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割販法35条の3の13第1項6号適用を認めた最高裁判決全文紹介

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平成29年11月 5日(日):初稿
○「割販法35条の3の13第1項6号適用を排除した札幌高裁判決理由文一部紹介」の続きで,この高裁判決を覆し,割賦販売法35条の3の13所定の不実告知を理由とする立替払契約の取消しを認めた平成29年2月21日最高裁判決(判タ1437号70頁、判時2341号97頁)全文を紹介します。

○個別信用購入あっせんにおいて,購入者が名義上の購入者となることを承諾してあっせん業者との間で立替払契約を締結した場合に,それが販売業者の依頼に基づくものであり,販売業者が,依頼の際,名義上の購入者となる者を必要とする高齢者等がいること,この高齢者等との間の売買契約及び商品の引渡しがあることとこの高齢者等による支払ができなくなっても、販売業者が確実に購入者のあっせん業者に対する支払金相当額を支払う意思及び能力があることを購入者に対して伝えていたなどの事情の下では,この告知の内容は,割賦販売法35条の3の13第1項6号にいう「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に当たるとして、取消を認めました。

○詳しい説明は別コンテンツで行います。

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主   文
原判決を破棄する。
本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理   由
 上告代理人金昌宏の上告受理申立て理由第1及び第3について
1 上告人らは,信販会社である被上告人の加盟店であった有限会社A(以下「本件販売業者」という。)との間で宝飾品等の売買契約を締結したとして,被上告人との間で購入代金に係る立替払契約を締結したが,上記売買契約は架空のものであり,上記立替払契約は,本件販売業者の依頼により,上告人らが名義上の購入者となることを承諾して締結されたものであった(以下,このように名義上の購入者となることを「名義貸し」という。)。

 本件本訴は,被上告人が,上告人らに対し,上記立替払契約に基づく未払金の支払等を求めるものであり,本件反訴は,上告人Y2が,被上告人に対し,割賦販売法35条の3の13第1項により上記立替払契約の申込みの意思表示を取消したこと等を理由として,不当利得返還請求権に基づき,上記立替払契約に基づく既払金の返還等を求めるものである。なお,本件反訴は,原審で提起され,その後,上告人Y2に対する本訴は,取り下げられた。

 上記立替払契約のうち,平成20年法律第74号(以下「改正法」という。)の施行日である平成21年12月1日以降に締結されたもの(以下「改正後契約」という。)については,割賦販売法35条の3の13第1項により立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことができるか否かが,同日より前に締結されたもの(以下「改正前契約」という。)については,改正法による改正前の割賦販売法30条の4第1項により本件販売業者に対して生じている売買契約の無効等の事由をもって被上告人に対抗することが信義則に反するか否かが争われている。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,割賦販売法2条4項に規定する個別信用購入あっせん(上記改正前は,同改正前の割賦販売法2条3項2号に規定する割賦購入あっせん)を業とする者(以下「あっせん業者」という。)であり,平成16年4月,呉服や貴金属の卸小売等を業とする本件販売業者との間で,割賦購入あっせん加盟店契約を締結した。

(2)本件販売業者は,平成14年頃から多数回にわたり,その運転資金を得る目的で,既存の顧客に対して名義貸しを依頼し,これに応じた顧客に架空の売買契約の購入代金に係る立替払契約を締結させ,被上告人や他の信販会社から代金相当額の支払を受けるとともに,上記顧客の信販会社に対する支払金相当額を自ら負担していた。

(3)上告人らは,本件販売業者から懇請されて,名義貸しを承諾し,本件販売業者との間で締結した架空の売買契約(以下「本件各売買契約」という。)の購入代金について,被上告人との間で,平成20年11月から平成23年11月にかけて,第1審判決別紙2の立替払契約内容一覧表の「契約日」欄記載の各年月日に,「契約金額」欄記載の各金員を被上告人が本件販売業者に対し立て替えて支払うこと及び「支払方法」欄記載のとおり上告人らが被上告人に対し立替金を支払うことを内容とする立替払契約(以下「本件各立替払契約」という。)を締結し,被上告人は,本件販売業者に対し,同一覧表の「立替払日」欄記載の各年月日に,「契約金額」欄記載の各金員を支払った。本件各売買契約は,特定商取引に関する法律2条1項に規定する訪問販売に係る契約に該当するものであった。

 本件販売業者は,本件各立替払契約の締結について勧誘をするに際し,上告人らに対し,ローンを組めない高齢者等の人助けのための契約締結であり,上記高齢者等との売買契約や商品の引渡しは実在することを告げた上で,「支払については責任をもってうちが支払うから,絶対に迷惑は掛けない。」などと告げた。

(4)本件各立替払契約に基づく上告人らの被上告人に対する支払は,上告人ら名義の口座から口座振替の方法により行われていたところ,平成23年10月分までは,本件販売業者が支払金相当額を上記口座に振り込んでいた。

(5)本件販売業者は,平成23年11月28日,営業を停止し,平成24年4月3日,破産手続開始の申立てをし,その後,破産手続開始の決定を受けた。

(6)改正後契約に係る上告人らは,平成24年3月から平成25年1月にかけて,被上告人に対し,割賦販売法35条の3の13第1項により改正後契約の申込みの意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(7)改正前契約に係る上告人らは、改正前契約に係る売買契約は民法93条ただし書又は94条1項により無効であるなどとして,改正法による改正前の割賦販売法30条の4第1項により,上記無効等の事由をもって被上告人に対抗すると主張している。
 これに対し,被上告人は,改正前契約に係る上告人らが上記無効等の事由をもって被上告人に対抗することは,信義則に反し許されないと主張している。 

3 原審は,上記事実関係の下において,改正前契約に係る売買契約は民法93条ただし書又は94条1項により無効であるとした上で,次のとおり判断して,被上告人の本訴請求を認容し,上告人Y2の反訴請求を棄却した。
(1)
ア 割賦販売法35条の3の13第1項6号に規定する事項には,立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものであれば,契約内容や取引条件のみならず,契約締結の動機も含まれる。

イ 改正後契約に係る上告人らが改正後契約を締結した主たる動機は,本件販売業者が同上告人らの被上告人に対する支払金相当額を補填すると約束した点にある。そして,本件販売業者は,改正後契約の締結時に,上記支払金相当額を支払う意思が全くないにもかかわらず,改正後契約に係る上告人らに対して上記約束をしたということはできないから,本件販売業者が告げた内容に虚偽はなく,割賦販売法35条の3の13第1項にいう「不実のことを告げる行為」(以下「不実告知」という。)があったとはいえない。本件販売業者は,改正後契約を媒介するに当たり,ローンを組めない高齢者等の人助けのための契約締結であり,上記高齢者等との売買契約や商品の引渡しは実在することを改正後契約に係る上告人らに告げているが,その内容は購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものに当たらず,不実告知の対象とはならない。

(2)改正前契約に係る上告人らは,被上告人からの確認の電話に対して,契約締結の意思があること及び商品を受け取っていることを回答しており,購入者の背信行為により改正前契約が締結されたといえる。そして,上記(1)イのとおり,改正後契約についても不実告知による取消しは認められない。また,改正前契約に係る上告人らは,本件販売業者が不正な利益を取得しようとしていることを知らないとしても,名義貸しであることを知り,それが一般常識に照らして不正な取引であることを改正前契約の締結当時認識し,又は認識することができたといえる。そうすると,改正前契約に係る上告人らが改正前契約に係る売買契約の無効をもって被上告人に対抗することは,信義則に反し許されない。

4 しかしながら,原審の上記3(1)アの判断は是認することができるが,同(1)イの判断及びこれを前提とした同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 改正法により新設された割賦販売法35条の3の13第1項6号は,あっせん業者が加盟店である販売業者に立替払契約の勧誘や申込書面の取次ぎ等の媒介行為を行わせるなど,あっせん業者と販売業者との間に密接な関係があることに着目し,特に訪問販売においては,販売業者の不当な勧誘行為により購入者の契約締結に向けた意思表示に瑕疵が生じやすいことから,購入者保護を徹底させる趣旨で,訪問販売によって売買契約が締結された個別信用購入あっせんについては,消費者契約法4条及び5条の特則として,販売業者が立替払契約の締結について勧誘をするに際し,契約締結の動機に関するものを含め,立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて不実告知をした場合には,あっせん業者がこれを認識していたか否か,認識できたか否かを問わず,購入者は,あっせん業者との間の立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことができることを新たに認めたものと解される。

 そして,立替払契約が購入者の承諾の下で名義貸しという不正な方法によって締結されたものであったとしても,それが販売業者の依頼に基づくものであり,その依頼の際,契約締結を必要とする事情,契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無,契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生ずる可能性の有無など,契約締結の動機に関する重要な事項について販売業者による不実告知があった場合には,これによって購入者に誤認が生じ,その結果,立替払契約が締結される可能性もあるといえる。

 このような経過で立替払契約が締結されたときは,購入者は販売業者に利用されたとも評価し得るのであり,購入者として保護に値しないということはできないから,割賦販売法35条の3の13第1項6号に掲げる事項につき不実告知があったとして立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことを認めても,同号の趣旨に反するものとはいえない。

 上記事実関係によれば,本件販売業者は,改正後契約の締結について勧誘をするに際し,改正後契約に係る上告人らに対し,ローンを組めない高齢者等の人助けのための契約締結であり,上記高齢者等との売買契約や商品の引渡しは実在することを告げた上で,「支払については責任をもってうちが支払うから,絶対に迷惑は掛けない。」などと告げているところ,その内容は,名義貸しを必要とする高齢者等がいること,上記高齢者等を購入者とする売買契約及び商品の引渡しがあること並びに上記高齢者等による支払がされない事態が生じた場合であっても本件販売業者において確実に改正後契約に係る上告人らの被上告人に対する支払金相当額を支払う意思及び能力があることといった,契約締結を必要とする事情,契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無及びあっせん業者に実質的な損害が生ずる可能性の有無に関するものということができる。したがって,上記告知の内容は,契約締結の動機に関する重要な事項に当たるものというべきである。

 以上によれば,本件販売業者が改正後契約に係る上告人らに対してした上記告知の内容は,割賦販売法35条の3の13第1項6号にいう「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に当たるというべきである。

5 以上と異なる原審の上記3(1)イの判断及びこれを前提とした同(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記告知の内容についての改正後契約に係る上告人らの誤認の有無及び改正前契約に係る上告人らが名義貸しに応じた動機やその経緯を前提にしてもなお改正前契約に係る売買契約の無効をもって被上告人に対抗することが信義則に反するか否か等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官山崎敏充の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
以上:5,166文字

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