令和 4年 3月16日(水):初稿 |
○共同相続人の一人に対する定期預金債権の特定遺贈の効力が右債権を除くその余の遺産についての分割協議の成立により失われたとした原審の判断に違法があるとした平成12年9月7日最高裁判決(金融法務事情1597号73頁)全文を紹介します。 ○事案は、被相続人Aが自筆証書により、その所有する不動産、株式、預貯金を上告人の妻に遺贈する旨の遺言をしていましたが、遺言書の存在は知りながら、定期預金の存在を知らないままに遺産分割の対象とせずに相続人全員で遺産分割協議をし、その後、定期預金の存在を知って、妻が定期預金は自分が有することの確認を求めたところ、子らが争い、遺産としてその遺産分割を求めたものです。 ○原審は、遺産分割協議が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当であるから、本件遺言による遺贈の効力はもはや本件定期預金には及ばないとしました。しかし最高裁判決は、本件定期預金は、遺産分割協議の対象とはされておらず、上告人による遺贈の放棄はされなかったというのであるから、他に右遺贈の無効事由についての特段の主張立証のない本件においては、本件定期預金はAの死亡により直ちに上告人に帰属したとして妻の主張を認めました。 ********************************************** 主 文 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。 上告人が原判決別紙定期預金目録記載の定期預金債権を有することを確認する。 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。 二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 1 Aは、昭和55年12月22日、自筆証書により、その所有する不動産、株式、預貯金を上告人に遺贈する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をした。 2 Aは、平成3年8月2日に死亡した。その法定相続人は、妻である上告人並びに子であるB、被上告人C、同D及び同Eの合計5名である。 3 第一審判決別紙遺産目録記載のAの遺産は、本件遺言により上告人に対して遺贈されたものであるが、上告人を含む相続人らは、平成4年1月8日、右遺産につき、本件遺言の趣旨とは異なる内容の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)を成立させた。 4 本件遺言書は右協議の最中に発見され、相続人全員が本件遺言の存在及びその内容を知った。 5 原判決別紙定期預金目録記載の定期預金債権(以下「本件定期預金」という。)も、Aの遺産であり、本件遺言により上告人に対して遺贈されたものであるが、右協議の時点では、上告人を含む相続人らにおいて遺産に属すると認識していなかったため、本件遺産分割協議の対象とはされなかった。 6 被上告人らは、本件定期預金がAの遺産であると主張してその遺産分割を求めており、これに対し上告人は、本件定期預金が自己に帰属するものであると主張している。 三 原審は、(一)本件定期預金は、本件遺言により上告人に対して特定遺贈されたものである、(二)上告人が、本件遺産分割協議において、本件定期預金について遺贈の放棄をしたものとは認められない、(三)しかし、本件遺産分割協議が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当であるから、本件遺言による遺贈の効力はもはや本件定期預金には及ばないとして、上告人の本訴請求を棄却すべきものと判断した。 四 しかしながら、右三(三)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 前記事実関係によれば、本件定期預金は、本件遺言により上告人に対して特定遺贈されたものであるところ、本件遺産分割協議の対象とはされておらず、上告人による遺贈の放棄はされなかったというのであるから、他に右遺贈の無効事由についての特段の主張立証のない本件においては、本件定期預金はAの死亡により直ちに上告人に帰属したものというべきであり、本件遺産分割協議の成立は、右遺贈の効力を何ら左右するものではない。 五 以上の次第で、本件遺言による本件定期預金の遺贈の効力を否定して、上告人の本訴請求を棄却すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。前記説示したところによれば、本件定期預金が自己に帰属することの確認を求める上告人の本訴請求は理由があるから、第一審判決を取消した上、右請求を認容すべきものである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 遠藤光男 井嶋一友 大出峻郎 町田顯) 以上:1,909文字
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