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3級と5級の間の後遺障害等級労働能力喪失率89%とした地裁判決紹介

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令和 4年 7月20日(水):初稿
○普通貨物自動車と歩行者との交通事故での傷害により、高次脳機能障害等を理由に自賠責保険で後遺障害等級第3級と認定された原告が被告らに対し合計約1億4455万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し、原告には後遺障害等級3級と5級の間に相当する後遺障害が残存し、その後遺障害の程度に照らすと、令和2年3月31日に、α県を退職したのは、後遺障害が残存したことによるものと解されるものの、原告は、記憶障害が顕著であり、問題解決能力については大部分喪失しているものの、意思疎通能力、持続力・持久力、社会行動能力については喪失の程度はさほどではなく、夫C不在の日中は、自宅で、クロスワードパズルや読書等をして1人で過ごしており、一定の範囲でCとともに食事の準備をしたり、Cが用意した食事を独力で摂ったり、簡単な掃除をしたりするなど、自宅に1人で居ても、特段の支障を生ずることなく過ごせており、以上の原告の持続力・持久力の評価、社会行動能力の程度や生活状況などに照らすと、原告は、他者の指示を受けながらであれば、一定の範囲で家事労働等の労務作業をなし得る能力をなお有しているものといえ、以上の諸事情を総合考慮すれば、労働能力喪失率は89%とするのが相当であるなどとして約3007万円の損害賠償を認めた令和3年8月27日神戸地裁判決(自保ジャーナル2106号1頁)関連部分を紹介します。

○後遺障害等級について、3級と5級の間にあるとの認定は初めて見ました。自賠責での標準労働能力喪失率は、3級100%、4級92%、5級79%ですから、本件認定労働能力喪失率89%は4級に近いものです。後遺障害等級認定はあくまで労働能力喪失率を認定するための一基準に過ぎず、損害額認定の決め手は労働能力喪失率です。本件は、過失相殺50%認定で、損害の半分が削られ、さらに3級100%喪失での請求が、89%に削られ請求額の2割強しか認められず、原告としては不満の残る認定です。

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主   文
1 被告は,原告に対し,3,007万3,987円及びこれに対する平成27年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求の趣旨

 被告は,原告に対し,1億4,455万1,924円及びこれに対する平成27年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は,被告の運転する事業用普通貨物自動車と歩行者である原告との間の後記の事故(以下「本件事故」という。)について,原告が,被告に対し,民法709条に基づいて,損害賠償金1億4,455万1,924円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である平成27年3月5日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。

2 前提事実

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件事故の態様,責任原因,過失割合)について


         (中略)

2 争点(2)(後遺障害の程度)について

         (中略)

イ 原告は,平成29年3月31日,cセンターリハビリテーション科のD医師(以下「D医師」という。)により,症状固定と診断されたが,後遺障害として,高次脳機能障害,右片脚立位時の右膝疼痛等の症状が残存した。
 損害保険料率算出機構は,原告に残存する高次脳機能障害と上記の症状を併せて,神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないものとして,後遺障害等級3級3号に該当する旨判断した。

ウ 原告は,eクリニック(脳神経外科)において、平成27年12月4日から平成28年3月19日にかけて,認知機能簡易検査,注意遂行機能検査,知能検査及び記憶検査を受け,同年4月8日,E医師(以下「E医師」という。)により,これらの検査の結果から,別表の同日の「コメント要旨」欄記載のとおり,診断された。
 また,平成28年8月から平成29年2月10日にかけて原告が受けた注意遂行機能検査,知能検査及び記憶検査の結果に基づくE医師の診断は,別表の同日の「コメント要旨」欄記載のとおりである。 

 そして,E医師は,平成29年7月4日,原告の精神障害者保健福祉手帳診断書を作成したが,原告については,遂行機能障害,注意障害,重度の記憶障害があり,生活能力の状態について,金銭管理と買物,通院と服薬,身辺の安全保持・危機対応,社会的手続や公共施設の利用については不可能で,身辺の清潔保持,規則正しい生活,人との意思伝達・対人関係,趣味・娯楽への関心,文化的社会的活動への参加については援助があれば可能とし,食事と排泄動作以外の日常生活において助言と介助が必要であって,日常生活能力の程度として,精神障害を認め,日常生活に著しい制限を受けており,常時援助を必要とする旨診断した。さらに,E医師は,平成30年11月2日時点においても,別表の同日の「コメント要旨」欄記載のとおり診断している。

エ D医師は,平成29年5月15日付け「神経系統の障害に関する医学的意見」において,原告について,「以前に覚えていたことを思い出せない」,「新しいことを覚えられない」,「自発性が低下,声掛けが必要」,「行動を計画したり,正確に遂行することができない」,「ふさぎ込む,気分がおちこむ」との各項目について,「4(重度/頻回深刻な生活困難さを起こす原因となっている。)」とし,同日付け「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」において,意思疎通能力について相当程度喪失(困難はあるが多少の援助があればできる),問題解決能力について大部分喪失(困難が著しく大きい),持続力・持久力及び社会行動能力についてそれぞれ多少喪失(困難はあるが概ね自力でできる)とし,見当識低下,記憶低下,自発性低下が著明であり,10分前のことは忘れている,ノートにメモをつけても日付の認識力低下のために,記載された内容がいつの出来事であるのかを把握できない,そのため,日常生活を安全に送るために常に夫の援助を必要とする,原告は,夫に非常に信頼をおいているので,夫と外出することに抵抗はないが,他者へは信頼感がないため,ガイドヘルパーと外出することはできない旨記載している。

オ 原告は,現在,1人で外出することはなく,Cが職場へ出勤している間は,自宅で雑誌のクロスワードパズルを解いたり,スマートフォンのゲームや読書をしたりして1人で過ごしている。朝食及び夕食は,Cと一緒に準備して摂り,その際には,Cの指示にしたがって野菜を切ることができる。昼食は,タイマー予約された炊飯器で炊けた米飯を食器によそった上,Cが,出勤前に調理した副菜とともに,独力で摂っている。朝食の準備の際には,原告は,電気ポットのスイッチを入れて湯を沸かして紅茶を入れたり,果物の皮をむいたりしており,食後は,食洗機を使って食器を洗っている。杖代わりとなる掃除道具を使ってフローリングの掃除を行うほか,Cの指示により台所のシンクの掃除をすることができる。自宅を訪れた管理人や宅配業者の配達の際への対応をしたこともある。
 原告は,自宅においては,集中すると時間感覚がなくなるため,Cが予約した定時に放送されるテレビ番組で時刻を把握している。浴槽から出る際にバランスを崩しやすいことや,シャンプーとトリートメントを間違えることがあることから,Cと共に入浴している。

カ 原告は,本件事故により,左大腿骨骨幹部骨折,右腓骨近位端骨折,右膝複合靱帯損傷,骨盤骨折の傷害を負い,平成27年3月10日に左大腿骨骨幹部骨折に対して髄内釘固定術を,同月13日に右腓骨近位端骨折,右膝外側側副靱帯損傷についての固定術をそれぞれ受けた。原告の左大腿部にはチタン製髄内釘が埋め込まれたままの状態になっており,平成28年9月9日に,歩容の異常(開脚歩行),階段昇降・しゃがみ動作困難,床上座位からの立ち上がり困難,右片脚立位時の右膝疼痛があり,歩幅が狭くなり,単独で,屋外を歩行することは困難となっている。Cは,原告の主治医から,歩行について,現状以上の治療,改善は見込めない旨伝えられた。

 そして,D医師は,平成29年5月15日時点において,原告の運動機能について,両下肢とも,それぞれ,「2 耐久力低下/つまずきやすい」の項目に該当し,屋外歩行については,「3 てつなぎ/装具/歩行器」の項目に該当し,公共交通機関については,「3 ほとんどできない/大部分介助」の項目に該当する旨診断した。

(2)被告は,平成29年3月及び平成30年12月に,原告が,元の職場への復帰を前提とした発言を医師にしていたこと,意思疎通能力,持続力・持久力,社会行動能力の程度から,後遺障害の程度は,後遺障害等級5級に相当する旨主張する。
 しかし,原告が復職することが具体的に検討されていたことを認めるに足りる証拠はなく,かつ,仮に原告が医師に職場復帰を前提とした発言をしていたとしても,実際には,原告は職場に復帰していないのであるから,そのことから,直ちに原告に残存する後遺障害の程度を決することはできない。

 労災の基準では,意思疎通能力,問題解決能力,持続力・持久力及び社会行動能力の4能力のうち,いずれか1つ以上の能力が全部失われた場合,いずれか2つ以上の能力の大部分が失われている場合には,3級に該当し,いずれか1つ以上の能力の大部分が失われている場合,いずれか2つ以上の能力の半分程度が失われている場合には,5級に該当するものとされているところ,原告については,前記のとおり「10分前のことは忘れている,ノートにメモをつけても日付の認識力低下のために,記載された内容がいつの出来事であるのかを把握できない,そのため,日常生活を安全に送るためには常に夫の援助を必要とする」旨診断されるほど,重度の記憶障害があることに照らすと,記銘・記憶力などを判断の主要な要素とする,職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定される意思疎通能力が,「相当程度喪失」という程度に止まるものであるか否かは疑問がある。

また,前記(1)の認定事実のとおり,重度の記憶障害のほか,見当識低下,自発性低下が著明で,外出,屋外での単独での歩行はできない状態となっていることに加え,前記のとおり,右膝の疼痛等の症状も残存していることを踏まえると,原告は,神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないものとして,単純に後遺障害等級5級とすることにも,疑問がある。他方,前記(1)の認定事実のとおり,原告が一定の家事を担っていると見る余地もあることを考慮すると,原告の後遺障害の程度としては,後遺障害等級3級と5級の間にあるものと捉えるのが相当である

3 争点(3)(損害額)について

         (中略)

(10)逸失利益 5,965万6,276円
ア 基礎収入
 基礎収入は,本件事故の前年である平成26年の年収688万2,588円とするのが相当である。
 なお,被告は,原告は本件事故以前から50歳での退職を予定していたことから基礎収入は家事労働者の例によるべき旨主張するが,原告が,具体的に退職を検討し,そのための準備をしていたことを認めるに足りる証拠はなく,本件事故にかかわらず50歳で退職する蓋然性が高かったとはいえないから,被告の主張は採用できない。

イ 労働能力喪失率
 前記のとおり,原告には後遺障害等級3級と5級の間に相当する後遺障害が残存したのであり,その後遺障害の程度に照らすと,令和2年3月31日に,α県を退職したのは,後遺障害が残存したことによるものと解される。もっとも,前記認定説示のとおり,原告は,記憶障害が顕著であり,問題解決能力については大部分喪失しているものの,意思疎通能力,持続力・持久力,社会行動能力については喪失の程度はさほどではない。そして,Cが不在である日中は,自宅で,クロスワードパズルや読書等をして1人で過ごしており,一定の範囲でCとともに食事の準備をしたり,Cが用意した食事を独力で摂ったり,簡単な掃除をしたりするなど,自宅に1人で居ても,特段の支障を生ずることなく過ごせている。

 以上の原告の持続力・持久力の評価,社会行動能力の程度や生活状況などに照らすと,原告は,他者の指示を受けながらであれば,一定の範囲で家事労働等の労務作業をなし得る能力をなお有しているものといえ,以上の諸事情を総合考慮すれば,労働能力喪失率は89%とするのが相当である。

ウ 労働能力喪失期間(中間利息控除)
 前記認定説示のとおり,原告は,平成29年3月31日に頭部外傷について症状固定し,令和2年3月31日(当時50歳)にα県を退職し,その後無収入となったものであるから,中間利息の控除は,症状固定時(当時47歳)から67歳までの20年に対応するライプニッツ係数(12.4622)から,症状固定から退職までの3年に対応するライプニッツ係数(2.7232)を差し引いた値(9.7390)を用いる。
(計算式)688万2,588×0.89×9.7390=5,965万6,276(1円未満切捨て。以下同じ。)
(11)後遺障害慰謝料 1,700万円
 前記認定説示に係る後遺障害についての慰謝料としては,上記金額が相当である。
 以上合計 1億1,859万5,538円

         (中略)

4 小括
 したがって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,3,007万3,987円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である平成27年3月5日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

第四 結論
 よって,原告の請求は,主文掲記の限度において理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官 後藤慶一郎 裁判官 大島道代 裁判官 宮村開人

以上:5,976文字

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