平成19年 1月16日(火):初稿 |
○私が弁護士になって5年目の昭和59年の話しですが、Aさんが友人の依頼でT銀行に対する借入金債務の担保に自己所有地を提供していたところ、その会社が倒産して、返済不能になり担保提供地がT銀行から競売にかけられ、普通の売買であれば1000万円程度する土地なのに、裁判所から通路がないと認定されて、最低売却価額が3分の1程度の342万円とされ、隣接地所有者Bさんの長男Dさんが360万円で入札して売却許可決定を受けました。 ○このAさんから、相談を受けました。Aさんは、甲地は少なくとも600万円の価値があり、実際、600万円で買いたいと言っている人が居るのに、隣接地所有者のBさんが僅か360万円で買い受けることになってしまったのは不当なので、何とか、Dさんへの売却と取り消して貰いたいと言います。 ○そこで私がAさんの代理人として、仙台地方裁判所のBさんへの362万円での売却許可決定に対する執行抗告を仙台高等裁判所に出して、売却許可決定取消の決定を得た事例を以下に紹介します。 これは平成19年1月17日開催予定九士会でのレジュメを兼ねるものです。 尚、抗告理由は別コンテンツで紹介します。 ○平成17年4月1日改正民事執行法により最低売却価額制度が見直され、新しく売却基準価額・買受可能価額の制度が導入され、評価書に記載された評価額に基づいて「売却基準価額」(これまでの最低売却価額と同じ価格水準)が定められ、「売却基準価額」からさらに2割を控除した額を「買受可能価額」と言い、買受可能価額以上の額であれば、買受け申出(入札)ができるようになりました。 新制度では、「売却基準価額」と「買受可能価額」の両方が公告されます。 ****************************************** 昭和60年(ラ)第49号 決 定 仙台市○町二丁目11番14号 抗 告 人 甲 野 太 郎 上記代理人弁護士 小 松 亀 一 仙台地方裁判所昭和59年(ケ)第583号不動産競売事件について同裁判所が昭和60年5月14日にした売却許可決定に対し、所有者である抗告人から執行抗告の申立があった。よって当裁判所は次のとおり決定する。 主 文 原決定を取消す。 本件売却を許可しない。 理 由 一 本件抗告の趣旨は主文同旨であり、その理由は別紙抗告理由書のとおりである。 二 よって判断するに、記録によれば次の事実が認められる。 1 抗告人は、昭和38年12月10日、本件競売不動産(○市□森字△島50番35山林466平方メートル、以下「本件土地」という。)を乙野二郎から買受け、同月17日その所有権移転登記を受けた。 2 ところで、本件土地は道路に接しないいわゆる袋地であったので、抗告人は、本件土地から公路に至るまでの通路(幅員約2.8メートル)として使用すべく、昭和38年12月28日、右乙野二郎及び丙野三郎との間で、同所50番37山林23平方メートル(所有者丙野三郎)、同所39番24山林42平方メートル(所有者丙野花子)、同所39番26山林36平方メートル(所有者乙野二郎)の各共有持分3分の1を買受け、上記三筆の土地を同土地に接する土地所有者(抗告人、丙野三郎、乙野二郎及びその承継人)において同等に通路として利用する権利を有することを認める旨の合意をなし、抗告人は、上記契約相手方の丙野三郎、乙野二郎の両名に対し、上記共有持分買受代金として3万0990円を支払った(なお、上記移転登記は遅延していたところ、昭和60年9月11日上記三筆のうち50番37及び39番24の二筆につきいずれも抗告人のため共有持分3分の1の所有権一部移転登記が経由され、残りの39番26の土地については、乙野二郎が移転登記に応じないため、同年9月9日同人を被告とする同土地につき共有持分3分の1の移転登記手続請求の訴訟が抗告人から仙台簡易裁判所に提起され、上記訴訟は、同年10月2日の第一回口頭弁論期日において、本件売却許可決定を受けた乙野四郎が乙野二郎の代理人として出廷し請求原因事実を認めて結審となり、同月23日抗告人勝訴の判決となった。 3 ところで、原審裁判所から本件土地の評価を命ぜられた評価人は、その評価に際し、本件土地の地積について30パーセント程度の縄のびが考えられるとしながら、登記簿上の地積によることとし、かつ、前記通路事情不明のため、本件土地は道路に接しない土地いわゆる盲地に準ずる土地として、標準的価格より応分の減額査定をして一平方メートルあたりの価額を7350円と算定のうえ、これに公簿面積を乗じた数額本件土地の評価額とし、原審裁判所は右評価額である342万円を最低売却価額と定めて本件土地の売却を実施し、上記価額を超える360万円で買受けの申出をした前記乙野四郎に対し売却許可の決定をした。 4 なお、上記売却許可決定の後、抗告人代理人の依頼に基づきなされた不動産鑑定評価書によれば本件土地の評価額は638万4000円となっており、また、本件土地につき前記通路部分を含めて代金600万円で買受けたい旨を抗告人に申入れている第三者がいる。 三 以上の事実によれば、前記評価人は本件土地面積を実際より過少に認めて評価した点で既に誤りがあるうえ、前記通路事情も全く考慮されておらず、原審裁判所は、上記のような誤りを含む評価に基づいて本件土地の最低売却価額を決定したもので、前記縄のびによる地積の相違度及び前記二4記載の本件土地の評価額等を考慮すると、上記最低売却価額は本件土地の正当な価額に比し著しく低額であるというべきである。 四 よって、原決定はその最低売却価額の決定に重大な誤りがあるから、これを取消して売却不許可とすることとし、主文のとおり決定する。 昭和60年11月14日 仙台高等裁判所第二民事部 裁判長裁判官 清水次郎 裁判官 岩井康倶 裁判官 西村則夫 以上:2,531文字
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