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割販法35条の3の13第1項6号適用を排除した札幌高裁判決理由文一部紹介

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平成29年11月 3日(金):初稿
○「割販法35条の3の13第1項6号適用を認めた旭川地裁判決理由文一部紹介」の続きで、その控訴審の平成26年12月18日札幌高裁判決(判タ1422号111頁)の重要部分の紹介です

○。一審の平成26年3月28日旭川地方裁判所判決(判タ1422号120頁)が、名義貸しをした呉服店の顧客らに対する信販会社の立替金請求について、割賦販売法35条の3の13所定の不実告知を理由とする立替払契約の取消しを認めていました。ところがその控訴審の平成26年12月18日札幌高裁判決は、呉服店の顧客が、その代表者の依頼を受け、もともと商品購入の意思はなく、自身が商品を受け取ることはないことを承知の上で売買契約を締結したことが認められるときには、当該顧客によるクーリングオフの主張は、信義則に反し許されず、また、割賦販売法35条の3の13所定の不実告知を理由とする立替払契約の取消しも認められないと、信販会社の立替金請求が認められました。

○この判決は、平成29年2月21日最高裁判決で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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3 争点(2)(クーリングオフ)及び争点(7)(信義則違反)について(改正後被控訴人ら)
            (中略)
(3)信義則違反(争点(7))について
ア そこで,改正後被控訴人らが立替払契約につきクーリングオフの権利を行使することが信義則に反するかについて検討する。
 クーリングオフの制度は,消費者に,購入を約した商品等の要否について今一度熟慮する機会を与え(購入申込の日から数えて8日間),その結果不要と判断した商品等の購入契約につき,当該契約の申込みの撤回又は解除を認めて,消費者の保護を図ったものである。しかしながら,本件は,上記1(2)及び(4)によれば,いずれも名義貸しの事案であって,改正後被控訴人らは,もともと商品購入の意思はなく,自身が商品を受け取ることはないことを承知の上で売買契約を締結したのであり,クーリングオフの制度が本来保護の範囲ないし対象として予定しているものから逸脱しているというべきである。したがって,改正後被控訴人らのクーリングオフの主張は,信義則に反し許されないというべきである。

イ この点,改正後被控訴人らは,本件販売店が立替払契約の不正利用により控訴人に損害を与え,不正な利益を得ようとしていることを知らず,それに積極的に加担した者(背信的悪意者)とはいえない旨主張する。しかし,購入者である改正後被控訴人らが,名義貸しであることを知り,それが一般常識に照らして不正な取引であることは契約当時,認識し,又は認識することができた一方で,控訴人は,認定事実(2)及び(5)のとおり,改正後被控訴人らに電話で意思確認等をし,契約意思がある旨の回答を得,その回答が真実であると信じたことを考慮すると,改正後被控訴人らが背信的悪意者とはいえないとしてもなお,同人らは,クーリングオフの制度が本来保護の範囲ないし対象として予定しているものから逸脱しているとの上記判断を左右するものではない。

4 争点(3)(不実告知による取消し)について(改正後被控訴人ら)
(1)不実告知の対象について

 割販法35条の3の13第1項6号は,販売業者が「訪問販売」において立替払契約の勧誘をするに際し,「前各号に掲げるもののほか,当該個別信用購入あっせん関係受領契約(注:本判決における立替払契約)又は当該個別信用購入あっせん関係販売契約…に関する事項であって,購入者…の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」につき不実告知をした場合を取消事由としている。

 個別信用購入あっせん契約は,購入者と販売業者との間の商品の売買契約,購入者とあっせん業者との間の立替払契約及び販売業者とあっせん業者との間の加盟店契約とから成る販売信用の取引(以下「クレジット取引」という。)であるところ,割販法の消費者保護に関する主な規定として,抗弁の対抗規定と不実告知による取消規定がある。

 このうち,抗弁の対抗規定に関する割販法及び旧割販法30条の4は,消費者保護の観点から,購入者が販売業者との間で生じている事由をもってあっせん業者に対抗することができる旨規定しているところ,クレジット取引における抗弁の対抗が認められた趣旨は,あっせん業者と販売業者との間には,購入者への商品の販売に関して密接な取引関係が存在していること,それゆえに,購入者は,自社割賦の場合と同様に商品の引渡しがされないなど商品の販売に関して生じている事由がある場合には,支払請求を拒み得ることを期待していること,あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,損失を分散,転嫁する能力を有しているのに対し,購入者は,購入に際して一時的に販売業者と接するにすぎず,損失負担能力が低いなどあっせん業者に比して不利な立場に置かれていることなどを理由とするものである。

 そして,不実告知による取消規定は,売買契約に抗弁事由があるとして同契約が取り消された場合においても立替払契約が存続し,購入者が既払金の返還を受けることができない不都合を回避し,消費者保護の徹底を図るため,上記の抗弁の対抗規定に基づく未払金の支払拒絶に加えて,消費者契約法4条及び5条の特則として,販売業者が立替払契約又は売買契約に関する重要事項について不実告知をした場合に,購入者にあっせん業者との立替払契約の取消しを認めたものである。

 不実告知による取消規定の内容をみると,まず,割販法35条の3の13第1項6号は,立替払契約又は売買契約のいずれかの契約に関する不実告知があれば立替払契約を取り消すことができるとしている。その上で,立替払契約に関する不実告知の対象事項として,購入者の支払総額(割販法35条の3の13第1項1号),各回ごとの支払額,支時時期及び方法(同項2号)等を列挙した上,同項6号において,以上のほか立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものと規定して不実告知の対象を包括的かつ補充的に定めていることからすると,同項6号の不実告知の対象には,契約内容や取引条件に限らず,購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものであれば,契約締結の動機も含まれるものと解される。

(2)不実告知の有無
 前提事実(2),上記1(4),2(1)イ,(2)イ及び(3)イによれば,改正後被控訴人らが立替払契約を締結した(名義を貸した)主たる動機は,本件販売店が改正後被控訴人らの立替金支払のための分割金相当額を改正後被控訴人ら名義の口座に振り込む等の方法により補填すると約束した点にある。そして,前提事実(6),乙共2,3及び9の3によれば,本件販売店は,立替払契約の名義を借りることによって得た立替金を運転資金に充てていたが,同契約の名義人が負う分割金を,同名義人の口座に振り込んでいたことが認められ,それによれば,本件販売店は,立替払契約時に,分割金を支払う意思が全くないにもかかわらず,同契約の名義人に対して,分割金を補填する約束をしたということはできず,本件販売店が述べた内容に虚偽はなく,不実告知はない。

 したがって,本件販売店に改正後被控訴人らの立替払契約締結の動機に関する不実告知があったとは認められない。上記1(4)によれば,本件販売店は,立替払契約を媒介するに当たり,ローンが組めない高齢者等の人助けのための契約締結であること,高齢者等との売買契約や引渡しは実在していることを改正前被控訴人らに告げているが,その内容は購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものには当たらず,不実告知の対象には当たらない。

(3)以上によれば,改正後被控訴人らは,割販法35条の3の13第1項6号に基づく立替払契約の取消権を有しない。

5 争点(4)(抗弁の対抗)及び争点(7)(信義則違反)について(改正前被控訴人ら)
(1)消費者契約法5条,4条1項1号,3項について

 上記1(4)によれば,本件販売店は,立替払契約を媒介するに当たり,ローンが組めない高齢者等の人助けのための契約締結であること,高齢者等との売買契約や引渡しは実在していることを改正前被控訴人らに告げたが,それらは,名義貸しという違法行為をする動機の一つではあるものの,「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」(消費者契約法4条4項)には当たらない。また,認定事実(2)及び(4)のとおり,改正前被控訴人らは,別表3の「謝礼」欄記載の物品を受け取っていることや,契約後の控訴人からの契約確認の電話に応答し,売買契約及び立替払契約に肯定的な回答をしていたことを踏まえると,本件販売店が改正前被控訴人らの自宅や職場から退去しなかったこと等により,困惑して,立替払契約を締結した事実は認められない。
 したがって,消費者契約法5条,4条1項1号,3項の適用はなく,改正前被控訴人らは,それに基づく取消の抗弁を控訴人に対抗することはできない。

(2)民法90条について
 改正前被控訴人らは,本件販売店は,改正前被控訴人らへの窮迫,無知につけ込んで売買契約を締結させており,それは著しく不公正な方法による取引であって公序良俗に反し,無効である旨主張する。しかし,上記4のとおり本件販売店の説明に不実告知はなく,また上記(1)のとおり改正前被控訴人らが困惑して契約を締結したとは認め難いことに照らし,本件販売店による取引が公序良俗に反するとは認め難い。したがって,改正前被控訴人らの上記主張は理由がない。

(3)民法95条について
 改正前被控訴人らは,売買契約の意思表示は錯誤により無効であると主張する。しかし,上記1(4)によれば,改正前被控訴人らは,売買契約はローンが組めない高齢者等の人助けのためであると誤信していたことが認められるが,それは,改正前被控訴人らが名義貸しをする動機の一つではあるものの,その内容は購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものには当たらず,法律行為の要素の錯誤には当たらない。したがって,上記改正前被控訴人らの主張は理由がない。

(4)民法96条について
 改正前被控訴人らは,売買契約の意思表示は詐欺による意思表示であって取り消すことができると主張する。しかし,上記1(4),乙共2,3,乙各4の1及び2,乙各23の1ないし3,被控訴人4及び同23本人尋問の結果によれば,本件販売店は,売買契約及び立替払契約を締結するに当たり,改正前被控訴人らに対し,ローンが組めない高齢者等の人助けのための契約締結であると虚偽の内容を告げたことが認められるが,改正前被控訴人らは,本件販売店が立替金支払のための分割金相当額を被控訴人ら名義の口座に振り込む等の方法により補填すると約束し,それを信じたことにより上記契約をしたのであって,上記虚偽の内容を信じたことにより上記契約をしたとは認められない。したがって,上記改正前被控訴人らの主張は理由がない。

(5)民法93条ただし書,94条について
ア 改正前被控訴人らは,売買契約の意思表示は,心裡留保(民法93条ただし書)又は通謀虚偽表示(民法94条)により,無効であると主張する。
 上記1(4)によれば,改正前被控訴人らは,売買契約及び立替払契約について,本件販売店から「名前(名義)を貸すこと」を頼まれ,それを了承していることが認められる。これによれば,改正前被控訴人らの売買契約締結の意思表示は,〔1〕本件販売店は,改正前被控訴人らに売買契約締結の意思がないことを知り,又は知ることができたといえ,無効であり(民法93条ただし書),〔2〕本件販売店と通じてした虚偽の意思表示であるから無効である(民法94条)といえる。

イ そして,改正前被控訴人らは,旧割販法30条の4に基づき,控訴人に対し,上記アの契約の無効事由を対抗することができる旨主張する。
 旧割販法30条の4は、購入者が販売業者に対し売買契約の成立や履行に関して主張し得る事由をもって,あっせん業者に対抗できるとするものであるが,その規定は,あっせん業者が,あっせん行為を通じて,販売業者と購入者の間の売買契約の成立に向けて関与する関係にあることから,購入者に抗弁事由(民法93条ただし書,94条)が存在する場合は,その抗弁をあっせん業者に対抗できるようにして,契約取引に不慣れな購入者を保護することにある。したがって,その事由が保護に値しない購入者の行為による場合には抗弁事由から除外されると解するのが相当である。 

 認定事実(2)によれば,改正前被控訴人らは,控訴人からの意思確認の電話に対して,本人であること,契約締結の意思があること,商品を受け取っていることを回答していることが認められ,それによれば,保護に値しない購入者の背信行為により立替金契約が結ばれたといえる。そうすると,本件販売店に対する抗弁事由(民法93条ただし書,94条)が存在するとしても,改正前被控訴人らは,控訴人に対して,上記アの抗弁の接続を主張することは,信義則上許されない。したがって,改正前被控訴人らの上記主張は理由がない。

ウ この点につき,改正前被控訴人らは,同人らは背信的悪意者には当たらないこと,控訴人が,立替払契約の締結に際して調査義務を尽くしていないこと及び割販法で消費者の保護のために不実告知による取消権が定められたことを考慮すると,改正前被控訴人らの権利行使は信義則に違反しない旨主張する。しかし,後記6のとおり控訴人は調査義務を尽くしていること,及び上記4のとおり割販法が適用される改正後被控訴人らにおいても本件販売店の立替払契約につき不実告知による取消権が認められないことに加え,改正前被控訴人らが,本件販売店が不正な利益を取得しようとしていること知らないとしても,名義貸しであることを知り,それが一般常識に照らして不正な取引であることは契約当時,認識し,又は認識することができたことを考慮すると,改正前被控訴人らの上記主張により,上記アの判断は左右されない。


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