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受刑者の作業報奨金は強制執行できないとした最高裁判決紹介

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令和 5年 6月27日(火):初稿
○判例時報令和5年6月21日号に掲載された民事執行に関する令和4年8月16日最高裁判決(判時2553号9頁、判タ1504号30頁)全文を紹介します。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対する強制執行はできないとしました。

○事案は、Yの詐欺被害者で、詐欺を理由とする不法行為損害賠償請求訴訟は時効消滅で棄却され、貸金請求(金額不明)認容判決を得たXが、受刑者Yの作業報奨金について債権差押申立をしたものです。
第一審令和3年9月30日山口地裁岩国支部決定は申立を概ね以下の理由で却下しました。
①作業報奨金は釈放時に初めて発生する単なる期待権
②刑事収用法98条4項は受刑者の自発的申出前提で差押は趣旨にそぐわない
③作業報奨金は差押を観念する余地がないので差押禁止規定もない

抗告審令和3年11月24日広島高裁決定も、概ね以下の理由で、執行抗告を棄却しました。
①刑事収用法98条4項は報奨金計算額に権利性を付与したものではない
②刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する施行規則60条は報酬金計算額の2分の1について,受刑者の釈放後の生活資金の確保のために留保することを定めたものと読み込むこともできない


○関連条文は以下の通りです。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第98条(作業報奨金)
 刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする。
2 刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、毎月、その月の前月において受刑者が行った作業に対応する金額として、法務大臣が定める基準に従い、その作業の成績その他就業に関する事項を考慮して算出した金額を報奨金計算額に加算するものとする。ただし、釈放の日の属する月における作業に係る加算は、釈放の時に行う。
3 前項の基準は、作業の種類及び内容、作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定める。
4 刑事施設の長は、受刑者がその釈放前に作業報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、自弁物品等の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償への充当等相当なものであると認めるときは、第一項の規定にかかわらず、法務省令で定めるところにより、その支給の時における報奨金計算額に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部又は一部の金額を支給することができる。この場合には、その支給額に相当する金額を報奨金計算額から減額する。
(後略)

刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則第60条(釈放前における作業報奨金の支給)
 法第98条第4項の規定により支給する金額は、その支給の時における報奨金計算額の2分の1を超えてはならない。ただし、その範囲を超えた金額を支給することがその使用の目的に照らして適当であると特に認めるときは、この限りでない。


○刑事事件被害者が、加害者に民事上損害賠償請求権等債権を有し判決を得ても、加害者が実刑判決を受けて受刑者となった場合、支払能力無しとして強制執行は諦めるのが普通ですが、被害者は諦めきれず作業報奨金の差押を実行しました。上記刑事収用法98条4項には「被害者に対する損害賠償への充当等相当なもの」は、釈放前でも支給を受けられることを規定していることも理由にしました。しかし、最高裁は、作業報奨金の受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資する目的を重視し、作業報奨金は他に譲渡できず強制執行の対象とはならないとしました。

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主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。 

理   由
 抗告代理人○○○○,同○○○○、同○○○○の抗告理由について
1 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条は、作業を行った受刑者に対する作業報奨金の支給について定めている。同条は、作業を奨励して受刑者の勤労意欲を高めるとともに受刑者の釈放後の当座の生活費等に充てる資金を確保すること等を通じて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資することを目的とするものであると解されるところ、作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、上記の目的を達することができないことは明らかである。

そうすると、同条の定める作業報奨金の支給を受ける権利は、その性質上、他に譲渡することが許されず、強制執行の対象にもならないと解するのが相当である。したがって、上記権利に対して強制執行をすることはできないというべきである。このことは、受刑者の犯した罪の被害者が強制執行を申し立てた場合であっても異なるものではない。

2 以上によれば、上記権利に対する強制執行としてその差押えを求める抗告人の申立てを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渡邉惠理子 裁判官 宇賀克也 裁判官 林道晴 裁判官 長嶺安政)

以上:2,121文字

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