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他の買受申出人の売却不許可事由での執行抗告否認最高裁判決紹介

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令和 3年 4月29日(木):初稿
○担保不動産競売の手続において、最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し、他の買受申出人は、特段の事情のない限り、民事執行法188条の準用する同法71条4号イの売却不許可事由を主張して執行抗告をすることはできないとされた令和2年9月2日最高裁判決(判タ1480号130頁、判時2470号43頁)全文を紹介します。

○事案は、次の通りです。
・甲所有不動産について債権者乙が競売申立し、競売開始決定
・甲所有不動産は、Aが賃借中で、AはXに競落し、Aに売却するよう依頼し、競落によるAへの所有権移転登記を停止条件とする売買契約締結
・Aは、Xから2億5000万円で入札予定との開示される
・AはXに無断で2億5503万円で入札し最高価申出人として売却決定を得る
・XはAが売却の適正な実施を妨げる行為をしたとした者に該当するとして執行抗告(民執法71条四号イ、65条1項)
・原審名古屋高裁金沢支部はXの執行抗告を適法と扱い、しかし理由がないとして棄却
・Xが許可抗告申立


○最高裁は、担保不動産競売の手続において,最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し,他の買受申出人は,特段の事情のない限り,民事執行法71条4号イに掲げる売却不許可事由を主張して執行抗告をすることはできないとしてXの執行抗告は不適法として、棄却ではなく、却下としました。

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主   文
原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を却下する。
抗告手続の総費用は抗告人の負担とする。 
 
理   由
1 本件は,担保不動産競売の手続における期間入札において最高価買受申出人に次いで高額の買受けの申出をした抗告人が,民事執行法71条4号イ(同法188条において準用するもの。以下同じ。)に掲げる売却不許可事由を主張して,上記最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対して執行抗告をし,抗告棄却決定に対して更に抗告をした事件である。抗告人は,上記最高価買受申出人が,上記担保不動産競売の目的物件の競落を抗告人に依頼し,抗告人から上記期間入札における入札予定額の範囲の開示を受けていたところ,抗告人にあらかじめ告知することなく上記範囲を上回る額で入札をしたものであって,上記最高価買受申出人は上記手続において売却の適正な実施を妨げる行為をした者に該当すると主張している。
 原審は,上記執行抗告を適法なものと扱い,上記執行抗告には理由がないとしてこれを棄却した。

2 職権により上記執行抗告の適否について検討する。
 担保不動産競売の手続において,執行裁判所は,最高価買受申出人がその手続において他の者の買受けの申出を妨げ,若しくは不当に価額を引き下げる目的をもって連合する等売却の適正な実施を妨げる行為をし,又はその行為をさせた者に該当すると認める場合には,上記最高価買受申出人に対する売却を不許可としなければならないものとされている(民事執行法71条4号イ,65条1号)。

これは,担保不動産競売の手続における売却の適正な実施を確保する趣旨によるものと解されるところ,上記趣旨等に照らせば,上記の場合に,執行裁判所は,売却不許可決定をした上で,原則として,改めて売却実施処分から上記手続をやり直すべきであって,他の買受申出人は,上記最高価買受申出人に次いで高額の買受けの申出をしていたとしても,上記売却不許可決定がされることにより売却許可決定を受けることになるものではない。

そうすると,担保不動産競売の手続において,売却許可決定に対する執行抗告は,その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限りすることができるところ(同法188条において準用する同法74条1項),同法71条4号イに掲げる売却不許可事由があるにもかかわらず最高価買受申出人に対する売却許可決定がされ,これが確定したとしても,他の買受申出人は,原則として再度の売却手続において買受けの申出をする機会を得られないこととなるにすぎず,そのことをもって,上記売却許可決定により自己の権利が害されるものとはいえない。

 したがって,担保不動産競売の手続において,最高価買受申出人が受けた売却許可決定に対し,他の買受申出人は,特段の事情のない限り,民事執行法71条4号イに掲げる売却不許可事由を主張して執行抗告をすることはできないと解するのが相当である。
 本件において,抗告人は,最高価買受申出人から同人が入札することにつきあらかじめ告知を受けていれば自らが最高の価額で入札をした可能性がある旨を主張するものにすぎず,上記特段の事情が認められないことは明らかであるから,原々決定に対する抗告は不適法である。


3 以上によれば,原決定には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,原々決定に対する抗告を却下すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 三浦守 裁判官 草野耕一 裁判官 岡村和美) 
以上:2,099文字

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