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利制法計算後過払金の消滅時効起算点等について判断した地裁判決紹介1

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令和 6年10月25日(金):初稿
○判例時報最新号2024年10月21日号に掲載された利制法計算後の過払金返還請求について判断した令和5年3月30日東京地裁判決(判時2601号76頁)を2回に分けて紹介します。事案は、以下の通りです。

・原告は、被告甲社との間でが、金銭消費貸借について基本契約を締結し、同契約に基づき、、遅くとも平成10年2月8日から平成19年7月30日までの間の取引継続し(本件取引1)、
・平成19年7月、甲社の貸金業廃止と親会社乙社への債権移行合意(過払金債務について、連帯債務として負担割合は甲社100,乙社0)
・原告は、被告甲社から、同被告の廃業及び切替契約により被告乙社の顧客として取引が可能であることについて案内を受け、平成19年7月30日、被告乙社との間で金銭消費貸借取引に係る基本契約締結
・原告は被告乙社と、金銭消費貸借について基本契約を締結し、同契約に基づき、遅くとも平成10年2月8日から平成19年7月30日までの間の取引継続(本件取引2)
・原告は被告両社に対し、令和4年に至り、本件取引1に基づく過払金約439万円と、本件取引1・2一連計算による過払金約25万円の支払を求めて提訴


○被告乙社は、原告は切替手続前は同被告乙の顧客ではなく、被告乙社は、原告に対し、契約を勧誘等していないなどと主張し、平成23年最高裁判決と事案が異なり、過払金返還債務について併存的債務引受はないと主張しました。

○争点1は、本件取引1により生じた過払金に係る甲社債務について乙社の併存的債務引受の成否(受益の意思表示の有無を含む。)ですが、判決は、本件事務取扱条項の規定の内容や、実際に行われた原告の切替手続の状況に照らせば、被告甲社は、原告と被告乙社の間の切替手続の窓口となってこれを進めているに過ぎないものと評価すべきであり、上記判決と事案の異同がないなどとして、併存的債務引受を認め乙社の責任を一部認めました。

○争点1の本件取引1により生じた過払金に係る併存的債務引受の成否(受益の意思表示の有無を含む。)については、原告に有利な認定でした。しかし、最重要論点は、本件取引1により生じた過払金返還請求権の消滅時効の成否で、残念ながら、こちらは原告に不利な認定になっており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 被告乙社は、原告に対し、125万8294円及びうち123万6200円に対する平成29年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、被告甲社について生じたものの全部並びに原告及び被告乙社について生じたものの7分の5を原告の負担とし、その余を被告乙社の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 被告乙社は、原告に対し、460万3512円及びうち439万4519円に対する平成29年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を(ただし、25万2911円及びうち25万1499円に対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告甲社と連帯して)支払え。
2 被告甲社は、原告に対し、被告乙社と連帯して、25万2911円及びうち25万1499円に対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らとの間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち、利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金が発生していると主張して、不当利得返還請求権に基づき、
〔1〕被告甲社に対し、過払金元金25万1499円、最終取引日である平成19年7月30日までの法定利息1412円及び上記元金に対する同月31日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下、単に「民法」という。)所定の年5分の割合による法定利息の支払を求め、
〔2〕被告乙社に対し、過払金元金439万4519円、最終取引日である平成29年4月21日までの法定利息20万8993円及び上記元金に対する同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払(ただし、〔1〕の支払の限度で被告甲社との連帯支払)
を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)被告ら
 被告らは、貸金業法(平成18年法律第115号による改正前は、貸金業の規制等に関する法律。以下、改正前後を通じて単に「貸金業法」という。)に基づく登録を受けた貸金業者である(ただし、被告甲社は既に貸金業を廃業している。なお、被告乙社は、後記の取引期間中に商号変更を経ているところ、その前後を問わず、単に「被告乙社」という。)。

(2)原告と被告甲社の間の取引(本件取引1)
 原告は、被告甲社との間で、遅くとも平成10年2月8日、金銭消費貸借について基本契約を締結し、同契約に基づき、平成19年7月30日までの間、別紙計算書1の「年月日」、「借入金額」及び「弁済額」のとおり、借入れと返済を繰り返した(甲1。ただし、別紙計算書1には、平成19年7月30日の約定残高145万8714円の完済の取引が計上されていない。以下、この取引を「本件取引1」という。)。

(3)原告と被告乙社の取引(本件取引2)
 原告は、被告乙社との間で、平成19年7月30日以降、平成29年4月1日までの間、別紙計算書1の「年月日」、「借入金額」及び「弁済額」のとおり、借入れと返済を繰り返した(甲2。ただし、別紙計算書1には、平成19年7月30日の145万8714円の貸付けが計上されていない。以下、この取引を「本件取引2」という。)。

(4)原告は、令和4年2月1日、本訴を提起した(顕著な事実)。

2 争点
 本件の主な争点は次のとおりである。その余の争点及びこれに関する主張は別紙「その余の争点に関する当事者の主張」のとおり。
(1)本件取引1により生じた過払金に係る併存的債務引受の成否(受益の意思表示の有無を含む。)
(2)本件取引1により生じた過払金返還請求権の消滅時効の成否
(3)争点(1)の消滅時効の被告乙社に及ぼす効力
(4)本件取引2により生じた過払金の非債弁済の成否
(5)被告らが悪意の受益者に当たるか否か。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)被告乙社は、グループ会社のうち国内の消費者金融子会社の再編を目的として、被告乙社の子会社である被告甲社の貸金業を廃止し、これを被告乙社に移行・集約するために、平成19年6月18日、被告甲社との間で、要旨、次の内容の合意を含む業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した(甲3、4、弁論の全趣旨)。

ア 被告甲社の顧客のうち被告乙社に債権を移行させることを勧誘する顧客は、被告らの協議により定めるものとし、そのうち希望する顧客との間で、被告乙社が金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結する(以下、被告乙社との間で上記基本契約を締結した被告甲社の顧客を「切替顧客」という。)。

イ 被告甲社を経由して切替契約を締結する場合の事務取扱方法の概要は次のとおりとする(以下、この定めを「本件事務取扱条項」という。)。
〔1〕被告らは、ポスター、ホームページ等で切替契約について公示する。
〔2〕被告甲社はその営業店で切替契約の締結を希望する顧客からの申込受付を行い、申込書を被告乙社に送信し、かつ電話で連絡する。
〔3〕被告乙社は、融資の審査結果を被告甲社を通じて通知し、当該顧客と前記アの基本契約を締結する。
〔4〕被告甲社は、切替顧客から残高確認兼振込代行申込書を受領し、被告乙社にこれを引き渡す。

ウ 被告甲社が切替顧客に対して負担する利息返還債務、同債務に附帯して発生する経過利息の支払債務その他同社が切替顧客に対して負担する一切の債務(以下「過払金等返還債務」という。)について、被告らが連帯してその責めを負うものとし、この連帯債務の負担部分の割合は、被告乙社が0割、被告甲社が10割とする(以下、この定めを「本件債務引受条項」という。)。

エ 被告らは、切替顧客に対し、今後の全ての紛争に関する申出窓口を被告乙社とする旨を告知する(以下、この定めを「本件周知条項」という。)。被告乙社は、切替顧客からの過払金等返還債務の請求に対しては、申出窓口の管理者として善良なる注意をもって対応する。

(2)原告は、被告甲社から、同被告の廃業及び切替契約により被告乙社の顧客として取引が可能であることについて案内を受け、平成19年7月30日、被告乙社との間で金銭消費貸借取引に係る基本契約(以下「本件切替契約」という。)を締結した。この際、原告は、被告甲社から、被告らのグループの再編により、被告甲社に対して負担する債務を被告乙社からの借入れにより完済する切替えについて承諾すること、本件取引1に係る約定利息を前提とする残債務を確認し、これを完済するため、同額を被告甲社名義の口座に振り込むことを被告乙社に依頼すること、本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被告乙社となることに異議はないことなどが記載された「残高確認書兼振込代行申込書」(以下「本件申込書」という。)を示され、これに署名して被告甲社に差し入れた(甲5、6、弁論の全趣旨)。

(3)本件申込書の差入れを受け、被告乙社は、平成19年7月30日、原告に対し、本件切替契約に基づき、本件取引1に係る約定残債務金額に相当する金員を貸し付けた上、同額を被告甲社名義の口座に振込送金した(甲2)。

(4)
ア 本件取引1及び2における借入れは、借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行われ、また、返済は、借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して毎月行われるものであった(甲1、2、弁論の全趣旨)。
イ 本件取引1及び2に関する各基本契約は、それぞれ基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には、弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった(甲1、2、弁論の全趣旨)。

2 争点(1)(本件取引1により生じた過払金に係る併存的債務引受の成否(受益の意思表示の有無を含む。))について
(1)前記認定事実によれば、被告乙社は、本件債務引受条項及び本件周知条項を含む本件業務提携契約を前提として、被告甲社の顧客であった原告に対し、同被告を通じて、本件切替契約が被告らのグループ会社の再編に伴うものであることや、本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被告乙社になることなどが記載された本件申込書を示して、被告乙社との間で本件切替契約を締結することを勧誘しているものと評価すべきであるから、上記勧誘に当たって表示された被告乙社の意思としては、これを合理的に解釈すれば、原告が上記勧誘に応じた場合には、被告乙社が、原告と被告甲社との間で生じた債権を全て承継し、債務を全て引受けることをその内容とするものとみるのが相当である。

 そして、原告は、上記の意思を表示した被告乙社の勧誘に応じ、本件申込書に署名して被告甲社を通じて被告乙社に差し入れているのであるから、原告もまた、被告甲社との間で生じた債権債務を被告乙社が全てそのまま承継し、又は引き受けることを前提に、上記勧誘に応じ、本件切替契約を締結したものと解するのが合理的である。

 本件申込書には、被告甲社に対して負担する債務を被告乙社からの借入れにより完済する切替えについて承諾すること、本件取引1に係る約定残債務の額を確認し、これを完済するため、同額を被告甲社名義の口座に振り込むことを依頼することも記載されているが、本件申込書は、上記勧誘に応じて差し入れられたものであり、実際にも、原告が被告乙社から借入金を受領して、これをもって自ら被告甲社に返済するという手続が執られることはなく、被告乙社とその子会社である被告甲社との間で直接送金手続が行われたにすぎない上に、上記の記載を本件申込書の他の記載部分と対照してみるならば、原告は、本件取引1に基づく約定残債務に係る被告甲社の債権を被告乙社に承継させるための形式的な会計処理として、被告甲社に対する約定残債務相当額を被告乙社から借り入れ、その借入金をもって上記約定残債務相当額を弁済するという処理を行うことを承諾したにすぎないものと解される。

 以上の事情に照らせば、原告と被告乙社とは、本件切替契約の締結に当たり、被告乙社が、原告との関係において、本件取引1に係る債権を承継するにとどまらず、債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当であり、この債務には、過払金等返還債務も含まれていると解される。したがって、原告が上記合意をしたことにより、第三者のためにする契約の性質を有する本件債務引受条項について受益の意思表示もされていると解することができる。そして、原告が、本件取引1に基づく約定残債務相当額を被告乙社から借り入れ、その借入金をもって本件取引1に基づく約定残債務を完済するという会計処理は、被告甲社から被告乙社に対する貸金債権の承継を行うための形式的な会計処理にとどまるものというべきであるから、本件取引1と本件取引2とは一連のものとして過払金の額を計算するのが相当である。

 したがって、被告乙社は、原告に対し、本件取引1と本件取引2とを一連のものとして制限超過部分を元本に充当した結果生ずる過払金につき、その返還に係る債務を負うというべきである(以上につき、最高裁平成23年(受)第516号同年9月30日第二小法廷判決・集民237号655頁(以下「平成23年最高裁判決」という。)参照)。

(2)以上に対し、被告乙社は、原告は切替手続前は同被告の顧客ではなく、同被告から原告に契約を勧誘等していないなどと主張し、平成23年最高裁判決と事案が異なることを指摘する。
 しかしながら、前記認定の本件事務取扱条項の規定の内容や、実際に行われた原告の切替手続の状況に照らせば、切替顧客が被告乙社の従前の顧客ではなかった場合に、被告甲社は、原告と被告乙社の間の切替手続の窓口となってこれを進めているにすぎないものと評価すべきであり、平成23年最高裁判決と結論を異ならしめるような事案の異同があるものとはいえないから、被告乙社の上記主張は、採用することができない。


以上:6,093文字

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