平成19年 7月20日(金):初稿 |
○「動産売買先取特権の基本-権利行使殆ど不可能だった」に記載したとおり、動産売買先取特権は民事執行の現場では殆ど無力でしたが、それまでの規定と判例の解釈では動産売買先取特権は有名無実だとの実務現場からの批判に応えて平成15年に民事執行法第190条が改正され、以下の条項が追加されました。 「3.債権者が執行官に対し次項の許可の決定書の謄本を提出し、かつ、第192条において準用する第123条第2項の規定による捜索に先立つて又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合 2 執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあつたときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができる。ただし、当該動産が第123条第2項に規定する場所又は容器にない場合は、この限りでない。」 ○この改正により、破産になった場合、破産管財人が動産売買先取特権対象物件を先取特権債権者に返還せず任意売却して売却代金を破産財団に組み入れるこれまでの処理が許されるかは疑問となっています。そこで仙台地方裁判所第4民事部では、仙台弁護士会会報に以下のような記事を掲載しています。 「しかし、民法上認められた担保権でありながら、事実上その実行ができないことは問題であるとの指摘を受けて、平成15年改正後の民事執行法190条2項において、債務者の任意の協力が得られない場合であっても、債権者が、執行裁判所の開始の許可を得て、その許可の決定書を執行官に提出することにより動産競売を開始する途が創設されました。他方、破産法改正に当たっては、上記民事執行法の改正を踏まえ、動産先取特権者に対し、売却代金につき優先弁済権を認めることなど、その実効性を確保するための特別の規定を設けることは見送られました。 以上のような、これまでの管財実務の論拠及び新破産法の立法経緯に照らすと、改正後の民事執行法下においても、破産管財人としての対応は、基本的には従来と変わるところはないと思われます。 もっとも、破産管財人が動産売買先取特権を考慮せず動産を転売しても不法行為、不当利得にならないとする下級審裁判例に対しては批判もあるところであり、先取特権者が動産競売の開始許可が認められる程度の関係証拠を揃えている場合に、破産管財人が当該主張を無視して売却した場合には不法行為、不当利得が成立すると考える余地もあるものと思われます。 また、支払停止直前の取り込み的取引によって引渡しを受けた商品があるときなど、事情によっては、当該債権者の利益保護のため、先取特権を認めて動産を引き渡したり、廉価に売り戻すなどして公平を図るべき場合があることは否定できませんし、このほか、先取特権者との利害状況によっては、一般に売却するよりも高い価格での売戻しにより、財団の増殖を図ることができる場合もあり得るところです。 このように、先取特権者に対しては、破産管財人におかれまして、当該事案に照らして適切な対応をされるようお願いいたします。」 以上:1,242文字
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