令和 1年 7月31日(水):初稿 |
○賃貸借契約の借主連帯保証人となって貸主から借主の未払い賃料の請求を受けた人から、貸主は借主に対する賃料請求を怠り、未払い賃料が多額になった段階で連帯保証人に多額の未払い賃料を支払えとまとめて請求するのは許されないのではないかと相談されることが良くあります。原則としては、連帯保証人となった以上は支払義務がありますと答えざるを得ません。しかし、連帯保証人の言い分ももっともだと思うことがあります。 ○この問題について、原告が賃貸していた市営住宅の未払賃料等を上記賃貸借契約の連帯保証人である被告に請求したところ,被告側からの一方的意思表示による連帯保証契約の解除を認め,解除以降の未払賃料等の被告の債務負担を否定し,また,上記以降の支払請求は,権利の濫用として許されないとした平成31年1月30日横浜地裁相模原支部判決(判タ1460号191頁)概要を紹介します。 ○事案概要は以下の通りです。 ・原告は,市営住宅を被告の子であるAに賃貸し,Aの母である被告が連帯保証 ・Aは契約当時から生活保護を受給しており,ほどなく賃料支払を怠るようになって,Aと接触・連絡もとれない状態で契約解除ができる3か月分の滞納が生じたものの,原告は,賃貸借契約を解除せず,連帯保証人である被告に上記滞納額の分割納付を求めた。 ・その後もAは賃料をまったく支払わず,滞納分が累積し,被告は,原告に対し,保証責任の拡大を防止するため,再三,訴外賃借人を退去させて欲しいと伝えたが,原告は応じなかった。 ・賃貸借契約から約14年が経過した時点で,原告は,ようやく建物明渡訴訟を提起し,被告に対し,滞納賃料,違約金,賃料相当損害金の合計約332万円の支払を求めた。 ・これに対し,被告は,Aが賃料支払を継続して滞納し,将来支払う見込みもないにもかかわらず,原告が契約解除明渡しの措置を講じなかったことから滞納分の保証債務が累積したので, ①一定の時期に被告による契約解除の黙示の意思表示がなされ,契約が解除されたことから,以降の保証債務は負担しない ②一定の時期以降に生じた滞納分の請求は,権利の濫用として許されないと主張 ○判決概要は以下の通りです。 Aが賃料の支払を怠り,将来も支払う見込みがないことが明らかで,Aともまったく接触・連絡もとれず,被告が保証責任の拡大を防止するため再三訴外賃借人を退去させて欲しいとの意向を示していたにもかかわらず,原告は,賃貸借契約の解除及び明渡しの措置を行わず,そのまま使用を継続させ滞納賃料等を累積させていたことから,原告には連帯保証契約上の信義則違反が認められ,保証人からの一方的意思表示による解除が許容されるとし,契約締結から12年以上が経過して被告がAの退去を求めた時点で,黙示的な解除の意思表示がなされたと認定し,以後の保証債務の履行を免れると判断し、また,仮に上記時点での解除の有無にかかわらず,上記時点以降の保証債務の支払を請求することは,権利の濫用として許されないと判断しました。 ○期間の定めのない賃貸借契約において,相当期間が経過し,賃借人が継続して賃料の支払を遅延し,将来においても履行する見込みがない事態が生じたか,賃借人の資産状況が悪化し,保証人の将来の求償権の実現ができないおそれが生じたか,賃貸人が賃料の滞納状況を保証人に告知せず,遅滞の都度,保証債務の履行を求める措置がなく,将来多額の保証債務の履行を求めると保証人に予期せぬ困惑の事態が生じるような場合に,そのまま賃借人に使用収益をなさしめて延滞賃料を異常に増加させ,保証人の責任を加重させ,それでも保証人が責任を免れないとすると,信義則に反するもので,そのような場合は,保証人は,保証契約の信義則違反により,一方的意思表示により保証契約を解除し,以後の責任を免れるとする見解があり、この見解に沿った判決です。 以上:1,586文字
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