平成25年 3月21日(木):初稿 |
○「投資目的での競売物件入札の際の要注意判例紹介1」を続けます。 事案は、Aに対し債権を有するXがA所有建物賃借人Bらに対する賃料債権を差し押さえたところ、Aは、この建物をYに譲渡し、Yが賃借人Bらに対し、賃料はYに支払うよう催告し、賃借人Bらは債権者不確知(民法494条)と差押(民事執行法156条1項)の両者を原因とする賃料の供託をし(混合供託)、XがYに対し、この供託金の還付請求権を有することの確認を求める訴えを提起したもので、建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に建物を譲り受けたYが賃貸人の地位の移転に伴う賃料債権の取得を差押債権者Xに対抗することができるかどうかが問題になりました。 ○給料や賃料等の継続的収入についての債権の差押えの効力は、差押債権者の債権額を限度として債務者が差押後に受け取るべき収入にも及び、既に発生している債権のほか、将来において発生すべき債権にも差押えの効力が及びます。 民事執行法151条(継続的給付の差押え) 給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。 このため、建物の賃料債権の差押えの効力発生後に差押債務者が賃料債務を免除しても、差押債権者に対抗することができないとされています(昭和44年11月6日最高裁判決、民集23巻11号2009頁、判タ246号106頁)。 ○ところが継続的収入についての債権の差押えを受けた債務者もその発生の基礎である法律関係を変更、消滅させる自由を奪われないとされており、債務者が、給料を差し押さえられた後に辞職することも、賃料を差し押さえられた後に賃貸借契約を合意により解約することも妨げられないと解されています(兼子一「増補強制執行法」200頁、中務俊昌「取立命令と転付命令」民訴法講座四巻1181頁、賀集唱「債権仮差押後、債務者と第三債務者との間で被差押債権を合意解除しうるか」判夕197号146頁、注解民事執行法(4)484頁〔稲葉威雄〕、注釈民事執行法(6)315頁〔田中康久〕等)。 ○賃貸借建物の譲渡があった場合、昭和39年8月28日最高裁判決(民集18巻7号1354頁、判タ166号117頁)は、特段の事情のない限り、建物の賃貸借関係は新所有者と賃借人との間に移り、新所有者は賃貸人の地位を承継することになると判示しています。しかし、賃料債権が差し押さえられた後に建物が譲渡された場合に、債権差押えの効力が譲渡後に弁済期が到来する賃料にも及ぶか否かに関しては、見解が対立し、学説には、肯定・否定両説がありました。 ○肯定説は、建物の譲渡後も債権差押の効果が継続し、新賃貸人は賃料を受領出来ないとします(宮脇幸彦「強制執行法(各論)」122頁、注解民事執行法(4)484頁〔稲葉威雄〕)が、これに対しては、賃料債権の差押の有無は公示されていないから、建物の賃料債権が差し押さえていることを知らずに建物を取得した譲受人に不測の損害を及ぼすおそれがあるとの批判がありました。但し、賃料債権の差押えの効力が建物の譲受人に及ぶことによって契約の目的を達成することができない場合には、善意の譲受人は譲渡人に対して瑕疵担保責任を追及することが可能です。 ○否定説は、建物の譲受人は賃料債権の差押命令の拘束を免れると解し、新賃貸人が賃料を取得して、差押の効力はなくなるとしますが、これに対しては、執行免脱を容易にし、差押債権者を不安定な立場に置くとの批判がありました。本件では、建物の譲受人が譲渡人の債権者で賃料債権を取得することによって債権の回収を図ろうとしたもので、差押等対抗要件具備の先後によって同一の債権の帰属をめぐる優先関係を定めようとする民法の一般原則と整合しないことにもなります。 ○この問題について、平成10年3月24日最高裁判決(民集52巻2号399頁、裁時1216号1頁、判タ973号143頁、判時1639号45頁)は、建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に、建物が譲渡され賃貸人の地位が譲受人に移転したとしても、譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することができないとして、決着をつけました。 ○ですから競売アパートを賃料取得目的で競落しても、その賃料が差し押さえられていた場合、その差押の効力がなくなる即ち債権全額回収されるまで賃料を取得出来ません。競売物件としての賃貸アパートの入札を検討していますが、問題はないでしょうかとの相談を受けた場合、賃料差押債権者が居ると賃料は取得出来ない旨を注意し、その有無をシッカリ確認するようアドバイスしないと弁護過誤になりますので、注意が必要です。 以上:1,935文字
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