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信用保証協会対連帯保証人請求を権利濫用として棄却した地裁判決紹介

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令和 2年 3月23日(月):初稿
○信用保証協会が求償債権を取得後10年余を経て連帯保証人に対して提起した求償金請求が主債務者の破産手続の終結から5年以内にされたものであっても権利の濫用として許されないとされた平成9年11月25日和歌山地裁田辺支部判決(判時1656号129頁、判タ980号171頁)を紹介します。長文であり、別コンテンツで内容説明します。

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主   文
一 被告Y1は、原告に対し、金1億0176万6162円及び内金5528万7912円に対する平成2年11月30日から支払済みに至るまで年14・60パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告の被告Y2に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告Y1との間においては、原告に生じた費用の2分の1を被告Y1の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y2との間においては、全部原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 原告の請求

 被告らは、原告に対し、各自金1億0176万6162円及び内金5528万7912円に対する平成2年11月30日から支払済みに至るまで年14・60パーセントの割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
一 本件は、原告が金融機関(訴外新宮信用金庫、訴外株式会社第三相互銀行(現株式会社第三銀行))から保証委託を受け、これら金融機関の訴外A工業株式会社(以下「A」)に対する三件の貸金債務(以下「本件貸金債務」)につき保証をし、その後これら債務の不履行により金融機関に代位弁済(一件につき昭和60年7月25日、その余につき同年9月26日)したことにより、Aは原告に対し求償債務(以下「本件求償債務」)を負担することになったが、被告らが、本件求償債務につきAのために連帯保証をしていたことから、原告が被告らに連帯保証債務(以下「本件連帯保証債務」)の支払を求めた事案である(原告の請求原因については、別紙のとおりであり、その認否については、被告Y2が、請求原因1及び3を、被告Y1が請求原因1、3及び5を認め、その余はいずれも不知。)。

二 (被告らの消滅時効の主張)
1 原告がAから本件求償債務につき最後に弁済を受けたのは、原告の別紙計算書によれば、平成2年11月29日であるから、この日から商事債権の5年の短期消滅時効期間が既に経過しており、被告らは、この消滅時効を援用する。

2 仮に、後記のように主債務者のAにつき、破産手続の存在により本件求償債務の時効中断が認められたとしても、Aの破産手続の中で権利行使があったのは、あくまでも原債権たる本件貸金債務についてであって、本件求償債務自体に対する権利行使はなかったのである。最高裁平成7年3月23日第一小法廷判決は、求償権の行使が一度もないのに拘わらず、求償債務に対する消滅時効の中断を認めたが、これは、原債権の破産手続における代位弁済による原債権の承継届が、法的に求償権に対する行使の意思表示として評価できるという理由による。

そして、被告らは、原債権たる本件貸金債務自体については連帯保証をしていなかったものである。したがって、右判例の解釈から、右中断の扱いは例外的に意思表示の存続する間だけ時効を中断する趣旨と解すべきで、配当によって権利行使の終了している本件では(右最高裁判例は、配当のなかった場合のもの)、最後の配当のなされた平成2年11月27日から再び時効が進行を始め、平成7年11月27日をもって本件求償債務は時効により消滅した。

(原告の消滅時効に対する主張)
 本件では、主債務者のAが昭和59年8月31日和歌山地方裁判所新宮支部において破産宣告を受け、本件貸金債務については、各金融機関が債権届を出して債権調査期日において確定していたところ、原告は本件貸金債務の代位弁済後配当通知のあった平成2年9月3日までに、破産裁判所に対し求償権者として、原債権たる本件貸金債務につき各金融機関の地位を承継した旨の届出名義の変更を行った。

原告は、平成2年9月26日と同年11月27日配当を受け、これを本件求償債務に充当し、右破産手続は平成3年2月12日終結したものである。本件訴訟は、右終結の日から5年以内である平成8年2月5日に提起されたものであるから、本件求償債権の消滅時効は完成しておらず、本件連帯保証債務も消滅していない。前記最高裁判例は、破産手続参加による時効の中断効を破産手続終結の時までとしたもので、最後配当時までとしたものではない。

三 (被告Y2の権利濫用の主張)
1 仮に消滅時効がAの破産手続の終結まで中断していたとしても、原告が最後に代位弁済をした昭和60年9月26日から10年以上して、Aの破産手続に関与していない被告Y2に対し、突然元利金を含め1億2000万円以上になる本件連帯保証債務の履行を求めることは、権利濫用に当たり許されない。

2 即ち、Aの代表者は訴外B(以下「訴外B」)であったが、同人が代表者であった有限会社東商店(以下「東商店」)も、Aと同じ日に破産宣告を受けた。原告は、この東商店についても信用保証をなし、被告Y2がその求償債務につき連帯保証人となっていたが、原告は、東商店に対する求償債務については、連帯保証人である被告Y2に対し131万9066円の請求をなし、被告Y2は毎月5000円ずつ支払を続けてきたが、本件求償債務に対しては請求を受けず、被告Y2は、最早本件求償債務については免責されたものと考えて生活してきた。

商法が5年の短期消滅時効を決めているのは、取引社会の中にあって5年で金銭貸借関係の清算を済ませるのが妥当とされる期間だと考えたからである。しかるに、原告は、連帯保証人である被告Y2に対し、いつでも請求できる状態にありながら、10年以上にわたり放置しておき、この間に被告Y2は、このような多額の保証債務がないという外観を保って取引社会の中で活動してきたもので、第三者も被告Y2のこの外観を信頼して取引をしてきたものである。

したがって、このように原告が代位弁済後10年以上の長期にわたり、被告Y2に対し法的手段を取らず放置しておきながら、現在に至って本件連帯保証債務の請求の訴を起こすことは、取引社会に混乱をもたらすのみでなく、被告Y2を人生の晩年において破産に追い込むものであり、権利濫用として許されない。

(原告の権利濫用に対する主張)
 被告Y2は、本訴提起まで本件連帯保証債務の請求を受けたことがないというが、最近でも平成4年5月1日に督促状送付、平成7年11月6日に残高の通知というように何度も通知をしている。

第三 当裁判所の判断
一 原告主張の請求の原因は、別紙のとおりであるところ、請求原因の一及び三については、当事者間に争いがなく、その余の請求原因については、甲一ないし16及び証人水田順造、被告Y2本人並びに弁論の全趣旨により、これを認めることができ(なお、請求原因五については、原告と被告Y1との間において争いなし)、結局、本件訴訟の争点は、両被告の関係では、本件連帯保証債務について消滅時効が完成したか否かであり、更に、被告Y2との関係では、原告の本訴請求が権利濫用に当たるかの二点である。

二 消滅時効の完成について
1 甲17、18、21、24、被告Y2本人並びに弁論の全趣旨によれば、主債務者のAは、昭和59年8月31日和歌山地方裁判所新宮支部において破産宣告を受けたこと、本件貸金債務については、各金融機関が右破産手続において債権届を出して債権調査期日において確定していたところ、原告は本件貸金債務の代位弁済後、配当通知のあった平成2年9月3日までに、破産裁判所に対し求償権者として、原債権たる本件貸金債務につき各金融機関の地位を承継した旨の届出名義の変更を行ったこと、原告は、平成2年9月26日と同年11月27日配当を受け、これを本件求償債務に充当し、右破産手続は平成3年2月12日終結したものであること、本件訴訟は、右終結の日から5年以内である平成8年2月5日に提起されたこと、以上の事実が認められる。

2 そして、最高裁平成7年3月23日第一小法廷判決は、債権者が主たる債務者の破産手続において債権全額の届出をし、債権調査の期日が終了した後、保証人が、債権者に債権全額を弁済した上、破産裁判所に債権の届出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときには、右弁済によって保証人が破産者に対して取得する求償権の消滅時効は、右求償権の全部について、右届出名義の変更のときから破産手続の終了に至るまで中断すると解するのが相当である。と判示して、求償権の消滅時効が破産手続の終結までであると明確に述べているから、消滅時効の中断は、最後配当の日までであるとする、被告らの主張は独自の見解というしかない。

3 そして、主債務者の本件求償債務につき、時効が中断したと認められる以上、破産手続における債権の届出名義の変更については、原債権たる本件貸金債務を行使したものに過ぎず、本件求償権自体の行使がなされたものではないとしても、主債務者につき中断が生じたとされるため、民法457条一項により中断は連帯保証人にも及ぶものと解されるから、被告らとの関係でも、消滅時効は破産終結の日の翌日から進行を始めるものと解せざるを得ず、したがって、本件連帯保証債務については消滅時効は完成していない。

三 権利濫用について
1 ところで、前記最高裁判決では、主債務者につき破産手続が開始した場合には、主債務者に対し求償権を行使しようとしても、破産手続が終結しない限り、法的手段を取ることはできないが、求償債務の連帯保証人については主債務者の破産手続中でも、連帯保証人自身破産申立をし破産手続中でない限り、これを相手に法的手段を取ることが可能であり、主債務者の破産手続の終結を待つ必要はないことはいうまでもない。

2 そして、連帯保証人としては、主債務者の破産手続が開始後、早い時期に求償債務につき連帯保証による請求を受ければ、自らも破産申立をして債務を整理清算し、免責を受けるなど早期に再出発をするチャンスを得ることもできるが、主債務者の破産手続の進行が長期に及び、何年も放置された後に連帯保証人として法的請求を受けたような場合には、その間の営業継続により形成された取引先などに突然の迷惑を及ぼすことから、自ら簡単に破産の申立をすることもできず、また、破産申立をしたとしても、従前における早期申立に比べ、取引先に対し、より以上の迷惑を及ぼすことになるから、再出発のための協力も得にくくなって、連帯保証人の更生を妨げる可能性も高いものと考えられる。

3 更に、前記最高裁判例は、破産裁判所に対してなされた原債権の届出名義の変更の申出は、求償権の満足を得ようとしてする届出債権の行使であって、求償権について、時効中断効の肯認の基礎とされる権利の行使があったものと評価されるということを、理由として求償権についての時効の中断を認めているが、しかしながら、行使されたのはあくまでも代位にかかる原債権であって求償権ではなく、全くの第三者の連帯保証人の場合、主債務者を破産者とする破産手続については、その進行の状況を当然に知りうるものでもないから、このような求償権の行使の意思を知りうるものでないこと、したがって、第三者の連帯保証人に対する関係で、求償債務につき時効の中断が生ずるのは、民法457条一項で主たる債務者につき時効中断が生じた結果、連帯保証人にも中断が生じたに過ぎない。

4 そして、主債務者は、法人の場合には自らの破産手続で清算を終え、また、個人の場合には、免責手続で一定の要件で債務につき責を免れるものであり、その結果主たる債務者の求償債務については、消滅するか自然債務になる一方、連帯保証人についてのみ、求償債務の責任が残る結果になるのである。してみると、破綻の原因を作った主債務者には、免責などにより更生の機会を与えられながら、連帯保証人は、なお何時までも求償債務につき法的責任を負い、債権額によっては、何時でも破産の危険を負担しなければならないという不合理なことも発生するのである。

このように考えると、主債務者の財務内容につき十分な情報があり、主債務者の破産申立と同時に自らも破産申立をすることが可能で、その後においても、主債務者の破産手続の進行状況、届出債権額、資産評価や配当見込などを知りうる、主債務者の代表者や親族の連帯保証人については格別、それ以外の第三者の連帯保証人については、早期に求償債務につき請求をなし、自らも破産申立をなすか、資産の処分などにより清算をするか、長期分割弁済をなすかなど、連帯保証人の求償債務処理について可能な限りで方向付けをしたうえで、連帯保証人自身の営業の存続の可否を判断させ、債務の回収を図ることが、連帯保証人を中心として形成される取引の信用の維持のために不可欠であり、近時、消費者破産において、破産者の生活の更生のため免責制度が利用されていることにも鑑みると、主債務者が経済的に破綻したことが明らかになった破産宣告や代位弁済から、5年以上も経過しながら、何らの具体的法的手段を取らず放置しておくことは、職務の怠慢というしかない。

したがって、破産終結から5年以内に求償債務につき訴訟が提起されたとしても、破産手続の進行が遅れて当該代位弁済により求償権を取得した時から、著しい長期間が経過したり、その債権額が著しく高額で、連帯保証人自らも破産の申立に至ることが必然である一方、主債務者の破産申立後に第三者との取引が生じ,その第三者に不測の損害を与えるおそれがあり、更に右連帯保証人を破産に追い込むことが苛酷なものと認められる場合には、求償債務の連帯保証人に対する請求が権利濫用として許されない場合がある、と解すべきである。

5 ところで、証人水田順造、被告Y2本人、並びに甲32、乙1ないし3によれば、A、東商店、訴外Bは昭和59年の同時期にいずれも破産宣告を受けたものであること(同年(フ)第12ないし14号)、被告Y2は、訴外Bの友人で、Aの監査役に就任していたこと、このため被告Y2は、それぞれの破産宣告時で、元金だけでAにつき1億2537万9000円、東商店につき1億0651万9066円、訴外Bにつき1072万円の連帯保証をしていたこと、原告は、金融機関のA及び東商店に対する貸金債務につき、信用保証委託を受け保証をしていたこと、その内、代位弁済により取得した東商店の131万9066円の債務については、その破産後直ぐ回収にかかる、右求償権の連帯保証人であった被告から毎月5000円の割合で返済を受けていた事実があること、一方、Aの本件求償債務については、平成2年6月20日串本の担保物件の処分で520万0009円を受領、同年9月28日破産の配当58万6057円受領、11月29日破産の追加配当9万5749円を受領したものの、連帯保証人である被告Y2に対して、本件求償債務の支払を請求して、直接支払を受けたことはないこと、Aの破産手続は、平成3年2月12日に、保証人東義和の破産手続は、同年3月27日にそれぞれ破産終結しており、原告の使用していたAの管理処理表の平成3年6月28日付け欄には、残債権につき5528万7912円との記載がなされていること、そして、平成6年11月1日と平成7年11月6日には、原告から本件求償債務関係の債務者に残高通知書が送付された記載があるが、宛先から法人と東義和は除くとされていることから、訴外Bは破産手続の免責を受けたものと推測されること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

6 そうすると、Aにつき破産終結後の平成3年6月28日には、本件求償債権額がほぼ確定したものと把握していたものと考えられるうえ、そもそも連帯保証人の被告Y2については、代位弁済後においては何時にても法的手段を取り得たもので、昭和60年7月25日と同年9月26日に代位弁済をしてから、本訴提起の平成8年2月5日まで法的手段を取らず、いつでも破産に追い込める状態に置いておくことは、被告Y2にとって、甚だしく苛酷な状態であるものと考えることができる。

そして、主債務者たる訴外Bが既に免責を受け、更生への途を辿っている一方、被告Y2はこのような苛酷な状態に置かれたうえ、破産になれば、これから再び第一歩からやり直さなければならないことを考えると、Aに対する破産手続の関係で、被告Y2の本件求償債務に対する連帯保証債務につき時効が成立したと直ちに解されないとしても、なお被告Y2に対する本件求償債務の請求は、権利の濫用として許されないものというべきである。


第四 結論
 そうすると、原告の被告Y2に対する請求は理由がないから棄却し、被告Y1に対する請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、仮執行の宣言につき同法196条1項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 平澤雄二)

別紙 損害金計算書〈省略〉
別紙 請求の原因〈省略〉
以上:7,051文字

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