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”相続させる”は”遺産分割方法の指定”が原則とした最高裁判決紹介

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令和 4年 3月 2日(水):初稿
○「遺言執行者の役割-意外にやることがない?」に「「相続させる」と指定された財産は、遺言者死亡時に直ちに指定された財産が指定者に承継されると解釈されており(平成3年4月19日最高裁判決)、指定者が単独で名義移転手続が出来ますので、遺言執行は不要で遺言執行者の関与は不要です。」と記載していました。

○この平成3年4月19日最高裁判決(判時1384号24頁、判タ756号107頁)は、遺言解釈の指針を示す極めて重要な判決です。当HPでの相続解説では、彼方此方の記事でこの最高裁判決を援用はしていますが、判決そのものを紹介した記事はありませんでした。

○事案の概要は以下の通りです。
・被相続人がその所有する不動産につき相続人である被上告人Cに「相続させる」旨の遺言を作成し死亡
・他の共同相続人である上告人らがこの遺言による被上告人Cの権利取得を争ったため、被上告人Cらがこの不動産の所有権ないし共有持分権を有することの確認を求めたところ一部認容
・上告人がこの遺言は遺産分割方法の指定でありこの不動産はなお遺産共有の状態にある等と主張して上告


○最高裁判決は、「相続させる」趣旨の遺言は民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、これと異なる遺産分割の協議さらには審判もなし得ないから、このような遺言にあっては、何らの行為を要せずして被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるとして、上告を棄却しました。以下、全文です。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由第一点、第二点及び第三点について
 Aが第一審判決別紙物件目録記載の一ないし六の土地を前所有者から買い受けてその所有権を取得したとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。

 原審は、登記簿の所有名義がAになったことだけから右事実を認定したのではなく、同人が台東不動産株式会社の社長として相応の収入を得ていたことなどの事実をも適法に確定した上で、Aの売買による所有権取得の事実を認定しているのであり、原審の右認定の過程に、所論の立証責任に関する法令違反、経験則違反、釈明義務違反等の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第五点及び第六点について
一 原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。
1 第一審共同被告BはAの夫、上告人(第一審被告)はAの長女、被上告人C(第一審原告)はAの二女、第一審共同原告DはAの三女で、いずれもAの相続人であり、第一審共同原告Fは被上告人Cの夫であるが、Aは昭和61年4月3日死亡した。

2 Aは、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし八の土地(ただし、八の土地については4分の1の共有持分)を所有していたが、
(1)昭和58年2月11日付け自筆証書により右三ないし六の土地について「上出一家の相続とする」旨の遺言を、
(2)同月19日付け自筆証書により右一及び二の土地について「上出の相続とする」との遺言を、
(3)同59年7月1日付け自筆証書により右七の土地について「Fに譲る」との遺言を、
(4)同日付け自筆証書により右八の土地のAの持分4分の1について「角田に相続させて下さい」
旨の遺言をそれぞれした。

右各遺言書は、昭和61年6月23日東京家庭裁判所において検認を受けたが、右の遺言のうち、(1)の遺言は、被上告人Cとその夫Fに各2分の1の持分を与える趣旨であり、(2)の遺言の「上出」は被上告人Cを、(4)の遺言の「角田」はDをそれぞれ指すものである。なお、Dは、右八の土地についてAの持分とは別に4分の1の共有持分を有していた。

二 原審は、右事実関係に基づき、次のように判断した。
 右(1)、(3)におけるAの相続人でないFに対する「相続とする」「譲る」旨の遺言の趣旨は、遺贈と解すべきであるが、右(1)における被上告人Cに対する「相続とする」との遺言、(2)の「相続とする」との遺言及び(4)の「相続させて下さい」との遺言の趣旨は、民法908条に規定する遺産分割の方法を指定したものと解すべきである。

そして、右遺産分割の方法を指定した遺言によって、右(1)、(2)又は(4)の遺言に記載された特定の遺産が被上告人C又はDの相続により帰属することが確定するのは、相続人が相続の承認、放棄の自由を有することを考え併せれば、当該相続人が右の遺言の趣旨を受け容れる意思を他の共同相続人に対し明確に表明した時点であると解するのが合理的であるところ、被上告人Cについては遅くとも本訴を提起した昭和61年9月25日、Dについては同じく同年10月31日のそれぞれの時点において右の意思を明確に表明したものというべきであるから、相続開始の時に遡り、被上告人Cは前記一及び二の土地の所有権と三ないし六の土地の2分の1の共有持分を、Dは前記八の土地のAの4分の1の共有持分をそれぞれ相続により取得したものというべきであり、Fは、前記(3)の遺言の効力が生じた昭和61年4月3日、前記七の土地の所有権を遺贈により取得したものというべきである。

したがって、被上告人Cの請求のうち前記一及び二の土地の所有権並びに三ないし六の土地の2分の1の共有持分を有することの確認を求める部分、Fの前記七の土地の所有権を有することの確認を求める請求及びDの前記八の土地の4分の1を超え2分の1の共有持分を有することの確認を求める請求は、いずれも認容すべきであり、被上告人Cのその余の請求(三ないし六の土地の右共有持分を超える所有権の確認を求める請求)は理由がない。

三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。

そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。

したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。

そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、その者が所定の相続の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり、また、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。

 原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり、被上告人Cが前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

以上:3,910文字

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