平成18年10月25日(水):初稿 |
○「宅地建物取引主任者の重要事項等の説明義務」で不動産取引における取引主任者の責任の重要性、特に重要事項説明義務について検討しましたが、今回は、A所有欠陥ビルの売買を仲介した仲介業者とその取引主任者個人Bのみならず、買主Xの相続税問題等の相談を受けていた税理士C、Aを有力な取引先として売買の仲介的役割を果たしXに売買代金を融資した銀行支店長Dまで不法行為責任を認められた事案(東京地裁平成10年5月13日判時1666号85頁)を紹介します。 ○買主Xは、Aから敷地建物を約7億円で買い受けました。しかし建物は数年前から度々雨漏りをして応急修理をしてきましたが、段々雨漏り箇所が増え、その原因は地盤の不安定性による変則的変形等があると工事業者から報告を受けている補修不能な欠陥建物だったことが判り、Xは、欠陥を隠して売買契約を締結させて損害を与えたとして、A、B、C、D等に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をしました。 ○取引主任者Bは、売買契約前の重要事項説明に当たりこの事実を告げず、地震でクラックが入って過去に雨漏りがしたことがあるが修理して現在は止まっている趣旨の説明をしました。これは取引主任者として重大な義務違反行為であり不法行為責任が認められました。これは当然の結論です。 ○更に買主Xの相続税問題等の相談を受け更にXがAから買い受けた土地の一部の転売を受けると言う関係にあった税理士Cについても、このようの事情の下では、建物の欠陥についての取引主任者Bの不実な説明について積極的に正す説明をする義務があり、これを怠ったとして不法行為責任が認められました。 ○売主Aが銀行の有力な取引先であり、銀行支店長DはA側の仲介者兼財務コンサルタントとしての役割を果たしていたもので、重要事項の説明は取引主任者の義務であるが、その説明が不正確で買主Xに誤解を与えかねないものであった以上、積極的にこれを正す説明をしなかったのは告知義務違反に当たるとして不法行為責任が認められ、勿論、銀行もDの行為が職務執行行為として使用者責任が認められました。 ○ところが肝心の売主Aについては建物の欠陥状況について重要な内容との認識がなかったとして不法行為責任は認められませんでした。 ○この事案は、取引主任者の責任が認められるのは当然のことですが、この不動産売買に関与した税理士と仲介財務コンサルタントとしての役割を果たした銀行支店長個人まで責任が認められたことが注目されます。税理士は勿論のこと銀行支店長としても一種の専門職であり、素人の顧客を相手にするときは、不測の損害を被らせないようにする高度な注意義務が課されていることになります。我々弁護士も含めて専門家は高度な注意義務が課されていることを認識し慎重に行動する必要があります。 以上:1,152文字
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