平成30年11月 8日(木):初稿 |
○「注!ファクタリングと称する違法貸付-ファクタリング=貸付認定判例紹介」の続きで、ファクタリング取引が実質金銭消費貸借で利息制限法が適用されるかどうかが争われた事件で利息制限法は適用されないとした平成28年12月19日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。 ○事案は、一般貨物自動車運送事業等を業とする株式会社である原告が、同社と被告A社又は被告B社との間で「売掛債権売買契約証書(ファクタリング契約)」と題する契約書等に基づいてされた本件各取引は金銭消費貸借であって、利息制限法が適用され、原告が被告らに対して支払った各弁済金のうち同法1条所定の制限を超えて利息として支払われた制限超過部分による過払金が発生しており、又は、本件各取引が債権の売買であるとすれば、公序良俗若しくは譲渡禁止の特約に反して無効であるなどと主張して、被告らに対し、不当利得の返還及び民法704条前段所定の利息の支払を求めたものです。 ○これに対し平成28年12月19日東京地裁判決は、各ファクタリング取引ははいずれも債権の売買たる実質を有し,別表の「代金額(円)」欄記載の各金員の交付はいずれも代金の授受に当たるものと認められるから金銭消費貸借契約ではないので利息制限法が適用されないとし、公序良俗違反との主張についても売掛債権の各代金額は,各債権額の82%ないし約92%に相当し暴利行為とは言えず公序良俗違反には該当しないとしました。 ********************************************* 主 文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社Aは,原告に対し,132万9863円及びうち132万9378円に対する平成27年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社Bは,原告に対し,21万9368円及びこれに対する平成26年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告が,被告らに対し,それぞれ,「売掛債権売買契約証書(ファクタリング契約)」と題する契約書等に基づいてされた各取引について, ①金銭消費貸借であって,利息制限法が適用され,各弁済金のうち同法1条所定の制限を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)による過払金が発生しており,又は, ②債権の売買であるとすれば,公序良俗若しくは譲渡禁止の特約に反して無効であるなどとして, 不当利得金の返還及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払を求める事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,一般貨物自動車運送事業等を業とする株式会社である。 (2) 原告は,被告株式会社A(以下「被告A」という。)との間で,別表の「契約日」欄記載の各年月日に「売掛債権売買契約証書(ファクタリング契約)」と題する各契約書及び「集金委託基本契約証書」と題する各契約書を取り交わした。 上記「売掛債権売買契約証書(ファクタリング契約)」と題する各契約書には,原告と被告Aとの間で,原告がヤマト運輸株式会社(以下「ヤマト運輸」という。)又は日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)に対して有する売掛債権を売買する旨の定めや,同被告が売掛債権の回収不能の危険を負担する旨の定めがあり,売買の目的とされる売掛債権の支払期日,債権額及び代金額として,それぞれ,別表の「支払期日」欄記載の各年月日,「債権額(円)」欄記載の各金員及び「代金額(円)」欄記載の各金員の記載がある。 上記「集金委託基本契約証書」と題する各契約書には,被告Aが,原告に対し,売買の目的とされる売掛債権の集金業務を無償で委託し,原告が,同被告に対し,売掛債権の集金をしたときはその金員を支払う旨の定めがある。 原告は,上記各契約書を取り交わすに際し,ヤマト運輸又は日本通運に対する各債権譲渡通知書を作成し,これらを被告Aに交付したが,これらがヤマト運輸又は日本通運に送付されることはなく,債権譲渡登記もされなかった。 (3) 被告Aは,上記(2)の各契約書に基づく取引として,原告に対し,別表の「契約日」欄記載の各年月日に「代金額(円)」欄記載の各金員を交付し,原告から,「支払期日」欄記載の各年月日に「債権額(円)」欄記載の各金員を受領した(以下,この取引を「本件取引1」という。)。 (4) 被告株式会社B(以下「被告B」という。)は,原告との間で,平成26年10月31日,「ファクタリング(売掛債権売買)契約書」と題する契約書を取り交わした。 上記契約書には,原告と被告Bとの間で,原告が日本通運及び有限会社シバタ・サービス(以下「シバタ・サービス」という。)に対して有する売掛債権を売買する旨の定めがあり,売買の目的とされる売掛債権の支払期日として同年11月28日又は同月30日,債権額として合計436万6440円,代金額として合計416万6440円との記載があるほか,同被告が代金のうち80万円を契約時に支払い,その余を売掛債権の回収後に支払う旨の定めがある。 また,上記契約書には,被告Bが,原告に対し,売買の目的とされる売掛債権の代理受領業務を無償で委託し,原告が,同被告に対し,売掛債権の代理受領をしたときはその金員を支払う旨の定めがある。 原告は,上記契約書を取り交わすに際し,日本通運及びシバタ・サービスに対する各債権譲渡通知書を作成し,これらを被告Bに交付したが,これらが日本通運及びシバタ・サービスに送付されることはなく,債権譲渡登記もされなかった。 (5) 被告Bは,上記(4)の契約書に基づく取引として,原告に対し,平成26年10月31日に77万円を交付し,原告から,同年11月28日に100万円を受領した(以下,この取引を「本件取引2」という。)。 2 争点 (中略) 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(平成27年2月10日及び同月27日の取引)について 原告代表者は,陳述書及び本人尋問において,被告Aが,原告に対し,平成27年2月10日に108万4000円を交付し,原告から,同月27日に112万1000円を受領した旨供述するが,原告が同日に預金口座から112万円の払戻しを受けたこと(甲30)以外に,その裏付けとなる証拠はないから,直ちには採用することができない。 したがって,上記取引がされたと認めることはできない。 2 争点(2)(本件取引1等についての利息制限法の適用等)について 前記第2の1の事実関係に加え,証拠(甲6,14の1,15の1,16の1,17の1,18の1,19の1,20の1,21の1,22の1,23の1,乙ロ3,原告代表者本人,被告A代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば, ①原告が被告Aとの間で別表の「契約日」欄記載の各年月日に取り交わした「売掛債権売買契約証書(ファクタリング契約)」と題する各契約書には,原告と被告Aとの間で,原告がヤマト運輸又は日本通運に対して有する売掛債権を売買する旨の定めや,同被告が売掛債権の回収不能の危険を負担する旨の定めがあり,売買の目的とされる売掛債権の支払期日,債権額及び代金額として,それぞれ,別表の「支払期日」欄記載の各年月日,「債権額(円)」欄記載の各金員及び「代金額(円)」欄記載の各金員の記載があること, ②同被告が,上記各契約書及び「集金委託基本契約証書」と題する各契約書に基づく取引として,原告に対し,別表の「契約日」欄記載の各年月日に「代金額(円)」欄記載の各金員を交付し,原告から,「支払期日」欄記載の各年月日に「債権額(円)」欄記載の各金員を受領したこと, ③原告がヤマト運輸又は日本通運から別表の「支払期日」欄記載の各年月日までに売掛債権についての各支払を受けたこと, ④別表の「代金額(円)」欄記載の各金員は,「債権額(円)」欄記載の各金員の82%ないし約92%に相当するものであるが,その各割合の大小は,「契約日」欄記載の各年月日から「支払期日」欄記載の各年月日までの各期間の長短と必ずしも対応しているわけではないこと, ⑤同被告が,上記各契約書を取り交わすに際し,少なくとも,原告の説明及び原告のヤマト運輸又は日本通運に対する請求書により売掛債権の存在,内容等の確認をするとともに,登記簿やインターネット上のウェブサイト等の記載内容により債務者であるヤマト運輸又は日本通運の与信調査をしたこと, ⑥原告が,上記各契約書を取り交わすに際し,ヤマト運輸又は日本通運に対する各債権譲渡通知書を作成し,これらを同被告に交付したこと が認められる。 そして,上記各契約書からは,原告と被告Aとの間で,売買の目的とされる売掛債権の回収不能の危険を原告が負担する旨の合意がされたとは認められないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 また,被告Aが,上記各契約書を取り交わすに際し,原告の与信調査をしたこともうかがわれない。 以上によれば,原告が資金繰りに窮し,被告Aに対する金員の交付と同日に同被告から金員を受領することを繰り返していたなどの事情があったとしても,本件取引1はいずれも債権の売買たる実質を有し,別表の「代金額(円)」欄記載の各金員の交付はいずれも代金の授受に当たるものと認められるから,本件取引1について利息制限法が適用されるものということはできない。 3 争点(3)(本件取引1等の公序良俗違反)について 前記第2の1の事実関係によれば,本件取引1において,売買の目的とされる売掛債権の各代金額は,各債権額の82%ないし約92%に相当するものである。 しかし,本件取引1が債権の売買であることに鑑みれば,以上のほかに,契約日から債権の支払期日までの期間が短く,債権の回収可能性が高いものであり,また,原告が資金繰りに窮し,これを被告Aが認識していたとの事情があったとしても,直ちに,本件取引1が暴利行為として公序良俗に反するものとまではいえず,他にこれを左右する事情も認められない。 4 争点(5)(本件取引2についての利息制限法の適用等)について 前記第2の1の事実関係に加え,証拠(甲8,33,乙ハ2,5,原告代表者本人,証人D)及び弁論の全趣旨によれば, ①原告が被告Bとの間で平成26年10月31日に取り交わした「ファクタリング(売掛債権売買)契約書」と題する契約書には,原告と被告Bとの間で,原告が日本通運及びシバタ・サービスに対して有する売掛債権を売買する旨の定めがあり,売買の目的とされる売掛債権の支払期日として同年11月28日又は同月30日,債権額として合計436万6440円,代金額として合計416万6440円との記載があるほか,同被告が代金のうち80万円を契約時に支払い,その余を売掛債権の回収後に支払う旨の定めがあること, ②同被告が,上記契約書に基づく取引として,原告に対し,同年10月31日に上記80万円から事務手数料3万円を控除した残額として77万円を交付し,原告から,同年11月28日に上記80万円に上記436万6440円と上記416万6440円との差額である20万円を加えた合計額として100万円を受領したこと, ③原告が日本通運及びシバタ・サービスから同日までに売掛債権についての各支払を受けたこと, ④同被告が,上記契約書を取り交わすに際し,少なくとも,原告の説明,原告の日本通運及びシバタ・サービスに対する請求書並びに原告の預金通帳により売掛債権の存在,内容,日本通運及びシバタ・サービスからの従前の支払状況等の確認をしたこと, ⑤原告が,上記契約書を取り交わすに際し,日本通運及びシバタ・サービスに対する各債権譲渡通知書を作成し,これらを同被告に交付したこと, ⑥債権譲渡通知をしないことについては,そのような対応も可能であることを原告が同被告に確認した上で原告から希望したこと が認められる。 そして,上記契約書からは,原告と被告Bとの間で,売買の目的とされる売掛債権の回収不能の危険を原告が負担する旨の合意がされたとは認められないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 また,被告Bが,上記契約書を取り交わすに際し,原告の与信調査をしたこともうかがわれない。 以上によれば,原告が資金繰りに窮していたなどの事情があったとしても,本件取引2は債権の売買たる実質を有し,上記77万円の交付は代金の授受に当たるものと認められるから,本件取引2について利息制限法が適用されるものということはできない。 5 争点(6)(本件取引2の公序良俗違反)について 前記第2の1の事実関係によれば,本件取引2において,「ファクタリング(売掛債権売買)契約書」と題する契約書に記載の売買の目的とされる売掛債権の代金額である416万6440円は,債権額である436万6440円の約95%に相当するものであり,被告Bが原告に代金として支払った77万円は,同被告が原告から受領した100万円の77%に相当するものである。 しかし,本件取引2が債権の売買であることに鑑みれば,以上のほかに,契約日から債権の支払期日までの期間が短く,債権の回収可能性が高いものであり,また,原告が資金繰りに窮し,これを被告Bが認識していたとの事情があったとしても,直ちに,本件取引2が暴利行為として公序良俗に反するものとまではいえず,他にこれを左右する事情も認められない。 6 争点(4)(本件取引1等の譲渡禁止特約違反)及び争点(7)(本件取引2の譲渡禁止特約違反)について 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である(最高裁平成19年(受)第1280号同21年3月27日第二小法廷判決・民集63巻3号449頁参照)。 これを本件についてみると,本件取引1及び2において,売買の目的とされる売掛債権に譲渡禁止の特約があったとしても,原告は,自ら同特約に反して債権を譲渡した債権者であるから,原告には同特約の存在を理由とする本件取引1及び2の無効を主張する独自の利益はなく,また,上記特段の事情の存在もうかがわれないから,原告が上記無効を主張することは許されないものというべきである。 7 結論 よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第16部 (裁判官 安江一平) 〈以下省略〉 以上:6,028文字
|