は、第一差押命令に係る債権差押命令申立書に,請求債権として「元金109万7743円、損害金7万3803円、執行費用8388円、合計117万9934円」と確定金額を記載している。遅延損害金も確定金額にしているのは、理論的な要請ではなく、第三債務者がその金額を計算しなければ取立てに応ずべき金額が分からないという事態が生じることがないようにするための配慮によるものであるが、そうだとしても、請求債権を上記のとおり確定金額とした以上、総額はもちろん、元金や損害金も上記金額の範囲に限定されると解すべきである。

 なぜなら、債権差押えの手続は、債権差押命令申立書に記載された元金、損害金、執行費用、合計額の各金額を前提として進めることによって、執行手続を安定的に遂行させているのであり、手続中に元金や損害金が変動することは予定していないからである。このように損害金が債権差押命令申立書に記載された範囲に限定されると解しても、債権執行において配当手続が実施される場合には、債権差押命令申立書に記載した確定損害金ではなく配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額を受けることができる(最高裁平成21年7月14日判決民集63巻6号1227頁)こととは矛盾しない。

 したがって、債権差押命令に基づいて取立てをする場合には、その取立金の充当は、債権差押命令に記載された損害金の範囲に限定されるというべきである。


 前記2に認定したとおり、第一取立金の額は、第一差押命令の請求債権総額と同額である。そうすると、同命令に係る債権差押命令申立書に記載されていた元金及び損害金は、取立てによって弁済され、消滅したことになる(民事執行法155条2項)から、元金の一部が再度の債権差押命令申立てによって復活することはないはずである。また、執行手続の債務者にとっては、債権差押命令の送達を受けた後、その命令における請求債権額全額が取り立てられたことを知った場合は、その命令に記載された債権の満足が得られたと信頼するのが通常である。

 債権者が再度の債権差押命令申立てをする場合において、最初の債権差押命令に基づく取立金について充当の計算を改めることを認めると、債務者の上記信頼を害することになるし、同一の債務名義に基づく複数の債権差押手続において、元金や損害金の充当が異なることになり、執行手続の安定を欠くことにもなる。以上によれば、抗告人は、第一差押命令において自ら示した損害金の額と異なる額について第一取立金を充当して、債務名義上の債権の残額を請求することは許されないと解するのが相当である。」

2 抗告人の当審における主張に対する判断
(1)抗告人は、本件申立てにおいて第一取立金についての充当を改めることによって、抗告人は実体上の権利の完全な実現が可能となる一方、充当計算は抗告人が行うから第三債務者が複雑な計算から解放され公平に合致すると主張する。
 確かに抗告人が主張するように第一取立金の充当を改めれば実体上の債権のとおりに完全に支払われることが可能になるが、前記のとおり、第一差押命令に基づく取立てによって第一差押命令に係る債権差押命令申立書に記載された元金と損害金は消滅したと認められる上、相手方(債務者)の信頼や手続の安定(抗告人が主張するような実体上の債権の完全な実現をするためには、申立日と取立日とに時間的間隔があり充当方法によって金額が異なる限り、何度も債権差押命令申立てを繰り返さなければならなくなる。)を考慮すると、本件申立てにおいて第一取立金の充当を改めることは認めないこととするのが相当である。抗告人が実体上の権利の一部についてその実現ができなくなることは、債権執行手続による弁済においてはやむを得ないというほかない。

(2)抗告人は、相手方(債務者)は、本件債務名義によって完済するまでの損害金を支払う義務があることを認識しているから、第一差押命令の請求債権となっている損害金のほか、第一差押命令が発せられた日以降の損害金の支払義務があることを予測できると主張する。
 しかし、第一差押命令とこれに基づく取立てが行われた場合、前記のとおり、相手方(債務者)は第一差押命令の命令書に記載された債権の満足が得られたと信頼するのが通常であると考えられ、抗告人の主張は採用することができない。

(3)抗告人は、債務名義がある場合、自主的に弁済する債務者は全部支払うのに、債権執行でしか弁済しない債務者は一部を支払わないことになり、不平等が生じる上、強制執行を助長し、また、本件申立てにおいて第一取立金について民法491条による充当を認めないのは抗告人を不当に扱うものであると主張する。
 確かに、任意の弁済と債権執行による弁済で差異が生じるが、(1)で判示した点を考慮すると、債権執行手続による弁済においてはやむを得ないというほかない。また、強制執行による弁済では、支払が遅滞した分の損害金や執行費用を支払うことになるから任意の弁済より不利な面があり、強制執行を助長するとはいえない。抗告人が主張するような充当を認めないことが抗告人を不当に扱うものともいえない。

3 以上によれば、本件申立ては却下すべきであり、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
裁判長裁判官 中西茂 裁判官 栗原壮太 瀬田浩久
以上:3,244文字

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