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ベンチプレス練習中事故損害賠償請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 3年 2月26日(金):初稿
○交通事故判例ではありませんが、自保ジャーナル・第2043号に掲載された平成30年9月10日横浜地裁判決を紹介します。私自身のための備忘録です。事案は、スポーツジムでのトレーニング中に高重量バーベル落下で受傷した48歳男子の補助のトレーナーに注意義務違反はないとしトレーナー及び運営会社の賠償責任を否認したものです。

○「小松弁護士、あわや一巻の終わり!-恐怖のベンチプレス」に私自身のベンチプレス練習中の80㎏のバーベルが、これを支えるべき左右にある補助セーフティラックが所定の高さになかったため、セーフティラックの支えがなく、支えきれずに私の首に食い込んだ事件でした。幸い、「小松弁護士、あわや一巻の終わり!-恐怖のベンチプレス2」記載の通り、練習パートナーがバーベルを持ち上げて難を免れましたが、恐怖の体験でした。

○横浜地裁判決事案は、ジムでベンチプレス練習中の原告が、私の例の2倍の160㎏ものバーベルをベンチプレスで持ち上げ、バーベルを置くラック(補助セーフティラックではありません)に置こうとしたところ、バーベルの右手側がラックに収まらず落下して、右上腕二頭筋長頭筋腱断裂、右肩腱板損傷等の傷害を負い、約3ヶ月通院し、右肩可動域制限及び右上肢しびれから10級10号後遺障害を残し、練習補助を依頼していたジムのトレーナーWとジム経営会社を相手に約2724万円の損害賠償請求をしたものです。

○判決は、本件事故が発生した当時、原告が使用していたバーベルはラックの背に当たって跳ね返り落下したと認められるが、このようなバーベルの動きを考慮すると、原告が使用するバーベルは遅くともラックの背に当たった直後の段階で原告の手を離れていたと認められる…Wがこの段階でバーベルの位置を誘導し、あるいはバーベルをラックに戻す義務を負っていたとは認められない。また、上記のようなバーベルの働きから考慮すると、原告がバーベルを挙上してからバーベルが落下するまでの時間は僅かであったと考えられるが、この間にWが原告に声をかけ、あるいは自らバーベルを握る手に力を入れるなどしてバーベルを安全な位置まで誘導できたと認めるのは困難である」として、「Wが、本件事故の発生に際し前記注意義務を怠ったとは認められない」とWの注意義務違反を否認し、原告の請求を棄却しました。

○ベンチプレス練習者にとっては、大変、怖い事案ですが、限界重量に挑戦するときは、気をつけなければなりません。補助セーフティラックがあれば防げた事故のようにも思えますが、補助セーフティラックをつけていなかったのかどうかは不明です。

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主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは、原告に対し、連帯して2724万2962円及びこれに対する平成25年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、被告会社が営業するスポーツジムにおいてベンチプレス(仰向けの姿勢で胸の前からバーベルを挙上し胸筋等を鍛えるトレーニング方法。以下同じ。)をしていた原告が、ベンチプレスを終了する際の被告Wの補助の過失により落下したバーべルで負傷したとして、被告会社に対しては債務不履行又は使用者責任による損害賠償請求権に基づき、被告Wに対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ2724万2962円及びこれに対する平成25年7月19日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原告は、被告会社の債務不履行責任及び使用者責任に共通する請求原因として被告Wの上記過失を主張している。

1 争いのない事実等

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告Wの過失の有無)について
(1) 認定事実

 前記争いのない事実等のほか、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告Wは、平成21年4月に被告会社に入社し、平成23年頃から本件ジムのトレーナーとして勤務していた。被告会社は、被告Wを含むトレーナーに対し、本件ジムの利用者のベンチプレスを補助する際の方法として、ラックに置かれたバーべルのすぐ後ろの位置(べンチプレス用のベンチに横たわっている利用者の頭の先の位置)に立ち力の入りやすい姿勢をとること、利用者がバーベルをラックから外す際にバーベルのバーを両手で握ること、利用者がバーベルを上下させてラックに戻すまでの間はバーベルのバーを握った両手を開き気味にしてバーに両手を添えること、バーベルのバーを握る際には片方の手を順手に、もう片方の手を逆手に握ることを指導していた。

 被告Wは、本件事故が発生するまでトレーナーとして原告のベンチプレスを10回程度補助したことがあった。被告Wは、いずれの機会でも原告から手招きをされて補助に入り、被告会社の上記指導に従ってベンチプレスを補助したが、ベンチプレスの終了時にバーベルがラックから落下し、あるいは落下しそうになったことはなかった。

イ 被告Wは、本件事故の当日、原告から手招きをされて原告のベンチプレスの補助に入った。原告が使用するバーベルは160㌔㌘又は180㌔㌘であり、原告はバーベルを1回だけ挙上することを被告Wに伝えていた。被告Wは、ベンチプレスの開始時から原告がバーベルを挙上するまでの間、被告会社の指導する方法(前記ア)で原告が使用するバーベルのバーを握った。

 原告がバーベルを1回挙上し、両腕を伸ばしたままバーベルを頭の方向に水平移動させてラックに戻そうとしたところ、バーベルの左手側はラックに収まったが、バーべルの右手側がラックの背の上部に当たって跳ね返り、ホルダーの足側の爪の上端に当たって落下した。被告Wは、上記の間もバーベルのバーを軽く握っていた。

ウ 被告Wは、すぐにバーベルの右手側を握って持ち上げようとしたが重くて持ち上がらず、原告の右手側に回って落下したバーベルの右手側を両手で持ち上げた。

(2) 検討
ア 前記認定のとおり、原告は本件事故の当時160㌔㌘以上の重さのバーベルでベンチプレスをしていたところ、上記のバーベルの重量は、標準的な体格の成人男性の体重の2倍以上に相当し、成人男性であっても上から持ち上げたり下から支えたりすることを独力で容易にできるものではない。以上のほか、ベンチプレスにおける一般的な動作の内容、前記のとおり認められる原告の従前のベンチプレスにおける補助の状況及び本件事故当日に被告Wが原告のベンチプレスの補助に入った経過を併せ考慮すると、被告Wが本件事故当日の原告のベンチプレスの補助において負っていた注意義務は、原告のバーベルを下から支える力が不足した場合にこれを補い、あるいは原告がラックの位置を誤って認識している場合に声をかけるなどしてバーベルをラックまで誘導するというものであって、被告Wが原告の手から離れたバーベルを独力でラックに戻す義務まで負っていたと解することはできない。

イ そこで、被告Wが前記注意義務を怠ったかについて検討する。
 本件事故が発生した当時、原告が使用していたバーベルはラックの背に当たって跳ね返り落下したと認められるが(前記(1)イ)、このようなバーベルの動きを考慮すると、原告が使用するバーベルは遅くともラックの背に当たった直後の段階で原告の手を離れていたと認められる。前記アで述べたところによれば、被告Wがこの段階でバーベルの位置を誘導し、あるいはバーベルをラックに戻す義務を負っていたとは認められない。

 また、上記のようなバーベルの働きから考慮すると、原告がバーベルを挙上してからバーベルが落下するまでの時間は僅かであったと考えられるが、この間に被告Wが原告に声をかけ、あるいは自らバーベルを握る手に力を入れるなどしてバーベルを安全な位置まで誘導できたと認めるのは困難である。


 以上によれば、被告Wが、本件事故の発生に際し前記注意義務を怠ったとは認められない。事実確認書は被告Wの過失の内容を明示するものではないから、被告Wがこれに署名押印をしたことによっても上記認定は左右されない。

ウ なお、原告は、本件事故の直前に被告Wが視界から消えたと供述するが、被告Wはバーベルが落下した直後に原告の救助に当たっており(前記(1)ウ)、原告の近くにいたと認められるから、原告の上記供述を採用することはできない。また、原告は、本件事故当日のベンチプレスの開始時に、被告Wに「(バーベルを)取っちゃって」と伝えた旨供述するが、先に述べたとおり160㌔㌘のバーベルを成人男性が独力で持ち上げたり支えたりすることは困難であるから、上記供述にあるような発言があったこと自体認め難く、仮に同発言があったとしても、被告Wがバーベルを取ってラックに戻す義務まで負うとは認められない。

(3) 小括
 以上のとおりであり、被告Wに原告が主張するような注意義務違反があったとは認められない。

2 結論
 以上によれば、その余の主張について検討するまでもなく、原告の被告Wに対する請求及び被告会社に対する請求はいずれも理由がない。
 よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成30年6月18日)   横浜地方裁判所第9民事部  裁判官 小松秀大
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