令和 1年10月29日(火):初稿 |
○「法律事務所譲渡に伴う事件・顧問先の譲渡は”紹介”に該当するか?」の続きで、以下の、弁護士職務基本規程第13条の問題です。 現行弁護職務基本規程第13条(依頼者紹介の対価) 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。 2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない。 ○私は、「法律事務所譲渡に伴う事件・顧問先の譲渡は”紹介”に該当するか?」で、法律事務所譲渡に伴う受任中の事件や顧問先の他の弁護士への譲渡は、既に成立している事件委任契約や顧問契約という委任契約の受任者たる地位を譲渡する契約を締結することで、単なる「紹介」ではないので、弁護士職務基本規程第13条の対価授受の禁止の適用はなく、対価を受領できるとの結論を提示していました。 ○しかし、念のため日弁連調査室に照会すると、日弁調査室所属一弁護士の見解と断って、次のような回答が来ました。 ・職務基本規程13条を、厳格に解釈しており、事件委任契約、顧問契約いずれも、それが単なる紹介でも、委任契約地位の譲渡でも、対価の授受は一切できない。 ・法律事務所の事業譲渡に伴う場合であっても、事業譲渡対価に事件契約・顧問契約の譲渡対価を含ませることはできず、賃借権や什器備品等の対価名下に、事実上、事件契約・顧問契約の譲渡対価を上乗せすることも許されない。 ○なんとなく、いつもの日弁連らしいなと言う感じはありますが、ABA(米国法曹協会)規則では、厳格な要件の下に法律業務の売買が認められ、対価の取得も認められており、日本の職務基本規程にもこのような規程ができれば、事件契約・顧問契約の譲渡対価取得も可能になるでしょうとのことでした。 ○日弁連中枢の弁護士の解釈で、要するに事件契約・顧問契約の譲渡対価は一切取得できないとしています。この解釈だと、弁護士法人譲渡の場合も、法人譲渡の対価に、事件契約・顧問契約の譲渡対価は含ませることはできないことになります。こんな厳格解釈では、法律事務所承継は、全く進みません。賃借権や什器備品等の対価を高めに設定して、事実上、事件契約・顧問契約の譲渡対価を含ませることもできませんので。 ○確かに10年以上前の少数弁護士での殿様商売時代は、勤務弁護士が独立しても直ぐに商売になりましたので、法律事務所譲渡の需要はさほどなかったように思います。しかし、最近及び将来の大量弁護士時代には引退検討弁護士は、老後資金とするため事件・顧問先等対価を得て有効に処分したい考え、独立権等弁護士は経営確立のため対価を支払っても事件・顧問先を引き継ぎたいと考え、法律事務所有償譲渡の需要が高まると思われます。 ○弁護士職務基本規程について見直しが検討されているとのことで、現行の依頼者紹介対価授受禁止規定も、現実的なものに見直されて、法律事務所事業譲渡は例外的に適用しないとの方向になると思っていました。ところが、その見直し案は、【会員限り・取扱注意】となっているため記述できませんが、より明確に、弁護士に対する紹介対価授受を禁止する内容で、前述、日弁連調査室回答が納得出来るものでした。 ○これでは、法律事務所譲渡が進みません。合併等M&Aの場合も対価授受一切禁止となったのでは、これも進みません。日弁調査室見解はこうであるが、このような解釈は時代遅れで、柔軟解釈が必要との立場を打ち出すことも検討課題です。 以上:1,410文字
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