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後遺障害等級第11級7号脊柱変形労働能力喪失率20%認定地裁判決紹介5

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令和 5年 4月14日(金):初稿
○「後遺障害等級第11級7号脊柱変形労働能力喪失率20%認定地裁判決紹介2」の続きで、平成19年10月26日名古屋地裁判決(交民集40巻5号1386頁)関連部分紹介です。

○空調設備業を家族で営み、その代表を務める45歳男子Xが、本件事故で胸椎圧迫骨折により後遺障害等級11級7号の脊柱変形を残す事案です。本件事故後、Xの役員報酬が増大しているが、疼痛や疲労など相当程度の制約を受けており、たまたま事故後に比較的規模の大きい工事の発注が続いたことで売上が増加し、税理士の指導もあり、役員報酬が増額された事情があり、今後そのような売上の増加が見込まれることは考えにくく、Xが将来転職等により、後遺症が不利益な影響を受けることもあるなどから、前年収入である900万円を基礎に、11級相当の労働能力喪失率20%を22年間喪失したとして後遺症逸失利益を認めました。

○また、治療に当たった医師からXの現場作業が禁止されたため、現場作業の遂行を他人に依頼した代替労働費用56万7810円を本件事故と相当因果関係のある損害と認められました。

○医学的にほとんど労働能力に影響を与えないとされている脊柱変形であること、原告松男の労働状況からしても後遺障害による支障は生じていないことなどを考慮すれば、原則として後遺障害による労働能力の喪失は認められないとする保険会社側の主張を排斥したもので、被害者側にとって大変参考になる判決です。

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主   文
1 被告は、原告甲野松男に対し、2456万0725円及びこれに対する平成17年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告有限会社Aに対し、62万7810円及びこれに対する平成17年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告甲野松男に生じた費用の10分の7及び原告有限会社Aに生じた費用の10分の9を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。
5 この判決は、1、2、4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は、原告甲野松男(以下「原告松男」という。)に対し、3414万5346円及びこれに対する平成17年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告有限会社A(以下「原告会社」という。)に対し、69万0900円及びこれに対する平成17年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、被告の運転する普通乗用自動車と原告松男の運転する普通乗用自動車とが交差点において衝突する事故が生じ、これによって原告松男が受傷して後遺障害を残し、また、原告会社にも損害が生じたとして、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条及び民法709条に基づく損害の賠償並びに民法所定の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

2 前提事実(争いのない事実及び容易に認定できる事実)

         (中略)

(2) 原告松男の損害
(原告松男の主張)
ア 逸失利益 2884万5124円
 原告松男の平成13年から平成16年までの総所得の平均額は1095万6896円である。
 原告松男が本件事故によって負った後遺障害の等級は11級7号であることから、労働能力喪失率は100分の20である。
 労働能力喪失期間が22年(症状固定時の原告松男の年齢は45歳。就労可能年限を67歳とする。)であるから、同期間に対応するライプニッツ係数は13.163である。
 よって、原告松男の逸失利益は次の計算式により2,884万5,124円となる。
 計算式 1095万6896円×0.2×13.163
イ 傷害慰謝料 139万円
ウ 後遺障害慰謝料 430万円
エ 弁護士費用 310万円

(被告の主張)
ア 逸失利益について
 否認する。本件事故後、原告松男は従前どおり原告会社から役員報酬を受領し、その額はむしろ増大しており、原告会社の売上げも増加している。したがって、原告松男の逸失利益を認める余地はない。
 いわゆる労働能力喪失説に立ったとしても、原告松男が受領していた役員報酬のうち原告松男の労務対価部分は全体の5割を超えることはないから、逸失利益の基礎収入としては本件事故前に受領していた役員報酬の5割程度とすべきである。
 原告松男の後遺障害が医学的にほとんど労働能力に影響を与えないとされている脊柱変形であること、原告松男の労働状況からしても後遺障害による支障は生じていないことなどを考慮すれば、原則として後遺障害による労働能力の喪失は認められないと考えるべきであり、例外的に認めるとしても、喪失率は5%程度、喪失期間は3年程度とするのが相当である。
イ 傷害慰謝料について
 否認する。30万円程度が相当である。
ウ 後遺障害慰謝料、弁護士費用について
 否認する。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件事故態様、過失相殺)について


         (中略)

2 争点(2)(原告松男の損害)について
(1) 逸失利益 2369万3400円
ア 原告松男の職業について
 甲4の1ないし4、甲17の1、2、甲20、21、原告松男本人、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 原告松男は、昭和56年ころから空調設備業に就き、平成14年8月23日、原告松男が全額を出資して、空調設備業を行う原告会社を設立した。原告会社において、原告松男が代表取締役であり、原告松男の妻である甲野花子(以下「花子」という。)とその母の2人が取締役となっているが、実際に原告会社の業務に従事しているのは原告松男と花子の2人のみであって、他に常時雇用している従業員はいない。

 原告会社の主な業務は、①空調設備工事の依頼者との打ち合わせと工事費用の見積り、②工事現場の調査、③空調用ダクトの図面の作成、④空調用ダクトの製作、⑤空調用ダクトの取替・取付工事、⑥経理等に区分できるが、この内、①、②、③は専ら原告松男が行っており、④、⑤については、主に原告松男が行って、これを花子が補助しており、⑥については花子が行っている。また、原告会社は、必要に応じて、乙川等の外部業者に下請負工事を発注するなどしている。

 原告会社設立前における原告松男の事業所得及び原告会社設立後における原告松男の役員報酬の額の推移は以下のとおりであった。
 平成13年 事業所得 1023万3792円
 平成14年 事業所得 859万3795円
       役員報酬 400万円
 平成15年 役員報酬 1200万円
 平成16年 役員報酬 900万円
 平成17年 役員報酬 800万円
 平成18年 役員報酬 1500万円

イ 原告松男の後遺障害の内容について
 前提事実に加え、甲3、5、原告松男本人によれば、原告は、本件事故により、頚部・背部挫傷、第7胸推圧迫骨折の傷害を負い、平成17年9月22日、症状固定となったが、その際、第7胸椎の圧潰による変形が残存したこと、自賠責保険の事前認定手続において、原告松男の後遺障害に関し、「脊柱に変形を残すもの」として、自賠法施行令2条別表第2の後遺障害別等級表上の等級の11級7号に該当するものと判断されたこと、上記後遺障害によって、原告松男には、背部の疼痛が残り、また、頚部、腰部の疼痛、左上肢のしびれが出ることがあり、長時間、上を見る姿勢を取ることや、脚立やはしごの上り下りや、前かがみの姿勢でハンマーを使う作業を長時間おこなうことなどが困難となっていることが認められる。

ウ 後遺障害逸失利益発生の有無について
 被告は、本件事故後に原告松男が原告会社から受け取っている役員報酬が増大していることから、原告松男には逸失利益が認められないと主張する。しかしながら、甲23、原告松男本人によれば、原告は上記後遺障害による疼痛や疲れやすさのため、実際に就労する上で相当程度の制約を受けており、原告の業務内容に照らすならば、その制約の程度は軽微なものとはいえず、原告松男は、相当の努力によって上記後遺障害による症状に耐えつつ業務を遂行しているものと認められる。

 また、甲18の1ないし4、甲23、原告松男本人によれば、本件事故後、原告会社に対する比較的規模の大きい工事の発注が続いたことによって、原告会社の売上は従前に比して増え、そのために、税理士の指導もあって原告松男の役員報酬が増額されることになったものであることが認められるところ、原告会社において今後ともそのような売上が見込めるものとまでは考えにくい。

 さらに、原告会社においては、その規模が上記のようなものであることからして、現在、業績が好調であるからといって、今後とも安定した業績を得られることが確実とは解しがたい。そして、将来、原告松男が就職したり転職したりする際において、原告松男の上記後遺障害が原告松男にとって不利益な影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。

 そうすると、原告松男については、現在のところ本件事故後の現実の収入の減少はないが、なお、後遺障害による逸失利益の発生を損害として認めるのが相当である。


エ 基礎収入について
 後遺障害逸失利益の算定上の基礎収入としては、上記の原告松男の役員報酬等の推移に照らし、本件事故前年の収入である900万円とするのが相当である。
 この点、原告松男は、平成13年から平成16年までの総所得の平均額をもって基礎収入とすべき旨主張するが、原告松男において将来にわたってかかる額を得られるとする蓋然性までは認めるに足りない。

 また、被告は、原告松男が受領していた役員報酬のうち労務対価部分は5割を超えないと主張するが、原告会社の業務における前記の実態からすれば、原告会社の業務はほとんど全てを原告松男の労務提供に依存しており、仮に原告松男による労務提供が停止されれば原告会社の業務も停止せざるをえない関係にあるものと解されるから、上記900万円についてはその全てが原告松男の労務対価部分と解するべきである。

オ 労働能力喪失率、労働能力喪失期間について
 後遺障害逸失利益の算定上の労働能力喪失率としては、上記の後遺障害の内容に照らし、20%とするのが相当であり、また、労働能力喪失期間としては、原告松男は症状固定時に45歳であったことから(甲1、3)、67歳までの22年間とするのが相当である。

 この点、被告は、脊柱変形は労働能力にほとんど影響を与えず、原告松男の労働状況からしても後遺障害による支障は生じていないから、労働能力喪失は認められず、認められるとしても喪失率は5%程度、喪失期間は3年程度とするのが相当であると主張する。

 しかし原告松男には上記後遺障害によって上記イのとおり症状が残存し、現に相当程度の就労上の支障が生じていることが認められ、また、原告松男の後遺障害が今後軽減ないし消滅するものと認めるに足りる証拠はないから、被告の上記主張は採用できない。

カ 以上によれば、原告松男の後遺障害逸失利益については、ライプニッツ方式により中間利息を控除し(22年間のライプニッツ係数は13.163)、次の計算式により、2369万3400円となる。
 計算式 900万円×0.2×13.163

(2) 傷害慰謝料 80万円
 前記事故態様、受傷内容、通院状況等、本件に顕れた一切の事情を総合して考慮し、傷害慰謝料としては、80万円をもって相当と認める。

(3) 後遺障害慰謝料 420万円
 前記後遺障害の内容、程度及びこれにより原告が被る身体的精神的苦痛を総合して考慮し、後遺障害慰謝料としては、420万円をもって相当と認める。


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