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土地買受人の対抗要件を欠く従前土地賃借人への明渡請求について

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平成28年10月28日(金):初稿
○A所有甲土地をBが資材置き場として賃借中、その事実を知っているCが、Aからその土地を買い受けて、Bに不法占拠を理由に明渡請求ができるかとの質問を受けました。Bは、資材置き場としての土地賃借権について登記していません。

○A・B間の賃貸借契約で、賃借人Bが、甲土地について賃借権を主張できるのは原則として賃貸人Aに限られます。Aが甲土地をCに譲渡した場合、A・C間に賃貸借契約はありませんので、AはCに対して甲土地の賃借権を主張できないのが原則です。これは「売買は賃貸借を破る」という原則です。

○不動産の賃貸借については、民法第605条で「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。」と規定され、前記事案でBが甲土地についての賃借権を登記していれば、新所有者のCに対しても甲土地の賃借権を主張できます。その結果、A・B間の賃貸借契約は、C・B間に承継されます。

○逆に言えば、土地賃借権の登記がないBは、土地の新所有者Cに対し賃借権を主張できないとの「売買は賃貸借を破る」原則に従わざるを得ません。しかし、CがBの賃借権の存在を熟知しながら、Bを甲土地から退去させる目的でAから甲土地を購入した場合、「売買は賃貸借を破る」原則をそのまま適用させるのは何かスッキリしません。Bが、Cの「権利濫用」、「背信的悪意者」等の理屈を持ち出してきた場合、簡単には「売買は賃貸借を破る」ことにならないような気もします。

以下、参考判例として昭和43年9月3日最高裁判決(判タ227号135頁、判時536号47頁)全文を紹介します。

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主  文
原判決中被上告人A株式会社に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。

理  由
 上告代理人○○○○の上告理由第一点について。

 原審は、所論摘録のとおり、
(一)上告人(原告)は、被上告人(被告)Aが訴外Bから本件(イ)の土地を賃借し、同地上に建物を所有して被上告人A会社(被告会社)名義で洋家具製造販売業を営んでいることを知りながら右土地を買い受けたものであること、
(二)上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)の各土地を買い受けるまの間の事情および買受の経過、
(三)上告人の右買受価格と当時の時価との比較、
(四)上告人が本訴を提起するまでの経過、
(五)本件(イ)の土地に対する被上告人A側の必要事情ならびに明渡による損害、
(六)上告人が本件(イ)(ロ)(ハ)土地の明渡を受けることによつて獲得する利得、
(七)本件の民事調停の経過等の事実関係
を認定し、右認定の事実を総合して考えると、「被控訴人(上告人)は、単に控訴人(被上告人)Aが本件(イ)の土地を賃借し、同地上に建物を所有して営業している事実を知つて本件土地を買受けたものであるに止らず、時価よりも著しく低廉な、しかも賃借権付評価で取得した土地につき、たまたま控訴人(被上告人)Aの賃借権が対抗力を欠如していることを発見し、これを奇貨として予想外の新たな利益を収めようとするものであり、その方法としては事前に何らの交渉もしないで抜打的に本訴を提起し、その反面に、相手方に予期しない不利益を与えるもの、即ち正当な賃借権に基づき地上に建物を所有して平穏に営業し来つた控訴人(被上告人)A側の営業ならびに生活に多大の損失と脅威を与えることを意に介せず、敢えて彼我の利益の均衡を破壊して巨利を博する結果を招来せんとするものと認めなければならない」
とし、上告人の被上告人Aに対する本件建物収去・土地明渡の請求は権利の濫用として許されないと判断した
のである。

 そして、原判決挙示の証拠によれば、原審の前記事実の認定は是認することができ、該当事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人Aに対する本件建物収去・土地明渡の請求を権利の濫用にあたるとした原審の判断は正当である。原審の事実の認定および法律上の判断に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

 同第二点について。
 原審の認定した事実によれば、被上告人Aは、上告人に対抗しうる権原を有することなく、本件(イ)の土地の換地(換地処分前は仮換地)上に本件建物を所有し、同土地を占有しているが、被上告人A物産は、被上告人Aとの使用貸借契約に基づいて、本件建物を借り受け、その全部を使用占有しているというのである。

 ところで、原判決は、上告人の被上告人Aに対する本件建物収去・土地明渡の請求が権利の濫用にあたり、同被上告人において右建物収去・土地明渡の義務を負わない以上、被上告人A物産の本件建物の占有と上告人が本件(イ)の土地の仮換地および換地を使用できないこととの間には相当因果関係を認めることができない、との理由により、被上告人A物産の右土地の不法占有を理由とする上告人の損害賠償請求を棄却すべきものと判断したのである。

 しかし、本件建物の所有者である被上告人Aは、被上告人A物産の代表者であり、実質的には、本件建物の所有者である被上告人Aと占有者である被上告人A物産とが一体となつて敷地である前記土地を不法に占有し、上告人の使用収益を妨害していることは、原判文から十分うかがうことができるのであり、このような特段の事情があるときは、被上告人A物産が本件建物を使用していることと上告人が右土地を使用できないこととの間には相当因果関係が存するものと解するのが相当である(最高裁判所昭和29年(オ)第213号、同31年10月23日第三小法廷判決、民集10巻10号1275頁参照)。そうとすれば、これと見解を異にする原判決は法律の解釈を誤つたものというべく、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

 同第三点について。
 被上告人A物産がいわゆる個人会社であつて、実質上、同会社の営業上の損失が被上告人A個人に帰する関係にあることは原判文上これを窺知できなくはないから、本件土地の明渡による被上告人A物産の営業上の損失をもつて、被上告人Aに対する明渡請求が権利の濫用になるかどうかの判断の資料とすることは違法とはいえない。また、本件土地の明渡による被上告人A物産の営業上の損失を右判断の資料に供したからといつて、当然に、不法行為上の損害賠償責任につき被上告人Aと同A物産とを一律に扱わなければならない筋合ではないから、原判決には理由そごの違法があるとはいえない。論旨は採用できない。

 同第四点について。
 原判決が被上告人Aに適法な土地占有権原があると判断した趣旨でないことは判文上明らかである。この点を正解しないで理由そごをいう論旨は採用できない。
 よつて、被上告人A物産の右土地の不法占有を理由として上告人の請求する損害金の額等について更に審理を尽くさせるため、原判決中被上告人A物産に対する損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻し、その余の部分につき本件上告を棄却することとし、民訴法407条1項、396条、384条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(五鬼上堅磐、同柏原語六は退官して、評議に加わらない)
(横田正俊 田中二郎 下村三郎)

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