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注文主の指図で生じた請負物に瑕疵担保責任はないとした地裁判決紹介

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令和 5年 7月13日(木):初稿
○注文主から請負業務についての不備があるとして損害賠償請求をされているところ、それは注文主の指図の不備によって生じたものであるとの相談を受け、関連する判例を探しています。以下の民法第636条の規定にある注文者の与えた指図によって請負業務に不適合が生じた場合についての裁判例を探しています。
第636条(請負人の担保責任の制限)
 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。


○注文主原告が、請負人被告に対し、「デムシス」という名称のインターネット上で顧客管理を行うアプリケーションソフトウェアの作成を発注し、被告はこれを作成したところ、被告の作成したデムシスに法律上の瑕疵がある旨主張して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を一部請求していました。

○これについて、被告に製作を依頼したデムシスに法律上の瑕疵があるとの主張は、失当であるのみならず、仮に法律上の瑕疵があるとしても、被告は、デムシスを原告の指図どおりに製作したのであるから、その瑕疵は「注文者の与えた指図により生じた」ということができ、被告が瑕疵担保責任を負うことはないとして、注文主原告の請求を棄却した平成15年5月28日東京地裁判決(裁判所ウェブサイト)関連部分を紹介します。


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主    文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。 
 
事実及び理由

第1 請求

 被告は,原告に対し,金3886万7875円及びこれに対する平成14年8月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 原告は,被告に対し,「デムシス」という名称のインターネット上で顧客管理を行うアプリケーションソフトウェアの作成を発注し,被告はこれを作成した。
 本件は,原告が被告に対し,被告の作成したデムシスに法律上の瑕疵があると主張して,瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求(一部請求)した事案である。

1 争いのない事実等
(1) 原告は,インターネットのウェブコンテンツの企画,作成,運営等を目的とする株式会社であり,被告は,パソコン通信による情報提供サービス業等を目的とする有限会社である。

(2) 訴外株式会社S(以下「S」という。)は,「ハッピーネット」という名称のインターネット上で顧客管理を行うアプリケーションソフトウェアを開発し,そのユーザーを募集していた(甲3)。原告とSは,平成12年3月5日,原告がハッピーネットを用いたサービス提供に関する代理店となる旨の契約を締結した。そして,原告は,平成12年10月ころ,Sとの合意に沿って,「ハッピーネット」に「デムシス」との商品名(OEM版)を付して(以下,これを「旧デムシス」という。),平成13年1月ころから,サービス提供業務を開始した。

(3) ところが,平成13年6月,原告は,Sとの合意に違反して,旧デムシスのサービスを提供していたことが同社に発覚したため,原告とユーザーとの間で締結した旧デムシスに関する契約を,同年8月末日までに順次解除した上,サービスを停止せざるを得なくなった。

(4) そこで,原告は,被告に対して,平成13年7月,「旧デムシス」と同じような機能,すなわち,顧客データベースと連動して,さまざまなバリエーションでメール配信が簡単に行え,来店のお礼,誕生日メール,記念メールなどが自動配信できる,インターネット上で顧客管理を行うアプリケーションソフトウェア(以下「デムシス」ともいう。)の製作を依頼した(甲1,2)。

2 争点及び当事者の主張

         (中略)

(3) 原告の損害額
 (原告の主張)
 原告は,デムシスに法律上の瑕疵があったことにより,次のとおりの損害を被った。
① デムシス開発費 252万円
 原告が被告に対し,デムシスを開発するために支払った開発費

② デムシス代理店加盟金 170万円
 原告がデムシスにつき代理店を募集し,原告に加盟した代理店から支払われた加盟金を各加盟店に返戻した金員

③ エヌ・ティ・ティ中部テレコン株式会社(以下「NTT中部テレコン」という。)弁護士費用 60万8865円
 デムシスにつき,Sから原告及びNTT中部テレコンを債務者として著作権に基づく差止仮処分の申立てがされ,原告がNTT中部テレコンの代理人に対し,弁護士費用として支払った金員

④ 弁護士費用 42万円
 上記仮処分申立事件につき,原告委任の弁護士に支払った金員

⑤ デムシスサーバ代 47万9010円

⑥ デムシスによる得べかりし利益 9070万円
 被告の製作したデムシスが瑕疵のないものであれば,12か月間で9070万円の得べかりし利益が見込まれ,その一部

⑦ 裁判関係経費 14万円

⑧ 代理店募集経費 300万円

 (被告の認否)
 争う。原告の主張する損害を裏付ける客観的証拠は全く存在しない。

第3 当裁判所の判断
1 争点(2)(指図どおりの製作か否か--抗弁)について

 先に,被告が,デムシスの製作に当たり,原告から指図を受け,その指図どおりに製作したか否かについて判断する。
(1) 事実認定
 前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし3,乙1ないし17,20,24)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 原,被告間のデムシス製作に関する契約を締結するまでの経緯
(ア) 原告は,平成12年3月5日,顧客管理を行うソフトウェアであるハッピーネットを開発したSとの間で,原告がハッピーネットを用いたサービス提供に関する代理店となる旨の契約を締結した。原告は,ハッピーネットのユーザーを募集していたが,平成13年1月から,Sとの合意に沿って,「ハッピーネット」に「デムシス」の商品名(OEM版)を付した旧デムシスのユーザーの募集を開始し,サービス提供業務を行った。

(イ) 原告は,平成13年6月ころ,Sとの合意に違反して,旧デムシスのサービスを提供していたことが,同社に発覚し,同社から顧客に対する旧デムシスのサービス提供を停止するよう求められた。当時,旧デムシスについて原告からサービスの提供を受けていた顧客は5社であった。原告は,Sに対し,同月11日,上記ユーザーとの契約を同年8月末までに解除することを約した。

(ウ) そこで,原告は,旧デムシスを他のアプリケーションソフトウェアに置き換えて上記ユーザーとの契約関係を維持するとともに,新たなユーザーの募集も続けようと企図し,同年7月,被告に対し,旧デムシスに代わるものとして,顧客データベースと連動して,さまざまなバリエーションでメール配信が簡単に行え,来店のお礼,誕生日メール,記念メールなどが自動配信できるアプリケーションソフトウェア(デムシス)の製作を依頼した。

(エ) 被告は,上記依頼を承諾し,原告に対し,上記アプリケーションソフトウェアを製作するために必要な仕様書,設計資料の提出を求めたが,原告は,これには応じず,その代わりに旧デムシスのID及びパスワードを交付し,旧デムシスのウェブページを素材として旧デムシスと同一の機能でデザインを変えたものを製作するように求め,デザインについては原告の担当者が作成すると伝えた。なお,デムシスの納期は,同年9月下旬とされた。(乙3,4)

イ 被告がデムシスを完成,納品するまでの経緯
(ア) 被告は,平成13年7月下旬ころ,旧デムシスと同一のデザインのデムシスのデモバージョン1を製作した。これに対し,原告は,平成13年8月20日,トップページと表面上のメニューページを製作し,被告に送信してこれを用いるように指示した。そこで,被告は,同日,デモバージョン1のトップページと表面上のメニューページを原告製作のものに変更したデムシスのデモバージョン2を製作し,これを原告の六本木事務所内に設置されたサーバーに設定し,原告担当者が動作確認を行えるようにした(乙8)。デモバージョン2は,デモバージョン1のトップページと表面上のメニューページを差し替えたものであり,それよりも下層の各種機能を果たすためのページは,旧デムシスと同一デザインのアプリケーションソフトウェアであった。

(イ) 被告は,原告の指示により,平成13年9月末日ころ,上記デモバージョン2をNTT中部テレコンに設置されたサーバーで動作するように設定した。また,その後も,被告は,上記デモバージョン2のバグ修正や保守をしていたが,原告は,平成13年10月ころから,デモバージョン2を用いてデムシスの販売を開始した。(乙9)
 被告は,同年12月,原告からデムシスのバグを指摘され,同月20日にバグを修正した。(乙15ないし17)

(ウ) 原告と被告は,平成13年12月29日及び平成14年1月4日,デムシスの納品について,次のとおり合意した。
① 原告は,平成14年1月20日までにデムシスのデザインを製作し,その後に被告がデザインの変更作業を行う。
② デムシスの機能(手順を含む。)の変更はない。
③ 被告は,デムシスの仕様書を製作し,原告に提出する。
④ 以上の作業が終わった後,納品とする。(乙10ないし13)

(エ) 原告は,上記合意に基づき,デムシスのデザインを製作し,平成14年1月24日,被告に対し,これを用いてデムシスのデザインを変更するように指示し,被告は,同年2月中に原告の指示どおりにデザインの変更を完了した(以下,このデザイン変更後のものを「デムシス完成版」という。)。(乙1,14,20)

(オ) 被告は,原告に対し,平成14年3月11日,原告の六本木事務所において,CD-ROMに記録したデムシス完成版,仕様書等を納品した。その際,原告は,被告に対し,訴外クラフトワークスのAを今後のデムシスの開発・変更等の担当者であると紹介した。被告代表者のBらは,原告担当者C及びクラフトワークスのAに対し,納品物,仕様書,プログラムの概要等を説明した。また,原告と被告は,同日,デムシスの納品,検収,修正・改修作業等に関する覚書を製作した。同覚書には,納品物の検収に関して,原告が納品日(平成14年3月11日)より10営業日以内に単独で検収を行い,検査の合否を書面で報告すること,不合格の場合は,被告は速やかに修正・改修を行うこと,検収期間の10営業日を過ぎても書面による検査の合否通知がない場合は,合格したものとみなすこと等の条項が定められていた。(乙1,2)

(カ) 原告は,被告に対し,デムシス完成版が不合格であるとの通知をしたことはない。

ウ Sの原告に対する著作権侵害を理由とする権利行使
(ア) Sは,平成13年11月ころ,インターネット上で上記デモバージョン2を発見し,原告に対し,ハッピーネットの無断複製又は改変である旨警告した。これに対し,原告担当者は,同月9日,Sを訪問し,「『デムシス』開発の動機は,Sのハッピーネットがユーザーに好評であったことに目を付けたものであり,平成13年6月の段階で既に『旧デムシス』により契約した代理店があったため,開発を継続ざるを得なかった」などの説明を行ったことがある。

(イ) Sは,平成14年1月15日ころ,東京地方裁判所に対し,原告及びNTT中部テレコンを相手方として,デムシスがハッピーネットについての著作権を侵害するとの理由でデムシスの公衆送信等の差止めを求める旨の仮処分を申し立てた(東京地方裁判所平成14年(ヨ)第22002号)。(甲3)

(ウ) 平成14年4月9日,仮処分事件において,Sと原告及びNTT中部テレコンは,和解を成立させた。

(2) 判断
 上記認定した事実を総合すれば,デムシスは原告の指図どおり製作されたと解される。その理由は以下のとおりである。すなわち,
ア 前記のとおり,①原告は,被告にデムシスの製作を依頼した当初から,その製作に必要な仕様書,設計資料を示すことなく,単に,旧デムシスのID及びパスワードを交付して,旧デムシスのウェブページを素材として旧デムシスと同一の機能でデザインを変えたものを製作するように求めたこと,②被告は,旧デムシスのトップページと表面上のメニューページを差し替えただけで,それよりも下層の各種機能を果たすためのページが旧デムシスと同一のデザインであるデムシスのデモバージョン2を製作し,これを,平成13年8月20日,原告の六本木事務所のサーバーに設定し,原告が動作確認できるようにしたこと,③被告は,原告の指示により,同年9月末日ころ,デモバージョン2をNTT中部テレコンのサーバーで動作するように設置し,原告は,翌10月から,デモバージョン2を用いた販売活動を始めていること等の経過に照らすならば,デモバージョン2は,正に,原告の指示どおりに製作されたものと認めるのが相当である。

イ また,平成13年11月,原告は,Sから,デモバージョン2がハッピーネットの無断複製又は改変であるとの申し入れを受けたのであるから,原告は,被告に対して,デムシスをそのような疑いを持たれないようなアプリケーションソフトウェアに変更するように指示をすることも可能であったといえる。しかし,その後のデムシスの製作経緯をみても,被告に,そのような観点からの指示を発した形跡は,何ら窺えない。

すなわち,
①被告は,平成13年12月,原告から指摘されたデムシスのバグを修正した。
②原告と被告は,平成13年12月29日及び平成14年1月4日,デムシスの納品について,原告において,同月20日までにデムシスのデザインを製作し,その後に被告においてデザインの変更作業を行い,デムシスの機能(手順を含む。)の変更はない旨を合意している。
③原告は,この合意に基いて,デムシスのデザインを製作し,被告に対してこれを用いてデザインを変更するように指示し,被告は,同年2月中に原告の指示どおりのデザイン変更を完了してデムシス完成版を製作した。
④被告は,原告に対し,平成14年3月11日,CD-ROMに記録したデムシス完成版,仕様書等を納品したが,その際,原告担当者らに対し,納品物,仕様書,プログラムの概要等を説明するともに,原告と被告は,デムシスの納品,検収,修正・改修作業等に関する覚書を製作した。
⑤同覚書には,納品物の検収に関して,原告が納品日(平成14年3月11日)より10営業日以内に検収を行い,検査の合否を書面で報告し,検収期間の10営業日を過ぎても書面による検査の合否通知がない場合は,合格したものとみなすこと等の条項が定められていたが,原告は,被告に対してデムシス完成版が不合格であるとの通知をしたことはない。

そうすると,原告は,Sからハッピーネットの著作権侵害との警告を受けた後においても,デモバージョン2について,被告に対し,バグを指摘してその修正をさせたり,自ら製作したデザインを用いてデムシスのデザインの変更をさせており,また,完成,引き渡しを受けたデムシス完成版について,検収後に,何ら,不合格であるとの意思を示していないのであるから,デムシス完成版は,原告の指示どおりに製作されたものであると認めるのが相当である。

2 その他の判断及び結論
(1) 争点(1)(法律上の瑕疵の有無--請求原因)について

 原告は,被告が製作したデムシスは,ハッピーネットのプログラム及びユーザーインターフェイス画面を無断で複製又は改変したものであり,ハッピーネットについて,Sが有する著作権を侵害したものであるから,デムシスには法律上の瑕疵があると主張する。
 しかし,本件において,原告は,デムシスのいかなる部分がハッピーネットについてSが有する著作権を具体的にどのような態様で侵害するかについて,何ら明らかにしない。したがって,原告の請求原因に係る主張は,主張自体が失当であるか,又は立証がないことに帰する。

(2) 結語
 以上のとおり,被告に製作を依頼したデムシスに法律上の瑕疵があるとの主張は,失当であるのみならず,仮に法律上の瑕疵があるとしても,1において判断したとおり,被告は,デムシスを原告の指図どおりに製作したのであるから,その瑕疵は「注文者の与えた指図により生じた」ということができ,被告は,民法636条本文の規定により,瑕疵担保責任を負うことはない。したがって,原告の本訴請求は理由がないこととなる。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信) 
以上:6,923文字

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