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生活福祉資金貸付制度貸付資金部分預金債権差押命令取消地裁判決紹介

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令和 3年 7月22日(木):初稿
○債務者が生活福祉資金貸付制度に基づいて社会福祉協議会から貸付けを受けた資金が入金された預金口座に対する債権差押について、民事執行法上の差押禁止財産に相当するとして差押命令の一部取消しが認められた令和2年9月17日大阪地裁判決(判時2481号13頁)全文を紹介します。関連条文は以下の通りです。

民事執行法第152条(差押禁止債権)
 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権


○本件では、債務者の預金口座残高全部の64万6922円が差押の対象となり、債務者がこの預金は、給与と大阪府社協からの生活福祉資金貸付金で全て差押禁止債権に該当するとして本件差押命令の全部を取り消すよう求めたものです。64万6922円の原資は、令和2年6月24日時点残高131円に、給与6万7588円、大阪府社協生活福祉資金貸付金60万円が入金となり、学習塾代金2万0979円が自動引落されたものでした。

○判決は、残高64万6922円から生活福祉資金貸付金60万円全額と、給与6万7588円のうち差押禁止対象4分の3相当額5万0691円は差押禁止財産であり、このうち2万0666円(ただし、2万0797円から131円を控除した額)は、申立人世帯の生活費(学習塾への支払)に充てられたと認められるから、これを控除した後の差押禁止部分は3万0025円になるとして、64万6922円-60万円-3万0025円=1万6897円を超える部分の差押命令を取り消しました。

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主   文
1 上記当事者間の当庁令和2年(ル)第2954号債権差押命令申立事件について、当裁判所が令和2年7月1日に発した債権差押命令中、第三債務者株式会社A銀行(B支店扱い)に係る部分のうち1万6897円を超える部分を取り消す。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用はこれを100分し、その3を申立人の負担とし、その余を相手方の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨及び理由

 申立人は、基本事件(当庁令和2年(ル)第2954号)について当裁判所が令和2年7月1日に発した債権差押命令中、申立人の第三債務者株式会社A銀行(B支店扱い)に対する預金債権(以下「本件預金債権」といい、これが存在する申立人名義の預金口座を「本件預金口座」という。)を差し押さえた部分(以下、同部分に係る債権差押命令を「本件差押命令」という。)について、本件預金債権は、申立人が社会福祉法人大阪府社会福祉協議会(以下「大阪府社協」という。)から貸付けを受けた生活福祉資金及び勤務先からの給与を原資とするものであり、民事執行法152条1項1号及び2号ないし性質上の差押禁止債権を原資としていること又は本件預金債権自体が差押禁止債権に当たること、並びに本件預金債権が差し押さえられると申立人の生活が著しく困窮することを理由として、本件差押命令の全部を取り消すよう求めた。

第2 当裁判所の判断
1 本件及び基本事件の記録によれば、次の事実が認められる。
(1)申立人の生活状況等
ア 申立人は、申立人の両親宅において、3人の子ら(長男・19歳、二男・17歳、長女・15歳)と共に生活している。

イ 申立人は、従前、介護の事業所(老人ホーム)で稼働していたところ,同事業所の営業状態の悪化等により、令和2年4月頃、同所を退職し、その後は、パートタイムで週2、3日程度、稼働していた。申立人は、同年7月4日頃、新たに高齢者施設に入職した。

ウ 申立人は、勤務先からの給与のほか児童手当や児童扶養手当等の公的給付を受け、生計を立てている。 
 申立人の令和2年5月及び6月の家計収支(ただし、臨時的な収入及び支出を除く。)は、収入が月額約10万ないし13万円【内訳:給与約4万ないし7万円、児童手当1万円(1か月当たり)、児童扶養手当5万6240円(1か月当たり)】、支出が約16万ないし20万円【内訳:食費約8万円、電話料金約8000円、衣類・日用品代約1万円、保険料約1万円、子らの教育費・通学費等約3万ないし7万円、雑費約2万円等】であった。

(2)大阪府社協からの生活福祉資金の借入れ
ア 申立人は、令和2年6月10日、大阪府社協に対し、新型コロナウイルス感染症の影響により2か月間失業したこと等を理由に、総合支援資金特例貸付の借入れを申し込んだ。

イ 大阪府社協は、令和2年6月29日、申立人に対し、以下の内容の生活福祉資金の貸付決定をした。
 貸付資金種類 総合支援資金(生活支援費)・新型コロナウイルス特例
 貸付決定額 60万円(月額20万円×3か月)
 貸付期間 令和2年6月から同年8月まで
 貸付利子 0円(無利子)
 償還開始日 令和3年9月1日
 最終償還期日 令和13年8月31日
 償還回数 120回

ウ 大阪府社協は、令和2年6月30日、上記貸付決定に基づき、申立人名義の本件預金口座に60万円を振り込んだ(以下「本件貸付金」という。)。

(3)生活福祉資金貸付制度の概要
ア 生活福祉資金貸付制度は、低所得者、障害者又は高齢者に対し、資金の貸付けと必要な相談支援を行うことにより、その経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を送れるようにすることを目的とするものである。また、同制度は、生活困窮者自立支援法に基づく各事業と連携し、効果的、効率的な支援を実施することにより、生活困窮者の自立の促進を図るものとされている。
 生活福祉資金の貸付けは、都道府県知事等に対する厚生労働事務次官通知に基づき実施されているものであり、社会福祉法110条1項に規定する都道府県社会福祉協議会(以下「都道府県社協」という。)が行うものとされている。

イ 生活福祉資金の種類には、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金の4種類がある。
 このうち総合支援資金は、失業者等、日常生活全般に困難を抱えており、生活の立て直しのために継続的な相談支援(就労支援、家計相談支援等)と生活費及び一時的な資金を必要とし、貸付けを行うことにより自立が見込まれる世帯であって、所定の要件(低所得世帯であって、収入の減少や失業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっていること、資金の貸付けを受けようとする者の本人確認が可能であること、現に住居を有し又は生活困窮者自立支援法に基づく生活困窮者住居確保給付金の申請により住居の確保が確実に見込まれること、実施主体が貸付け及び関係機関とともに支援を行うことにより、自立した生活を営めることが見込まれ、償還を見込めること、生活保護や年金等の他の公的給付又は公的な貸付けを現に受けることができず、生活費を賄うことができないこと)をいずれも満たす場合に、生活支援費(生活再建までの間に必要な生活費用)等として貸し付ける資金をいう。

 総合支援資金の貸付けに際しては、原則として同法に基づく自立相談支援事業等による支援を受けるとともに、実施主体及び関係機関から貸付け後の継続的な支援を受けることに同意していることを要件とする。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、厚生労働省社会・援護局長通知(令和2年3月11日社援発0311第8号)により、生活困窮者の資金需要に的確に応え、切れ目ない支援を実現するため、早急に総合支援資金の貸付金が手元に届くよう対応する必要があることから、新型コロナウイルス感染症の影響で収入の減少があれば休業状態や失業状態でなくても貸付けの対象となること、基本的に同法に基づく自立相談支援事業等による支援を不要として貸付けに向けた手続を行うこと等の特例措置が設けられた(新型コロナウイルス特例)。

ウ 借受人は、借入れの目的に即して資金を使用するとともに、都道府県社協等が行う必要な相談支援や生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援事業等による支援により、経済的及び社会的な自立を図り、安定した生活を送れるよう努めなければならない。
 都道府県社協会長は、借受人が貸付金の使途をみだりに変更し又は他に流用したとき、借受人が借受期間中に就職等による自立又は必要な資金の融通を他から受けるなどして貸付けの目的を達成したと認められるとき、借受人が貸付けの目的を達成する見込みがないと認められるとき等は、いつでも貸付金の全部又は一部につき一括償還等を請求することができる。

(4)本件預金口座の入出金の状況等
ア 本件預金口座には、申立人の給与や児童手当、児童扶養手当等の公的給付が振り込まれているところ、申立人は、これをその都度引出したり、支払の引落し等に充てている。令和2年5月及び6月において、本件預金口座には、給与、児童手当及び児童扶養手当のほか、同年5月20日にC市から臨時給付金5万円が、同年6月9日に大阪府社協から生活福祉資金(総合支援資金(生活支援費))貸付金20万円が、同月16日にC市から子育て給付金1万円が、同月24日にC市から特別定額給付金40万円が、同月30日に大阪府社協から本件貸付金60万円がそれぞれ入金されている。

イ 本件預金口座は、令和2年6月24日の時点において、残高が131円であったところ、その後、同月25日に給与として6万7588円の入金が、同月30日に学習塾への支払として2万0797円の引落しが、同日に本件貸付金として60万円の入金がそれぞれあり、同日時点の残高は、64万6922円となった。

ウ 令和2年7月3日、本件差押命令に基づき、本件預金口座の残高64万6922円(本件預金債権)が差し押さえられた(以下「本件差押え」という。)。

2 預金債権の原資が差押禁止債権であっても、当該債権が預金口座に振り込まれた場合には、その法的性質は預金債権に変わり、差押禁止債権の属性を承継しないから、当該預金債権に対する差押えが直ちに差押禁止に反するものとはいえない。もっとも、差押禁止債権の範囲変更の申立てにおいて、裁判所が債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して範囲変更の必要性を検討するに当たっては、差押えに係る預金債権の原資が差押禁止債権であることは重要な考慮要素であるというべきであり、当該預金債権の原資が差押禁止債権であることが認められれば、他に生計を維持する財産や手段があること等その取消しを不当とする特段の事情のない限り、当該預金債権に対する差押命令を取り消すのが相当である。

(1)本件預金債権のうち本件貸付金相当額の60万円の部分について
ア 上記1(4)イ及びウのとおり、本件預金口座に本件貸付金60万円が入金された後、本件差押えがされるまでの間に本件預金口座への入金がないことからすれば、本件預金債権(64万6922円)のうち60万円の部分について、本件貸付金が原資となっていることは明らかである。

イ そこで、進んで、本件貸付金の交付を受ける権利が差押禁止債権であるかどうかを検討する。
 まず、本件貸付金は、申立人の生活支援費(生活再建までの間に必要な生活費用)として支払われたものではあるが、月額20万円の貸付金の3か月分(合計60万円)が一括して一度に支払われたものであり、今後給付が続くものではなく、継続的給付とはいえないから、民事執行法152条1項1号所定の差押禁止債権には当たらないと解される。
 もっとも、法律上の差押禁止債権に当たらない場合であっても、当該債権が、譲渡性のない債権であったり、他人が代わって行使することのできない債権等であるときは、その性質上、当該債権を差し押さえることは許されないと解すべきである。

 本件貸付金は、生活福祉資金の種類の1つである総合支援資金(生活支援費)として、さらには、新型コロナウイルス特例として貸し付けられた資金である。生活福祉資金は、社会福祉法に定める社会福祉事業(同法2条3項1号参照)の理念に基づき生活困難者に対して貸し付けられる資金であると解されるところ、その貸付けの目的は、生活困窮者自立支援法に基づく各事業との連携の下、低所得世帯等に対し、生活再建までの間に必要な生活費用等を貸し付けることにより、その経済的自立を図ること等にある。これに加え、新型コロナウイルス特例に基づく貸付けについては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、生活困窮者の資金需要に的確に応え、切れ目ない支援を実現するため、早急に貸付金が手元に届くよう対応する必要があるとされている。

このとおり、本件貸付金は、生活困窮者の経済的自立を図ること等を目的として貸し付けられる資金であるとともに、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する状況下において、早急かつ確実に生活困窮者の手元に届けられることが要請される資金であるから、上記目的及び要請の実現のためには、本件貸付金が借受人である申立人に対して現実に支払われることが不可欠であると解される。

 また、本件貸付金は、申立人の生活費に充てられることを前提に貸し付けられたものであるところ、申立人がこれを他に流用したり、貸付けの目的が達成されたり、貸付けの目的が達成される見込みがないときは、一括償還等を求められることがあること等からすれば、現に申立人に貸し付けられた資金は、申立人の経済的自立という目的達成のために確実に使用される必要があると解され、本件貸付金とその貸付けの目的である申立人の経済的自立とは、密接不可分の関係にあるといえる。


 これらのことからすれば、本件貸付金の交付を受ける権利は、その借受人である申立人のみが行使できる権利であり、申立人の債権者等の他人が行使することができない権利というべきであるから、性質上の差押禁止債権に当たるというべきである。

ウ 上記のとおり、本件預金債権のうち本件貸付金相当額の60万円の部分については、その原資が差押禁止債権であると認められるから、他に生計を維持する財産や手段があるなどの特段の事情のない限り、差押えは許されないところ、上記1(1)ウのとおり、申立人には、給与及び児童手当、児童扶養手当の公的給付を併せ、月額10万ないし13万円程度の収入しかなく、その他見るべき資産もないことからすれば、上記特段の事情があるとは認められない。

エ 以上より、本件預金債権のうち本件貸付金相当額の60万円の部分について差押えをすることは許されないから、これを取り消すこととするのが相当である。

(2)本件預金債権のうちその余の4万6922円の部分について
 上記1(4)イのとおり、本件預金債権から本件貸付金相当額を除いた4万6922円の部分は、本件預金口座の残高が131円である時に、給与として6万7588円が入金され、その後、学習塾への支払として2万0797円が引き落とされたことにより、形成されたものである。そして、給与のうち4分の3に相当する部分は、法律上、差押禁止とされることから(民事執行法151条1項2号)、上記給与6万7588円のうちその4分の3に相当する額である5万0691円は、差押禁止債権に当たるところ、このうち2万0666円(ただし、2万0797円から131円を控除した額)は、申立人世帯の生活費(学習塾への支払)に充てられたと認められるから、これを控除した後の差押禁止部分は、3万0025円になると認められる。

 このとおり、本件預金債権から本件貸付金相当額を除いた4万6922円のうち3万0025円の部分については、その原資が差押禁止債権であると認められるから、他に生計を維持する財産や手段があるなどの特段の事情のない限り、差押えは許されないところ、上記2(1)ウで述べたとおり、申立人について上記特段の事情があるとは認められない。

 以上より、本件預金債権から本件貸付金相当額を除いた4万6922円のうち3万0025円の部分について差押えをすることは許されないから、これを取り消すこととするのが相当である。

3 上記2で述べたことからすれば、本件預金債権のうち1万6897円の部分(ただし、64万6922円から差押禁止部分の60万及び3万0025円を控除した部分)は、差押禁止債権に当たらないところ、この部分についても、申立人の生活困窮を理由に差押えを取り消すべきかが問題となる。

 この点、上記1(1)ウのとおり、申立人の1か月の家計収支は、支出が収入を3万ないし10万円程度上回る状況であるものの、上記1(4)アのとおり、申立人は、本件差押えを受ける前の1か月以内の間に、生活福祉資金20万円や特別定額給付金40万円等のまとまった資金を得ていることに加え、本決定により、本件貸付金相当額(60万円)についても差押えが取り消される見込みであること等からすれば、上記1万6897円の部分の差押えにより、申立人が現在の一般的な生活水準の生活を維持できなくなるとまでは認められない。
 したがって、本件預金債権のうち1万6897円の部分について、差押えを取り消すべき事由は認められない。

4 以上によれば、本件申立ては、本件差押命令のうち1万6897円を超える部分の取消しを求める部分について理由があるからこの限度で認容し、その余は理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 濱本章子 裁判官 本多健司 大畑勇馬)
以上:7,281文字

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