平成19年 3月 4日(日):初稿 平成20年 8月19日(火):更新 |
※平成20年8月19日、この記事の内容で、契約終了による建物買取請求権について期間満了、合意解約の両者の違いについてご質問があり、従前の記載は不明確であったため、この部分の記載を更新しました。しかし、記事はあくまで私の備忘録であり、正確性については担保致しませんので予めご了承お願い申し上げます。 ○借地借家法の話しです。建物所有目的での土地賃貸借契約書の殆どのサンプルには 第○条(原状回復義務) 1.本契約が終了したときは、借主は自己の費用で本件土地を原状に復し、これを貸主に返還する。 2.土地の返還が遅延した場合、借主は貸主に対し賃料の○倍相当額の遅延損害金を支払う。 と記載されています。 ○これは土地を借りてその上に建物を建築して使用する土地賃貸借契約が終了した場合、借主は終了と同時に建物を解体収去して土地を元の更地の状態に戻して貸主に返還しなければならず、もし建物の解体収去をせず土地を更地にしての返還が遅れた場合、それまで例えば月額10万円だった賃料額の2倍の賃料相当損害金を支払うとの条項です。 ○しかし現実にはこの条項は殆どの場合機能しません。借地借家法13条で「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」と借主の建物買取請求権が規定されており、これは当事者の約定では覆すことが出来ない強行規定とされているからです。 ○土地賃貸借契約が期間満了で終了し或いは期間満了後の借地権者の土地使用継続に対し賃貸人が有効な異議を出して契約更新が生じなかった場合、その土地の上に建物が残っている場合、借主は貸主に対し、残った建物を時価で買い取れと請求でき、この請求権を行使すると貸主は建物を時価で買い受けたことになります。借地権者が期間満了時に契約更新請求をしなくても建物買取請求権を行使することは出来ます。 ○合意解約によって土地賃貸借契約が終了する場合は、合意に至る時に建物をどうするかについての協議があり、この協議の決するところによることが多いと思われます。旧法時代の最高裁昭和29年6月11日判例(判例タイムズ41巻31頁)では、建物買取に関する合意が存在しない限り、買取請求権の放棄・建物収去が当然の前提と解すべきとしました。しかし合意解約と期間満了で区別する合理的理由はないので建物買取請求を認めるべきとの学説も有力に主張されていますが、現時点では新法になってからのこの点に関する判例は私が利用する判例データベースでは見出せません。 ○建物買取請求権が行使されると貸主は建物を時価で買い受けたことになり、例えば時価が300万円の場合、契約終了後であってもこの300万円の支払を受けるまでは建物を留置し土地を占有し続けることが出来ます。但し、賃料不払等借主の義務違反による解除では建物買取請求権は発生しません。 ○従って上記の原状回復義務の規定は借主の建物買取請求権行使によって実質的には効力が無くなります。但し借主は契約終了後でも建物買取請求を行使してその建物に住み土地を専有している間は終了前の契約で定めた賃料を損害金として支払わなければなりません。 ○貸主が借主に賃貸借契約終了を主張し、建物収去土地明渡の訴えを提起し、借主が契約の存続を主張して争い、貸主の主張認められ借主に建物収去土地明渡判決が出されて確定した後でも借主は建物買取請求権を行使して買取代金を支払うまでは明渡を免れることが出来ます(最高裁判決昭和52年6月20日裁判集民121号63頁)。 ○貸主が建物収去土地明渡確定判決によって強制執行をかけても借主は建物買取請求権を行使して強制執行に対し請求異議の訴えを提起することが出来、これによって強制執行にストップをかけることが出来ます(最高裁判決平成7年12月15日民集49巻10号3051頁判タ897号247頁)。 ○このように建物買取請求権は大変強い権利ですが、市販されている土地賃貸借契約書サンプル集にはこのことを殆ど解説せず、安易に上記の明渡条項が記載され、仲介業者もこのことについて意識のない場合が多く、注意が必要です。 以上:1,735文字
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