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自賠責14級神経症状後遺障害を12級と認めた地裁判決紹介

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令和 4年 3月15日(火):初稿
○後頚部痛,右肩の疼痛,左上肢のしびれ等の頚椎捻挫後の症状について、「他覚所見」がないとして自賠責後遺障害としては14級と認定されることが多く、いったん、14級と認定されると、「他覚所見」があるので12級と主張しても、保険会社は自賠責認定を盾にして、12級を認めることは殆どなく、また、異議申立をしても、殆ど変わりません。

○そこで12級を前提とした訴訟を提起する例は多いのですが、訴訟においても保険会社は自賠責14級認定を盾にして厳しく徹底的に争い、医学的知識のない裁判官は、保険会社主張に傾き、なかなか他覚所見を認めようとしません。私も同様事例を多数扱い、現在も数件抱えています。

○自賠責認定後遺障害等級第14級神経障害について、一般に,無症状の頚椎病変が交通事故等による外力が加わることで有症状化することは医学的にあり得る、本件事故を契機として頚椎椎間板ヘルニアが増悪したと認められるところ,本件事故後に生じた左上肢の痺れ等の神経症状は,増悪した頸椎椎間板ヘルニアによる脊髄圧迫に起因するものとして合理的に説明できる、原告の神経症状は,既往症である頚椎椎間板ヘルニアが本件事故により有症状化し,増悪することによって残存したものと認めるとして、12級を認めた画期的裁判例である令和3年1月15日大阪地裁判決(交民54巻1号77頁、自保ジャーナル2089号33頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,627万2799円及びこれに対する平成26年4月9日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その4を原告の負担,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1095万4759円及びこれに対する平成26年4月9日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,大阪府吹田市内の交差点(片側幅員4.5メートルの車道に左右それぞれ幅員3.4メートルの歩道が付された南東~北西方向の直線道路に,北東方向から幅員6.8メートルの突当り路が歩道を横切って車道まで接続している丁字交差点。以下「本件交差点」という。)において,直線道路(歩道)を北西方向に走行し,本件交差点(歩道延長部分)に進入した原告運転の自転車(以下「原告自転車」という。)と,直線道路(車道)を原告自転車と同じく北西方向に走行し,突当り路に右折進入しようとした被告運転の普通自動二輪車(以下「被告車両」という。)が衝突し,原告自転車が転倒した交通事故(以下「本件事故」という。)によって,原告が頸椎捻挫症,右上腕打撲,右手打撲,右大腿打撲,頚髄損傷等の傷害を負い,後遺障害を残したこと等により,別紙「損害整理表」の「原告の主張」欄のとおり1095万4759円の損害を被ったところ,被告には車道から右折して歩道に進入するに当たり,歩道上の自転車や歩行者の有無を確認し,安全を確認すべき注意義務を怠った過失があり,また,被告は被告車両の運行供用者であるとして,不法行為(民法709条)又は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条による損害賠償請求権に基づき,1095万4759円及びこれに対する平成26年4月9日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第3 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,証拠の番号は甲乙の符号と番号のみで表記し,枝番のある証拠につき枝番を表記しない場合は枝番を含む。)


(中略)


第4 当事者の主張
 1 原告の主張



(中略)


(2) 原告の損害
 原告は,本件事故により,頸椎捻挫症,右上腕打撲,右手打撲,右大腿打撲,頚髄損傷の傷害を負い,前提事実2のとおり通院治療を受け,前提事実3(1)のとおりの後遺障害(後遺障害等級12級相当)を残したこと等により,別紙「損害整理表」の「原告の主張」欄のとおり,1095万4759円の損害を被った。


(中略)


第5 当裁判所の判断
1 本件事故の態様(原告及び被告の過失の有無ないし程度,過失割合)について



(中略)



2 原告の後遺障害について
(1) 原告の後遺症状

 前提事実3(1)のとおり,後遺障害診断上,原告には,①後頚部痛,左上肢のシビレ,左IⅡ指のシビレ等の神経症状(以下「神経症状」という。)のほか,②右肩の疼痛及び右肩関節の可動域制限(以下「右肩症状」という。)の後遺症状が残存したものとされている。被告は,これらの後遺症状につき,本件事故との間に相当因果関係がない旨主張するため,以下検討する。

(2) 神経症状について
ア 原告は,①本件事故当日の箕面市立病院受診時に,後頚部から上背部にかけての軽度鈍痛(右側屈時)や右半身の疼痛を訴えたが,神経学的異常所見はなく,痺れ等の神経症状を訴えていなかったところ(一覧表番号1),②平成26年4月18日の同病院受診時に左肩から上腕にかけての痺れや右肩痛を訴え(同番号2),③同年5月2日には,同年4月11日(本件事故2日後)から自覚する症状として,左上腕後側から前腕尺側,環指と小指の痺れと痛みを訴えており(同番号3),④以降,継続的に同様の症状を訴えている(同番号6,13,15,16,18,20,21,25)。

イ ここで,原告の頚部(頚椎)に係るMRI検査の結果をみると,①平成26年4月18日時点で,頚椎の変形性変化,椎間板の変性・膨隆があり,C5/6及びC6/7椎間板が後方に突出し,脊髄を圧迫していることが認められ,②同年7月8日時点では,①と同様の椎間板の変性・膨隆があり,C5/6椎間板の左後方突出,C6/7椎間板の右後方突出がそれぞれ増悪していることが認められていて,③平成27年3月9日時点では,同様の椎間板の変性・膨隆があって,C5/6椎間板の左後方への突出がさらに増悪し,C6/7椎間板の右後方突出もわずかに増悪していることが認められている(一覧表番号2,5及び19,甲77)。

 このように,原告の頚椎椎間板の突出(ヘルニア)は,経時的に増悪し,脊髄への圧迫も強くなっているが,A医師(放射線診断専門医)及びB医師(整形外科)の医学的意見によれば,この頚椎椎間板ヘルニアの増悪は,頚椎に軸圧が加わることで椎間板繊維輪が破綻して髄核成分が突出し,漏出を続けたことによるもので,本件事故を契機として,既往の頚椎椎間板ヘルニアが進行したものと考えられるというのである(甲77,乙13:7頁)。

 頚椎(C5~C7)は,腕から手にかけての神経を支配する神経根がある部位であって,一般に,無症状の頚椎病変が交通事故等による外力が加わることで有症状化することは医学的にあり得る事象である。そして,上記のとおり,原告については,本件事故を契機として頚椎椎間板ヘルニアが増悪したと認められるところ,本件事故後に生じた左上肢の痺れ等の神経症状は,増悪した頸椎椎間板ヘルニアによる脊髄圧迫に起因するものとして合理的に説明できるというべきである。したがって,原告の神経症状は,既往症である頚椎椎間板ヘルニアが本件事故により有症状化し,増悪することによって残存したものと認めることができる。

ウ なお,原告の頚部には,MRI検査(平成26年4月18日)によって,C5/6付近の頚髄に淡い高信号領域(損傷所見)が認められ,その後の検査(平成26年7月8日,平成27年3月9日)において,その高信号領域が明瞭化している(一覧表番号2,5,19)。

 この頚髄損傷所見について,A医師は,要旨,本件事故により頚髄損傷(中心性脊髄損傷)が生じ,損傷部の瘢痕化によって病変部の境界が明瞭化したものであるとの見解を示し(甲77),他方で,B医師は,要旨,頸椎症(頚椎椎間板ヘルニア)に由来する頚髄損傷であって,本件事故後に頚椎椎間板ヘルニアがゆっくりと進行し,その機械的圧迫により脊髄中心部が変性ないし壊死することで,高信号領域が濃くなったものであるとの見解を示している(乙13)。

 この点,上記頚髄損傷所見と原告の後遺症状(神経症状)との関連性は明らかではないが,その関連性があると仮定しても,前者(A医師の見解)を前提とすれば,中心性脊髄損傷は「麻痺の発現には受傷前から存在する脊柱管狭窄が重要な背景となるため,加齢に伴う頚椎変性疾患をすでに有する中高年齢者に好発する」,「圧迫を受けていた,或いは先天的に狭い脊柱管に収められていた脊髄は易損性が高く,転倒などの軽い外力によってでも麻痺を発症する」等の臨床的特徴を有する疾患であるから(乙13参考資料1),既往症である頸椎病変がその発症に寄与したものと考えられ,後者(B医師の見解)を前提としても,前記イのとおり,原告の頸椎椎間板ヘルニアは本件事故を契機として増悪したものであるから,いずれにしても,既往症である頸椎病変と本件事故による外力とが相まって後遺症状が生じたという点で異なるところはない。

エ 以上のとおり,原告の後遺症状(神経症状)は,既往症である頸椎病変を背景として,これに本件事故による外力が加わったことで生じたものと認められ,本件事故との間に相当因果関係のある後遺障害であるということができる(もっとも,既往症が寄与しているものであるから,後記3のとおり,素因減額を行うのが相当である。)。そして,この後遺障害は,その症状を医学的観点から他覚的に説明できる神経症状であるから,後遺障害等級としては,12級に相当するものというべきである。

(後略)

以上:4,030文字

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