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東大ルンバール事件控訴審東京高裁判決全文紹介

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令和 2年 4月 9日(木):初稿
○「因果関係重要判断基準含む東大ルンバール事件最高裁判決事案検討・解説」の続きで、昭和48年2月22日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集29巻9号1480頁、訟務月報21巻11号2203頁)全文を紹介します。

○控訴人が、被控訴人国の経営する病院において化膿性髄膜炎の対処療法としてルンバールの施術を受けたところ、嘔吐、けいれん等の発作等を起こし、右半身不随等の後遺症が残ったため、損害賠償を請求した事案の控訴審で、施術医師、指導監督医師について、控訴人の主張する過失はいずれも認めることができないとした原判決理由を引用し、本件控訴を棄却しました。

○控訴審判決は、「控訴人の前記認定の病状および治療の推移、経過を検討し、本件のその他の各証拠によるも、本件発作および右病変の原因が、本件ルンバールの施行にあることを断定しがたい。」として、ルンバールの施行と発作・病変との間の因果関係について、科学的立証が尽くされていないとするが如くでした。

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主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事   実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金1957万6406円およびこれに対する昭和43年9月25日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に記載するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(証拠関係)(省略)

理   由
一、原判決の理由の冒頭から、理由の21枚目(記録109丁)3行目までを、次のとおりに訂正してここに引用する。
(一) 原判決理由の2枚目表1行目より2行目にかけて、「証人時田源一、同福田保俊の各証言より」とあるのを「証人時田源一(第2回)、同福田保俊(第1回)の各証言および弁論の全趣旨により」と訂正する。

(二) 同2枚目表6行目に「福山幸夫」とある次に「当審証人高橋徳子、同福田保俊」を挿入する。

(三) 同16枚目(記録104丁)表10行目と11行目の間に、次の記載を挿入する。
以上のような脳波所見を示す疾患として、小児の場合は、癲癇(殊に局在性痙攣)、先天性髄疾患、分娩時脳損傷、脳性小児麻痺、脳炎後遺症、脳髄膜炎後遺症、頭部外症後遺症およびその他の脳内器管性疾患が考えられる。東京大学附属病院における時田医師らによる控訴人の臨床知見、すなわち脳波検査前の診断は、髄膜双球菌性髄膜炎および合併病としての脳出血とされ、脳波検査後の診断は、右片麻痺および精神薄弱を伴う局在性痙攣とされていることを参考にして前記脳波所見を改めて解読すると、臨床症状である右片麻痺と局在性痙攣をうらづけるものは左側の限局性棘波であり、2回目以降の脳波所見は、髄膜炎後遺症による脳波像と考えられる。この脳波所見からは、合併症としての脳出血の有無は判断できない。

(四) 同17枚目(記録105丁)裏7行目より同20枚目表8行目までを次のとおりに訂正する。
「治療を行なつていたことが明らかであるうえ、原審における鑑定人国分義行の鑑定の結果も脳出血の可能性を認めており、これらはいずれも本件発作とその後の控訴人の病変の原因が脳出血であることを肯定するについての有力な資料となりうるものではあるが、一方、理由第二において認定されているように、本件発作当時、控訴人はいまだケルニツヒ症候が陽性であり、熱も平熱とはいえず、髄液の所見も正常域には達しておらず、絶対安静が指示されていたこと、退院後も後遺症として知能障害、性格障害があること、原審証人福山幸夫の証言、原審における鑑定人糸賀宜三、同長谷川和夫、同市橋保雄の各鑑定の結果は、いずれも本件発作と病変の原因を脳出血と見るよりもむしろ化膿性髄膜炎またはこれに随伴する脳実質の病変の再燃とみられるとしているのであつて、結局、本件訴訟にあらわれた証拠によつては、その原因が脳出血によるか、もしくは化膿性髄膜炎またはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれかによるものとは云えても、そのいずれによるかは判定しがたく、控訴人の右主張は肯認しえない。

(五) 同20枚目(記録108丁)表末行の「脳出血」を「脳出血または化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃」と訂正し、同21枚目表1行目から3行目までを次のとおりに訂正する。
「限り、本件発作およびその原因たる脳出血または化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃は、本件ルンバールの実施(それ自体、もしくは、これに伴う物理的、化学的な刺激)により生じたものではないかとの疑を強くさせるのであるが、原審証人糸賀宜三の証言、原審鑑定人糸賀宜三、同市橋保雄、同国分義行の各鑑定の結果に照すと、そのように判定してしまうについては、なお躊躇せざるをえず、その他控訴人の前記認定の病状および治療の推移、経過を検討し、本件のその他の各証拠によるも、本件発作および右病変の原因が、本件ルンバールの施行にあることを断定しがたい。

二、以上のとおり、9月17日に生じた控訴人の発作および病変の原因が、福田医師の施行した本件ルンバールによることが確定しえない以上は、同医師もしくは時田医師の右ルンバール施行上の過失の有無については、これを判断する要がないところ、控訴人は、なお、右発作および病変の治療および看護について、同医師らに過失があり、そのため控訴人に後遺症として知能障害、性格障害の不治の疾患を生ぜしめ、又はこれを悪化させたとの主張をする。

しかし、同医師らに右の治療上および看護上の過失がなかつたことについて,原判決理由の30枚目(記録118丁)表10行目から、同34枚目(記録122丁)裏1行目までの記載を、そこに引用されている原判決のその他の記載を含めて、ここに引用する(ただし、同32枚目表3行目の「しかし」から同7行目までの記載をのぞき、同34枚目表5行目から6行目にかけて、および7行目に「福田医師」とあるのを「福田医師もしくは時田医師」と、それぞれ訂正する)。

のみならず、控訴人主張の前記後遺症が、福田医師らの控訴人に対する治療上もしくは看護上の過失に起因して生じたことについても、これを確認するに足る証拠がない。したがつて、いずれにしても控訴人の右主張は理由がない。

三、以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第95条、第89条を適用のうえ主文のとおり判決する。
(昭和48年2月22日 東京高等裁判所第8民事部)
以上:2,824文字

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