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驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決まとめ1

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平成26年 5月 6日(火):初稿
○「驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決全文紹介4」の続きで、同判決の私なりのまとめです。
加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例まとめ1」で平成25年10月11日仙台地裁判決の概要を説明していますが、約款第6条2項(3)号要件での被害者の加害者側保険会社への直接請求に限定すると、平成17年11月事故(第1事故)と平成18年7月事故(第2事故)による損害は、平成5月に保険会社だけに直接請求の訴えを提起するも、平成19年2月3日症状固定日から3年後の平成22年2月3日に消滅時効が完成しているので、被害者はもはや加害者自身への請求権を行使できなくなり、その結果、約款第25条によって保険会社にも損害賠償請求権を行使出来なくなるというものです。

○この結論に対し、私は、約款第25条の「損害賠償請求権者の被保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」とは、既に損害賠償請求権者の被保険者に対する消滅時効期間が経過して消滅した時点では、直接請求権も行使できなくなると意味であり、加害者側保険会社への直接請求は、加害者自身に対する損害賠償請求と同視でき、また、加害者側保険会社の損害賠償債務は加害者と連帯債務の関係にあり、連帯債務者の一人に対する請求は、他の連帯債務者にも時効中断の効力が及ぶと、主に消滅時効は完成していないことを強調する控訴理由書を作成しました。一審判決では、三井住友M弁護士が、激しく争った約款第6条(3)号に基づいて直接請求が出来るかどうかについての判断はしておらず、これが出来ることは当然の前提として、サラッと触れた程度でした。

○ところが、平成26年3月28日判決は、約款第6条2項(3)号に基づいて直接請求自体について、「自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であるから、その性質上、保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提」として、「被害者が加害者に対する損害賠償額の確定等のための手続を取らないまま、加害者に対する損害賠償請求権を行使しないことを一方的かつ抽象的に宣言することによって、直ちに、保険者に損害賠償額の支払を求める法的手続を取ることを許容するものとはいいがたい。」として否定し、消滅時効完成論争に入りませんでした。

○しかし、この「加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが、(直接請求の)論理上前提」との高裁判断は、私から言わせると明らかな誤りです。先ず「損害賠償の額が確定」は、「判決の確定又は裁判上の和解・調停の成立」か「書面による合意(示談)成立」しかありません。この「損害賠償の額が確定」のうち「判決等」約款第6条2項(1)号に、「合意成立」は約款第6条2項(2)号に規定されています。従って「損害賠償の額が確定」が「論理的前提」であれば、約款第6条2項(3)号による直接請求は全く不要で、規定する必要がありません。しかし、現実は規定されているわけで、「確定が論理的前提」は、論理的にあり得ません。

○また約款第6条2項(4)号には「損害賠償額が保険証券記載の保険金額(中略)を超えることが明らかになった場合」、約款第6条2項(5)号には、「加害者自身の破産・生死不明・相続人なくしての死亡」の場合も直接請求できると規定され、これらは、いずれも加害者自身と間で「損害賠償請求額の確定」が不要・困難・不可能な場合です。従って仙台高裁判決の言う「保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる」との論理が論理の前提を欠いていることが明らかです。

○さらに仙台高裁判決は、「保険会社による保険金の給付」と表現していますが、被害者の保険会社に対する請求は、あくまで保険会社が加害者の責任を引き受けた「損害賠償の請求」であり、加害者本人の保険会社に対する「保険金の請求」ではありません。確かに約款を精査すると「保険金の請求」であれば、「損害額の確定が論理的前提」と言える面があります。しかし、高裁判決は、この加害者の保険会社に対する「保険金請求」と被害者の保険会社に対する「損害賠償の請求」の区別も良く判っていないようで、保険約款について十分吟味して判決を書いたとは到底評価できません。

○本件訴訟で三井住友海上は自社作成自動車保険約款解釈集を証拠として提出していますが、その中で、約款第6条2項(3)号による直接請求の趣旨について「本号の規定は、被保険者(※加害者)が保険会社による示談代行に同意せず、そのうえ被害者との交渉にも応じない場合に備えたものであって」と説明しています。これは被害者と加害者の間で「損害賠償額の確定」が出来ない場合であり、「保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる」との判断の誤りを自ら認めているに等しいものです。

○三井住友作成保険約款解説集には、さらに「(保険会社が被保険者から)委任(および準委任)契約を解除された後に、被保険者が負担する法律上の損害賠償責任の額を保険会社で算定し、『損害賠償請求権の不行使を承諾する書面』を被害者(※損害賠償請求権者)から取り付けて損害賠償額を支払うことは可能である。」とも解説されています。これは被害者から直接請求された場合、三井住友自身が、被保険者の意向とは無関係に独自に損害賠償額を算定して、「損害賠償請求権の不行使を承諾する書面」を被害者から取り付けて、保険会社が算定した損害賠償金額を支払うことが可能であることを認めているに等しいものです。

○以上の通り、如何なる観点からも、約款第6条2項(3)号での直接請求が、高裁判断の「自動車対人賠償責任保険は、契約によって定められた事故の発生により、被保険者が第三者に対する損害賠償責任を負担したことにより被る損失をてん補する責任保険の一種であるから、その性質上、保険会社による保険金の給付は、これに先だって、加害者(被保険者)が負担する損害賠償の額が確定していることが論理上前提となる」との解釈はできないはずです。この仙台高裁の判断の誤りは明白との上告受理申立理由書を連休返上で懸命に起案中です(^^;)。

以上:2,678文字

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