平成25年 9月11日(水):初稿 |
○「債務不履行等を理由とする契約解除権消滅時効起算点について」に関連した続きです。 無断転貸を理由とした賃貸借契約解除権の消滅時効の起算点に関する昭62年10月8日最高裁判決(裁時971号2頁、判タ663号72頁、判時1266号23頁)全文を紹介します。判決要旨は、無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権は、形成権で10年の消滅時効にかかり、その起算点は、転借人が転貸借契約に基づき当該土地の使用収益を開始した時とするものです。詳しくは別コンテンツで説明します。 ************************************************************ 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○らの上告理由第一点について 所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。 同第二点について 賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によつて消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となつたものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、 (1) 本件(一)土地の所有者であるAは、大正初年ころ、B合資会社(以下「訴外会社」という。)を設立し、同社をして右土地を含む自己所有不動産の管理をさせてきたものであるところ、上告人は、昭和34年6月22日、相続により、本件(一)土地の所有権を取得した、 (2) Cは、前賃借人の賃借期間を引き継いで、昭和11年7月29日、訴外会社から本件(一)土地を昭和15年9月30日までの約定で賃借し、同地上に三戸一棟の建物(家屋番号22番、22番の二及び22番の三)を所有していたものであるところ、被上告人Dは、昭和20年3月17日、家督相続により中村国義の権利義務を承継した(右賃貸借契約は昭和15年9月30日及び同35年9月30日にそれぞれ法定更新された。)、 (3)被上告人E株式会社(以下「被上告人D社」という。)は、昭和25年12月7日、被上告人Cから前記22番の三の建物を譲り受けるとともに、本件(一)土地のうち右建物の敷地に当たる本件(四)土地を訴外会社の承諾を受けることなく転借し、同日以降これを使用収益している、 (4) 訴外会社は、昭和51年7月16日到達の書面をもつて被上告人Cに対し、右無断転貸を理由として本件(一)土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、というのであり、また、被上告人F及び同Gを除くその余の被上告人らが、本訴において、右無断転貸を理由とする本件(一)土地の賃貸借契約の解除権の消滅時効を援用したことは訴訟上明らかである。 以上の事実関係のもとにおいては、右の解除権は、被上告人Fが本件(四)土地の使用収益を開始した昭和25年12月7日から10年後の昭和35年12月7日の経過とともに時効により消滅したものというべきであるから、上告人主張に係る訴外会社の被上告人Cに対する前記賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。 同第三点について 原判決が上告人の被上告人F及び同Gに対する請求に関して所論指摘の判示をしているものでないことは、その説示に照らし明らかであるから、原判決に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用することができない。 同第四点について 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人Fは、訴外会社ひいて上告人に対抗できる転借権を時効により取得したものということができるものというべきであるから、これと同旨の原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、ひつきよう、判決の結論に影響しない事由について原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官佐藤哲郎 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ツ谷巖) 以上:2,106文字
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