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建物建築請負人に建替費用相当額損害賠償を否定した神戸地裁判決紹介2

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平成29年11月13日(月):初稿
○「建物建築請負人に建替費用相当額損害賠償を否定した神戸地裁判決紹介1」の続きで、昭和63年5月30日神戸地裁判決(判時1297号109頁、判タ691号193頁)の理由文の後半です。解説は、別コンテンツで行います。


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3 材料の品質、美粧仕上げ、空間性能
(一)使用木材の品質
 (証拠省略)によれば、室内のいわゆる見えがかりを持つ柱は、本件請負契約では、少なくても一面以上節のない柱を使用する約定であったのに、本件建物には、そのような無節の柱は全く使用されていない事実が認められ(る。)(証拠判断省略)
 右事実によれば、柱材については、その品質において本件請負契約に反する瑕疵があるというべきである。
 また、本件建物の小屋組材の一部に日本農林規格に適合しない品質の木材が使用されており、建築基準法37条違反の瑕疵があることは前示のとおりである。

(二)軸組架構
 柱の一部に傾きがある事実は当事者間に争いがないが、(証拠省略)によれば、本件建物は過半数の柱が一又は二方向に倒れており、特に顕著な傾きを示すものが一階に七本、二階に二本もあり、また敷居やかもいが傾斜している開口部や建具の立て付けが悪く隙間を生じ、居住性や美観上問題のある箇所もあるなどの事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 前示のとおり、請負契約においては、明示の特約がなくても、請負の目的物が通常備えるべき品質・性能を具備すべきことは黙示に合意されているとみるべきところ、右事実によれば、本件建物は、柱の傾きや敷居・かもいの傾斜、建具の立て付け不良が顕著で、建物が通常備えるべき品質・性能を欠くといわざるをえないから、本件建物には、右の点について、本件請負契約(黙示の合意)違反の瑕疵があるというべきである。

(三)床面
 (証拠省略)によれば、本件建物には、1、2階共に床面の傾斜・不陸があり、その程度は顕著で0・5パーセントを越える部分もあって、静止させたラムネの玉が自然に転がり出すほどである事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 右事実によれば、本件建物には、床面が水平であるという建物が通常備えるべき品質・性能を欠いているから、本件請負契約(黙示の合意)違反の瑕疵があるというべきである。

(四)室内高
 (証拠省略)によれば原告は背丈が高いほうであり、子供達も伸び盛りなので、原告は、本件請負契約において、かもい高(敷居からかもいまでの内法の高さ)を180センチメートルにするよう注文し、被告会社もこれを承諾したこと、しかるに、施工の結果はかもい高が175センチメートルしかなく、原告らは日常生活のうえで不便をしている事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 右事実によれば、本件建物のかもい高には、請負契約に反する瑕疵があるというべきである。

(五)土壁及び小舞下地
 (証拠省略)によれば、本件建物では荒壁の裏返し塗りが施工されてなく、また壁の下地に竹小舞のほかラスボードが使用されている事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。
 しかし、これらは、本件請負契約に別段の約定はなく、建物が通常備えるべき品質を欠くものともいえず、かつ、建築法規に違反するものでもないから、いずれも瑕疵ということはできない。

4 まとめ
 以上のとおり、本件建物は、随所に本件請負契約の約定や建築基準法・同法施行令の関係条項に違反する瑕疵を帯有しており、いわゆる欠陥住宅である。とりわけ基礎及び軸組構造は、本件建物に作用する荷重や外力に対して法定の構造耐力上の安全性に欠けているから、本件建物は、地震や台風等の振動・衝撃を契機にして倒壊しかねない危険性を内蔵する建築物であるといわざるをえない。

四 被告らの責任
1 被告芦田

(一) 被告会社が木材販売業のかたわら建築請負業を営む株式会社であり、被告芦田がその代表取締役で、本件建築工事の施工を担当した事実は弁論の全趣旨により明らかである。

(二) (証拠省略)によれば、被告会社は、建築工事の施工に当たり、使用木材は自ら調達したが、基礎工事・木工事等の主要部分の工事はそれぞれの専門業者に下請負いさせ、そのうち木工事については、かねてよく頼んでいた大工に依頼できなかったため、初めて頼む業者に発注し、木工事全般を施工させたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

 前示のとおり、本件建物には、基礎や軸組構造の欠陥、柱の傾き、床面の不陸及びかもい高の不足等、その随所に瑕疵がみられるが、これら瑕疵は、使用木材の品質不良を除き、下請業者の工事の手抜き又は工事の不十分さに起因するものと認められ、本件建築工事の施工を担当した被告芦田としては、絶えず工事現場に臨み、下請業者に対し適切な指示を与えるなどして、本件建物が請負契約及び建築基準法・同法施行令に適合し、かつ、住宅として通常備えるべき品質・性能を保持すべき建築物に仕上げるよう、下請業者の施工を十分に管理すべき注意義務があったというべきである。

 しかるに、(証拠省略)によれば、被告芦田は、木材の取引については豊富な実務歴を有するものの、建築について専門に学んだことはなく、友人の大工の手伝いをしたりするうち見よう見真似で住宅建築の一通りの工程を身に付けたものに過ぎず、建築基準法や建築基準法施行令で定める建物の構造基準等に関する知識はきわめて乏しいことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。(証拠省略)は「急所急所は行っていました」と述べるものの、右のように建築法規にうとい被告芦田であってみれば、工事現場に臨んでも、下請業者に対し、建築基準法や同法施行令に適合する建物に仕上げるよう適切な指示を与えることなど期待しうべくもなく、十分な施工管理ができたということは到底できない。

 のみならず、柱の傾きや床面の不陸など本件建物が住宅とした通常備えるべき品質・性能を欠いていることや、かもい高の不足のように明示の約定に反して施工がなされた事実は、被告芦田の施工管理がいかに杜撰であったかを推認するのに十分である。
 以上によれば、被告芦田には少なくとも施工管理上の過失があるというべきである。

(三)右認定のとおり、本件建物に使用された木材は、木材販売業をも営む被告会社が自ら調達したものであるが、前示したとおり、使用木材のうち、小屋組材の一部には建築基準法に適合しないものがあり、また、本件請負契約に反して本件建物には室内のいわゆる見えがかりを持つ柱に無節の柱が全く使用されていないのである。
 右事実によれば、被告会社の代表者である被告芦田には品質不良の木材を使用することについて故意が認められる。

(四)よって、被告芦田には、本件建物の瑕疵について、故意又は過失があるから、民法709条に基づく不法行為責任を負うべきである。

2 被告会社
(一)前示のとおり、被告会社は昭和54年5月20頃建築工事を完了し、その頃本件建物を原告に引渡したが、本件請負契約に基づく本件建物の施工に関して前記の瑕疵が存在するのであるから、被告会社は、原告に対し、民法634条二項による担保責任として、瑕疵の修補に代わる損害賠償をすべき責任がある。

(二)被告会社の代表取締役である被告芦田に不法行為が成立すること前示のとおりであるから、被告会社も、民法44条一項に基づき不法行為責任を負い、原告の蒙った損害を賠償すべきである。

(三)原告は、選択的(択一的)主張ながら、被告会社に対し、民法415条に基づき債務不履行(不完全履行)による損害賠償を求めている。
 しかし、請負工事の瑕疵による請負人の責任については、不完全履行の一般理論は排斥されると解すべきである。けだし、請負工事の瑕疵による請負人の責任については民法634条以下に詳細な規定があり、これらは不完全履行に関する一般理論の特別規定とみるのが相当であるからである。

(四)以上によれば、被告会社は、請負人の担保責任又は法人の不法行為責任のいずれかにより、原告に対し、本件建物の瑕疵による損害について賠償責任を負うものである。

五 原告の損害について
1 本件建物の前記瑕疵のうち、火打材・振れ止め・根がらみ貫等の欠落、床面の不陸、建具の立て付け不良等の部分的瑕疵が相当な方法により修補可能であることは弁論の全趣旨により明らかである。しかし、建物の基礎や軸組構造にかかわるその余の瑕疵、及び柱の傾き、かもい高の不足、使用木材の品質不良等の瑕疵は、これらを瑕疵のない完全なものとするためには新しく建て替えるか、又はこれに匹敵する大修繕を必要とするものばかりであるから、その修補が物理的に不可能ではないにしても、社会通念上は、これらの瑕疵の修補は不能というべきである。そして、本件建物では、修補可能な瑕疵は全体の瑕疵の一部に過ぎず、大半の重大な瑕疵はいずれも修補不能な瑕疵であることを考慮すると、本件建物の瑕疵は全体として修補不能であるとみて、原告の損害額を検討するのが相当である。

2 原告は、本件建物が木造住宅としての安全性にかけ、強風や地震により倒壊する恐れがあることや、新築注文住宅なので、瑕疵修補の方法は単に性能を回復するだけの継ぎはぎだらけのものであってはならないことを理由に、本件建物の瑕疵を除去するには、これを取り壊し設計図書通りに再度建て替えるほかに相当な修補方法はなく、これに相当する損害が原告に生じているとして、本件建物の建替え費用等の損害賠償を請求している。

 しかし、当裁判所は、原告の右主張のうち、建替え費用及び建替えを前提とする諸費用についても本件建物の瑕疵により原告の蒙った損害であるという部分は、到底採用しえないものであると考える。その理由は次のとおりである。
(一)原告は、本件建物の瑕疵の修補が物理的に不可能ではないことを前提に、その修補に要する費用(建替え費用)等相当額を損害と主張しているものと解されるが、本件建物の瑕疵は、前示のとおり社会通念上修補不能であり、そもそも瑕疵修補の請求はできない事案である。

(二)瑕疵修補の請求ができない場合に、注文者が請負人に対して請求しうる損害賠償の額は、一般的に言って、瑕疵を修補するために要する費用ということはできない。このことは、民法634条1項但書の趣旨からも明らかである。

(三)民法635条但書により、建物やその他の土地の工作物については、契約の目的を達することのできない瑕疵があっても、請負契約を解除することはできず、右規定は強行規定と解されているのに、建替え費用等を損害と認めることは、実質的に契約解除以上のことを認める結果になる。

(四)瑕疵修補の請求ができない場合の損害賠償の額は、目的物に瑕疵があるためにその物の客観的な交換価値が減少したことによる損害を基準にして、これを定めるのが相当である。何故なら、右の考え方は、財産上の損害のとらえ方について、請負人の担保債任、売主の瑕疵担保責任及び物の毀損による不法行為責任の全てに共通した理解を可能にするからである。

 以上によれば、本件建物の瑕疵により原告の蒙った財産上の損害は、瑕疵があるために本件建物の客観的な交換価値が減少したことによる損害と解すべきであるから、原告主張の損害のうち,本件建物の建替え費用及び建替えを前提とする諸費用(請求原因5の(二)の(1)ないし(3)及び(6))は全て理由がなく、失当といわざるをえない。

 原告は、本件建物の瑕疵により原告の蒙った損害として、瑕疵があるために本件建物の客観的な交換価値が減少した事実を明示的に主張するものではないが、原告の主張中にこれが黙示的に含まれるものと善解しても、原告は、建替え費用及び建替えを前提とする諸費用の請求に固執する余り、右瑕疵による本件建物の価値の減少額について鑑定等による立証を何らしようとせず、結局、本件において右価値の減少額を認めるに足る証拠は皆無なのである


3 調査・鑑定費用
 (証拠省略)によれば、原告は、本件建物の瑕疵に関する資料を収集するため、建築専門家による調査・鑑定を必要としたことから、本件建物の瑕疵とその修補の方法・費用等について一級建築士に調査・鑑定を依頼し、その費用として45万円を支払ったことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。そして、前記認定のような本件建物の瑕疵の内容、程度、その判定の困難性等を考えると、原告の支出した調査・鑑定費用45万円は、本件建物の瑕疵と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

4 慰謝料
 (証拠省略)によれば、原告は、念願の自宅を新築したものの、本件建物に入居直後から種々の欠陥に悩まされ、やがて建築専門家に調査・鑑定を依頼した結果、本件建物には基礎や軸組構造に重大な瑕疵があることが判明し、大きな精神的打撃を受けたことが認められる。そして、本件建物の瑕疵の内容・程度その他一切の事情を総合し、とりわけ本件建物がいわゆる欠陥住宅でその瑕疵は重大であるのに、原告の主張立証のまずさから瑕疵の修補に代わる損害賠償が認容されなかった事情があるので、この回復されない損害をも考慮して、慰謝料の額は100万円を相当と認める。

5 弁護士費用
 (証拠省略)によれば、原告は、本件訴訟の追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用・報酬の支払いを約したことが認められる。そして、被告芦田が不法行為責任を、被告会社が担保責任のほか不法行為責任を負うことは前示のとおりであるから、本件事案の内容、損害額その他一切の事情を考慮し、被告らが負担すべき相当因果関係にある原告の弁護士費用は100万円とするのが相当である。

6 まとめ
 以上によれば、原告の損害額は245万円となる。

六 相殺
1 対立する債権
(一)本件請負契約の工事代金が1160万円で、うち1050万円が支払済みであること、被告会社主張の追加工事のうち、水洗便所・風呂場関係について工事代金が合計22万円で、うち20万円が支払済みであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)(証拠省略)によれば、右水洗便所等以外にも、代金35万円で屋根の庇を銅版葺にした工事及び代金3、4万円で外裏の窓を一か所開けた工事はいずれも原告の注文による追加工事であったことが認められ(る。)(証拠判断省略)しかし、被告会社主張のその余の追加工事については、原告との間にそのような工事を約した事実を認めるに足る証拠はない。
 右によれば、原告は、被告会社に対し、前記水洗便所・風呂場関係のほか、庇の銅版葺及び外裏の窓関係の追加工事代金として少なくとも38万円を支払うべき義務があるというべきである。

(三)以上によれば、本件建物の請負代金は本工事分1160万円、追加工事分60万円であるところ、原告は、本工事分のうち1050万円、追加工事分のうち20万円をそれぞれ支払っているから、請負代金の残金は150万円となる。

(四)一方、(証拠省略)によれば、原告は、本工事代金のうちガス工事費・掃除養生費等合計27万1150円を、本件建築工事中被告会社のために立替えた事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。したがって、原告は、被告会社に対し、右同額の求償債権を有するものというべきである。

(五)その他、原告が被告会社に対し245万円の損害賠償債権を有することは前示のとおりである。

2 相殺の効果
(一)原告が、昭和61年11月5日の本件第24回口頭弁論期日において、被告会社に対し、原告の損害賠償債権及び求償債権をもって被告会社の請負代金債権と、その対当額で相殺する旨の意思表示をした事実は訴訟上明らかである。

(二)ところで、相殺の効力は相殺適状の生じた時にまで遡るので、対立する各債権の弁済期について検討するに、(証拠省略)によれば、請負代金は工事完成時に完済する約定であったこと、また前記認定の事実によれば、原告の立替金は遅くとも工事完成前に支出されたことがそれぞれ認められ、他に右認定に反する証拠はない。そして本件建物の瑕疵による損害賠償債権は、その根拠が請負人の担保責任であれ、不法行為責任であれ、いずれも建物の引渡しの時に発生するものと解するのが相当である。

 前示のとおり、本件建物の完成は昭和54年5月20日頃で、その頃本件建物が原告に引き渡されているから、右各債権の弁済期は昭和54年5月20日とみるべきであり、本件相殺はその日に遡って効力を生じたことになるが、立替金をもって先ず請負代金と対当額で相殺することが原告の意思に合致するものと推認されるから、相殺の結果、原告は、被告会社に対し、122万1150円の損害賠償債権を有することになる。

七 結論
 以上の理由により、原告は、被告芦田に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、245万円及びこれに対する不法行為の日の後であり、本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和56年8月13日から、被告会社に対し、請負人の担保責任による瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、122万1150円及びこれに対する本件建物の引渡しの日かつ不法行為の日の後であり、本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和56年8月13日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利があるというべきである。
 よって、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから認容するが、その余は失当として棄却することとし、民訴法89条、92条本文、93条一項本文、196条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 白井博文)

別紙 物件目録(省略)
以上:7,291文字

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