平成25年 3月22日(金):初稿 |
○「投資目的での競売物件入札の際の要注意判例紹介2」の続きです。「投資目的での競売物件入札の際の要注意判例紹介2」では、「競売物件としての賃貸アパートの入札を検討していますが、問題はないでしょうかとの相談を受けた場合、賃料差押債権者が居ると賃料は取得出来ない旨を注意し、その有無をシッカリ確認するようアドバイスしないと弁護過誤になりますので、注意が必要です。」と記載していましたが、今回は、この判決と紛らわしい結論を出した平成24年9月4日最高裁判決(判タ1384号122頁、判時2171号42頁)です。 ○事案は、次の通りです。 ・平成16年にAは所有建物をY社に賃貸、但しY社はAが全株式を所有し、Aが代表取締役 ・平成20年10月、Aの債権者Xが、Aの賃料債権を差押、差押対象は平成19年1月以降支払期が到来するものから金3716万円に満つるまで ・平成21年12月、Y社がA所有建物を買い受け、代金を支払い所有権移転登記をした ・XがYに対し平成20年8月以降支払期が到来する賃料債権3716万円3716万円の支払を求める訴え提起 ・Yは、売買代金を支払った平成21年12月25日に本件賃貸借契約は混同により消滅したと主張 ・原審平成22年3月26日大阪高裁判決は、Yが本件建物の所有権移転を受ける前に差押命令が出されているので、賃料債権は第三者の権利の目的となったから、民法第520条但し書きにより混同によって消滅することはないと判断し、Xの主張をほぼ認める ・Yが上告受理の申立 民法第520条(混同) 債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。 ○「投資目的での競売物件入札の際の要注意判例紹介1」の最高裁判決の趣旨からするとYの上告受理は却下されそうですが、平成24年9月4日最高裁判決は、混同の主張に係る部分を受理し、次のように述べてYの主張をほぼ認め、原判決のうち本件建物が譲渡された後に支払期の到来する平成22年1月分以降の賃料の支払を命じた部分を破棄し,原審に差し戻しました。 賃料債権の差押えを受けた債務者は,当該賃料債権の処分を禁止されるが,その発生の基礎となる賃貸借契約が終了したときは,差押えの対象となる賃料債権は以後発生しないこととなる。したがって,賃貸人が賃借人に賃貸借契約の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は,その終了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても,賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限り,差押債権者は,第三債務者である賃借人から,当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないというべきである。○平成10年3月24日最高裁判決の事案は、賃料が差し押さえられた建物を買い受け賃貸人となった場合、賃貸借契約は継続しているので賃料債権は存続し差押の効力は継続するとしたものです。これに対し、平成24年9月4日最高裁判決の事案は、賃貸人と賃借人が同一人に帰属して、賃貸借契約が終了し賃料債権が発生しなくなり、差押対象物がなくなるので差押は無効になると言うものです。ちとこんがらかるところで注意が必要です。 ○平成24年9月4日最高裁判決は、混同が生じる場合でも、「賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情」がある場合、混同は認めないとも言っており、債務者Aが全株式を所有し、代表取締役となっているY社の取得はこの「特段の事情」に該当するような気がします。差し戻された大阪高裁の判断が注目されます。 以上:1,615文字
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