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社債利息について利息制限法適用はないとした地裁判決紹介

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令和 7年 3月18日(火):初稿
○「社債利息について利息制限法適用はないとした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審平成30年7月25日東京地裁判決(最高裁判所民事判例集75巻1号12頁)全文を紹介します。

○破産者株式会社Cの破産管財人である原告が、被告は甲に対して社債購入名下に計2000万円を貸し付け、甲から利息制限法所定の上限を超える約定金利で弁済を受けたと主張して、不当利得返還請求権に基づき、同法所定の上限を超える利息相当額約315万円のの支払いを求めました。

○これに対し、東京地裁判決は、利息制限法は金銭消費貸借契約に適用されるところ社債発行は、金銭消費貸借とは異なる規律で両者は性質が異なり、また利息制限法の趣旨は、金融の面における経済的弱者の保護にあるところ、社債発行会社は経済的弱者とは認められず、社債に利息制限法が適用されると解すると、社債発行会社の自由な資金調達が阻害されるおそれがあり、社債に利息制限法を適用すべき事情はないので、社債の利息の支払いに利息制限法は適用されないとして、原告の請求を棄却し、平成31年1月31日東京高裁も同じ結論でした。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、315万4860円及びこれに対する平成27年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は、破産者である株式会社Z(以下「Z」という。)の破産管財人である原告が、Zにおいて、被告がZに対して社債購入名下で貸し付けた2000万円を利息制限法所定の金利の上限を超える約定金利で弁済したため、過払金が生じ、また、被告は悪意の受益者であると主張して、被告に対し、Zの被告に対する不当利得返還請求権に基づき、315万4860円及びこれに対する最終弁済日の翌日である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払を求める事案である。

2 前提事実等(当事者間に争いがないか、又は後掲の各証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告は、Zの破産管財人である(甲1)。
イ Zは、投資に関するシステム開発等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
ウ 被告は、Zから社債を引き受けた者である(弁論の全趣旨)。

(2)社債の引受け
 被告は、Zが発行した社債(以下「本件社債」という。)を合計2000万円引き受け、平成24年6月28日に1000万円、同年7月24日に1000万円を支払った(甲2の1、2の2、弁論の全趣旨)。

(3)Zによる弁済
 Zは、被告に対し、本件各社債に関し、別紙計算書の「弁済額」欄記載のとおりの額を支払った(甲2の3~2の36、3、弁論の全趣旨)。

(4)Zの破産手続開始決定
 東京地方裁判所は、平成28年4月13日午後5時、Zの破産手続開始決定を行い、原告が破産管財人に選任された(甲1)。

3 争点
(1)社債に利息制限法が適用されるか(争点1)
(2)被告は悪意の受益者であるか(争点2)

4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(社債に利息制限法が適用されるか)について
(原告の主張)
 次の理由からすれば、社債に利息制限法が適用され、金利の上限が年利15%となる結果、Zに過払金が生じている。
ア 社債は、会社法676条各号に掲げる事項に従って債務者である会社が社債権者に対し払込金額を償還する契約であるから、金銭消費貸借契約ないしそれに類似する契約に該当する。なお、本件社債は、不特定多数の投資家を対象に募集される公募債ではなく、特定少数の投資家を対象とする私募債であるから、社債としての側面を殊更強調する必要はない。

イ 利息制限法は、金銭を目的とする消費貸借における利息の契約全般を対象としており、契約当事者による区別をしていないため、当事者の属性により適用の有無を区別すべきではない。また、利息制限法は、過剰な投機を抑えて金融取引の安定性を維持する側面もあり、消費者保護のみを目的とする法律ではない。

ウ 本件は、社債を発行したZが破産した事案であり、被告のような多大な利息を取得した社債権者がいる一方、破産直前に社債を引き受けたためほとんど利息を収受できず、元本の回収も未了の社債権者が多数おり、債権者平等の観点からも利息制限法の適用があると解すべきである。

(被告の主張)
 次の理由からすれば、社債に利息制限法は適用されず、Zに過払金は生じていない。
ア 利息制限法は、消費貸借契約上の利息に適用される法律であるところ、社債は消費貸借であるとはいえない。

イ 利息制限法は、一般消費者保護を目的として制定された法律であるところ、社債に利息制限法が適用されるとすると、一般消費者としての立場も有する社債権者を犠牲にして会社を保護することとなり、利息制限法の趣旨に合致しない。

ウ 消費貸借契約は、債権者と債務者の交渉により契約締結に至ることから、交渉過程で債権者が債務者の窮状に乗じることにより、債務者にとって不本意な利率に決まる可能性があり、債務者を保護する必要がある。これに対し、社債は、債務者である会社が、資金調達のために自ら利率等の条件を決めるものであるから、債務者保護の必要性はない。むしろ、社債に利息制限法が適用されるとなると、会社の多様な資金調達が阻害され、会社にとっても不利益となる。これらのことは、社債が私募債であるか否かに左右されない。

エ 利息制限法に高金利そのものを規制する趣旨があるとしても、それは副次的な機能にすぎない。

オ 原告の主張する債権者平等の観点と利息制限法の適用の有無については関係がなく、社債を引き受けた時期によって異なる取扱いをすることはかえって公平を害するものであるし、被告は債権者平等に反する行為を行っていない。

カ Zは、高利率の社債を発行したからこそ資金調達のメリットを享受できたのであって、原告が利息制限法の適用を主張することは、信義則に反する。

(2)争点2(被告は悪意の受益者であるか)について
(原告の主張)
 原告は、利息制限法所定の金利の上限を超える金利による利息であることを認識した上で、Zから約定利息での支払を受けており、悪意の受益者に該当する。

(被告の主張)
 争う。

第3 争点に対する判断
1 争点1(社債に利息制限法が適用されるか)について

(1)利息制限法は、「金銭を目的とする消費貸借における利息」の利率を一定限度に制限している(同法1条柱書)。他方、社債は、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法676条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるものをいう(会社法2条23号)ところ、これは一面では会社の借入金としての性質を有するものである。

 しかしながら、社債の引受けを申し込んだ者は社債発行会社による割当てによって社債権者となるところ(会社法680条1号)、社債発行会社は、割当てを受ける者を定め、その者に割り当てる募集社債の金額及び金額ごとの数を定めることができ、割り当てる募集社債の金額ごとの数を申込者が引き受けようとする数よりも減少することもできること(同法678条1項)、また、債務の成立に払込みを要しないこと(同法676条10号)、分割による払込みも認められること(同条12号、会社法施行規則162条1号)、額面未満の発行も認められること(同法676条9号)など、返還約束及び約定金額の金銭の授受をもって効力を生ずる金銭消費貸借契約(民法587条)とは法律上の規律を異にしている。

 さらに、社債権者は、社債権者集会の決議を経て、資本金の減少等に対する異議を述べることができる(会社法740条1項)など、社債権者には、会社法の規定により、単に会社に対して金銭債権を有する者とは異なる権限が付与されている。
 したがって、両者は法的性質を異にするものであると考えられる。

(2)また、利息制限法の趣旨は、金融の面における経済的弱者の保護にあるところ(乙6)、金銭消費貸借契約においては、債権者が債務者の窮状に乗じることにより、債務者にとって不本意な高利率になる可能性があり、経済的弱者である債務者を保護する必要があるといえる。しかしながら、債務者である社債発行会社が類型的に経済的弱者であるとは認められないこと、社債発行会社は、資金調達の必要性や引受けの見込み等の諸般の事情を踏まえ、利率も含めて自ら社債の内容を設定するものであること、社債に利息制限法が適用されると解すると、社債発行会社の自由な資金調達が阻害されるおそれがあり、また、一般消費者も含まれ得る社債権者の利益を犠牲にして、債務者である社債発行会社を保護することになることからすれば、社債に利息制限法を適用すべき事情があるということもできない。

(3)以上からすれば、社債をもって、利息制限法にいう「金銭を目的とする消費貸借」に該当するということはできず、社債の利息の支払について利息制限法は適用されないというべきである。そして、このことは、本件社債が特定少数を対象とする私募債であるか否かによって左右されない。

(4)
ア 原告は,利息制限法には、過剰な投機を抑えて金融取引の安定性を維持する側面もあると主張する。 
 しかしながら、利息制限法は、同法所定の制限利率を超える利息について私法上の効力を認めないことによって経済的弱者を保護するものであるから、利息制限法の規定による金融取引の安定性については、それ自体実効性がある機能として位置付けられているものであるとはいい難く、原告の主張は採用することができない。

イ また、原告は、本件において、債権者平等の観点からも社債に利息制限法を適用すべきであると主張する。
 しかしながら、Zの発行する社債を引受けた時期によって社債権者の回収可能金額が異なるという原告が主張する不均衡は、利息制限法の趣旨や機能と関係があるとはいい難く、原告の主張は採用することができない。

2 まとめ
 以上の次第で、社債の利息の支払に利息制限法は適用されないから、その適用があることを前提としてZに過払金が生じているとする原告の主張は採用できず、Zの被告に対する不当利得返還請求権は認められない。

第4 結論
 よって、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 竹内努 裁判官 浅海俊介 下山雄司

(別紙)〈略〉
以上:4,368文字

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