平成18年10月26日(木):初稿 |
○専門家の責任として宅地建物取引主任者の例を検討してきましたが、我々弁護士も専門家として高度な注意義務が課せられその注意義務違反について損害賠償請求される例があり、刑事弁護活動ですら「行き過ぎ」として80万円の慰謝料支払義務が認められた例を紹介します。高松高判平成17年12月8日判例時報1939号36頁掲載事案です。 ○Aに対する強姦容疑で逮捕されたBから弁護を依頼された弁護士Cは、Bの説明からAとの合意による性交渉であり、Bの強姦は無実と確信し、Aの強姦告訴は虚偽でむしろAの方が犯罪者と考え、Bの無実をはらすべく最善の努力をしその一環としてAの同意を得て面談するなど正当な弁護活動と思って活動していました。 ○これに対しAは、Cが深夜Aに面談を強要し、本人が明確に拒否しているのに自宅に押しかけ、事実を知らないAの両親に暴露すると申し向け、且つ裁判が公開であることを理由に告訴の取下や示談を強いたものであり、正当な弁護活動の範囲を逸脱していると主張し、110万円の慰謝料支払を求めました。 ○一審の徳島地裁では、概ねA主張に沿う事実を認めながらも、Cの弁護活動は行き過ぎの面があるが、事実経過に照らすと、正当な弁護活動の範囲を超え、社会的に許容される範囲を逸脱したとまでは言えないとしてAのCに対する慰謝料請求を認めませんでした。 ○これを不服としてAが控訴し、高松高裁からCは最終的にはAに対し慰謝料80万円、弁護士費用10万円の合計90万円の支払を命じられ、最高裁に上告受理申し立てするも不受理となり確定したようです。 ○AとBが知り合ったきっかけは出会い系サイトであり且つBのAに対する強姦現場はラブホテルだったこと又Bが多数のAの裸体写真を撮影していたこともあり、CとしてはAの言い分に分があると考えたようです。実際、Bは逮捕後20日間勾留されるも、処分保留で釈放され最終的には不起訴になっています。 ○Aは不法行為に基づく損害賠償としてBに330万円、Cに110万円の支払を求める訴えを提起し、最終的にはBに対しては満額、Cに対しては90万円の支払を命じられ確定し、B・C側は完敗に終わりました。 ○一審では正当な弁護活動の範囲を超え、社会的に許容される範囲を逸脱したとまでは言えないとされたCの弁護活動は、高裁ではAが嫌がっていることを認識しながら執拗且つ強引に面会を求め、裁判の公開をことさら強調して告訴取下と示談を強硬に迫ったこと、Aが取下ないとみると虚偽告訴罪でAを告訴したCの一連の活動は、社会常識に照らし明らかに行き過ぎであり、違法性を帯びると結論づけられました。 ○Cは自分の依頼者の言い分を一方的に信じて、相手の立場に対する配慮が全くない活動に終始し、押し付けられると却って反発する人間の特性に余りに無知であったと言わざるを得ず、その熱心さが却って紛争を大きくしてしまった感があります。大いに自戒すべきと感じた次第です。 以上:1,210文字
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