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土地賃借人が賃借権対抗要件具備の主張・立証責任を負うとした判例紹介

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平成30年 6月19日(火):初稿
○「土地買受人の対抗要件を欠く従前土地賃借人への明渡請求について」の続きで、土地賃借人(土地占有者)は、その主張する賃借権につき、対抗要件を具備していることの主張・立証責任を負うとした昭和49年5月13日仙台高裁判決(判タ313号268頁)を紹介します。

○事案は、以下の通りです。
・A所有の本件土地を競落してその所有権を取得したAがその旨の登記を経由し、これより先にたAからその土地を賃借していたYに明渡の訴え提起
・YはXの所有権取得よりさきにAからその土地を賃借し、その引渡しを受けたことを理由に賃借権を主張
・原判決は、Yの賃借権が本件土地の所有権を取得したXに対抗しうるものであること(YのためXの土地所有権取得登記に先んずる賃借権の登記があること)について何らの主張立証がないとしてYの主張を排斥
・Yは登記の主張立証責任は、物権変動を生じたことを主張するYになく、相手方Xにおいて登記のないことを主張立証すべきであるから、原判決の判例は、主張立証責任に関する法律解釈を誤つた違法があるとして上告


○仙台高裁判決は「賃借権取得の対抗要件の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者であることを主張立証したとき」は、占有者Yはさらに右対抗要件の存在を主張立証する責任を有すると判示し、原判決にはYの主張するような主張立証責任の分配を誤つた違法はないとしました。ごく当然の判決と思われますが、賃借権の対抗要件に関する主張立証責任を論じた、昭和49年当時としては、注目すべき新判例とのことです。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○○の上告理由第一点について《省略》

同第二点について
 前所有者から土地の譲渡を受けてその所有権を取得した者(現所有者)が右土地をそれ以前から占有する者に対してその所有権に基づいて明渡を求めた場合において、右占者者が抗弁として賃借権の存在を主張しようとするときは、一応前所有者との間に賃貸借契約の存在することを主張立証すれば足りるのであるが、現所有者が賃借権取得の対抗要件の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者であることを主張立証したときは、占有者はさらに右対抗要件の存在を主張立証する責任を有するものと解すべきである。

 これを本件についてみるに、原判文によると、被上告人は、本件土地はもと訴外Aの所有であつたが昭和46年10月29日競落によりその所有権を取得し、同年11月24日その旨の登記を経由した(このことは当事者間に争いがない。)ところ、上告人は被上告人の承諾なく本件土地を使用収益しているとして上告人に対し本件地上物件の収去と本件土地の明渡を求め、上告人の主張する前所有者との間の土地賃借権を争つていることがうかがわれる。

 右主張の全趣旨からみると、被上告人は、本訴において右賃借権につき対抗要件の欠缺を主張する利益を有する第三者であることを暗黙裡に主張立証しているものとみることができるから、上告人は、その主張する賃借権につき対抗要件を具備していることの主張立証責任を負うこととなつたものというべきである。原判決には、所論のような主張立証責任の分配を誤つた違法はない、論旨は理由がない。

同第三点について《以下、省略》
(佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)

〈参考〉 上告理由
第二点 原判決は上告人の土地賃借権の主張について、その登記についての主張立証がないことを理由にこれを排斥したが、これは主張立証責任分配の原則を誤つたものであり、違法である。
 すなわち上告人は、本件土地につき昭和42年10月ころ前所有者Aの代理人Bとの間で賃貸借契約を締結して、その引渡しを受けたことを理由に賃借権の主張をしたところ、原判決は、その賃借権が本件土地の所有権を取得した被上告人に対抗しうるものであること(上告人のため、被上告人の本件土地所有権取得登記に先んずる賃借権の登記があること)については何ら主張立証がないから、上告人がAから本件土地の賃借権を取得したか否かの点を判断するまでもなく、賃借権の主張は理由がないと判示した。

 しかし、賃借権の登記は第三者に対する対抗力を付与するものであるが、その点については一般の不動産物権に関する登記と異なるところはないものというべく、さすれば登記の主張立証責任は、物権変動を生じたことを主張する者になく、かえて相手方において登記のないことを主張立証しなければならないとすると同様に解すべきである。したがつて本件の場合においても、もし登記について主張立証がなければ、その不利益は被上告人が負うべき筋合いのものであり、原判決がこれと異なる判断をして上告人の主張自体を退けたのは、主張立証責任に関する法律の解釈を誤つた違法があるといわざるをえない。
以上:2,017文字

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