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遺言書成立日と異なる日付の自筆証書遺言を無効とした地裁判決紹介

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令和 3年 9月 9日(木):初稿
○「遺言書成立日と異なる日付の自筆証書遺言を無効としない最高裁判決紹介」の続きで、遺言書成立日と異なる日付の自筆証書遺言を無効とした平成30年4月20日名古屋地裁判決(金融・商事判例1620号35頁)の無効理由部分を紹介します。

○遺言者亡aの妻子である原告らが、遺言者の内縁の妻及び同人と遺言者との間の子である被告bら及び被告遺言執行者に対し、本件遺言が無効であることの確認を求めるとともに、被告bに対し、遺産である各不動産につき、被告bに対する所有権移転登記の抹消登記手続をそれぞれ求めました(本訴)

○これに対し、被告bらが、本訴において本件遺言が無効であると判断された場合に予備的に、遺言者が、被告bらに対し本件遺言書を示すなどして、遺産を被告bらに死因贈与したとして、原告らに対し、遺言者と被告bらの間の死因贈与契約が成立したことの確認を求めるなどしました(反訴)。

○名古屋地裁判決は、本訴については、本件遺言は、本件遺言の成立日と本件遺言書記載の日付が異なることにより無効であると認められ、本訴請求はいずれも理由があるとしてこれを認容し、反訴については、遺産についての所有権、共有持分権などの確認請求については、確認の利益が認められないとして不適法却下し、遺言者の被告bに対する死因贈与契約の申込みと承諾の意思表示があったとはいえず、その余の反訴請求は理由がないとして、これを棄却しました。

○遺言書成立を、極めて厳格に解釈したとする平成元年2月16日最高裁判決を挙げていますが、その最高裁判決は、私の判例データベースには掲載されておらず、裁判所判例データベースHP等を探しているところです。

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主   文
1 名古屋家庭裁判所が同庁平成27年(家)第1512号遺言書検認申立事件につき平成27年6月25日検認した遺言者aの自筆証書遺言は無効であることを確認する。
2 被告bは,別紙物件目録記載1の土地及び同2の建物につき,名古屋法務局平成27年9月18日受付第57747号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
3 被告bらの反訴請求(2)に係る訴えを却下する。
4 被告bらのその余の反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,本訴については被告らの負担とし,反訴については被告bらの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴請求
(1)主文第1項同旨
(2)主文第2項同旨
(3)訴訟費用は,被告らの負担とする。

2 反訴請求


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実


         (中略)

2 争点(2)(本件遺言が本件遺言書に記載された日付と実際の作成日が異なることにより無効か)について
(1)本件遺言の成立日

ア 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が遺言の全文,日付及び氏名を自書した上,押印することを要するが(民法968条1項),同条項が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解される(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁)。

そして,遺言者の真意を確保して遺言の真偽に関する紛争を予防し,併せて遺言の偽造,変造を困難ならしめるために,民法が遺言を厳格な要式行為としていることに鑑みれば,全文,日付及び氏名の自書並びに押印の全ての方式が具備された時点で初めて有効な遺言が成立すると解すべきである。

イ これを本件についてみると,前記認定事実によれば,遺言者が本件遺言書に押印したのは,平成27年5月10日であることが認められる。したがって,本件遺言書の全ての方式が具備されたのは平成27年5月10日であるから,本件遺言の成立日は,平成27年5月10日である。

(2)本件遺言が,本件遺言の成立日と本件遺言書に記載された日付が異なることにより無効か
ア 自筆証書により遺言をするには,遺言者が全文,日付及び氏名を自書した上,押印することを要するところ(民法968条1項),上記日付の記載は遺言の成立の時期を明確にするために必要とされるのであるから,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならない(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・集民120号531頁参照)。もっとも,自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても,その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には,上記日付の誤りは遺言を無効ならしめるものではないと解される(最高裁昭和52年(オ)第696号同52年11月21日第二小法廷判決・集民122号239頁参照)。

イ 前記前提事実及び前記認定事実によれば,担当弁護士2名は,平成27年4月13日,遺言者に本件遺言書の原案を渡したこと,被告bは,同月14日,上記遺言書の原案どおりの内容が記載され押印のない状態の本件遺言書を発見したこと,本件遺言書には「平成27年4月13日」と記載されていることが認められる。一方で,前記(1)によれば,本件遺言が成立したのは平成27年5月10日であるから,本件遺言書の日付は「平成27年5月10日」とすべきであったといえる。

そして,前記前提事実によれば,本件遺言書は,平成27年4月13日に作成され,同日の日付が記載されているのであるから,「平成27年4月13日」という記載が誤記であるとは認められず,その他に本件遺言書の記載からは本件遺言の真実の成立の日が平成27年5月10日であることをうかがわせる事実は認められない。

したがって,本件遺言書に記載された日付は真実の作成日と相違しており,その記載された日付が誤記であること及び真実の作成日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するとはいえない。加えて,本件においては,本件遺言書の全文,日付及び氏名の自書と押印との間には,27日もの期間が空いており,その間,遺言者は退院して自宅に戻り,本件遺言書の手直しを検討していたのであるから,これらの行為が一連の行為として行われたとも認められない。よって,本件遺言は,本件遺言の成立日と本件遺言書記載の日付が異なることにより無効である。

(3)被告bらは,押印や日付の自書は意思表示そのものではなく,全文自書の日に意思表示が成立したと解すべきであり,上記意思表示そのものではない要件については,全文自書の日すなわち意思表示が成立した日にされることを厳格に求めるべきではなく,本件においては,平成27年4月13日に遺言者が本件遺言書の全文を自書した時点で遺言の意思表示自体は成立しており,平成27年5月10日に押印したとしても,その押印は遺言者自らが同年4月13日に遺言の意思表示をしたという事実を証しているものにすぎないから,本件遺言が,本件遺言の成立日と本件遺言書に記載された日付が異なることにより無効とはいえない旨主張する。

しかし,前記(1)のとおり,民法が遺言を厳格な要式行為としていることに鑑みれば,遺言は押印を含めた全ての方式を具備して初めて有効な遺言として成立するというべきであり,押印を遺言者が遺言の意思表示をしたという事実を証するものにすぎないとみることはできないし,上記(1)のとおり,遺言者は退院して自宅に戻った後も遺言書の手直しを検討しており,押印するまで遺言の意思表示が成立していたと認めることもできない。したがって,被告bらの上記主張は採用できない


(後略)
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