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”相続させる”は”遺産分割方法の指定”が原則とした地裁判決紹介

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令和 4年 3月 3日(木):初稿
○「”相続させる”は”遺産分割方法の指定”が原則とした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審昭和62年11月18日東京地裁判決(判時1384号32頁)全文を紹介します。相続分野では、極めて重要な判決であり、三審判決全て確認します。

○被相続人Aがその所有する不動産につき相続人である原告D・Eに「相続させる」旨の遺言を作成し死亡しましたが、他の共同相続人である被告B・Cが、この遺言は遺産分割方法の指定ないし相続分の指定であり、遺産不動産は遺産共有の状態にあるとして、この遺言による原告らの権利取得を争いました。遺言内容は以下の通りです。
(一)昭和58年2月11日付自筆証書遺言;本件三ないし六の土地を原告D(二女)に相続させる。
(二)昭和58年2月19日付自筆証書遺言;本件一、二の土地を原告D(二女)に相続させる。
(三)昭和59年7月1日付自筆証書遺言;本件七の土地を原告F(Dの夫)に遺贈する。
(四)昭和59年7月1日付自筆証書遺言;本件八の土地の4分の1の持分を原告E(三女)に相続させる。

○そこで原告D・E・Fが、この不動産の所有権ないし共有持分権を有することの確認を求めました。これに対し、東京地裁判決は、この遺言の趣旨は遺産分割方法の指定と解するのが相当であり、未だ遺産分割の行われていない本件では、原告らは法定相続分の範囲で共有持分権を有するにすぎないとして、その限度で請求を認容し、その余の部分を棄却しました。この判決は、控訴され、一部覆されますが、別コンテンツで紹介します。

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主   文
一 原告Dが別紙物件目録一ないし六記載の土地につき6分の1の共有持分権を有することを確認する。
二 原告Fが別紙物件目録七記載の土地につき所有権を有することを確認する。
三 原告Eが別紙物件目録八記載の土地につき24分の7の共有持分権を有することを確認する。
四 原告D、同Eのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。

事   実
第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨
1 原告Dが別紙物件目録一ないし六記載の土地(以下「本件一ないし六の土地」という。)につき所有権を有することを確認する。
2 原告Fが別紙物件目録七記載の土地(以下「本件七の土地」という。)につき所有権を有することを確認する。
3 原告Eが別紙物件目録八記載の土地(以下「本件八の土地」という。)につき2分の1の共有持分権を有することを確認する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者の主張
一 請求原因

1 被告Bは訴外Aの夫であり、被告CはAの長女、原告DはAの二女、原告EはAの三女であり、いずれも、Aの相続人である。原告Fは、原告Dの夫である。
なお、被告Bは、昭和62年7月6日東京家庭裁判所において禁治産宣告の審判を受け、弁護士Gが後見人に選任された。

2 Aは、昭和61年4月3日死亡した。

3 本件一ないし八の土地は、Aが生前所有権(ただし、本件八の土地については4分の1の共有持分権)を有していた。
すなわち、Aは、本件1、2の土地につき、昭和46年7月13日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件三ないし六の土地につき、昭和41年4月20日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件七の土地につき、昭和49年1月24日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件八の土地につき、昭和47年12月6日売買を原因として前所有者からその4分の1の共有持分権を取得した。

4 亡Aは、生前、次の遺言をした。
(一) 昭和58年2月11日付自筆証書遺言
本件三ないし六の土地を原告Dに相続させる。

(二) 昭和58年2月19日付自筆証書遺言
本件一、二の土地を原告Dに相続させる。

(三) 昭和59年7月1日付自筆証書遺言
本件七の土地を原告Fに遺贈する。

(四) 昭和59年7月1日付自筆証書遺言
本件八の土地の4分の1の持分を原告Eに相続させる。

5 右各遺言書は、昭和61年6月23日東京家庭裁判所において検認手続を経たが、被告らは、原告の右各遺言による権利取得を争う。

6 原告Eは、本件八の土地につきAの持分とは別に、4分の1の共有持分権を有していた。

7 よって、原告Dは、主位的に遺贈、予備的に相続に基づき本件一ないし六の土地につき所有権を有すること、原告Fは、遺贈に基づき本件七の土地につき所有権を有すること、原告Eは、主位的に遺贈、予備的に相続に基づき本件八の土地につき2分の1(自己の持分4分の1とAから承継した持分4分の1)の共有持分権を有することの各確認を求める。

二 請求原因に対する認否及び反論
(被告B)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実は不知。
5 同5の事実中、検認手続の点については不知。
6 同6の事実は不知。

(被告C)
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実は否認する。本件一ないし八の土地は、いずれも被告Bが前所有者から買受けたもので、同被告の所有するものである。
4 同4の事実は不知。仮に、Aが原告ら主張の各遺言書を作成したとしても、それは原告が甘言を弄しAを巧みにあやつって作成させたもので、Aの意思に基づくものではない。
5 なお、原告D及び同Eは、その主張する各遺言により確定的に各不動産の所有権又は4分の1の共有持分権を取得することを前提にしているが、分割方法の指定ないし相続分の指定をする遺言自体によっては、当然にその相続人が当該不動産の所有権を取得し得るものではなく、遺産分割の協議、調停が成立し、又は審判がなされ、遺産の分割が実施されることによって、初めて相続開始の時に遡って当該不動産の所有権取得の効果が付与され、権利の帰属が具体化されるのであるから、未だ遺産分割の手続が行なわれていない本件においては、右原告ら主張の各不動産は遺産共有の状態にあるにすぎない。したがって、右原告らの前記遺言による権利取得を前提とする主張は理由がない。

第三 証拠(省略)

理   由
一 請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第7ないし第14号証、第16号証、原告D本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第15、第23号証、原告D本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因3の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、被告Cは、本件一ないし八の土地の権利はいずれも被告Bが取得していた旨主張するが、本件において右主張に沿う証拠はないのみならず、そもそも被告Bは本件で右のような主張をしていないばかりか、これまでAに対し右のような権利主張をした形跡も見当たらない。してみれば、被告Cの右主張は到底採用できない。

三 被告Bとの間においては成立に争いがなく、被告Cとの間においては原告D本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第1号証の3、4、6、原告D本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第19号証の1ないし3、第22号証の2、原告D本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、Aは、生前、請求原因4(一)ないし(四)のとおりの遺言をしたことが認められ(なお、甲第1号証の4記載の「296ー6」とあるのは「296ー3」、甲第一号証の6記載の「高九乙上の林」とあるのは「高久乙上の林」の各誤記と認める。)、この認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、相続人でない原告Fに対する右遺言の趣旨を遺贈と解すべきことは明らかであるが、相続人である原告D及び同Eに対する右各遺言の趣旨を右同様遺贈と解することができるかは問題である。

一般に、被相続人が特定の遺言を共同相続人の1人に取得させる旨の遺言をした場合、これを遺贈とみるべきか、それとも遺産分割方法の指定とみるべきかは、被相続人の遺言の意思解釈の問題に帰着するところ、本件では、Aは右各遺言の対象にした不動産以外にも多くの遺産を残しており(この点は弁論の全趣旨に徴して明らかである。)、かつ、原告D及び同Eに対する右各遺言書には相続させる旨の文言が使用されていることなどを考えると、右各遺言の趣旨は遺産分割方法の指定と解するのが相当である。

そうすると、原告D及び同Eは遺言によって直ちにAの有した権利を取得し得るものではなく、遺産分割の手続で右各遺言の趣旨に従った分割が実施されることにより、初めて相続開始時に遡って、権利帰属が具体的に確定されるのであり、それまでは遺産共有の状態にあるにとどまるから、未だ遺産分割の行なわれていないことが明らかな本件においては、右原告らは法定相続分の範囲で権利を承継しているにすぎないといわなければならない。


してみれば、原告Dは、本件一ないし六の土地につき法定相続分として6分の1の共有持分権を、原告Eは、本件八の土地のAの持分4分の1につき法定相続分として6分の1の共有持分権を承継したことになる。
なお、前掲甲第14号証によれば、原告Eは、本件八の土地についてAの持分とは別にもともと4分の1の共有持分権を有していたことが認められるから、これと前記相続分を合せると24分の7の共有持分権を有することになる。

四 よって、原告Dの請求は本件一ないし六の土地につき6分の1の共有持分権を有することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、原告Fの請求は理由があるからこれを認容し、原告Eの請求は本件八の土地につき24分の7の共有持分権を有することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(東京地方裁判所民事第1部)

別紙物件目録

一 所在 浦和市中島四丁目
地番 292番3
地目 雑種地
地積 393平方メートル

二 所在 浦和市中島四丁目
地番 296番3
地目 雑種地
地積 133平方メートル

三 所在 那須郡那須町大字高久乙字上ノ林
地番 1846番12
地目 山林
地積 836平方メートル

四 所在 右同所
地番 1846番78
地目 山林
地積 925平方メートル

五 所在 右同所
地番 1846番79
地目 山林
地積 971平方メートル

六 所在 右同所
地番 1846番80
地目 山林
地積 938平方メートル

七 所在 右同所
地番 1846番116
地目 山林
地積 661平方メートル

八 所在 右同所
地番 1846番115
地目 山林
地積 3014平方メートル
(ただし、Aの持分4分の1)

以上:4,451文字

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