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事故と脳脊髄液漏出症の因果関係を認めた大阪高裁判決紹介1

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令和 4年 4月15日(金):初稿
○交通事故によって脳脊髄液漏出症(旧脳脊髄液減少症)を発症しても自賠責保険は原則として交通事故との因果関係は認めませんので、訴訟にならざるを得ません。しかし、訴訟になっても、脳脊髄液漏出症と交通事故の因果関係を認めた判決は、割合的にはおそらく100件の内1件もないと思われます。私もこれまで交通事故によって脳脊髄液減少症を発症した事案について10数件の訴訟をだしていますが、判決に至り、因果関係を認められた事案は残念ながら1件もありません。

○ただし、脳脊髄液漏出状況を相当考慮した和解件数は相当あり、自賠責14級認定事案でも、実際の障害状況を考慮して、大は2600万円から小は800万円程度まで、自賠責後遺障害非該当事案でも600万円で和解した事案はあります。現在も2件、交通事故によって脳脊髄液漏出症を発症したとして損害賠償請求をしている事案を2件抱えていますが、お客様にとって重要なことは、最終的な回収金額ですので、できるだけ多くの賠償金を回収したいと頑張っているところです。

○希に脳脊髄液漏出症と交通事故の因果関係を認める地裁判決が出ても、殆どは高裁で覆されます。地裁で因果関係が否認されたのに、高裁で認めたのは「髄液漏れ一審判決否認を覆した名古屋高裁平成28年12月21日判決紹介」で紹介した有名な藤山雅行元裁判官を裁判長とする平成28年12月21日名古屋高裁判決(自保ジャーナル・第2010号)があります。

○同様に原審和歌山地裁では交通事故と脳脊髄液漏出症の因果関係を否認していたものを覆し因果関係を認めた令和3年12月15日大阪高裁判決(ウエストロー・ジャパン、LEX/DB)関連部分を紹介します。脳脊髄液漏出症により、控訴人に後遺している障害は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として後遺障害等級9級10号に該当するとしました。先ず紹介の前半です。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して2356万4962円及びこれに対する平成20年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを3分し,その2を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して7067万4648円及びこれに対する平成20年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,自らの乗車していた車両と被控訴人b運転の車両との交通事故により脳脊髄液漏出症等の傷害を負い,損害が発生したと主張して,被控訴人bに対しては不法行為に基づき,被控訴人bの使用者である被控訴人会社に対しては使用者責任に基づき,連帯して7067万4648円の損害賠償及びこれに対する不法行為の日である平成20年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

3 前提事実,本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2ないし7に記載のとおりであるから,これを引用する。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記第2の3で引用した原判決の前提事実,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)平成20年3月8日午前9時35分頃,控訴人の夫であるdが運転して控訴人が助手席に同乗していた控訴人車両は滋賀県彦根市α先名神高速道路の第1車線(走行車線)を,被控訴人bはその第2車線(追越車線)を,控訴人車両が先行して,それぞれ走行していた。被控訴人bは,自身がわき見をした際に被控訴人車両が左に寄ってしまったため,右方にハンドルを切ったところ,今度は右に寄りすぎてしまい,あわてて左にハンドルを切ったところ,前方で走行車線を走行していた控訴人車両の後方に接触し,控訴人車両はその勢いのまま中央分離帯に正面から衝突した(本件事故)。(甲1,2,49,乙28,控訴人本人)

(2)控訴人(本件事故当時49歳,専業主婦)は,本件事故直後,長浜赤十字病院に救急搬送された。その際,控訴人には,頚椎捻挫,左肩打撲,右手関節打撲,左膝打撲,左足関節打撲と診断される症状があったが,疼痛の程度は軽度のものであった。
 控訴人は,その後も頚部や両足関節などの痛みが持続したことから,平成20年3月10日には橋本市民病院の整形外科を受診した。

橋本市民病院では,レントゲン検査において,頚部等に骨折等の他覚的所見が確認されなかったことから,頚椎捻挫,腰部挫傷,両手関節捻挫及び両足関節捻挫との診断の下,経過観察とされた。しかし,控訴人は,本件事故の数日後頃から頭頂部のしびれ(控訴人の表現によれば,頭部に孫悟空がはめているようなわっかをはめられ,そのわっかのまわりがぴりぴりするような感覚)も感じるようになり,同月19日,本件事故後の精神面の不調を理由に精神科のなかいクリニックを受診した際も,精神面の症状などとあわせて,本件事後後数日後から頭頂部のしびれがあることを訴えた。

控訴人は、その後も頭痛やふらつく感じで気分が悪くなり,家事もきちんとできず,横になって休むような状況が続き,頭部に異常があるのではないかと思い,同年4月18日には橋本市民病院の脳神経外科を受診し,頭全体のしびれのほか,顔面のぴくつき,目や耳の痛みなどを訴えた。また,控訴人は,平成20年3月13日から同年6月24日まで,紀和クリニックに継続して通院し,理学療法を受けた。 

これら医療機関においては,控訴人に脳脊髄液の漏出などが生じている可能性を想定した上で,頭部の症状の特徴を詳細に問診等したり,その診断に必要な検査を行ったりということはなかった。(甲9,乙1~4,控訴人本人)

         (中略)

2 争点(1)(本件事故の事故態様及び被控訴人bの過失)について
 前記1の認定事実(1)によれば,本件事故時の被控訴人bには,前方を注視して自動車を運転すべき注意義務を怠った過失があり,本件事故はこの過失によって生じたものといえる。
 したがって,被控訴人bは,本件事故によって控訴人が被った損害について,不法行為責任を負う。

3 争点(2)(被控訴人会社の責任の有無)について
 被控訴人bは,本件事故時,被控訴人会社に雇用されていたもの(前提事実(2))で,滋賀県彦根市の自宅から被控訴人会社f店への通勤中に本件事故を生じさせた(被控訴人らの主張のとおり)。そして,被控訴人bが運転していた被控訴人車両は,被控訴人bの自家用車であったが,被控訴人bは,被控訴人会社での勤務終了時刻が終電時刻以降となることがあったため,被控訴人会社の明示的な許可の下,被控訴人車両による通勤をしていたものである。(前記第2の3で引用した原判決の前提事実,弁論の全趣旨)

 このような事実関係に照らせば,被控訴人会社は,被控訴人bが被控訴人車両を用いて通勤することについて,事業上の利益を享受していたというべきところ,通勤以外の業務で被控訴人車両が用いられていたか否かにかかわらず,本件事故に係る被控訴人bの不法行為は,その使用者である被控訴人会社の「事業の執行について」(民法715条)なされたものといえる。
 したがって,被控訴人会社は,本件事故によって控訴人が被った損害について,使用者責任を負う。

以上:3,250文字

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