令和 7年 2月 5日(水):初稿 |
○「他主占有者の相続人に独自占有に基づく時効取得を認めた最高裁判決紹介」の続きで、その根拠となった昭和46年11月30日最高裁判決(判タ 271号179頁、判時652号37頁)全文を紹介します。 ○相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法185条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきであるとしました。 ********************************************* 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人○○○○の上告理由について。 所論の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではなく、右認定判断の過程に所論の違法を認めることはできない。 そして、原審の確定した事実によれば、訴外奥田熈次は、かねて兄である被上告人から、その所有の本件土地建物の管理を委託されたため、本件建物の南半分に居住し、本件土地および本件建物の北半分の賃料を受領していたところ、同訴外人は昭和24年6月15日死亡し、上告人らが相続人となり、その後も、同訴外人の妻上告人片田さき子において本件建物の南半分に居住するとともに、本件土地および本件建物の北半分の賃料を受領してこれを取得しており、被上告人もこの事実を了知していたというのである。しかも、上告人奥田伊津子および同浜口奈美が、右訴外人死亡当時それぞれ6才および4才の幼女にすぎず、上告人片田はその母であり親権者であつて、上告人奥田および同浜口も上告人片田とともに本件建物の南半分に居住していたことは当事者間に争いがない。 以上の事実関係のもとにおいては、上告人らは、右訴外人の死亡により、本件土地建物に対する同人の占有を相続により承継したばかりでなく,新たに本件土地建物を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものというべく、したがつて、かりに上告人らに所有の意思があるとみられる場合においては、上告人らは、右訴外人の死亡後民法185条にいう「新権原ニ因リ」本件土地建物の自主占有をするに至つたものと解するのを相当とする。これと見解を異にする原審の判断は違法というべきである。 しかしながら、他方、原審の確定した事実によれば、上告人片田が前記の賃料を取得したのは、被上告人から右訴外人が本件土地建物の管理を委託された関係もあり、同人の遺族として生活の援助を受けるという趣旨で特に許されたためであり、右上告人は昭和32年以降同37年まで被上告人に本件家屋の南半分の家賃を支払つており、上告人らが右訴外人の死亡後本件土地建物を占有するにつき所有の意思を有していたとはいえないというのであるから、上告人らは自己の占有のみを主張しても、本件土地建物を、時効により取得することができないものといわざるをえない。したがつて、上告人らの取得時効に関する右主張を排斥した原審の判断は、結局相当であり、原判決の前記の違法はその結論に影響を及ぼすものではない。 その余の点については、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 よつて、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷) 以上:1,485文字
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