令和 3年 2月27日(土):初稿 |
○申立人が、別居中の夫である相手方に対し、婚姻費用分担金の支払を求めた事案で、夫婦は互いに協力し扶助しなければならないところ、別居した場合でも、自己と同程度の生活を保障する、いわゆる生活保持義務を負うとして、申立人の申立てを一部認容した令和元年8月29日東京家裁審判(判タ1479号63頁)全文を紹介します。 ○婚姻費用の分担は,その権利者と義務者の収入から,分担するものであり,子の人数や年齢を考慮するところ,仮に不貞行為があったとしても,現実に扶養義務を負うべき子が存在する以上,これを考慮すべきとしています。 ******************************************* 主 文 1 相手方は,申立人に対し,116万4264円を支払え。 2 相手方は,申立人に対し,令和元年8月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り,1か月当たり25万8800円を支払え。 3 手続費用は各自の負担とする。 理 由 第1 申立ての趣旨 相手方は,申立人に対し,婚姻費用分担金として,毎月35万4465円を支払え。 第2 当裁判所の判断 1 認定事実 本件記録によれば,次の事実を認めることができる。 (1)申立人(昭和57年*月*日生)と相手方(昭和53年*月*日生)は,平成24年1月に婚姻した夫婦である。 申立人と相手方との間には,長女(平成26年*月*日生)及び二女(平成30年I月*日生)がいるほか,相手方は,令和元年K月*日,Gを認知している。(乙21) (2)申立人と相手方は,平成30年7月8日から別居状態にあり,長女は,別居当初相手方と生活していたが,平成30年12月25日からは申立人と生活し,別居後に生まれた二女は,出生以来申立人と申立人の実家で生活している。 (3)申立人は,平成30年I月7日,婚姻費用分担調停を申し立てたが(当庁平成30年(家イ)第6908号),平成31年4月17日,上記調停は不成立となり,本件審判手続に移行した。 (4)申立人は,稼働していない。(甲4) 相手方は,H所属の医師であり,その他の病院等でも勤務しており,平成29年の給与収入の合計は1927万6223円,平成30年の給与収入の合計は1489万5260円であった。(甲3,27の1,2,28の1,2,乙1ないし7,20) (5)相手方は,申立人に対し,平成30年12月26日以降令和元年6月までに,婚姻費用として合計157万1626円を支払った。(乙8の1,2,19) 2 検討 (1)夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。 (2)婚姻費用の分担額は,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし、これを,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から,権利者の上記基礎収入を控除して,義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づいて検討する(以下「標準算定方式」という。)のが相当である。 なお,申立人は,公租公課等について,最新の統計データを使用することを主張するが,一般的に利用され,定着しているものとはいえないから,これを採用しない。 また,申立人は,相手方において認知をした子がいることを考慮するのは,信義則に反すると主張するが,婚姻費用の分担は,その権利者と義務者の収入から,これを分担するものであり,子の人数や年齢を考慮するところ,仮に不貞行為があったとしても,現実に扶養義務を負うべき子が存在する以上,これを考慮しないことはなく,信義則違反とはいえず,申立人の主張は採用できない。 一方,相手方は,長女の監護者補助者として相手方の実母がいたことを考慮するよう主張するが,長女の監護は,相手方自らが,長女を連れて家を出たことにより生じたものであり,それまで実母が就業していたことも考えると,これを婚姻費用分担の際に考慮するのは相当ではなく,相手方の主張は採用できない。 (3)前記1(4)の認定によれば,申立人には収入がない。 一方,相手方は,平成30年の給与収入が1489万5260円である。相手方の収入は,確かに平成29年分はこれよりも多額であったが,本務と兼務の兼ね合い等もあることを考えると,平成30年の金額を基礎額とするのが相当である。 婚姻費用の分担の始期は,その請求があった平成30年I月分からと考えるのが相当である。また,標準算定方式において相手方の基礎収入割合は34パーセントであるから,同年の基礎収入は506万4388円となるところ,同月*日に二女が誕生しており,婚姻費用の分担額の計算においては,同月*日までは,申立人分のみ,同月*日からは,申立人と二女の分となり,同年12月25日からは,申立人と長女及び二女の分となる。 また,平成31年(令和元年)の収入も同程度考えるのが相当である。 そうすると,平成30年I月分は,基礎収入を前提に,*日までは,14歳までの子(標準算定方式において指数55)が1人おり,分担額の月額は16万5500円(月額分は100円未満四捨五入。以下同じ。)であるところ,その日割分が7万7233円,*日以降は,14歳までの子が2人おり,月額21万1000円となるところ,その日割分が11万2533円であって,合計18万9766円となる。 また,平成30年J月から同年12月24日までは,分担額の月額は21万1000円となり,同年12月の24日までの日割分は16万3354円となり,同月25日以降は月額28万5900円となり,その日割分は6万4558円であり,同月分は22万7912円となる。 さらに,平成31年(令和元年)1月以降も相手方の年収は同程度と認められるから,分担額の月額は28万5900円となるところ,相手方は,同年K月*日,Gを認知した(指数55)から,同人に対する扶養義務が同日から発生し,同月分の分担額は,*日までの日割分は6万4558円であり,*日以降は,分担額の月額が24万2800円となり,その日割分は18万7974円であり,合計25万2532円となる。 同年L月以降の分担額は,月額24万2800円である。 (4)また,申立人は,長女の幼稚園やお稽古事の費用について,加算対象であると主張する。 長女は,私立幼稚園(月額2万9360円)に通っているのに加え,Dで生活していた際に通っていた学研(月額6480円),バレエ(2500円)のほか,Dで通っていたバイオリンに相当するピアノ(月額5000円)に通っているところ(甲16,17の1ないし3),これらはDで通っていたものと同等のものであり,相手方の収入状況からすると,平成31年(令和元年)4月以降について,加算を認めるのが相当である。 ところで,標準算定方式において,14歳までの子の上記指数は,年額13万4217円の学習関係費を含むものであるから,これを超える分を負担することになり,本件においては,月額3万2155円が超過分と考えられること,申立人,長女及び二女は,申立人の実家で生活していること等の事情も併せ考えると,超過額の約2分の1である1万6000円を加算するのが相当である。 (5)上記(3)及び(4)により計算すると,平成30年I月から令和元年7月までの婚姻費用の相手方の分担額の合計は272万1410円に上記(4)の加算額合計6万4000円を加えた278万5410円となる。 そこで,上記金額から精算すべきものについて検討する。 ア マンションの精算金 4万7250円を加算(争いがない) イ 荷物の撤去等費用 合計8万3250円を控除(争いがない) ウ マンション賃料(光熱費)0円 相手方は,申立人と相手方が長女と共に居住していたマンションの賃料について,申立人の希望により解約できなかった旨主張して,その控除を主張する。 しかしながら,相手方は,別居に際し,自ら長女と共に同マンションを出たのであり,妊娠中の相手方の病院も転院手続きをとるなどして,申立人の転居を余儀なくしたと認められ,また,同マンションには,申立人が監護する長女に荷物も置かれていたと認められることからすると,その光熱費を含めて,控除するのは相当ではない。 エ クレジットカード代金 1万3520円を控除 相手方は,合計10万1348円を控除すべき旨主張する。 しかしながら,婚姻費用の対象期間は,平成30年I月以降であるから,同月以降分で相手方が主張するのは1万3520円であり(甲5),その限度で控除するのが相当である。 オ 出産後の合併症による申立人及び二女の入院費用 0円 申立人は,上記の費用として35万7478円の入院等の費用については,生命保険から19万円が補填され,乳幼児医療証に基づき還付を受けられる14万8188円のほか,申立人は,各種の給付金も受けていると考えられることからすると,これを特別費用として,支払いを求めることも,各種給付金の性質が婚姻費用とは相いれない(児童手当等と同様)ものであることも考慮すると,精算対象とするのは相当ではない。 3 結論 以上によれば,相手方は,申立人に対し,平成30年I月分から令和元年7月までの未払婚姻費用として,上記278万5410円に,上記精算にかかる4万7250円を加算し,8万3250円及び1万3520円を控除し,令和元年6月までの既払額157万1626円を差し引いた116万4264円を直ちに,令和元年8月から,当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り,月額25万8800円を支払うこととなる。 よって,主文のとおり審判する。 以上:4,159文字
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