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事故態様と外傷性他覚所見から傷害と事故の因果関係を否認した地裁判決紹介

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令和 5年11月11日(土):初稿
○追突事故等で衝突態様が軽微であることを理由にむち打ち症等の傷害発生を、自賠責保険が認めないことが時々あります。医師が頚椎捻挫等の傷病名での診断書を発行しても交通事故との因果関係を否認されます。このような事案は、衝突態様から主張・立証が必要で、提訴に至らず諦めることも多くあります。

○被告車両が、原告が同乗する訴外C運転の普通乗用自動車に追突した交通事故で、原告が被告に対し、被告には本件事故の発生につき進路前方の原告車両の動静を注視し、安全な車間距離をとって被告車両を停止させるべき注意義務を怠って被告車両を原告車両に追突させた過失があり、本件事故によって原告が頸椎捻挫等の傷害を負い、損害を被ったとして、不法行為による損害賠償として約280万円の支払を求めました。

○これに対し、本件事故は、直ちに頸椎捻挫等の傷害が生じるような態様の事故ではなく、骨折その他の外傷性他覚所見も確認されていないにもかかわらず、原告は、右肩関節の顕著な可動域制限を訴えたほか、7ヶ月もの通院期間を通じて著変なく頸部痛や右肩痛を訴えていたのであって、事故態様や客観的な所見と主観的症状が極めて大きく乖離しているとして、本件事故との間の相当因果関係が認められないなどとして、原告の請求を棄却した令和4年4月26日大阪地裁判決(自保ジャーナル2139号64頁)を紹介します。

○判決は、原告は、平成16年頃にうつ病を発症し、平成25年1月以降、d心療内科において精神治療を受けていて、抑うつ、不安、不眠といった精神症状にとどまらず、「胸が痛む、右手がしびれる、頭痛がする、左足があがりにくい」などといった身体的症状も発現していたことによれば、本件事故後に原告が訴えた頸部痛や右肩痛、右肩挙上制限等の諸症状は、うつ病等の精神疾患を背景とした心因性のものであったことが強く疑われるとして、原告が本件事故当日のa病院受診時に頸部の違和感を自覚していたという限度で因果関係が認められたとしても、これを超えて頸椎捻挫、右肩挫傷、頸部挫傷、頸椎捻挫による放散痛、右肩腱板損傷といった傷害を負い、そのために頸部痛や右肩痛、右肩挙上制限等の諸症状が発現し、b整形外科及びc整形外科内科において通院治療を受ける必要性が生じたと認めることはできず、原告がb整形外科及びc整形外科内科に通院したことによって生じた損害については、交通事故との因果関係は認められないとしました。原告には、到底納得できない判決で、控訴しています。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告は,原告に対し,279万5170円及びこれに対する令和2年4月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 大阪市α区内の道路上において,被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)が,原告が同乗する訴外C運転の普通乗用自動車(以下「原告車両」という。)に追突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 本件は,原告が被告に対し,被告には本件事故の発生につき進路前方の原告車両の動静を注視し,安全な車間距離をとって被告車両を停止させるべき注意義務を怠って被告車両を原告車両に追突させた過失があり,本件事故によって原告が頸椎捻挫等の傷害を負い,通院治療を受けたこと等により別紙「損害整理表」の「原告の主張」欄のとおり合計279万5170円の損害を被ったとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき279万5170円及びこれに対する令和2年4月29日(不法行為日)から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第三 前提事実

              (中略)

第五 当裁判所の判断
1 本件の争点

 本件において,原告が助手席に同乗していた原告車両と被告車両との間で本件事故が発生したこと,本件事故の発生につき被告に過失があることについては当事者間に争いがない。
 本件の争点は,本件事故により原告が頸椎捻挫,右肩挫傷,頸部挫傷,頸椎捻挫による放散痛,右肩腱板損傷等の傷害を負い,損害が発生したか否かである。

2 本件事故による原告の受傷の有無について
(1)原告は,本件事故当日,a病院を受診して頸椎捻挫と診断されており(前提事実2),捻挫の病態は軟部組織(筋肉や靱帯)の損傷であって,交通事故(追突)による一般的な頸椎捻挫の受傷機序は,頸部が通常の可動域を超えて強制的に過伸展・過屈曲し,頸部付近の軟部組織に損傷が生じるというものである。

 この点,本件事故は,原告が「助手席(停車中)後方より車がぶつかった(一旦停止後にまた発進して)」,「後方よりの追突事故。それほど速度は出ていなかった」と申告していることに加え,追突された原告車両の後部に明らかな凹損や擦過傷がなく、ナンバープレート痕(被告車両のナンバープレートが当たった痕跡)が確認できる程度の損傷しかしていないことを踏まえると,原告車両に後続して一旦停止した被告車両がクリープ現象により低速で前進し,原告車両に追突したものであったと考えられる。

 しかるところ,このような低速度の追突により,原告の頸部が過伸展・過屈曲したとは考え難いというべきであって,原告は,本件事故の際,頭部が後方に動いてヘッドレストに激しくぶつかり,その後,頭部が前方に動いた旨供述するが,同供述に適確な裏付けはなく,本件事故当日の受診時にもそのような申告はしていないのであり,少なくとも頭部がヘッドレストに激しくぶつかるような挙動が生じたというのは不自然であると言わざるを得ない。したがって,本件事故の態様から見た場合,原告が当然に頸椎捻挫等の傷害を負うことになるとは認められない。 

 なお,原告は,「現在の工学的問題状況としては,低速度追突事案ではむち打ち症が発症しないという一般的法則性は否定されている」という文献を引用して本件事故により原告にむち打ち症が生じた旨の主張をする。

しかし,上記文献は「車両損害がバンパーの修理ですむ程度」の追突事故について,実車実験の結果,「むち打ち被害は発生しない」とはいえないと結論付けられたことを指摘して,むち打ち症が発生する可能性が直ちに否定されないことをいうもので,そのような追突事故によりむち打ち症が発生する蓋然性がある旨をいうものではなく,本件事故は,原告車両にナンバープレート痕程度の痕跡しか生じさせない極めて低速度の追突事故であって追突により働く加速度も極めて低かったと考えられるところ,上記文献の指摘を踏まえても,本件事故の態様から原告に頸椎捻挫等の傷害結果が生じたと推認できるものではない。

(2)次に,本件事故後の原告の症状経過を見ると,本件事故当日の原告の主訴(主観的症状)は,頸部痛と頸部の違和感,右小指背側のしびれというものであり,低速度の追突事故であっても頸部の違和感程度の軽い症状を自覚することは,その症状に頸椎捻挫という傷病名を付することの是非はともかくとして,直ちに不自然であるとまではいえない。しかし,右小指背側のしびれ(神経症状)については,原告の頸椎に頸椎症性変化(加齢性変化)が確認されていることのほか,本件事故以前から原告が右手のしびれを自覚していたと認められること(前提事実3〔2〕)によれば,本件事故に起因して発症したものと認めるには足りない。

 また,原告は,令和2年5月11日(本件事故の12日後)に受診したb整形外科において右頸部痛,右肩挙上時痛や挙上制限のほか,右示指・中指間背側のしびれ等を訴えているが,本件事故当日の主訴は右小指背側のしびれであったところ,しびれを自覚する部位が異なっており(なお,原告は,本件事故以前から右示指と中指の間のしびれを自覚していたと認められる。),右肩の挙上制限も本件事故当日には認められていないものである(右肩関節の外転可動域は120度とされ,参考可動域角度(180度)に達していないが,左肩(健側)との比較はされておらず,また,屈曲(前方挙上)の可動域制限は指摘されていないため,屈曲可動域の制限は確認されなかったと考えられる。)。

 そして,原告の右肩関節可動域は,c整形外科内科通院時には屈曲(前方挙上)90度,外転80度という顕著なものとなっているが(肩関節の屈曲・外転の参考可動域角度はいずれも180度であり,90度という可動域角度は上肢を地面に対して水平にするまでしか挙上できない状態である。),原告の右肩につき可動域制限の原因となるような骨折その他の外傷性の他覚所見は認められておらず(なお,原告に対しては,c整形外科内科において「右肩腱板損傷」の傷病名が付されているが,本件事故のような低速度の追突事故により腱板損傷が生じるとは考えられず,上記傷病名を付したc整形外科内科医師自身,「受傷歴から腱板断裂する可能性は低い」との所見を示しているのであって,MRI画像等により腱板損傷が他覚的に確認されているものでもなく,原告が本件事故により腱板損傷の傷害を負ったとは認められない。),器質的原因による関節可動域制限(他動運動の関節可動域制限)が生じたとは考えられない。原告の右肩可動域制限は,右肩に自覚する痛みによる自動運動の関節可動域制限であると考えられるが,本件事故のような低速度の追突事故により右肩に上肢を地面に対して水平にしか挙上できないような顕著な痛みが生じるとは考え難い。

 さらに,原告は,本件事故後,令和2年11月26日までの約7ヶ月にわたって頻回に通院し,運動器リハビリや消炎鎮痛処置等の治療を受けているが,頸部痛や右肩痛といった主観的症状に見るべき改善がなく,また,現時点においても上肢を地面に対して水平にできない程度にまでしか右肩を挙上できない(屈曲・外転とも)というのである。しかるところ,仮に,原告が本件事故により頸椎を捻挫したとしてもその程度は軽微であったと考えられ,経時的に組織損傷が修復されて(一般的には捻挫による組織損傷は2~4週間程度で修復されるものである。),症状も軽快していくはずであり,約7ヶ月もの通院治療期間中,頸部痛や右肩痛が著変なく継続して軽快せず,右肩を挙上できない程の痛みが残存するという症状経過は,捻挫後の一般的な症状経過と整合しない。

(3)以上のとおり,本件事故は,直ちに頸椎捻挫等の傷害が生じるような態様の事故ではなく,骨折その他の外傷性他覚所見も確認されていないにもかかわらず,原告は,右肩関節の顕著な可動域制限を訴えたほか,7ヶ月もの通院期間を通じて著変なく頸部痛や右肩痛を訴えていたのであって,事故態様や客観的な所見と主観的症状が極めて大きく乖離している。そして,原告は,平成16年頃にうつ病を発症し,平成25年1月以降,d心療内科において精神治療を受けていて,抑うつ,不安,不眠といった精神症状にとどまらず,「胸が痛む,右手がしびれる,頭痛がする,左足があがりにくい」などといった身体的症状も発現していたこと(前提事実3)によれば,本件事故後に原告が訴えた頸部痛や右肩痛,右肩挙上制限等の諸症状は,うつ病等の精神疾患を背景とした心因性のものであったことが強く疑われるというべきである。

 そうすると,原告が本件事故当日のa病院受診時に頸部の違和感を自覚していたという限度においては,本件事故との間の因果関係を否定し難いものの,これを超えて原告が頸椎捻挫,右肩挫傷,頸部挫傷,頸椎捻挫による放散痛,右肩腱板損傷といった傷害を負い,そのために頸部痛や右肩痛,右肩挙上制限等の諸症状が発現し,b整形外科及びc整形外科内科において通院治療を受ける必要性が生じたと認めることはできない。したがって,原告がb整形外科及びc整形外科内科に通院したことによって生じた損害については,本件事故との間の相当因果関係が認められない


 なお,原告は,原告車両を運転していた原告の夫(訴外C)が本件事故により受傷したことを前提に,被告側保険会社から対人賠償責任保険金の支払を受けているとして,そのことから原告が本件事故により受傷したことが推認される旨主張する。しかし,本件事故の態様に照らすと,原告の夫についても実際に受傷したかどうか疑義があるというべきであり,被告側保険会社が保険金を支払ったことをもって,その疑義が払拭されるものではなく,したがって,原告が本件事故により受傷したと推認できるものではない。

3 原告の損害について
 前記2判示のとおり,本件事故により原告が頸椎捻挫,右肩挫傷,頸部挫傷,頸椎捻挫による放散痛,右肩腱板損傷の傷害を負ったと認めることはできず,ただし,本件事故当日に原告が頸部違和感等の軽度の症状を自覚し,a病院を受診して治療を受けた限度においては,直ちに本件事故との間の因果関係を否定できない。
 本件事故により上記の限度で原告が受傷したとしても,そのことにより原告に生じた損害は,a病院に係る治療費4万7397円と通院交通費738円(片道16.4キロメートルの自家用車通院1往復半に係るガソリン代。画像取得のための通院交通費を含む。)通院1日分の慰謝料6000円の合計5万4135円の限度である。
 そして,被告(被告側保険会社)は,36万5971円を支払済みであるから,原告に本件事故による未填補の損害があるとは認められない。

4 結論
 以上によれば,原告の請求には全部理由がなく,よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第15民事部 裁判官 溝口優
以上:5,619文字

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