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TFCC損傷後遺障害12級に14%喪失期間10年を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 4月14日(木):初稿
○TFCC損傷による左手関節痛が自賠責で12級13号認定された事案で、10年間14%の労働能力喪失で後遺障害逸失利益を認めた令和3年6月4日京都地裁判決(自保ジャーナル2104号49頁)関連部分を紹介します。

○TFCC損傷とは、三角線維軟骨複合体損傷(Triangular Fibrocartilage Complex損傷)」の略で、転倒して手をついたり、バトミントンやテニスなど繰り返し手首をねじる動作をしたりして生じる手首の障害で、発症すると、腕をひねったり手首を小指側に曲げたりすることで、痛みを感じるようになるものです。

○交通事故によるTFCC損傷発症は滅多にありませんが、過去に1件扱ったことがあります。画像でのTFCC診断が明白ではなかったため自賠責では14級しか認定されず、12級を主張して争いました。結果は、13級相当後遺障害として和解しました。

○京都地裁事案は自賠責で12級が認定されるも、保険会社が労働能力喪失率を5%で喪失期間も5年程度と主張しました。しかし判決は、本件事故により左手を負傷したことで原告が従前担っていた仕事に支障が生じ,周囲の人の協力等が必要となり、後遺障害により,キーボードを打ったり,物を運んだりすると,左手関節の疼痛,特に小指側から肘にかけての神経に特に痛みを感じる状態であり,そのような動作はなるべくしないものの,左手で物をつかんだりする際に不安定になったり,痛みで力が入らないといった状態と認め、原告の日常動作上の支障の内容・程度を踏まえると,原告の労働能力喪失率としては14%としました。

○労働能力喪失期間については、症状固定直前の頃の原告の平成30年12月10日に実施されたMRI検査では信号上昇は軽減し,関節液貯留は減少し,水腫の改善がみられ,症状の改善傾向はみられているが、後遺障害の内容や令和3年2月9日の原告本人尋問時点の供述内容(左手で物をつかむ際不安定になる,左手を使うと痛みがある等。)を踏まえると,労働能力喪失期間は,10年程度とするのが相当としました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,730万9,801円及びうち661万7,090円に対する平成31年4月13日から,うち69万2,711円に対する平成30年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は,被告に対し,2万1,208円及びこれに対する平成30年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告及び被告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴,反訴を通じ,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
5 この判決は1項,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

1 本訴事件
 被告は,原告に対し,2,613万7,509円及びうち2,371万7,758円に対する平成31年4月13日から,うち241万9,751円に対する平成30年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴事件
 原告は,被告に対し,8万3,831円及びこれに対する平成30年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は,自転車を運転していた原告が,被告との下記1(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)により損害を被ったと主張して,車両(以下「被告車両」という。)の運転者であり所有者である被告に対し,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「民法」という。)709条,710条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,損害賠償金2,613万7,509円及びうち2,371万7,758円(人的損害)に対する平成31年4月13日(本件事故日から平成31年4月12日までの遅延損害金は充当済み)から,うち241万9,751円(弁護士費用,物的損害の合計額)に対する不法行為日である平成30年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴),被告が,本件事故により物的損害を被ったと主張して,本件事故の相手方である原告に対し,民法709条に基づき,8万3,831円及びこれに対する不法行為日である平成30年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。
 以下,証拠の枝番があるものについて,特に明記のない限り枝番を含む。

1 前提事実

         (中略)

(3)自賠責保険後遺障害等級認定結果
 自賠責保険会社は,平成31年4月10日付で,原告の左手関節に疼痛残存,左手小指に力が入りづらい等の症状については本件事故受傷による左TFCC損傷が認められ,他覚的に神経系統の障害が証明されるものと捉えられることから「局部に頑固な神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二12級13号(以下「自賠法施行令別表第二」の記載を省略し,「後遺障害等級12級」のようにいう。)に該当するものと判断する,左手関節の機能障害については,その可動域が健側の可動域角度の3
4以下に制限されていないことから自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断した。

         (中略)

3 当事者の主張
(1)争点(1)について

         (中略)


(2)争点(2)について
(原告の主張)
 原告は,平成30年12月のMRI検査において水腫の改善が認められており,症状の改善があるといえ,原告の症状固定日は平成31年1月7日とするのが相当である。
 被告は,原告は手術相当であったのに手術を受けておらず,症状固定日は手術を勧められた平成30年8月頃と主張するが,保存療法の治療経過は医学的に見ても妥当であり,被告の主張は理由がない。

 すなわち,原告は広範なTFCC損傷があり,これについては手術療法と保存療法があるが,手術は手関節鏡を用いられて行われるため専門医であっても鏡視下に全て遂行することは一般的に非常に困難であり,その後のギプス固定等を含め患者の身体的・精神的負担は大きいことから,保存療法が選択されることが多いものである。

(被告の主張)
 TCFF損傷の治療としては,3箇月程度の保存療法が優先され,これによる効果が得られなければ手術的治療が考慮される。原告は,C医師(以下「C医師」という。)から手術を勧められなかったと供述するが,診療録には手術も勧めてみたが現状では受けるつもりはないようである旨記載されており,原告の供述は信用できない。

 以上によると,原告は,医師により手術を勧められながら結局手術をしなかったのであるから,手術を勧められた平成30年8月頃には症状固定に至っていたというべきである。
 また,症状の経過から見ても,上記時点で症状固定とみるのが相当である。すなわち,原告の治療経過を踏まえると,痛みの訴えは小さく,疼痛軽減のための局所注射や消炎鎮痛処置もない。診療録上も症状変わらず,寒いと痛いといったもので常時痛ではない。なお,左手小指に力が入りづらいとの自覚症状は,後遺障害診断書作成時に原告の申し出により追記されているが,それまでの診療録に記載はないものである。

(3)争点(3)について
(原告の主張)

         (中略)


オ 後遺障害逸失利益 2,060万2,551円
 基礎収入は平成29年源泉徴収票のとおり660万6,431円である。
 労働能力喪失率:喪失期間について
 原告の後遺障害は,平成30年6月18日左手関節MRI検査を踏まえると,左手関節において尺骨小窩から三角靱帯の剥奪が認められ,discproperにも損傷が及び,さらに尺側部断裂も認められており,TFCC損傷が広範囲に及んでいると判断され,同年12月10日左手関節MRI検査を踏まえTFCCの広範な信号変化は著変なく認められると判断されている。そうすると,左手関節痛は改善しない可能性が高く,将来的に二次性の変化や関節症変化のリスクがあるものである。よって,労働能力喪失率は20%,労働能力喪失期間は就労可能年齢の67歳までの31年間認めるのが相当である。
(計算式)
基礎収入660万6,431円×0.2(労働能力喪失率)×15.5928(31年のライプニッツ係数)

         (中略)

(被告の主張)
ア 後遺障害逸失利益について
 原告の休職は職場の女性とのトラブルに起因するものであり,休職ないし減収と本件事故との間には相当因果関係は認められず,後遺障害逸失利益は認められない。
 仮に逸失利益を認めるとしても本件事故前年の年収を採用することは相当ではなく限定するべきである。

 労働能力喪失率については,以下の点からすると,後遺障害等級14級と同程度の5%にとどまる。すなわち,原告の神経症状の程度について,受傷後約1箇月に初めてTFCCの不安定性が確認された後は不安定なしとされており,治療中における症状訴えはさほど強くなく,疼痛緩和のための積極的な治療が行われていないことに照らしても,症状の程度は限定的であるし,平成30年12月10日に実施したMRI検査所見において,信号上昇は軽減し,関節液貯留は減少しており,改善傾向がうかがえる。可動域制限については,TCFF損傷により手関節の可動域制限が生じるとしても,手関節の可動域は橈骨手根関節と手根中央関節の可動域の総和であり,これらの関節の可動域に関しTFCCは無関係とされることからみても,原告に14%の労働能力喪失が生じたとは考え難い。

 労働能力喪失期間についても,原告の症状の程度やMRI検査上,TFCC損傷に伴う炎症は現に改善している(原告自身症状固定日以降左手首関係の通院は一切なく,通院を要するほどの症状はない。)から,5年程度とするべきである。

         (中略)


第三 当裁判所の判断

         (中略)



(5)後遺障害逸失利益 714万1,803円
ア 後遺障害の内容・程度
 前記2(1)認定事実,証拠(略)によれば,原告は,本件事故による左TFCC損傷により,左手関節に疼痛が残存する後遺障害を負っているといえるから,これは,局部に頑固な神経症状を残すものとして後遺障害等級12級13号の後遺障害に該当すると認めるのが相当である。

イ 基礎収入
 証拠(略)によると,原告の本件事故当時の年収は660万6,431円であり,これを基礎収入と認定するのが相当である。

 被告は,基礎収入につき,原告の年収が本件事故後下がったのは職場の同僚とのトラブル等により休職したことに起因するものであり,本件事故による減収はなく,減収があるとしても基礎収入は本件事故当時の収入を基礎とするべきではないと主張する。

証拠(略)によると,原告は,平成30年8月21日より医療法人eメンタルクリニックを受診し,職場の上司は平成28年頃から調子が悪いらしく原告が仕事の実質面をしてきたが職場の人間関係につき最近個人攻撃を受けるようになった,同僚の女性も平成30年7月中旬頃から気分の波が激しくなりかなり強い口調になってきたなどと訴え,適応傷害の傷病名で平成30年8月下旬から休職となったこと,同僚女性ともめるに至ったのは原告が本件事故によりタイピングが難しくなったことも契機の1つであること,が認められる。

このように,原告は,本件事故前より職場の人間関係が良いとはいえない中で仕事を継続しており,本件事故により左手を負傷したことで原告が従前担っていた仕事に支障が生じ,周囲の人の協力等が必要となり,かかる原告の仕事上の支障も人間関係悪化のそれなりの要因であるとみることができる。

そうすると,本件事故がなくとも原告に減収が生じたことが確実であったなどということはできず,本件事故に起因した減収はあるとみるのが相当であるし,基礎収入については,上記のとおり,原告は,本件事故当時,休職にまで至ることはなく仕事に従事していたのであるから,現に原告が得ていた収入を基礎とするのが相当である。


ウ 労働能力喪失率・喪失期間
(ア)労働能力喪失率
 証拠(略)によれば,原告は,上記後遺障害により,キーボードを打ったり,物を運んだりすると,左手関節の疼痛,特に小指側から肘にかけての神経に特に痛みを感じる状態であり,そのような動作はなるべくしないものの,左手で物をつかんだりする際に不安定になったり,痛みで力が入らないといった状態であることが認められる。これらの原告の日常動作上の支障の内容・程度を踏まえると,原告の労働能力喪失率としては14%とするのが相当であり,これを5%にとどめるべきとする被告の主張は採用できない

(イ)労働能力喪失期間
 被告は,労働能力喪失期間について,原告の症状の程度は改善傾向があり5年程度とすべきであると主張する。確かに,症状固定直前の頃の原告の平成30年12月10日に実施されたMRI検査では前記2(1)シ認定事実のとおり,信号上昇は軽減し,関節液貯留は減少しており,水腫の改善がみられ,症状の改善傾向はみられている。もっとも,後遺障害の内容や令和3年2月9日の原告本人尋問時点の供述内容(左手で物をつかむ際不安定になる,左手を使うと痛みがある等。)を踏まえると,労働能力喪失期間は,10年程度とするのが相当である。

(後略)
以上:5,504文字

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