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差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金も充当できるとした最高裁判決紹介

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平成30年 6月26日(火):初稿
○ある金融機関の顧問会社の事件で給与債権を差し押さえる事案が常にありますが、債権差押申立実務での重要判例が平成29年10月10日最高裁判決(裁判所時報1685号23頁、金融・商事判例1529号8頁))です。関係法令は、民事執行法第155条です。
第155条(差押債権者の金銭債権の取立て)
 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
3 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。


○抗告人が、抗告人の相手方に対する元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする金銭債権を表示した債務名義による強制執行として、債権差押命令の申立てをし、上記債務名義による強制執行として既に発せられた債権差押命令(前件差押命令)に基づく差押債権の取立てに係る金員が、前件差押命令の申立書に請求債権として記載されていなかった申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されるか否かが争われました。

○原審が債権差押命令申立て却下決定に対する執行抗告を棄却決定したため、抗告人が許可抗告したところ、平成29年10月10日最高裁判決は、本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が当該債権差押命令に基づく差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合、申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となると解され、原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定を取り消した上、本件を原々審に差し戻した。

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主   文
原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理   由
 抗告人の抗告理由について

1 本件は,抗告人が,抗告人の相手方に対する元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする金銭債権を表示した債務名義による強制執行として,債権差押命令の申立てをした事案である。上記債務名義による強制執行として既に発せられた債権差押命令(以下「前件差押命令」という。)に基づく差押債権の取立てに係る金員(以下「本件取立金」という。)が,前件差押命令の申立書に請求債権として記載されていなかった申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されるか否かが争われている。

2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1)抗告人は,平成28年1月12日,東京地方裁判所に対し,相手方を債務者,荒川区を第三債務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令の申立てをし,同月20日,前件差押命令が発せられた。
ア 請求債権 東京簡易裁判所平成27年(ハ)第21392号報酬等請求事件の確定判決の正本(以下「本件債務名義」という。)に表示された元金,遅延損害金及び執行費用合計117万9934円
イ 差押債権 相手方が荒川区から支払を受ける介護給付費等に係る債権のうち上記請求債権の金額に満つるまでの部分

(2)本件債務名義は,元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とするものであったが,東京地方裁判所では,第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担を負うことのないように,債権差押命令の申立書には,請求債権中の遅延損害金につき,申立日までの確定金額を記載させる取扱い(以下「本件取扱い」という。)をしていたことから,前件差押命令の申立てにおいても,抗告人は,本件取扱いに従って,請求債権中の遅延損害金を上記申立ての日(以下「前件申立日」という。)までの確定金額とした。

(3)抗告人は,平成28年2月22日から同年3月31日までの間に,荒川区から,前件差押命令に基づく差押債権の取立てとして,4回にわたり,上記(1)アの請求債権相当額(本件取立金)の支払を受けた。

(4)抗告人は,平成28年4月11日,原々審に対し,相手方を債務者,荒川区を第三債務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。
ア 請求債権 本件債務名義に表示された債権のうち,本件取立金が前件申立日の翌日から上記(3)の各支払日までの遅延損害金にも充当されたものとして計算した残元金,最終支払日の翌日以降の遅延損害金及び執行費用合計1万6797円
イ 差押債権 相手方が荒川区から支払を受ける介護給付費等に係る債権のうち上記請求債権の金額に満つるまでの部分

3 原審は,次のとおり判断して,本件申立てを却下すべきものとした。
 抗告人が本件取扱いに従って前件差押命令の申立書に請求債権として元金,前件申立日までの遅延損害金及び執行費用の各確定金額を記載した以上,前件申立日の翌日以降の遅延損害金は,本件取立金の充当の対象とはならないものと解すべきである。したがって,本件取立金が前件申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されたものとする本件申立ては許されない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)金銭債権に対する強制執行は,本来債務者に弁済すれば足りた第三債務者に対して,差押えによって,債務者への弁済を禁じ,差押債権者への弁済又は供託をする等の義務を課すものであるから,手続上,第三債務者の負担にも配慮がされなければならない。本件取扱いは,請求債権の金額を確定することによって,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応ずべき金額が分からないという事態が生ずることのないようにするための配慮として、合理性を有するものである(最高裁平成20年(受)第1134号同21年7月14日第三小法廷判決・民集63巻6号1227頁参照)。

 そして,元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする債務名義を有する債権者は,本来,請求債権中の遅延損害金を元金の支払済みまでとする債権差押命令の発令を求め,債務名義に表示された元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金相当額の支払を受けることができるのであるから,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,第三債務者の負担について上記のような配慮をする限度で,請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを受け入れたものと解される。

 そうすると,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,債権差押命令に基づく差押債権の取立てに係る金員の充当の場面では,もはや第三債務者の負担に配慮をする必要がないのであるから,上記金員が支払済みまでの遅延損害金に充当されることについて合理的期待を有していると解するのが相当であり,債権者が本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをしたからといって,直ちに申立日の翌日以降の遅延損害金を上記金員の充当の対象から除外すべき理由はないというべきである。

 したがって,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が当該債権差押命令に基づく差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となると解するのが相当である。

(2)これを本件についてみると,抗告人は,本件取扱いに従って前件差押命令を申し立てたものであるから,前件申立日の翌日以降の遅延損害金も本件取立金の充当の対象となる。

5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そこで,本件申立てを却下した原々決定を取消した上,本件を原々審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山崎敏充 裁判官 岡部喜代子 裁判官 木内道祥 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林景一)
以上:3,381文字

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