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民事執行法第84条債務者について外形上で判断するとした地裁判決紹介

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令和 1年 5月10日(金):初稿
○以下の民事執行法84条2項の「債務者」として競売剰余金を交付されるべき者は、登記簿の記載その他記録に現れた権利関係の外形に依拠して行われるべきものであるとした平成29年9月27日東京地裁判決(判時2396号16頁)の理由文を紹介します。
第84条(売却代金の配当等の実施)
 執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であつて売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。


○事案は以下の通りです。
・亡Bの母で連帯保証人Cの成年後見人が連帯保証債務約9300万円を支払後、Bの相続人Dに約4650万円、相続人E及び原告に各約2325万円の求償金返還訴訟を提起したが、事前に亡B不動産について、代位登記でD2分の1,E・原告各4分の1の共有登記をして仮差押決定
・求償金支払請求は、平成26年10月2日請求通り判決、同年同月8日執行文付与
・Eは、同年10月26日東京家裁に亡Bの相続放棄の申述し受理
・同年12月10日、本件建物について債務者をD、E、原告とする競売開始決定・差押登記
・本件建物は約2億1737万円で競落され、剰余金がD約5783万円、E約2906万円、原告約2907万円との売却代金交付計算書を作成し、供託
・Dと原告は供託金還付手続で上記金員を受領
・原告は国に対し、不当利得を理由にE分供託金約2906万円の返還を求めて提訴

  C(Bの母、Bの連帯保証人で求償金債権者)
  |
 亡B(夫)==D(妻)
 ____|___
 |      |
 E     原告


○これに対し平成29年9月27日東京地裁判決は、本件強制競売事件においては、記録上、本件持分部分が執行債務者である訴外Eの責任財産であるとの権利関係の外形が現れていたことが明らかである一方、そのような外形が本件強制競売手続上是正されたなどの事実は認められないことからすると、本件強制競売手続において、民事執行法84条2項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者は、仮差押えの執行当時、本件持分部分の責任主体として執行当事者とされた訴外Eであると判断した上で、同人を被供託者とする供託を有効と認め、原告の請求を棄却しました。

○相続放棄により競売対象建物所有権者ではないEに対する売却代金交付手続について、民事執行法をシッカリ勉強して、執行抗告や執行異議等民事執行法上の不服申立手続で是正を求めるか、供託金還付請求権が原告にあることを確認する供託金還付請求権確認の訴えを提起するなどを方法を検討すべきでした。

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主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,2905万4988円及びこれに対する平成27年10月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

(1)
①原告の父である亡B(以下「B」という。)の債務を連帯保証したC(以下「C」という。)は,Bの法定相続人であるD(以下「D」という。),E(以下「E」という。)及び原告(上記3名を併せて,以下「Eら3名」という。)に対し,保証債務の履行により取得した求償金の支払請求訴訟を提起して仮執行宣言付きの請求認容の判決を得た上で,同判決を債務名義とし,Eら3名の共有名義であった別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に対する強制競売の申立てをした。

②同申立てにより開始された強制競売手続において,本件建物につき債権及び執行費用の額を上回る価額により売却許可決定がされ,買受人がその代金全額を払い込んだことから剰余金が生じ,執行裁判所は,弁済金及び剰余金の交付の手続(以下「弁済金交付手続」という。)を実施し,上記剰余金相当額については,本件建物の登記名義上の持分の割合に従ってEら3名をそれぞれ被供託者とする供託がされた。

(2) 本件は,原告が,被告(国)に対し,前記(1)②の売却許可決定よりも前にEがBの相続についてした相続放棄の申述が受理され,Bに係る相続によりEら3名の共有名義とされた本件建物は,原告及びDの共有(持分2分の1ずつ)であったことになるから,前記(1)②の剰余金に係る請求権も原告及びDに同様の割合で帰属していたというべきであるなどと主張して,本件建物の売却に係る売買代金支払請求権又は不当利得返還請求権に基づき,Eを被供託者とする供託金相当額2905万4988円及びこれに対する平成27年10月9日(本件競売手続における弁済金の交付の日〔以下「弁済金交付日」という。〕の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金の支払を求める事案である。


         (中略)

第3 争点に対する判断
1 本件強制競売手続において,本件剰余金の交付を受けるべき民事執行法84条2項の債務者

(1) 民事執行法84条2項は,強制競売手続において,競売不動産の売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には,執行裁判所は,売却代金の交付計算書を作成して,債権者に弁済金を交付するとともに,剰余金を「債務者」に交付するものと規定しているところ,ここにいう「債務者」は,当該執行手続における執行債務者又はその一般承継人を指すものというべきである。

(2) また,執行手続は,能率的かつ迅速な権利の実現を図るという目的と性質を有することから,執行機関からは,慎重・公平な権利の判定という判断作用の負担をできる限り取り除き,執行に専念し得るようにすることが要請されているというべきであり,不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は,債権者の主張,登記簿の記載その他記録に現れた権利関係の外形に依拠して行われるものである(最高裁判所昭和52年(オ)第1155号同57年2月23日第三小法廷判決・民集36巻2号154頁参照)。

 このような執行手続の特質に加えて,民事執行法が,権利がないのに執行が行われ,執行の引当てとなるべきでない財産に対して執行がなされる危険を除去する方法として,請求異議の訴え,第三者異議の訴えという救済手段を用意するほか,手続法規違反の問題につき,執行機関の誤った解釈を是正して執行の実施を軌道に乗せる途として,執行抗告や執行異議といった不服申立ての制度を用意していることに照らすと,執行裁判所においては,上記のような権利関係と実体的権利関係との不適合がこれらの救済手続や,不服申立てにより是正されない場合には,上記のような権利関係の外形のみに基づいて執行手続の適法性を判断すべきものと解され,これらの救済手続等に伴う執行停止の手続等が採られない限りは,そのような権利関係の外形に依拠して執行手続を進行させるべきことが要請されているものというべきである。

(3) 以上の点から,本件強制競売手続における民事執行法84条2項の「債務者」を検討するに,①本件求償金請求訴訟に先立って行われた本件仮差押申立事件においては,本件建物につき本件持分部分をE名義とする所有権移転登記がされた上で,Eを債務者とする仮差押えの執行として,本件持分部分に対する仮差押えの登記がされており(前提事実(2)),②本件強制競売手続も,これを前提として,Eら3名を債務者とする執行正本(本件執行文の付された本件判決正本)に従って,本件仮差押申立事件に係る各仮差押えの本執行への移行として,本件建物についての競売開始決定がされたものであって(前提事実(2),(6)),本件強制競売事件においては,記録上,上記①の所有権移転登記等により本件持分部分が執行債務者であるEの責任財産であるとの権利関係の外形が現れていたことが明らかである。一方,そのような外形が本件強制競売手続上是正され,あるいは,そのような救済手続等に伴う執行停止等の手続等が執られた事実は認められない。
 そうすると,本件強制競売手続において,民事執行法84条2項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者は,上記仮差押えの執行当時,本件持分部分の責任主体として執行当事者とされたEであるというべきである。

(4) これに対し,原告は,①Eが民事執行法84条2項の「債務者」に該当するとすることは,実体法上の所有権者でないEを強制競売手続における債務者とするものであって法的安定性を害すること,②本件執行裁判所がEの本件相続放棄の申述を認識した上で本件強制競売手続がされたこと,③買受人は,本件建物の完全な所有権を取得できるものと考えて買受申出を行い,買受代金を支払ったものと思われることからすると,売却対象は,D及び原告が所有する本件建物の完全な所有権であるというべきであり,その対価である本件剰余金についても,原告に受領権限が存するというべきであることからすれば,本件強制競売手続において,民事執行法84条2項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者は原告であるなどと主張する。

 しかしながら,既に述べたとおり,不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は,債権者の主張,登記簿の記載その他記録に現れた権利関係の外形に依拠して行われるべきものである。そして,家庭裁判所による相続放棄の申述の受理審判は,形式的な申述があったことの公証行為にとどまり,相続放棄の効力の有無を終局的に確定させるものではないから,執行裁判所においては,執行債務者による相続放棄の申述が受理されたことを認識したとしても,その外形から同申述に係る相続放棄が有効なものであるとの判断をすることはできないものであって,前記(2)において述べた救済手続においてその有効性が確定されない限り,執行手続上,かかる事実を考慮すべきものということはできない。

 そして,本件においては,D及び原告から,Eによる本件相続放棄の申述が有効であることを前提とする第三者異議の訴えが提起されるなどしたとは認められない上,Eがした相続放棄の申述がBの死亡の約1年9か月後,本件仮差押申立事件の決定送達の約4か月後に受理されていることに照らせば,本件執行裁判所が本件相続放棄の申述の事実を認識していた(前提事実(7))としても,本件執行裁判所が,本件強制競売手続においてEによる相続放棄の効力が生じたことを前提として本件強制競売手続を進行させるべきであったということはできないものであって,民事執行法84条2項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者が原告であるとはいえない。原告の上記主張は,民事執行手続を正解しない主張というほかないものであって,採用することはできない。

2 本件供託の有効性
(1) 弁済金等の交付の手続においては,執行裁判所が弁済金の交付の日を定めた上で(民事執行規則59条1項),裁判所書記官が各債権者及び債務者に対し,その日時及び場所を通知し(同条3項),通知された日時・場所において弁済金及び剰余金の交付をすることが予定されていることからすれば,執行裁判所の債務者に対する剰余金の交付義務は取立債務であると解される。そして,弁済金交付手続においては,上記のとおり弁済金交付日につきその日時及び場所が債務者に通知され,債務者が出頭すれば剰余金の支払を受けることができる状態になっていることからすれば,執行裁判所において剰余金の支払の準備ができており,かつ,同剰余金を受領すべき債務者に弁済金交付の日時等が通知されていることをもって,執行裁判所による剰余金交付義務の口頭の提供(民法493条ただし書)がされているものとみることができる。

 そうすると,剰余金を交付されるべき債務者が上記通知を受けたにもかかわらず弁済金交付日に出頭しなかった場合には,同債務者は,剰余金の口頭の提供があったにもかかわらず受領を拒絶したものと解され,執行裁判所は,剰余金交付義務を免れるため,民法494条前段に基づく弁済供託を行うことができるというべきである。

(2) そして,前記1で説示したとおり,本件強制競売手続において,民事執行法84条2項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者は,Eであるというべきところ,前提事実(9)記載のとおり,本件執行裁判所は,平成27年10月8日の弁済金交付日に先立ち,C等の各債権者のほか,Eら3名に対してその日時及び場所を通知し,弁済金交付日に交付計算書を作成して本件剰余金の支払の準備をしていたにもかかわらず,Eら3名はこれに出頭しなかったのであり,Eら3名は,本件強制競売手続において,それぞれが受領権限を有する剰余金に関して,いずれも口頭の提供を受けたにもかかわらず受領を拒絶したとみることができることから,裁判所書記官が平成27年11月6日に,本件剰余金につきEを被供託者としてした本件供託は,民法494条前段の弁済供託として有効であると認められる。

(3) これに対して,原告は,相続放棄をしたEは本件剰余金を受領する実体法上の権限を有しないのであるから,民法494条前段の「債権者」には該当しない旨主張する。
 しかしながら,前記(2)で説示したとおり,強制競売手続において発生した剰余金は,民事執行法84条2項の「債務者」に交付されるべきものであるところ,本件強制競売手続において,同項の「債務者」として本件剰余金を交付されるべき者はEであるというべきである。原告の上記主張もまた,民事執行手続について誤った前提に立つものというほかないものであって,採用することができない。

3 原告の主張について
(1) 原告は,被告に対する本件剰余金に係る請求権の実体法上の根拠として,売買契約に基づく代金支払請求権又は不当利得返還請求権を主張するが,これまで述べたとおり,その前提とする主張自体採用し難いものである。

(2) そもそも,強制競売手続は,国家の強制執行権の担い手たる執行機関が,その強制執行権を発動して債権者,債務者,買受人等に一定の執行処分を行い,それによって債務名義に表示された請求権を実現していく過程であり,それを構成する執行機関又は各関係人の行為が,それ自体として,国家権力の帰属主体とそれに服する私人との間でされる公法上の行為である。

 そして,これらの総体としての強制競売は,効果の帰属する債務者と買受人との関係においては私法上の売買としての性質を有するものの,執行機関である執行裁判所と各関係人との関係においては公法上の処分であると解されるから,本件執行裁判所(ひいては被告)と債務者である原告との間における剰余金に係る請求権を私法上の売買契約に基づく売買代金請求権と解する余地はなく,同請求権を根拠とする原告の請求は失当である。

(3) また,前記2で説示したとおり,本件執行裁判所は,民事執行法上の剰余金交付義務を前提として,本件剰余金に相当する額について,適法に弁済供託たる本件供託を行っているから,本件執行裁判所は,本件供託金ないしその相当額につき,何ら実体法上の利益を得ていないものといえ,被告に利得は存在しない。
 よって,不当利得のその余の要件を検討するまでもなく,原告の不当利得を根拠とする主張は失当である。

(4) なお,仮にEの相続放棄が有効であるとした場合,実体法上は,Eは本件相続に関して初めから相続人とはならなかったものとみなされる(民法939条)から,Eが得た本件剰余金は原告との関係で不当利得となり得るところであり,本件供託に係る供託金還付請求権の帰属が両者間で問題となる余地はある。しかしながら,そのような問題は,原告とEとの間で確定されるべきものであって,本件の結論を何ら左右するものではない。

第4 結論
 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第28部 (裁判長裁判官 田中一彦 裁判官 小崎賢司 裁判官 大門真一朗)
以上:6,660文字

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