平成25年 3月27日(水):初稿 |
○平成16年6月30日初稿「判例勉強会」で、「32期3名、33期2名の僅か5名で担当者を決め、各月の判例時報から重要と思われる判例を読み込んで、レジュメを作って発表するものです。もうかれこれ20年以上は毎月1回ずつ継続しています。」と記載していましたが、33期2名の内1名が弁護士引退し悠々自適の生活に入り、もう1名も事実上退会し、一時32期3名だけの勉強会になりました。1年程前に28期の先輩弁護士に加入頂き、現在4名で当初から数えると30年程毎月1回の判例勉強会を継続しています。幸い、現在継続している4名はやる気満々で当分継続できそうです。 ○平成25年3月27日は本年3回目の判例勉強会で私の担当は判例時報2174号ですが、本日予定が立て込んで時間がないのでHP作りを判例勉強会報告判例のレジュメ作りに代用します。今回の報告判例は45頁借家契約において、賃貸人の賃料増額請求の一部のみ正当とする判決が確定し、これに照らすと賃料が過払となっていた場合において、 1.賃貸人が返還すべき過払金について借家法32条2項本文は類推適用されない 2.その後の過払金受領につき、賃貸人が民法第704条の悪意の受益者に該当する 3.賃貸人が返還すべき過払額の算定に関し、その後支払期が到来する賃料に過払金を充当する合意が成立 と認められたものです。 ○先ず借地借家法第32条全文です。 第32条(借賃増減請求権) 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。 3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。 ○この条文について、私は、「賃料値上げ合意の効力」で 借地借家法32条(借賃増減請求権)の2、3項は、裁判で決まるまでは ①貸主が増額請求しても借主は従前賃料を支払えば良いこと、 ②借主が減額請求しても借主は従前賃料を支払わなければならないこと、 ③裁判が決まった場合、その決まった内容で賃料の過不足を1割の利息を付けて清算する と言うものです と解説していましたが、③がちと正確性に欠けることが判明しました(^^;)。①の場合、借主が従前賃料に貸主の増額請求には満たない増額分を追加して支払い、裁判で最終的に決まった金額を超過して支払った分がある場合の清算のための利息は1割には限らない場合があるからです。 ○本件事案概略は、 賃貸人Yから賃料増額請求の訴えを提起された賃借人Xが、従前賃料に加えて増額請求分の一部を支払っていたところ、後日の確定裁判で、Y請求の一部のみが正当とされ、Xの支払額の一部が過払となり、XはYに対し過払金について大別し、 ①借地借家法第32条2,3項に準じた取扱をする旨の合意に基づく利息(過払金受領時から年10%) ②同類推適用による利息(過払金受領時から年10%) ③民法第704条悪意の受益者の不当利得による利息(過払金受領時から年6又は5%) ④過払金返還債務履行遅滞による民法第412条3項の遅延損害金(催告による履行期から年6又は5%) を請求したものです。 ○過払となった賃料の利息が問題になった事案ですが、利息だけこれだけの争いになるのですから、賃料は巨額で、一審判決を見ると、何と月額約1億1716万円でした。賃貸人はこれを月額1億6000万円に増額請求し、調停・訴訟に至ったものです。こちとら貧乏弁護士には目も眩むような金額です(^^;)。勿論、賃借人は月額約4300万円もの増額は認められないと争い、結局、取り敢えず、月額賃料1億4203万円を支払い、将来、裁判で金額確定した場合に、借地借家法第32条2,3項の類推適用又は準用により差額に年1割の利息を付した金額の返還を求める旨を通知していました。 ○Yの賃料増額請求については、平成23年3月10日横浜地裁判決で月額1億2800万円とし同年3月29日確定し、Yは、同日、Xに対し、賃料清算金として約1億8090万円を返還しました。しかしXは利息分が不足しているとして、約1010万円の支払を求めました。理由は、借地借家法第32条2,3項に従って1割の利息を付して清算するとの合意があり、もし合意がなくても同法が類推適用されるというものでした。しかし横浜地裁は、合意の成立を認めず、また借地借家法の類推適用は認められないとしてXの請求を全て棄却し、Xが控訴した控訴審判決が本件です。 ○賃料月額20万円の事案で、借地借家法第32条2項は、月額25万円への賃料増額請求があり、賃借人が従前賃料20万円を支払い続け、裁判で25万円に認めらた場合、不足した5万円に年1割の利息を付けること、同3項は賃料月額15万円への賃料減額請求があり、賃貸人が20万円の請求をして受領し続け、裁判で15万円に認められた場合、超過額金5万円に1割の利息を付けることを定めるものです。 ○これに対し本件は、25万円の増額請求に対し、暫定的に23万円を支払い続け、裁判で21万円になった場合で、差額2万円の過払は、上記借地借家法の1割利息を付ける要件には該当しません。そこで横浜地裁は、要件を厳格に解して、Xの請求を棄却し、東京高裁も同様でした。そこでXは、前③悪意の受益者として年5%の利息を付加することは認め、その結果、1010万円の請求に対し約670万円の支払を認めました。しかし、上告されていますので、最終結論はまだ先です。 以上:2,656文字
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